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はじめに
1969年出版の『Handbook of Clinical Neurology』第3巻はMacdonald CritchleyとJ.A.M.Frederiksの編集であり,“Disorders of Higher Nervous Activity”というタイトルである。編集者2人の名前で書かれた序文の中に,当時の神経心理学研究の急速な進歩のために,当初は1巻のみで企画された高次機能障害が2巻に分けられ,第4巻も神経心理学的内容にせざるをえなかったことが書かれている。確かに,1960年代,1970年代は臨床神経心理学の特に症候学が飛躍的に進歩した時期で,X線CTから始まったその後の画像診断の進歩の準備状態を形成したときである。この巻の13章に,William Gooddyが“Disorders of the time sense”という総説を書いている1)。
『Handbook of Clinical Neurology』第3巻は神経学の中で神経心理学を専門にしている研究者・臨床家にとっては最も重要な情報が掲載されているモノグラフであり,現在でもよく読まれていると思う。筆者もこの巻のほとんどの章を熟読し,あるとき図書館から借りるのが面倒臭くなったので,第4巻とともに出版社に注文し,自宅の部屋のデスクの横の本棚の手の届くところに置いてある。“Disorders of the time sense”の章があることは図書館から借りていた30数年前から知っており,もちろん気にはなっていて,時々内容を眺めていた。しかし,失語や失行などほかの章に比較すると短文で,文献も少ないし,魅力は感じなかった,というのが本当のところである。
この章には“The time sense in disease”という項目があり,時間感覚に障害をきたす疾患が挙げられている。まずpsychiatric conditionsがあり,dementia,epilepsy,electroconvulsive therapy (ECT) and accidental electric shock,diffuse brain damage (extrinsic cause),drugs and anaestheticsと続き,最後がlocal brain damageであった。私にとって当時最も関心のあった最後の項目については,ごく簡単な記載しかなかったのが魅力を感じなかった最大の理由であったと思う。ただ1つ,時間感覚をgovernment time senseとpersonal time senseとに分けて考えているところが印象に残っている。Personal time senseは「こころの時間」,すなわち,ヒトで特に発達した「過去」「現在」「未来」にわたる時間の意識と近い概念であると思う。しかし,「こころの時間」と同義ではない。
わが国における「こころの時間」研究は緒についたばかりである。そこで本稿では,現在までに,「時間」認知について神経学的に何が明らかにされてきたか,またこれからどのようなことがアプローチできる可能性があるのかを述べたいと思う。
Abstract
Mental time is the cognitive conscious perception of past, present, and future. In this review we examine the novel research field of the neuropsychology of mental time in five ways. First, we review the mental time of amnesic patients. Second, we review reports of "Chronognosia". Third, we review confabulation associated with disturbance of mental time. Fourth, we present a new syndrome of mental time associated with "age awareness". Finally, we review concepts of prospective memory.
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