BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 65巻7号 (2013年7月)

増大特集 あしたの脳梗塞

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特集の意図

 外科的治療や薬物治療の進歩もあずかり,高血圧性脳出血とラクナ梗塞が時代とともに暫減しています。その結果,残された脳小血管障害が,今後の脳梗塞治療のメインターゲットとなっていくことが予想されます。本特集では,この流れを踏まえ,血管性障害に関わる最新情報を整理し,「あしたの脳梗塞」の診療・予防について議論することで,脳卒中領域に新たな光を模索します。

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はじめに

 一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)とは,「24時間以内に消失する局所性脳虚血による一過性の症候」である。本症の重要性は,①脳梗塞の前駆症状であること,②適切な治療により,脳梗塞発症抑制が可能であること,の2点に集約される。

 近年,欧米を中心とした研究結果から,TIA患者を適切な診療体制のもとで迅速に診断・治療することにより,重篤な脳梗塞の発症を大幅に低減できることが明らかになった。『脳卒中治療ガイドライン2009』には「TIAを疑えば,可及的速やかに発症機序を確定し,脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始しなくてはならない(グレードA)」と記載されている1)。しかし,TIAの初期対応,入院適応に関する具体的な指針は示されていない。また,TIAの早期治療介入効果や脳梗塞発症予測因子に関する最近の研究結果は,すべてが欧米のものであり,わが国でのTIAに関する大規模な臨床研究はほとんどなかった。このような背景から,2009年に,厚生労働科学研究費補助金「一過性脳虚血発作(TIA)の診断基準の再検討,ならびにわが国の医療環境に則した適切な診断・治療システムの確立に関する研究」班(研究代表者:峰松一夫。以下,TIA研究峰松班と略す)が組織され,わが国の医療環境に即したTIA診療システムの改革,再構築が模索されている。

 本稿では,現在抜本的な見直しがなされつつあるTIAの定義,原因,症候,画像診断,医療体制について,過去の研究から今後の展開までを概説する。

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はじめに

 脳卒中は脳梗塞,脳出血,くも膜下出血に分類され,それぞれ約70%,20%,10%と脳梗塞が最も多い。わが国では高齢化社会を迎え,脳卒中の患者数の増加が見込まれており,特に脳梗塞患者の増加することが推測されている。2009年の脳卒中データバンクによると,虚血性脳卒中の病型別頻度は,一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)5.8%,ラクナ梗塞31.9%,アテローム血栓性脳梗塞33.9%,心原性脳塞栓症27%,その他の脳梗塞7.2%となっており,ラクナ梗塞の減少とアテローム血栓性脳梗塞および心原性脳塞栓症の増加が顕著となってきている1)

 虚血性脳卒中を正確に臨床診断することは,適切な治療法の選択や予後の推測にとって重要である。本稿では,虚血性脳卒中(脳梗塞)の臨床分類と症候,各病型の臨床像および各種補助検査について整理して述べる。

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はじめに

 この稿を起こすにあたって,まずわが国における脳梗塞患者への急性期再開通治療と,それを取り巻く医療環境の変化を,Tableに示す。2005年に遺伝子組換え組織型プラスミノゲンアクティベータ(recombinant tissue-type plasminogen activator:rt-PA)であるアルテプラーゼを用いた静注血栓溶解療法が国内承認された際には,米国より9年も遅れたドラッグラグを嘆いたが,その後の7年余りの間に,rt-PA静注療法承認を起爆剤とした治療の場(脳卒中ケアユニット;stroke care unit:SCU)や治療するチーム(認定看護師,リハビリテーションのセラピスト,救急隊員など)といった環境の変化が,急速に進んだことがわかる。2007年に定められた第五次改正医療法で,脳卒中がわが国の四大疾病と定められたことが,その象徴に思える(2013年には精神疾患が加わり,「五疾病」と称されるようになった)。

 2010年以降は,血栓溶解療法の相方となるもう1つの再開通療法,血管内治療のデバイス承認が続き(Merciリトリーバー®,Penumbraシステム®),超急性期治療の拡充に拍車をかけた。そして2012年にはrt-PA静注療法の治療開始可能時間が発症4.5時間後まで延長され,時期を合わせてこの治療の適正治療指針も改訂された1,2)。半年を経た2013年春の諸学会での研究発表を聴く限りでは,安全性を損なうことなく治療機会を増やす結果につながっているようである。

 今や静注血栓溶解療法はわが国の脳梗塞標準治療として根づいたが,この治療は決して完成されたものではない。慢性期の完全自立への復帰率が5割に満たないことからも明らかなように,改善の余地と可能性をまだ多く残している。ここでは,静注血栓溶解療法の改善のための課題として,特に治療開始可能時間と併用療法・後療法の問題を取り上げて解説し,あしたの静注血栓溶解療法を占う。

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はじめに

 心房細動による脳卒中として最も重要なものは心原性脳塞栓である。超急性期脳梗塞に対してはアルテプラーゼ静注療法が発症4.5時間以内,血管内治療が原則として発症8時間以内に使用可能であり,これらの再灌流療法により劇的な改善をみる症例も少なくない。しかしながら,4.5時間以内あるいは8時間以内というのはあくまで脳梗塞症例の集団としての目安であり,この時間以内であればすべての脳梗塞症例に再灌流療法が可能でよい転帰を得られるというわけではない。症例によってはそれよりはるかに短時間で脳梗塞が完成してしまうこともある(Fig.1)。特に内頸動脈終末部閉塞(いわゆるT-occlusion)では中大脳動脈のみならず,ウィリス動脈輪の変異により前大脳動脈や後大脳動脈の閉塞をきたすことも多く,治療可能時間が短い病態の代表である。このような症例においてはどれほど迅速な対応を行っても広範な脳梗塞が不可避な場合も多い。脳梗塞への超急性期治療がいかに発達しても「予防に勝る治療はない」ということは変わらない。

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はじめに

 非心原性脳梗塞の再発予防には,脳動脈を閉塞させる血小板血栓の形成を阻害する抗血小板療法の適応がある1)。しかしながら,抗血小板療法による脳卒中予防効果には限界があり,現状では脳卒中を20~30%減少させる程度であることから,作用機序の異なる複数の抗血小板薬の併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)が行われるようになった。また,抗血小板薬の効果の限界には薬剤抵抗性が関与しているとの考えから,抵抗性(resistance)の少ない薬剤の開発が求められている。血小板が主役を演じる生理的止血機構と病的血栓形成機構は多くの部分が重なり合うので,抗血小板薬の宿命的な副作用として出血性合併症が問題となるが,血小板活性化機構を選択的に阻害し,生理的止血機構に影響を及ぼしにくい分子標的薬の開発も行われている。日常診療においては,エビデンスに基づいてリスクベネフィットを勘案しながら個々の症例に応じて薬剤が選択されているのが現状である。

 本稿では,脳梗塞再発予防における,これらのトピックに関して最新の情報をエビデンスに基づき概説する。

微小脳梗塞の画像診断update 山田 惠
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はじめに

 微小脳梗塞の画像診断を一変させたのは拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)だといっても過言ではない。これは前世紀の終わりに超高速撮影法(echo planar imaging:EPI)が使用可能となってから実現化された手法である。DWIの出現により微小な脳梗塞も鋭敏に捉えることが可能となった。今や臨床的に微小脳梗塞が疑われる患者で,単純CTのみで診断が完結する状況は想定しがたい。CTと比較してもコントラスト分解能という観点からは圧倒的にDWIのほうが有利であり,これであれば初学者でも判定に迷うことは少ない。所見の一致率に関してもCTと比べて圧倒的に高いことが報告されている1)

 本稿においては微小脳梗塞の画像診断に関してDWIを中心に解説を試みる。また,近年さかんに研究されている領域である拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI)に関しても少し触れる。灌流画像は微小脳梗塞の判定において限定的な意義しかなく,したがって本稿では割愛する。

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はじめに

 高齢者の脳の磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)のT2強調画像やFLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)画像では,高頻度に大脳白質に高信号領域が観察される。脳のMRI検査において,最も頻繁に目にする病変である1)。最近では,脳小血管病(cerebral small vessel disease)としても注目され,多くの前向き研究により,脳卒中や認知症などの重要なリスクファクターの1つであることが明らかになってきている2-8)。以前は,何を見ているかよくわかっていなかったことから,UBO(unidentified bright object)とも呼ばれたことがあるが,現在では,多くの,画像と病理との対比研究により,「何を見ているか」がわかってきた。本稿では,高齢者における大脳白質病変について,最近の知見を含め,概説する。

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はじめに

 脳が複雑な機能を営むには,ニューロンのみでなく,グリアを含む神経外環境の恒常性・健全性と脳血流の供給が必須である。それはあたかも,上質の米を作るのに,肥沃な土壌(神経外環境)や澄んだ水の供給(脳血流)が必要なことと似ている。さらに,リンパ管がない脳では,排泄用水路として血管周囲ドレナージ経路が動脈壁に準備されている1)。上質の米を作る,すなわち,脳が最高のアウトプットを達成するには,澄んだ水を運び淀んだ水を洗い流す水路としての「脳血管」が果たす役割が大きい。言い換えれば,脳血管は,栄養や酸素を含む脳血流を運ぶ上水道としての働きと,老廃物を排泄する下水道としての働きを,他の臓器とはやや異なる様式で同時に担っている。

 認知症研究がアルツハイマー病を中心に展開し,認知症を神経細胞の機能異常といういわば「単純系」に落とし込んで理解しようとする立場には限界がみえてきた。脳は全身の20%近い血液を必要とする臓器であり,循環障害が認知症に直結することは言を俟たない。最初に報告されたアルツハイマー病の患者とされるAuguste D.の診断は,実は血管性認知症であったともいわれる2)。高齢者の認知症に血管病が少なからず寄与することは,「ヒトは血管とともに老いる」という名言を借りるまでもない。イギリスの456例の剖検脳の解析から認知症への病理変化の寄与危険度を算出した結果,小血管病と多発性の血管病理の寄与危険度はそれぞれ12%と9%であり,神経原線維変化の11%,老人斑の8%を凌駕していた3)

 このように,高齢者の認知症を考えるうえで,血管の病理は極めて重要であり,本稿では特に小血管病について焦点を当てて認知症との関連を探り,その予防法と治療法について論じてみたい。なお本稿では,認知症との関連を論ずるにあたり,「脳」小血管病とすべきところも,血管病が全身性の疾患であるという意味合いを込めて,敢えて小血管病としたことをまずはお断りしておく。

CADASILの診断と治療 水野 敏樹
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はじめに

 CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy;皮質下梗塞と白質脳症を伴った染色体優性脳血管症)は遺伝性脳小血管病の中で常染色体優性遺伝形式の代表的疾患である1)。この疾患は脳小血管病から大脳白質病変,ラクナ梗塞,さらに血管性認知症を生じる機序を考えるうえでモデルとなる重要な疾患で,その原因遺伝子としてNOTCH3が同定されている2)。片頭痛発作が先行して大脳白質病変が徐々に進行,中年期からラクナ梗塞を繰り返し,うつ症状,脳血管性認知症に至る特徴的な臨床像が認識されるようになり,わが国でも既に100例以上の報告がなされている。

 筆者らはこの10年間で遺伝子診断により63例のCADASILを確定診断し,わが国での特徴として,①片頭痛以外の臨床症状の発症年齢幅は広く,60歳以上の高齢発症例が約20%を占めること,②高血圧,糖尿病,脂質代謝異常,喫煙のいずれかの危険因子を有する率が約3/4と高いこと,③明らかな家族歴が確認できない場合も約20%あることを報告してきた。このため,わが国の実態に即して原因不明の白質脳症の場合にCADASILを見逃さないようにするため,厚生労働省遺伝性脳小血管病の病態機序の解明と治療法の開発班で新しいCADASILの診断基準(厚労基準)を作成した3)。この診断基準の発表後さらに遺伝子診断の依頼をいただき,診断例も増加していることから,まだ診断されていない症例・家系があるのではないかと予想される。

 本特集では血管病変への沈着性障害が1つのテーマとなっているが,脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy:CAA)では血管へアミロイド沈着を生じ易出血性を特徴とするのに対して,CADASILでは電子顕微鏡で認めるgranular osmiophilic material(GOM)の血管平滑筋細胞基底膜周囲への沈着と,NOTCH3細胞外ドメイン(notch extracellular domain:NECD)が血管に蓄積する点が4),異常蛋白の蓄積という病態を考えるうえで重要である。本年,CADSILの発症機序について重要な報告がされている。GOMはCADASILの疾患概念が提唱された当初から認められた特異的な所見にもかかわらず5),その構成成分としてNECDを含むか含まないかについては議論が続いていたが5,6),NECDが主要成分であることを示す結果が報告された7)。続いて変異型NECDにより機能的にも重要である細胞外基質tissue inhibitor of metalloproteinases3(TIMP3)とビトロネクチン(VTN)が誘導されて凝集に関わり,CADSAILの病態に重要であることが報告された8)。これらの結果はCADASILの発症機序について2つの大きな示唆を与えている。第1は異常蛋白の蓄積がNOTCH3変異によるgain of toxic functionとしてCADASIL発症へ関与する点,第2はNECDやGOMの沈着がCADASILで認められる血管反応性障害に関与する点である。

 本稿ではCADASILの特徴,厚生労働省研究班で作成した診断基準を紹介するとともに,発症機序,小血管病により白質病変,梗塞,認知症発症への進展,治療の問題点について概説する。

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はじめに

 脳微小出血(microbleeds:MBs)は1990年代に初めて報告された概念であり,従来の画像ではラクナ梗塞などとされてきたものの中に,微小な出血が混在していることが報告された1,2)。MRIのグラジエントエコーT2*強調画像は,ヘモジデリンなどの常磁性体をMRIの磁場の不均一性として表現したものである。すなわち破綻した最小動脈壁からわずかに漏出し,沈着したヘモジデリンを鋭敏に捉えることができ,脳内の微小出血を反映したものとされている3,4)。これまでの報告からMBsは脳卒中患者やアルツハイマー病などで多く認められ,脳出血や認知症のリスクとの関連で注目されている。

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はじめに

 脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy:CAA)は中高年者に広く出現する病変1,2)であるが,臨床的にはそのごく一部が脳出血,一過性脳虚血発作(TIA),白質脳症状など3,4)を呈する。CAAの確定診断には生検または剖検時に得られた脳標本の病理組織学検索が必須であるが,近年,画像診断を駆使することで本病変の存在を示唆する所見が得られやすくなった。さらにアミロイド細線維を特異的に認識するトレーサーを用いたPET(possitoron emission tomography)の登場で,CAAを含む脳アミロイドーシス(cerebral amyloidosis)の直接的な証明が可能となった。また治療面でもCAA関連の病態を軽減する薬物療法が提唱されている。

 一方,家族性トランスサイレチン(amyloidogenic transthyretin:ATTR;アミロイド惹起性トランスサイレチン)型全身性アミロイドーシスは,末梢の体性(somatic)ならびに自律(autonomic)神経障害を臨床的特徴とする疾患(家族性アミロイド多発ニューロパチーfamilial amyloid polyneuropathy:FAP5))として広く知られているが,ATTR由来アミロイドが脳脊髄の軟膜に選択的に沈着することで進行性の中枢神経障害を生じることがある。本病型はfamilial meningocerebrovascular(家族性髄膜脳血管アミロイドーシス)6)またはoculoleptomeningeal amyloidosis(家族性眼脳軟膜アミロイドーシス)7)と呼称されて,脳表ヘモジデローシスを引き起こす基礎疾患の1つに挙げられ,最近,わが国においても注目されている。

 本稿では,CAAとトランスサイレチン関連脳軟膜アミロイドーシスを中心とする中枢神経系のアミロイドーシスと脳血管障害との関連についてその概略を述べる。

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はじめに

 脳表ヘモジデリン沈着症(superficial siderosis:SS)は,感音性難聴,小脳性運動失調,錐体路徴候,認知機能障害などを主徴とし,主に中年以降に発症し,脳表や脊髄表面にヘモジデリンの沈着がみられる原因不明の進行性疾患である1)。MRIの登場以前は,剖検や外科手術により初めて診断されていたが,MRIの登場により生前診断が可能となっている。外傷や出血性疾患後など原因が明らかなもの以外は半数近くが原因不明とされていたが,原因不明のものの多くに脊髄での髄膜貯留がみられ,「硬膜疾患」の1つと考えられるようになってきた。また,小脳,脳幹といった「古典的」な部位にヘモジデリン沈着がみられる例(以下,古典型SS)以外に,大脳皮質のごく一部のみにヘモジデリン沈着がみられる例(以下,限局型SS)が少なからず存在し,脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy:CAA)や,アルツハイマー型認知症との関連も議論されており,疾患概念も変わりつつある。本稿では,これらの最近の知見を含め主として臨床的側面から解説する。

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はじめに

 わが国の血管障害,特に脳卒中の疫学は,この50年間に大きく変貌している。わが国では,脳卒中死亡率の減少,脳出血の減少,脳梗塞の増加,罹患年齢の高齢化など大きな変化が認められ,食生活の変化,生活環境の変化,高血圧治療をはじめとする薬物治療の普及,人口の急速な高齢化などが反映した現象と考察されている。

 近年は,食生活の欧米化やライフスタイルの変化を反映して,脳出血は減少し脳梗塞が増加する傾向が顕著になり,さらに人口の急速な高齢化と相俟って,脳梗塞患者が増加し,中でも心房細動に起因する心原性脳塞栓が増加傾向にある。また,アルツハイマー病などの認知症の発症や経過に,これまで無症候性と考えられていた軽度の脳血管病変が関与する可能性も論じられるようになった。

 本稿では,脳卒中発症や再発などについて,疫学的見地から秋田県脳卒中発症登録(Akita Stroke Onset Registry:ASOR)のデータを中心に概説する。

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はじめに

 生体内での化学反応は生命機構の維持に不可欠なものであり,活性酸素(reactive oxygen species:ROS)産生過程もその1つである。活性酸素は本来,酸素を利用したATP産生により必然的に生成され,細胞内シグナル伝達経路にもさまざまな形で関わる1)。その反応は生体に不可欠であり,例えば,蛋白質のアミノ酸残基がラジカル化することが触媒反応に不可欠な酵素類も少なくない。チロシンラジカルを有するリボヌクレオチドレダクターゼやプロスタグランジンH合成酵素,トリプトファンラジカルを有するシトクロムCペルオキシダーゼなどがその代表的な例である。細胞における活性酸素の反応は,炎症病態や血圧調整など,細胞の集合体である生命システムの方向性を決定する因子となる。

 本来,生体は,産生された活性酸素を速やかに消去する機構を備えているが,その消去機構が機能しない状況では,活性酸素の蓄積が細胞に悪影響を及ぼす。いわゆる「酸化ストレス」と呼ばれる病態である。この酸化ストレスは,最近の研究の進歩によって,単に細胞のアポトーシスや老化を促進するだけではなく,細胞の分化,増殖などの細胞の一生をコントロールするシグナルとして捉える必要性が生じてきた。本項では,脳血管障害に伴い生じる活性酸素発生のメカニズムを神経細胞,血管内皮および血球との関係から解説する。

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はじめに

 脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy:CAA)は,中枢神経系の血管壁にアミロイドが進行性に沈着し,続発性血管病変をもたらす病態を表す。CAAには,多数を占める高齢者の孤発性CAA(sporadic CAA)と稀な遺伝性CAA(hereditary CAA)がある。本稿では孤発性CAAの病理像について述べる。孤発性CAAではアミロイドβペプチド(amyloid βpeptide:Aβ)が沈着する。このアミロイドはアルツハイマー病の脳にみられるものである1-4)。高血圧および他の血管危険因子に伴う非アミロイド性の脳小血管病(以降は高血圧性脳小血管病と呼ぶ)はCAAとともに脳小血管病の主なものなので5),高血圧性脳小血管病との相違点を念頭において述べる。

 本稿では筆者らの経験した所見を中心に記述し,文献的考察を加える。遺伝性脳小血管病については本稿では触れない。

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はじめに

 失行を初期症状とし,それが緩徐に進行する病態は進行性失行,原発性進行性失行と呼ばれるが,詳細な失行の記載がある剖検報告は少ない1-4)。本報告では両側性失行を伴う大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)症例の臨床・病理学的所見を提示し,その関係を考察する。なお,本報告での「失行」は観念性失行および観念運動性失行を指し,肢節運動失行を含まない。

現代神経科学の源流・3

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エックルスの二元論

伊藤 この『Evolution of the Brain: Creation of the Self』(邦題:『脳の進化』)1)は,エックルス先生がすごい勉強をして書いた本なんですが,ちょっと行き過ぎた話も載っていて。

酒井 心に関する憶測的な説が,後半に出てきますね。エックルス先生の「心脳問題」に関しては,やはり理解が難しいところですね。

連載 神経学を作った100冊(79)

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 スチュアート(James Purves Stewart:1869-1949)は英国の神経学者である。その大部分をウェストミンスター病院で過ごした。彼の講義の風景は一風変わっていたという。住み込み医師が彼のハンマーを捧げ持ち,それに続いてノートを取る秘書,他の器具が入った鞄を運転手が持ち,そして彼が入ってくるのがいつもの光景であった。また彼は魅力的な演出でさまざまなデモンストレーションを行ったという1)。1926年には英国王立医学会(the Royal Society of Medicine)の会長をしていた。

 1901年にフランスのデジュリーヌが『神経症候学』の初版を上梓してから,神経診断学の教科書が出版される機運が生じた。スチュアートの『神経疾患の診断』は1906年に初版が出てから,その後1945年(第9版)まで刊行され,息の長い著書になった。筆者はこのうち,第4,6,9版と,仏訳された第8版を所有している2)。その特徴の最たるものは,豊富な図や写真を用いた解説である。1916年の第4版でみると,神経系のルーチンの検査法として,以下のような項目が挙げられている。

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 物事を単純化することは,しばしば行動を誤らせる原因になる。現実世界では,単純化されたマニュアル的な対応だけでは通用しないことがしばしば起こる。しかし細かいことにこだわらなければ,おおむねマニュアルは使い勝手がよいことが多い。

 クリニカル・パールというのは,米国では昔から行われていた教育手段だという。日本でも,経験のある医師がしばしば臨床の“コツ”を伝えるという教育手段はあった。それは経験則として語られていたと思う。個人的な見解だが,日本で聞くその手の“コツ”というのは,しばしば誤用されて伝わっているものだったり,独善的な知識の場合もあると感じていた。それはその経験則が,何から導き出されているのか十分検証されることがなかったからだと思っていた。私はそういう“コツ”を聞くと最初は疑いの目を持ち,書物や文献によって検証して納得したものしか信用していなかった。

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 本書は,呼吸器内科を専門とする医学者が14年にわたり,明治期以降日本の近代医学・医療の発展に貢献した3,762名(物故者)の履歴を調べあげた成果である。評者のように,明治期以降の医業関係誌を参照する機会の多い者にとっては,このように便利かつ確度の高いレファレンスが完成したことは,大変喜ばしいことであり,そのありがたみは今後随所で感じられることになるであろう。編者の長年のご苦労に感謝したい。

 とはいえ,本書を単に事典として理解するとすれば書評の対象とする必要はないかもしれない。そこで以下では,本書を約800ページの読物と解してその意義を考えてみたい。

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次号予告

投稿規定

「読者からの手紙」募集

あとがき 森 啓
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 日本全体に高揚感が漂っている気がする。色々考えたが長嶋茂雄氏と松井秀喜氏の国民栄誉賞が理由かも知れない。長嶋茂雄氏が松井選手の素振りの音を聞き分け,時折「ナイス」と指導した逸話をテレビで聞いた。擬態語や感性で表現すると言われるスターだが,この逸話から判断する限り,彼の指導は,とても具体的である。ホームランに必要な回転速度があることを教えているからである。いつも素直に恩師に従う松井選手も素晴らしい。栄誉賞副賞の黄金バットを受け取る際に,長嶋氏の不自由な右手となった松井氏の所作も美しい。ベースボールファンを越え日本人として,人間として嬉しさを感じた。その長嶋氏が脳卒中に倒れたのが2004年だ。心原性脳塞栓症と発表されて以来,久々に聞く肉声と,不自由な一歩に身体が熱くなった。全盛期時代より,もっと好きになっている自分に気がついた。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
65巻7号 (2013年7月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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