癌微小環境研究up-date
第7回 微小環境と治療抵抗性メカニズム
村山 貴彦
1
,
後藤 典子
2
1金沢大学がん進展制御研究所分子病態研究分野
2金沢大学がん進展制御研究所分子病態研究分野教授
pp.30-32
発行日 2021年2月10日
Published Date 2021/2/10
DOI https://doi.org/10.34449/J0096.06.02_0030-0032
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癌は日本で第1位の死亡原因となって久しく,世界的に見ても癌による死亡率は非常に高い。なかでも乳癌はわが国の女性の部位別罹患数が大腸癌,胃癌を抑えて第1位であり,女性の癌死亡全体の約9%(第5位)を占める重大な疾患である1)。薬物療法や放射線療法などによっていったんは臨床的に検出できないほどに縮小した場合でも,治療抵抗性を獲得することで数年後に再発や転移を起こすといった癌特有の性質が乳癌患者の予後不良の大きな要因となっている。平均寿命の延伸も影響して癌による死亡者数が増加の一途を辿るなか,そのような治療抵抗性のメカニズムを理解する意義は非常に大きいと考えられる。腫瘍を構成する微小環境に存在するのは癌細胞のみではなく,線維芽細胞や免疫関連細胞,血管内皮細胞や血小板などのさまざまな細胞も微小環境中にその存在が確認されている。これらの腫瘍微小環境を構成する細胞が物理的な細胞間接触や液性因子の分泌を介して,癌細胞の増殖や進展,さらには治療抵抗性の獲得をも促し得ることについては多くの研究により明らかにされてきている。また,自己複製能と多分化能を併せもち,治療後の再発や転移に強く寄与すると考えられている癌幹細胞に関しても,これらの腫瘍微小環境を構成する因子から大いに影響を受けているということを示唆する結果が得られている2)3)。本稿では,腫瘍微小環境のなかでも特に治療抵抗性に寄与すると考えられている線維芽細胞と免疫関連細胞に焦点を当て,それらの細胞がどのように治療抵抗性の獲得に関与し得るかを最新の知見も踏まえて紹介し,腫瘍微小環境の治療標的としての可能性について議論する。
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