腎と骨代謝 31巻1号 (2018年1月)

特集 腎疾患領域のゲノム医療と新規治療ターゲット

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ゲノム医療の定義というものがあるかどうかはっきりしないが,少なくとも患者のゲノム情報をもとに治療戦略が組み立てられる医療だとはいえると思う.ゲノム情報は究極の個人情報であることから,個別化医療つまりpersonalizedmedicine ということとなる.現在の一番のトピックは,癌ゲノムであり,癌細胞に見つかった変異に応じて効果のある薬剤を使うことで,治療成績が向上し副作用が軽減できるというメリットがある.一方,この流れがどんどん進むと,医療費の面では,効かない薬を使わなくてすむというメリットはあるとされるが,トータルとして見れば医療費を押し上げる方向に向かうと思われ,このゲノム医療を癌以外の領域にまで進める際に問題となるのがコストの問題である.そこで2015 年米国でオバマ大統領(当時)が掲げたプレシジョンメディシン(精密医療)では,個別化医療ではあるが,個人というよりはある一定の病気にかかりやすい集団を特定し,その集団ごとに治療法や疾病予防を行うというコンセプトであり,富裕層だけがゲノム医療の恩恵を享受するのではないシステムを目指したといわれている.

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現在,本邦を含めた世界中で,ゲノム情報に基づいた医療の実現を目指した国家的な大型プロジェクトが遂行されている.米国では,前米国大統領バラク・オバマよりプレシジョンメディスン・イニシアチブが宣言され,All of us 研究が始まっている.これは100 万人以上のコホートを立ち上げ,ゲノム配列,環境,ライフスタイルの関係と疾患の関連性を明らかにすることで,疾患の治療や予防につなげるというものである.本邦においても,日本人,アジア人のゲノムと環境要因と疾患との関連性を明らかにするさまざまな大型研究が行われている.個別化予防や個別化医療の実現のためには,健常者および疾患発症者のゲノム情報,環境曝露を含めた詳細な表現型解析が必須であり,ゲノムバンクはそれらの研究の中核である.本総説では,筆者らがおもに関与してきた東北メディカル・メガバンク計画を軸に,ゲノムバンクが担う未来の医療への役割について概説する.

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ヒトゲノム配列解読技術の著しい発達により,大規模ヒトゲノム解析が実施される時代が到来した.ゲノムワイド関連解析の実施により,慢性腎臓病や腎機能の個人差についても多数の感受性遺伝子変異が同定されている.感受性遺伝子変異の情報に対するバイオインフォマティクス解析を通じて,新たなゲノム創薬へと繫げる方向性も示されている.

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次世代シークエンス(next generation sequencing;NGS)技術は,従来のサンガーシークエンス法によるDNA 配列解析の常識を覆すものである.シークエンス本来の目的である塩基配列決定にとどまらず,各種オミクスを扱う基礎医学分野でも幅広く活用され,また最近ではシークエンス単価の低下や計算機処理能力の向上に伴い,大規模なヒト全ゲノムシークエンス・プロジェクトが世界各国で推し進められつつあり,その勢いはとどまらない.

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遺伝性リン代謝異常症や遺伝性マグネシウム代謝異常症は多岐にわたり,数々の原因遺伝子が同定されている.遺伝性高リン血症はFGF23 の作用不全やPTHの作用不全を病態の首座とし,遺伝性低リン血症はFGF23 の作用過剰や1,25(OH)2Dの作用不全,近位尿細管障害を病態の首座とする.また,遺伝性マグネシウム代謝異常症は尿細管におけるマグネシウムの再吸収調節機構異常が原因である.一般的に各疾患の頻度は低く,表現型にも多様性を認めることから,臨床診断が困難なことも多い.近年,次世代シークエンサーが各方面で応用されており,遺伝性リン代謝異常症や遺伝性マグネシウム代謝異常症においても遺伝子診断が比較的容易となる可能性が考えられる.

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IgA 腎症は口蓋扁桃をはじめとする上気道粘膜上皮における細菌抗原の感作が病因として想定され,わが国を中心にIgA 腎症患者に対する口蓋扁桃摘出術が広く行われているが,扁摘治療の理論的根拠については未だ確立していない.一方で,急速な進歩を続けるゲノム解析技術がIgA 腎症にも応用され,病巣感染に関連する病態の解明も進められている.ゲノムワイド関連解析では外来抗原に対する粘膜免疫応答に関与する複数の疾患感受性遺伝子が同定され,さまざまな自己免疫疾患と感受性遺伝子を共有することが判明した.また,次世代シークエンサーを使用したマイクロバイオーム研究により,IgA 腎症に特有の細菌叢組成の網羅的解析も可能となった.今後,扁桃病巣感染と粘膜免疫応答の関連に対する解析が進められ,IgA 腎症の発症機序の解明と標準治療法の開発へ繫がることが期待される.

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慢性腎臓病(CKD)や急性腎障害(AKI)は腎代替療法導入や死亡のリスクの高い重大疾患であるが,病態機序に立脚した診断マーカーや抜本的治療法は未だ十分に確立されていない.われわれの研究グループは,近位尿細管においてさまざまな分子の再吸収と代謝に関与するエンドサイトーシス受容体メガリンに着目し,腎臓病の新たな診断・治療法の開発に取り組んできた.近年の研究において,メガリンが腎障害性のタンパク質や薬剤を細胞に取り込む「入り口」となって,CKD やAKI の発症・進展に関わることが明らかになった.したがってそのような病態においては,メガリン抑制剤やメガリン拮抗剤が腎保護に有効であることが期待される.さらにメガリンの動態を尿中でアッセイすることは,それらの病態に基づく新しいバイオマーカーになる可能性があり,実際にわれわれはそれを支持するデータを得ている.

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apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)は,組織マクロファージにより産生され,血中へ分泌される血中蛋白質である.われわれは,急性腎障害(AKI)において,AIM はAKI 後に生じる死細胞を除去することで,AKI 後の腎組織障害の治癒を誘導する重要な因子であることを報告した.死細胞除去の遅延や不全は,組織に二次的な炎症やさらなる腎障害を惹起する可能性があり,AIM による死細胞の認識・除去機構がAKI に対するまったく新しい治療標的となる可能性がある.また,AKI の発症・予後予測マーカーとして,血中free AIM や尿中AIM が有用であることも考えられ,今後の臨床研究が期待される.

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ミトコンドリア機能異常によるATP の減少,酸化ストレスの増加とアポトーシスなどによる細胞障害によって引き起こされるミトコンドリア病は確立した治療法のない難治性疾患である.腎臓は尿細管の再吸収や糸球体濾過のバリア機能維持のためのエネルギーをミトコンドリアによるATP 合成に依存しているため,ミトコンドリア病では尿細管障害やネフローゼ,糸球体硬化症などさまざまな腎疾患が合併する.一方,治療抵抗性ネフローゼ症候群に多数のミトコンドリア機能関連遺伝子の異常が報告され,急性腎障害や糖尿病性腎症,シスプラチンや造影剤による薬剤性腎障害でもミトコンドリア機能異常がその病態機序で主要な役割を果たす.このため本総説は最近のミトコンドリアを標的とした新た腎臓病治療戦略について概説する.さらに最近われわれが開発した新規のミトコンドリア病治療薬MA-5 について解説する.

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オートファジーは真核細胞に備わるタンパク質,細胞内小器官分解機構であり,飢餓時の細胞内エネルギー維持および品質管理を担う.腎臓において定常状態および腎疾患ストレス下で細胞保護的に機能する.オートファジーの分子機構の解明と相まって,オートファジーを亢進あるいは阻害する薬剤が見出されており,腎疾患治療への応用が期待される.しかし応用には各腎疾患におけるオートファジーステータスへの深い理解が不可欠である.

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最近までカルシフィラキシス(calciphylaxis)は,皮膚科や腎臓内科分野の一部の医師を除き,疾患名すら知らない医師が多いと考えられてきた.確かにこの疾患は滅多に遭遇するものではない.筆者自身腎臓内科医として40 年以上も毎日腎不全・透析患者に接し,カルシウム・リン(Ca ・P)代謝や副甲状腺機能亢進症に興味をもち続けてきた.だからこの疾患名は知ってはいたものの,実際の症例に遭遇した経験はまったくない.

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目次

投稿規定

編集後記

基本情報

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腎と骨代謝
31巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN:2433-2496 印刷版ISSN:0914-5265 日本メディカルセンター

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