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2018年のわが国の食中毒統計によれば,患者総数は17,000人を超えており,そのうちの約半数(約49%)が,ノロウイルス(NoV)が原因であると推定されている1).NoVを原因とする食中毒は,大規模な集団発生事例になりやすく,特に,2017年に東京都と和歌山県で起こったNoVに汚染された同一食材(NoV汚染刻み海苔)による大規模・広域食中毒は,両事例とも患者数が500名を超える健康被害となった2,3).このように,NoVは,ウイルス性食中毒の主たる原因として,公衆衛生学的に大きな問題となっており,その対策は重要であると考えられる.NoVは,エンテロウイルスやアデノウイルスと同様にエンベロープをもたないウイルスであり,化学物質を基盤とした通常の消毒薬(消毒用アルコールなど)では,不活化・殺滅しにくい病原体であると考えられる4-6).これらのウイルスの不活化に有効な化学物質は,次亜塩素酸ナトリウム溶液やグルタールアルデヒド溶液などが例として挙げられるが,これらの物質は,ウイルスのような微生物のみならず共存するほかの物質とも反応するため,使用方法によっては消毒容器などの劣化,有毒ガス(塩素ガス)の発生あるいは発癌などのリスクを有する7).したがって,これらの物質によるNoVの不活化は,限られた条件でしか行うことができない.このような背景から,アルコールに種々の化学物質の添加や水素イオン濃度(pH)を変化させ,アルコール単独の製剤より,NoVのような非エンベロープウイルスに対し,一定の不活化効果を有するアルコール製剤が開発されてきた8,9).本稿においては,ウイルスの不活化に効果を示すことが示唆されているアルコール製剤の現状と課題についてその概要を述べる.「KEY WORDS」ノロウイルス,食中毒,食品添加物,アルコール製剤
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