BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 65巻8号 (2013年8月)

特集 こころの時間学―現在・過去・未来の起源を求めて

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特集の意図

 「時計というのはね,人間ひとりひとりの胸の中にあるものを,きわめて不完全ながらもまねて象ったものなのだ。光を見るためには目があり,音を聞くためには耳があるのとおなじに,人間には時間を感じとるために心というものがある。そして,もしその心が時間を感じとらないようなときには,その時間はないもおなじだ。」

――ミヒャエル・エンデ作, 大島かおり訳: モモ. 岩波書店, 東京, 1976, p221より

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Ⅰ.こころの「現在」の幅

 1977年にデビューしたシンガーソングライター,渡辺真知子の「迷い道」の冒頭は,「現在・過去・未来」という印象的なフレーズで始まる。私たちの誰もが,この歌詞に象徴されるように,現在・過去・未来の区別を了解して暮らしている。この私たちが共有する時間の意識を「こころの時間」と呼ぶことにしよう。

 この三者の中で,圧倒的な存在感を示すのが「過去」である。生まれてこの方のおびただしい記憶はいうまでもなく,「シベリアの凍土からマンモスが発見された」と聞けば,自分の生年をはるかにさかのぼって,マンモスが牙を振りかざしていた数万年前にこころは旅する。100億年前のビッグバンですら,繰り返し聞くうちに,身近に感じられるほどである。「未来」は過去に比べれば影が薄いかもしれない。それでも新聞の紙面をにぎわすアベノミクスの効果は2年後に確かめることになっているし,地球温暖化の影響や石油資源の枯渇は数十年の幅で語られる。

脳の中の現在 村上 郁也
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はじめに

 1997年,MoutoussisとZekiは時間に関する錯視現象を発表した1-3)。色が規則的に赤・緑と交替し続け,それと同じタイミングで運動方向が上・下に交替し続けると(Fig.1A),色と運動の交替が同期しては見えず,色の交替のほうが先んじて見える(Fig.1B)。同期して見えるためには,運動の交替する位相を早めにずらしてやらなければならない。したがって,色と運動は独立のメカニズムで処理され,色メカニズムの処理時間は運動メカニズムのそれに対して短く済む。処理が終わったものから先に,順々に意識にのぼる。属性間の結びつけ問題(binding problem)は,あくまで知覚的に同時なもの同士が結びつくという形で行われる。そう彼らは主張した。

 この物言いを聞いて多くの研究者の頭に注意信号が灯った。処理時間とは何か。意識にのぼる時刻とは? 意識にのぼった時刻において体験される時間知覚とは? 時間に関するあまりに多くの問題が未解決であることにわれわれはただ安穏としていたのではなかったか。だからこの物言いの真偽を即断できない居心地の悪さだけがあるのではないか。

 実在的物理世界の時間,神経処理の時間,意識的体験としての時間の間の関係に関する著名な実験報告例は過去にもあったものの4),上記の発表が1つの里程標となって,視覚科学において,これらの深遠な関係に改めて人々の目が向くようになったのは間違いない。しかし,これらの関係はいまだ十分に解明されたとは言い難い。時間とは何かを問おうとすれば,意識とは何かを問うハードプロブレムに接近しやすく,どういった外堀から埋めていくかが決め難いのかもしれない。

 本稿では主に視覚システムを対象として,現在の時を刻む神経実体にどういうものがありうるか,視覚オブジェクトがいつどこにあるかを定めるにはどうすべきか,つくり出される現在にはどのような様相があるか,などについて研究知見を紹介し実験心理学の現況報告をすることを目的とする。

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はじめに

 人は生まれた直後から多様な感覚系から得られる情報を記憶しながら生きている。真偽はともかく「胎児であった頃の記憶がある」という人もいることを考えると,実際には生まれる以前からの個人的経験が人格形成に寄与している可能性もある。ともかく,人は意識下,無意識下でさまざまな物事を情報として記憶し,現在,および未来に反映させながら生きている。しかしながら,この「記憶した過去の出来事を想起し,現在に反映させる」というあたかも簡単であるかのように行われる行為は,そもそもヒト特有のものであるといった主張もあるほど特異な現象である1)。そういった意味では,この「時間軸を伴った記憶」こそがヒト,そして個々人という概念を成立させる重要な因子であるともいえる。

 これまで記憶に関する多くの研究がなされてきたものの,時間に関連する記憶を含め,その脳内メカニズムにはいまだ不明な点が多く残されている。今回は特に時間に関連した記憶に焦点を絞ってみていきたいと思うが,そもそも時間に関わる記憶は,一般的にいわれる「記憶」の中でも,どのような分類に位置しているのだろうか。また,その記憶はどのような脳機能によって担われているのだろうか。そして,そのような時間的概念を含む記憶を持つのは本当にヒトだけなのだろうか。本稿では,簡単にまず記憶の定義についてまとめつつ,時間的概念を伴った記憶について,これまでヒトや動物モデルで得られてきた知見をもとに概説していきたいと思う。

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Ⅰ.背景

 読者の多くは,デジタル式のストップウォッチをちょうど1.00秒で押すことに挑戦した経験があると思う。何度か練習するうちに,これがほぼできるようになるのは,脳に時間を測る機能が備わっているからである。また,聞き慣れた音楽を聴いているときに,テンポやリズムの乱れを瞬時に感じ取れることからも,脳にタイミングを予測するための正確な時計があることがわかる。このように,時間情報は空間情報とともに行動の制御や外界の認知に不可欠である。時間長そのものを検出する感覚器は存在しないため,時間の知覚は脳内で作り出された内部情報を観測することによって初めて生じるものと考えられ,いわゆるメタ認知的な要素が大きい。本特集の前項まででみてきた時間に関した錯覚の多くは,こうした時間知覚の複雑性に起因するものと考えられる。

 時間情報の脳内処理に関しては,それに特化したシステムがあるとする説と,感覚種や効果器のそれぞれに関した時間処理が別々に行われるとする説がある1-3)。視床下部に中枢を持つ約24時間の概日リズムなどは,前者の典型的な例である。行動制御や時間認知に必要な数百ミリ秒から数秒程度の処理については,小脳や大脳基底核などの皮質下領域と,外側前頭前野,補足運動野,運動前野,後頭頂葉などの大脳皮質領野とで構成される複数のネットワークが状況によって使い分けられていることが,神経心理学研究や脳画像研究から示唆されている1,4-6)。その一方,最近の心理物理実験では,数秒以下の時間情報は感覚種や属性,効果器などによって,ある程度独立して処理されることが示されている7)。このことは,上記の脳部位に並列のチャネルが存在することによるのかもしれないし,基本的な計時機能は各感覚系や運動系に個別に存在し,小脳や大脳基底核はそれらを非選択的に調節しているのかもしれない。

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はじめに

 1969年出版の『Handbook of Clinical Neurology』第3巻はMacdonald CritchleyとJ.A.M.Frederiksの編集であり,“Disorders of Higher Nervous Activity”というタイトルである。編集者2人の名前で書かれた序文の中に,当時の神経心理学研究の急速な進歩のために,当初は1巻のみで企画された高次機能障害が2巻に分けられ,第4巻も神経心理学的内容にせざるをえなかったことが書かれている。確かに,1960年代,1970年代は臨床神経心理学の特に症候学が飛躍的に進歩した時期で,X線CTから始まったその後の画像診断の進歩の準備状態を形成したときである。この巻の13章に,William Gooddyが“Disorders of the time sense”という総説を書いている1)

 『Handbook of Clinical Neurology』第3巻は神経学の中で神経心理学を専門にしている研究者・臨床家にとっては最も重要な情報が掲載されているモノグラフであり,現在でもよく読まれていると思う。筆者もこの巻のほとんどの章を熟読し,あるとき図書館から借りるのが面倒臭くなったので,第4巻とともに出版社に注文し,自宅の部屋のデスクの横の本棚の手の届くところに置いてある。“Disorders of the time sense”の章があることは図書館から借りていた30数年前から知っており,もちろん気にはなっていて,時々内容を眺めていた。しかし,失語や失行などほかの章に比較すると短文で,文献も少ないし,魅力は感じなかった,というのが本当のところである。

 この章には“The time sense in disease”という項目があり,時間感覚に障害をきたす疾患が挙げられている。まずpsychiatric conditionsがあり,dementia,epilepsy,electroconvulsive therapy (ECT) and accidental electric shock,diffuse brain damage (extrinsic cause),drugs and anaestheticsと続き,最後がlocal brain damageであった。私にとって当時最も関心のあった最後の項目については,ごく簡単な記載しかなかったのが魅力を感じなかった最大の理由であったと思う。ただ1つ,時間感覚をgovernment time senseとpersonal time senseとに分けて考えているところが印象に残っている。Personal time senseは「こころの時間」,すなわち,ヒトで特に発達した「過去」「現在」「未来」にわたる時間の意識と近い概念であると思う。しかし,「こころの時間」と同義ではない。

 わが国における「こころの時間」研究は緒についたばかりである。そこで本稿では,現在までに,「時間」認知について神経学的に何が明らかにされてきたか,またこれからどのようなことがアプローチできる可能性があるのかを述べたいと思う。

総説

症例H.M.の功績 河内 十郎
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はじめに

 H.M.は,1953年27歳のときにてんかんの治療の目的で両側側頭葉内側部の切除を受けたが,術後極めて重篤な記憶障害が生じ,2008年12月に82歳で死亡するまでの55年間,多数の研究者による研究の対象となり,記憶の神経機構について多くのことが明らかにされた。

 切除された部位には扁桃体や鉤も含まれていたが,それらの部位のみの切除の事例では記憶障害が起きなかった1)ことから,より後部の海馬,周嗅野,嗅内野,海馬傍回から成る内側側頭葉記憶システムの概念が確立された。そしてその機能としては,長期記憶と陳述記憶には関与しているが,短期記憶と非陳述記憶には関与していないことなどが次々に明らかにされていった。

 たった1人の事例が学問の進歩に貢献したという点では,H.M.は他に類を見ない存在といえるが,その理由としては,極めて重度な記憶障害が知能や知覚機能の障害をほとんど伴わずに純粋なかたちで生じていること,症状が長期にわたって安定していること,H.M.も家族も研究には極めて協力的であったこと,H.M.の重要性が早くから認識されていち早く行き届いた研究体制が組まれたこと,などを挙げることができる。本稿では,そうした経緯の一端をみていくことにしたい。

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はじめに

 最適な意思決定を行うには,事前にその行動がもたらすであろう結果を予測することが大切である。しかし現実には,生じ得る結果が複数あり予測が困難なことが多い。よい結果が得られるか悪い結果となるか,結果が不確実なことは“リスク”と呼ばれる。このような“リスク”に対しわれわれはどのように判断を下すのであろうか。数学的には,起こり得る結果内容とそれぞれの生起確率がわかっていれば,期待値を計算しそれをもとに意思決定を行うのが適切である。

 例えば,宝くじは当せん金額もその本数も明示されており,簡単に期待値を計算することが可能である。そしてその期待値は1枚のくじの購入金額を遥かに下回っているわけだから買わずに貯金したほうがよいということになる。しかし実際には宝くじを購入する人は数多く存在する。このように期待値が算出できるような状況においても,人は必ずしも期待値に沿った意思決定を行うとは限らない。つまり結果が予測できないという“リスク”は,数学に基づいた合理的価値基準以上に,人の意思決定に大きな影響を与えることがあるのである1)

 では脳はどのようにしてこうした“リスクを伴う意思決定”を行っているのだろうか。これまでの研究によって,いくつかの脳領域の関与が明らかにされてきた2-4)。1994年Becharaら5)は初めて実験的に,脳の損傷部位と異常なリスク選好性(大きな利益を目指しリスクを積極的に冒す性質)との関係性について言及した。彼らは,アイオワギャンブル課題において前頭眼窩野(を含む前頭前野腹内側部)を損傷した患者が,健常者が避けるようなハイリスクハイリターンな選択を行う傾向を示したことから,前頭眼窩野がリスクを伴う意思決定において重要な役割を果たしていると考えた5,6)

 リスクを伴う意思決定における前頭眼窩野の重要性は,その後の健常者を対象にした脳機能イメージングの研究7-12)によっても支持されたが,それと同時に前頭前野背外側部や腹内側部,帯状回,側坐核,扁桃体などそのほかのさまざまな脳領域の関与についても多くの示唆がなされた13-19)。島皮質はそうした脳機能イメージングの研究によりリスクを伴う意思決定への関与が示唆された領域であり,近年その機能が着目されている20-24)

 筆者らは最近,島皮質前部の不活性化によりリスク選好性が減少することを発見した25)。これは島皮質前部にハイリスクハイリターンの行動を促すような機能がある可能性を示唆している。本稿ではリスクを伴う意思決定における島皮質の機能について,筆者らの研究を中心に,これまでに得られている知見を概説する。

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はじめに

 私たちが何かを決める際,脳の中ではどんなことが起こっているのだろうか。この疑問を明らかにすること,つまり意思決定の脳機能を解明することは,「人間の理解」という脳神経科学の究極の目的を達成するうえで極めて重要である。

 私たちの日常は絶え間ない意思決定の連続である。仕事前にカフェに立ち寄るか,立ち寄ったカフェでどの飲み物を頼むかといった個人的な意思決定や,会議で相手に伝えたいことをいかに言うか,相手の気持ちをいかに汲みとるかというような社会的な意思決定など,さまざまな意思決定を行っている。これらの意思決定プロセスを解明することは,人間の心の働きをその本質から理解するうえで大きな足がかりとなる。

 本稿では,意思決定の脳理論の基礎的な解説から始め,次に,他人の心を学習・予測する脳機能に関する最新の知見を紹介する。さらに,将来展望として,「多層予測学習」の概念を紹介しつつ,今後期待される計算論的精神医学や人間総合科学への展開について述べる。なお,本稿の文章・図は,当研究室のテクニカルレポート(BSI-ITN Tech Report No. 13-02)をもとに起こしたものであることを付記しておく。

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はじめに

 てんかん重積状態は,てんかん発作がある程度の長さ以上に続く,あるいは短い発作でも反復しその間の意識の回復がないもの1)であり,通常は持続時間が30分以上とされてきた。しかし,5分もしくは10分以上持続する場合は,予後に関係するため重積と判断し,速やかに治療を開始することが必要である2,3)

 てんかん重積状態の治療については各種のガイドラインやプロトコール4-6)があるが,多くは,ベンゾジアゼピンで初期治療を行い,その後のセカンドラインとして,フェノバルビタール(PB)またはフェニトインの投与が推奨されている。『てんかん治療ガイドライン2010』7)でも,ジアゼパム静注で頓挫できない場合,ジアゼパム再投与,フェニトイン静注,PB静注あるいはミダゾラム静注を行うことになっている。

 わが国では2008年10月から静注用PB製剤が使用可能となった。静注用PBはオーファンドラッグで,国内承認に際して新生児痙攣については10例の第III相医師主導治験が行われ有効性が確認されたが,成人のてんかん重積状態の承認について国内臨床試験は行われていないため,日本人でのデータがない。

 その後,主に小児のてんかん重積状態に対する有効性は報告8)されているが,成人についての多数例の報告はない。当院でてんかん重積状態に対し静注用PBを投与した患者について,後方視的にその有効性および安全性を検討したので報告する。

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はじめに

 ヘールフォルト(Heerfordt)症候群はサルコイドーシスの一亜型として知られおり,ぶどう膜炎・耳下腺腫脹・顔面神経麻痺の3症状と微熱を伴うものを完全型,3症状のうち2症状と微熱を伴うものを不完全型と分類する1)。全サルコイドーシス患者の約4.1~5.6%と比較的頻度の低い症候群である1)。神経症状として顔面神経障害がこの疾患の特徴とされるが,他の神経根障害合併の報告も散見される。

 筆者らは,体幹の神経根障害を合併した不完全型ヘールフォルト症候群の2例を経験した。これまでヘールフォルト症候群に伴う神経根障害に注目した論文はないが,既報告を含め,サルコイドーシスに伴う神経根障害はヘールフォルト症候群に合併する頻度が高く,文献的考察を交えて考察する。

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 パーキンソン病とその関連疾患は振戦・無動・固縮・姿勢反射障害など特有の運動症状によって特徴づけられる疾患群であるが,そうした運動症状と同程度,あるいはそれ以上に高頻度で運動症状以外の特徴的な症状を呈することが次第に明らかとなってきた。そして今やパーキンソン病の予後を最も大きく左右するのは運動機能障害の程度ではなく,むしろ代表的な非運動症状の1つである認知機能障害の程度であることがわかっている。

 本学会はこのように最近極めて注目されてきているパーキンソン病関連疾患の非運動症状にフォーカスを置いたユニークな学会であり,イスラエル・テルアビブ大学神経内科のAmos D. Korczyn教授とドイツ・ドレスデン大学神経内科のHeinz Reichmann教授を中心に,これまでヨーロッパの諸都市で8回開催されてきた。パーキンソン病とその関連疾患の診断・治療において,非運動症状への注目は年々高まっており,本学会の重要性も年々高まっているとの印象を受ける。今回は,韓国・ソウル大学のBeom S. Jeon教授を会長として初めてアジアで開催されることとなった。

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連載にあたって

 近代的統計手法の発達と大規模疫学調査を行うためのコホートの確立が進んでおり,神経疾患において多くの注目すべき疫学研究結果が発表されている。しかし,統計学には難解な印象もつきまとい,敬遠してしまう人も少なくない。そこで,本欄では疾患発症リスクや病態に関連すると考えられる話題の疫学研究についてポイントを簡潔に紹介したうえで,最新の統計学的手法について生物統計学の専門家がやさしく解説する。

連載 神経学を作った100冊(80)

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 モンラッド=クローン(Georg Herman Monrad-Krohn;1884-1964)はノルウェーの神経学者である。ベルゲンに1884年3月14日に生まれ,ノルウェーで医師となった。1912年にロンドンのクイーン・スクエア(National Hospital, Queen Square)に留学をした。ここで,バザード(Farquhar Buzzard;1871-1945),ホーズレイ(Victor Alexander Hayden Horsley;1857-1916),バーテン(Barten),コリアー(James Collier;1870-1935),スチュアート(Thomas Grainger Stewart;1877-1957),ウィルソン(Samuel Alexander Kinnier Wilson;1877-1937)などのそうそうたる医師たちに学んだ。この間,彼はフランスにも何回か足を運び,サルペトリエール病院やピティエ病院に留学し,デジュリーヌ(Joseph Jules Dejerine;1849-1917),ピエール・マリー(Pierre Marie;1853-1940),バビンスキー(Joseph François Felix Babinski;1857-1932)などに習った。彼は生涯フランス学派の症候学的研究を尊敬し続けたという。1917年にオスロ大学病院に戻り,1922年に神経学の教授に任命された1)

 モンラッド=クローンは生涯に,腱反射,らい病,構音障害を含む種々の顔面神経麻痺などに関する200以上の論文を発表した。特にモンラッド=クローン徴候は,1924年に報告したものだが,上位運動ニューロンの障害による顔面神経麻痺で,背理性情動性表情過多が生まれるものをいう。

お知らせ

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趣旨 脳研究に従事している優れた研究者を助成し,これを通じて医科学の振興発展と日本国民の健康の増進に寄与することを目的とする。

研究テ-マ 脳神経系の統合機能およびこれに関連した生体の統合機能の解明に意義ある研究とする。

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 神経学の魅力は多くの人が述べておられます。その魅力の1つには無限に広がる脳科学の世界につながる臨床分野であることも挙げられますが,何といってもシャーロック・ホームズの世界に入り込んだような緻密な観察と論理的な推論を行いながら,難解な神経疾患に診断を下す面白さにあるのではないでしょうか。

 その神経診断の魅力を徹頭徹尾追求した書籍,柴﨑浩著『神経診断学を学ぶ人のために 第2版』が,この度出版されました。柴﨑先生は私が神経学を学び始めた頃にその基礎から臨床のすべてを教えていただいた先生であり,また世の中にwalking dictionaryといわれる人物の存在を初めて認識させられた先生でもあります。まさに私の神経学の師と敬う先生です。

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 私の盟友,井田正博先生の最新著作『ここまでわかる頭部救急のCT・MRI』が届いた。1ページ1ページ読み続けていくうちに,私の前任地である東京都保健医療公社荏原病院での日々が鮮明に甦ってきた。

 井田先生は,私とともに1994年の新荏原病院の開設時に赴任し,以来一貫して急性期病院の神経救急の第一線で活躍している,放射線科医としては非常に珍しい「肉食系男子(失礼!)」であり,私は神経放射線,特に急性期脳血管障害の診断・治療に心血を注いできた姿を傍らでずっと見続けてきた。24時間体制でMRI検査を可能にする体制を全国に先がけて確立し,同院「総合脳卒中センター」設立の立役者となった。井田先生なくして,今日の荏原病院の評価もなかったと信じている。そして,昼夜,盆暮を問わず画像読影室に現れ,技師さん,部下の放射線科医,研修医に檄を飛ばし続けるそのエネルギーがそのまま本書に昇華していると感じた。それにしても,常に飛び回っているあの人のどこにこの大作をつくる時間があったのだろう?

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 本書は失語症など高次脳機能障害の専門家である著者が,自らの心原性脳梗塞の発症直後から,録音・録画も含め,集積してきた膨大な記録のまとめである(音声と動画は医学書院のウェブサイトに掲載)。脳損傷の現実を内側からレポートした記録として貴重であるばかりでなく,一人の対象者の長期にわたる経過の全貌を明らかにしている点でも重要な資料である。

 現在,脳卒中のリハビリテーション(以下,リハと略)は,おおむね半年で終了となるが,さまざまな治療法についての情報を積極的に求め,回復を促進できそうなあらゆる手段を利用してきた著者の場合,発症から約3年余にわたり機能回復が続いていることが記され,発症からの時間経過によって輪切りにされている現在の脳卒中リハの在り方に一石を投じる記録ともなっている。また,日常生活レベルでの数々の不便さとそれらへの対応,社会との関わりの中で感じた悲哀と心のバリアフリー化の訴えなど,脳損傷の影響の広範さ,甚大さが具体的に記され,それに立ち向かい克服しようとする著者の挑戦は,一般の読者や障害のある人,その家族にとっても共感できる内容となっている。

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次号予告

投稿規定

「読者からの手紙」募集

あとがき 河村 満
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 本号総説河内十郎先生執筆の「症例H.M.の功績」は,今後必ず多くの論文に,長く引用され続けるであろう。長年にわたりH.M.研究をフォローし,おそらくH.M.に関するすべての論文に目を通されている著者にしか書けない,ポイントをついた,重厚な内容が平易な筆致で表現されているからである。この論文を読めば記憶概念の成立が理解できる。H.M.には時間推測の障害もみられたことが明らかにされている。

著作財産権譲渡承諾書

読者アンケート用紙

基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
65巻8号 (2013年8月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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