CANCER BOARD of the BREAST 6巻2号 (2021年2月)

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症例:70歳台 女性主訴:左乳房腫瘤家族歴:母:乳癌。父:食道癌既往歴:右大腿骨骨折

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「ポイント」・乳腺のエイジングは性ホルモンの影響を強く受ける。・妊娠,出産,授乳による乳腺の変化によって,一時的に乳癌のリスクが上昇する危険性がある。・初産年齢の高齢化の影響を受け,現在の罹患のピークである40歳台後半よりもさらに若い年齢層で乳癌の罹患が増える可能性がある。・若年層の女性を乳癌から守るために,遺伝的背景や人生設計を踏まえて,検診・予防プログラムの個別化・最適化を進めていくことが求められる。

臨床医のための乳腺基礎医学

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2019年6月にOncoGuide™NCCオンコパネル(以下,NCCオンコパネル)とFoundationOne®CDxの2つのがん遺伝子パネル検査が保険承認され,本邦においてもゲノム医療が本格化しようとしている。がんゲノム研究は日進月歩で,がん遺伝子パネルには網羅されていない新たながん関連遺伝子も次々と報告されている。シーケンス解析技術の進歩も目覚ましく,すべての遺伝子をスキャンする全エクソンシーケンス解析(whole exome sequencing:WES)も一部の検査会社で臨床検査として提供されるようになっており,当院でも2019年度より自費診療として臨床導入している。がんゲノム医療推進コンソーシアムではがんの本態解明を目的とした全ゲノムシーケンス解析(whole genome sequencing:WGS)も計画されており,近い将来,がん遺伝子パネル検査に続いてWESやWGSも日常診療へ導入される可能性もある。本稿ではWESを中心にそのメリット・デメリットについて紹介する。

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PD-1(Programmed cell Death-1)は,活性化T細胞の表面に存在する受容体です。抗原提示細胞にそのリガンドであるPD-L1(Programmed cell Death-1-Ligand 1)が存在すると,PD-L1と結合してT細胞の応答を抑制,または停止させます。このメカニズムは,T細胞による自己の細胞への攻撃を回避するための重要な役割を担っています(免疫チェックポイントシグナル伝達)。しかし,癌組織において腫瘍細胞がPD-L1を有している場合,T細胞のPD-1と結合することによってT細胞からの認識を逃れ,腫瘍免疫に対する抵抗性を獲得してしまいます。そこで,PD-L1またはPD-1のモノクローナル抗体薬が開発され,がん免疫療法としてさまざまな癌腫の治療に用いられるようになりました。乳癌では,抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体であるテセントリクが免疫チェックポイント阻害薬として認可され,ホルモン受容体陰性,HER2陰性の手術不能または再発患者で,PD-L1陽性の場合に適応があります。PD-L1陽性の確認は,投与前に専用の体外診断薬(PD-L1キット;SP142)と指定された機器を用いたコンパニオン診断として実施されます。

癌微小環境研究up-date

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癌は日本で第1位の死亡原因となって久しく,世界的に見ても癌による死亡率は非常に高い。なかでも乳癌はわが国の女性の部位別罹患数が大腸癌,胃癌を抑えて第1位であり,女性の癌死亡全体の約9%(第5位)を占める重大な疾患である1)。薬物療法や放射線療法などによっていったんは臨床的に検出できないほどに縮小した場合でも,治療抵抗性を獲得することで数年後に再発や転移を起こすといった癌特有の性質が乳癌患者の予後不良の大きな要因となっている。平均寿命の延伸も影響して癌による死亡者数が増加の一途を辿るなか,そのような治療抵抗性のメカニズムを理解する意義は非常に大きいと考えられる。腫瘍を構成する微小環境に存在するのは癌細胞のみではなく,線維芽細胞や免疫関連細胞,血管内皮細胞や血小板などのさまざまな細胞も微小環境中にその存在が確認されている。これらの腫瘍微小環境を構成する細胞が物理的な細胞間接触や液性因子の分泌を介して,癌細胞の増殖や進展,さらには治療抵抗性の獲得をも促し得ることについては多くの研究により明らかにされてきている。また,自己複製能と多分化能を併せもち,治療後の再発や転移に強く寄与すると考えられている癌幹細胞に関しても,これらの腫瘍微小環境を構成する因子から大いに影響を受けているということを示唆する結果が得られている2)3)。本稿では,腫瘍微小環境のなかでも特に治療抵抗性に寄与すると考えられている線維芽細胞と免疫関連細胞に焦点を当て,それらの細胞がどのように治療抵抗性の獲得に関与し得るかを最新の知見も踏まえて紹介し,腫瘍微小環境の治療標的としての可能性について議論する。

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ホルモン受容体陽性再発乳癌に対し,一次治療でアロマターゼ阻害薬(AI),二次治療でフルベストラントにCDK4/6阻害薬を併用すると,それぞれAI,フルベストラント単独に比べて無増悪生存期間(PFS)が延長することが示され,広く用いられるようになった1)−6)。CDK4/6阻害薬として日本ではパルボシクリブとアベマシクリブが使用され,海外ではリボシクリブも用いられているが,アベマシクリブとリボシクリブ*は既治療例でフルベストラントと併用するとPFSのみならず全生存期間も延長させる7)8)。しかし,CDK4/6阻害薬は内分泌療法と比べて副作用が強く,パルボシクリブは好中球減少,アベマシクリブは下痢が問題となる。●本企画「誌上ディベート」は,ディベートテーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論です。問題点をクローズアップすることを目的とし,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。また,特定の薬剤の誹謗をするものではありません。・論点整理/南博信・「CDK4/6阻害薬を併用すべき」とする立場から/河村雪乃/下村昭彦・「エベロリムスを併用すべき」とする立場から/古川孝広

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ホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳癌に対する一次治療はnon-visceral crisisの場合,長らくホルモン療法単剤が行われてきた。ホルモン療法で長期にコントロールできる症例が多いのも事実である。2013年に非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI)耐性のホルモン受容体陽性乳癌に対し,ステロイド性アロマターゼ阻害薬であるエキセメスタンに対するmTOR阻害薬のエベロリムスの上乗せを検証したBOLERO-2試験1)が公表されて以降,ホルモン療法と分子標的薬の併用が日常臨床で行われるようになり,さらにCDK4/6阻害薬の登場によって,ホルモン療法と分子標的薬の併用を行わないことは少なくなってきた。表1にCDK4/6阻害薬またはmTOR阻害薬とホルモン療法を併用した第Ⅲ相試験を示す。一方,分子標的薬の併用によって有害事象は増加する。効果が高く長い無増悪生存期間(progression free survival:PFS)を得られる治療であるからこそ,治療効果によるメリットと有害事象によるデメリットは慎重に判断する必要がある。本稿においては議論をわかりやすくするために,「アロマターゼ阻害薬(aromatase inhibitor:AI)による治療中もしくは治療終了後に再発した閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌」にフォーカスを当て,「AIとはCDK4/6阻害薬を併用すべき」という立場で論じる。●本企画「誌上ディベート」は,ディベートテーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論です。問題点をクローズアップすることを目的とし,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。また,特定の薬剤の誹謗をするものではありません。・論点整理/南博信・「CDK4/6阻害薬を併用すべき」とする立場から/河村雪乃/下村昭彦・「エベロリムスを併用すべき」とする立場から/古川孝広

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ホルモン受容体陽性HER2陰性の転移再発乳癌の治療として,タモキシフェン(SERM),アロマターゼ阻害薬(AI;アナストロゾール,レトロゾール,エキセメスタン),フルベストラント(SERD)といったホルモン療法に,分子標的薬が併用された治療が標準治療として普及している。腫瘍量が多く,癌の進展速度が速い場合は,化学療法の実施が望ましい場合もある。ホルモン治療が適応となる患者においては,可能な限りホルモン療法を継続することがHortobagyiにより報告1)されているが,その後に複数の分子標的薬が登場し,ホルモン療法との併用が標準と考えられるようになってきている。しかしながら,分子標的薬は有効性が証明されている治療ラインがあることや,その適応が示された時代には存在しない薬剤が登場していることなど,治療シークエンスの最適化はシンプルではない。特に,mTOR阻害薬であるアフィニトールとエキセメスタンの併用療法が二次治療,三次治療での有用性が示されており,CDK4/6阻害薬であるパルボシクリブ,アベマシクリブは一次治療としてAIとの併用,ならびに二次治療でフルベストラントとの併用で有用性が示されている。mTOR阻害薬とCDK4/6阻害薬の投与例において,前治療には互いの薬剤投与例は含まれていない。一次治療においてAI単剤投与でコントロールが期待されるような,リンパ節転移や骨転移の単独病変のような病勢が緩やかな状態においても,CDK4/6阻害薬での無増悪生存期間(PFS)の延長に有用であることが報告されている2)。一方,AIと比較してフルベストラントの有用性がFALCON試験3)でも示されているが,薬剤の副作用コントロールの簡便さ,医療費,内服忘れなどの予防としての注射剤の選択など,治療選択にはさまざまな患者嗜好や患者背景も含めて考えなければならず,必ずしも一様ではない。以上より,ホルモン受容体陽性再発乳癌に対し,一次治療ではCDK4/6阻害薬の強固なエビデンスがあることと,mTOR阻害薬のエビデンスが二次治療以降であることから,一次治療においてAIと併用すべきはCDK4/6阻害薬か,mTOR阻害薬かについては比較できない。そこで,本稿では前治療としてAI投与歴のある症例の二次治療としてAIと併用すべきはCDK4/6阻害薬か,mTOR阻害薬かについて検討することとした。また,内分泌療法としては,『乳癌診療ガイドライン 2018年版』で採用されている定義の,転移再発後に最初に行う内分泌療法を一次治療,その次の内分泌療法を二次治療と扱っている。●本企画「誌上ディベート」は,ディベートテーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論です。問題点をクローズアップすることを目的とし,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。また,特定の薬剤の誹謗をするものではありません。・論点整理/南博信・「CDK4/6阻害薬を併用すべき」とする立場から/河村雪乃/下村昭彦・「エベロリムスを併用すべき」とする立場から/古川孝広

薬物療法マネージメントのこつ

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癌薬物療法中に出現する倦怠感はさまざまな副作用・合併症の一症状としてあらわれ,速やかな原因探索が重要です。殺細胞性抗癌薬や分子標的薬では薬物の直接的な障害による副作用であるため,その臓器・組織特異性を考慮して対策がなされます。治療介入が必要な副作用・合併症は随伴症状や一般検査所見から診断できることが多く,それらを除外できれば経過観察のみで一過性に軽快することも少なくありません。一方,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)の副作用はT細胞活性化による過度の免疫反応が原因であるために全身のどの組織にも起こり得ます。そのため,ICI投与中においては,これまで鑑別診断として挙げられなかった免疫関連副作用を考慮する必要があります。

乳癌カレントトピックス

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乳癌治療は今や手術療法・薬物療法・放射線療法に免疫療法を加えた4本柱からなり,まさに集学的医療の実践が日常である。主に薬物療法では術後の予後改善のためさまざまな薬剤の追加や投与法の工夫が行われてきたが,思いの外治療強度の上昇と予後改善は相関しなかった。その原因の一つが乳癌全体への治療効果を求めたからであるが,バイオマーカーによりサブタイプごとの治療が意識されることにより治療強度が適正化され始めた。同様に全般に効果が求められた術前化学療法も,治療後腫瘍の遺残がある場合において追加治療により予後改善が期待されるResponse-guidedの治療法が確立した。乳癌術後治療のDe-escalationとEscalationはサブタイプと薬剤感受性を意識した個別化治療によって成立したといってよいだろう。

ウイメンズヘルス

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遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovariancancer:HBOC)は,BRCA1またはBRCA2(BRCA1/2)の生殖細胞系列病的バリアントに起因する遺伝性腫瘍で,乳癌,上皮性卵巣癌/卵管癌/腹膜癌(以下卵巣癌),膵癌,前立腺癌などの高い発症リスクが知られている。遺伝形式は常染色体優性遺伝で,第1度近親者(両親・兄弟姉妹・子)がBRCA1/2の同じバリアントを保持する確率は50%である。日本人一般集団におけるBRCA1/2病的バリアント保持者の頻度は不明であるが,欧米のデータでは400~500人に1人と考えられている1)。BRCA1/2病的バリアント保持者では,80歳での乳癌累積発症リスクは72%(BRCA1),69%(BRCA2),80歳までの卵巣癌累積発症リスクは44%(BRCA1),17%(BRCA2)と高い(図1)2)。BRCA1/2病的バリアント保持者の卵巣癌では,診断時すでにⅢ・Ⅳ期の進行癌であることが多い。Ⅲ・Ⅳ期卵巣癌の予後は不良で5年生存率は約40%である。現在,卵巣癌による死亡を減少させる有効な検診方法は確立されておらず,BRCA1/2病的バリアント保持者の卵巣癌予防対策として最も有効な手段はリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)である。これまでの多くの研究でRRSOによって卵巣癌発症リスクおよび全死亡リスクが低減することが報告されている(表1)3)−9)

Land-Mark papers in Oncology~エポックメイカーとなった論文~

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骨転移による骨破壊は腫瘍細胞が破骨細胞活性化因子(osteoclast-activating factors)を放出し,破骨細胞による骨吸収が促進され引き起こされる。骨修飾薬であるビスホスホネート製剤は破骨細胞による骨吸収を抑制し,骨転移による病的骨折や疼痛,高カルシウム血症などの骨関連事象(skeletal-related events:SRE)を減らすことが知られており,骨転移の治療を大きく変化させた。パミドロン酸は第二世代ビスホスホネートであり,今回パミドロネートが乳癌溶骨性骨転移のSREを減少させる効果について検証した本論文を紹介する。

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術前治療による病理学的完全奏効(pCR)は予後予測因子である。したがってpCRが得られなかった場合には術後に何らかの別の治療を加えたくなる。HER2陽性乳癌の術前治療ではトラスツズマブとタキサン系抗がん薬を併用し術後にトラスツズマブを投与することが多いが,pCRが得られなかった場合に術後にトラスツズマブをそのまま使用するだけでよいのか,トラスズマブエムタンシン(T-DM1)に変更したほうがよいのか,このクリニカルクエスチョンにランダム化比較試験で答えたのがKATHERINE試験である1)。術前に最低9週間のタキサンとトラスツズマブは必須とし,ペルツズマブなどの併用も許容され,アントラサイクリンとシクロホスファミドはLocal standardで使用された。

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早期乳癌に対する術前薬物療法は,薬効を短期間で,直接的に評価できるというメリットがある。1988年に始まったNational Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)B-18試験は,StageⅠ,Ⅱの早期乳癌に対してdoxorubicin/cyclophosphamide(AC)療法の術前投与が術後投与と比較して優れていることを検証することを目的とした大規模ランダム化比較試験であった。この試験では,副次的な目的として,原発巣に対する効果が無再発生存割合や生存割合などの長期的なアウトカムと相関するかどうかが検討され,多変量解析によって原発巣のpCRが,治療前の臨床病理学的因子とは独立した予後因子であることが示唆された1)

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遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)の主な原因遺伝子であるBRCA1は1994年1)に,BRCA2は1995年2)に同定されたが,日本ではBRCA1/2遺伝子検査や遺伝カウンセリングの保険未収載などの影響で診療体制の構築が進まなかった。しかし近年,Poly[ADP-riborse]polymerase(PARP)阻害薬とBRCA1/2遺伝子検査が日本でも保険適応となり,状況は大きく変化した。

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PASH(Psudoangiomatous stromal hyperplasia)は4〜50歳台の女性に多くみられるが,男女双方の乳腺に発症してくる比較的硬い結節性の良性病変である。PASHの大きさは2〜12cmとさまざまであるが,偶発的に自覚,触診,mammography,超音波検査で境界鮮明,hypoechoicな被膜を有さない腫瘤性病変として見つけられることがほとんどである。

The review of clinical study

JBCRG-C07(REIWA Study) 多田 寛
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現在,個々の患者や癌組織のゲノム情報を分析し,同定されるactionable変異の情報に基づいた治療法(matched therapy)を選択する「精密がん医療」が推し進められている。本邦において,2019年度よりがん遺伝子パネル検査が公的な保険医療のもとで開始された。FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル(以下F1CDx)はEGFR,ALK,BRAF,ERBB2などの体細胞遺伝子変異に対応する分子標的療法に対するコンパニオン診断および,上記の遺伝子以外の遺伝子の置換,挿入などの変異検出ならびにマイクロサテライト不安定性や腫瘍の遺伝子変異量などのゲノム・バイオマーカーの情報も提供される。F1CDxの保険収載後,欧米と比較して治験や臨床試験の少ない本邦においては,転移再発乳癌においてどれだけmatched therapyにアクセスできるかが不明である。また,今後治験の増加や,治療薬の適応外使用申請の簡略化,さらには遺伝子変異に対応した治験が多く行われてくるようになると,年次ごとに薬剤到達率が変化するものと考えられる。そのため本邦における遺伝子パネル検査の保険収載後の状況を明らかにすることとともに,現状のアクセシビリティを明らかにする目的で本観察研究を立ち上げた。

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目次

奥付

基本情報

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CANCER BOARD of the BREAST
6巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:2189-356X メディカルレビュー社

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