書評
「「話せない」と言えるまで 言語聴覚士を襲った高次脳機能障害」―関 啓子●著
綿森 淑子
1
1広島県立保健福祉大学
pp.988
発行日 2013年8月1日
Published Date 2013/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416101576
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本書は失語症など高次脳機能障害の専門家である著者が,自らの心原性脳梗塞の発症直後から,録音・録画も含め,集積してきた膨大な記録のまとめである(音声と動画は医学書院のウェブサイトに掲載)。脳損傷の現実を内側からレポートした記録として貴重であるばかりでなく,一人の対象者の長期にわたる経過の全貌を明らかにしている点でも重要な資料である。
現在,脳卒中のリハビリテーション(以下,リハと略)は,おおむね半年で終了となるが,さまざまな治療法についての情報を積極的に求め,回復を促進できそうなあらゆる手段を利用してきた著者の場合,発症から約3年余にわたり機能回復が続いていることが記され,発症からの時間経過によって輪切りにされている現在の脳卒中リハの在り方に一石を投じる記録ともなっている。また,日常生活レベルでの数々の不便さとそれらへの対応,社会との関わりの中で感じた悲哀と心のバリアフリー化の訴えなど,脳損傷の影響の広範さ,甚大さが具体的に記され,それに立ち向かい克服しようとする著者の挑戦は,一般の読者や障害のある人,その家族にとっても共感できる内容となっている。
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