言語聴覚研究 11巻2号 (2014年6月)

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 滲出性中耳炎などの軽度難聴であっても,ことばの発達や構音に影響を及ぼす場合があることを念頭に臨床活動を行う必要がある.一方,重度聴覚障害であっても言語習得は可能である.さらに,聴覚障害児に対する訓練の歴史を述べ,金沢方式の誕生ならびに本方式を用いることによって,就学前までに基本的な日本語構文の習得が可能であること,また特に高い動作性知能を有しなくても77%のものが正常範囲の言語性IQを獲得できることを述べた.最後に,聴覚障害児・者を長期にわたってフォローする意味と,その成果を報告し,NPO金沢方式研究会との連携を紹介した.

発達障害の臨床 石田 宏代
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 発達障害を「発達期に種々の原因により,通常その年齢で獲得されるはずの機能の習得に躓きをみせている子ども達」と捉え,それぞれの障害の発達特徴を整理した.さらに,その中から特異的言語発達障害・知的障害・アスペルガー障害の事例を取り上げ,その指導経過を報告した.また近年,教育界における特殊教育から特別支援教育への改正に伴い,外部専門家として言語聴覚士(ST)にも教育への支援要請が高まってきていることを踏まえ,STとして何ができるのかを検討した.

症例報告

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 筆者は失語症や半側空間無視などの高次脳機能障害のリハビリテーション(以下,リハビリ)に30年以上従事した言語聴覚士で,単身赴任先の神戸で脳梗塞を発症した.本稿は発症から4年半に及ぶ筆者の脳卒中後遺症との闘いの記録である.高次脳機能障害の専門家が自分の障害について語ることは稀であろう.本稿では,脳梗塞後に出現した発話の障害・左無視など多様な高次脳機能障害につき各症状とそれらへの筆者の対応を検査データとともに詳細に述べ,関連文献に基づき解説した.筆者の回復は驚異的で,出現した高次脳機能障害の大半が急性期中に消失した.特に,重度無視は1週間の自主練習で消失した.当事者経験を通して,筆者は①心身相関を認識し,②高次脳機能障害改善の鍵としての知識・病識・意識の重要性を悟り,③脳の可塑性を確信し諦めずにリハビリすれば改善の可能性があることを実感した.本稿が高次脳機能障害臨床現場の言語聴覚士の活動に資することを期待する.

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 食塊の温度と味が嚥下反射惹起に与える影響について,嚥下反射に伴う舌骨上筋群筋活動と喉頭挙上運動を時間計測する「嚥下動態計測システム」とその評価指標を用いて検討した.対象は健常者で,口腔内に試料を含み命令嚥下を行った.試料の温度は5℃,35℃,50℃で,味覚は酸味,甘味,塩味,水で検討した.

 温度の検討では,premotor time,嚥下パフォーマンス指標,嚥下惹起指標,筋活動持続時間,喉頭挙上時間で有意差を認めなかった.味の検討では,premotor time以外の指標で,味覚溶液(特に塩味)は水に比し有意な延長を認めた.

 本研究では,温度は嚥下反射惹起に影響を及ぼさず,塩味は嚥下反射惹起性を低下させた.これより,随意嚥下では本研究程度の温度による感覚入力の差異より大脳からの入力が強く影響したが,味による感覚入力は随意嚥下においても嚥下反射惹起に影響を与えることが明らかとなった.

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 左頭頂葉出血により書字障害を呈した17歳,右利き女性例を報告した.失語,失読,上肢の失行は認めず,構成障害も早期に軽快したが,書字動作は緩慢で,書かれた文字は拙劣であった.一方,書字困難な仮名,漢字の文字形態を口述することが可能であったことより,文字視覚心像は保持されていると考えた.本症例の書字障害は失行性失書と思われた.仮名・漢字の書き取り課題では,形態的誤りが最も多く,仮名よりも漢字が困難であった.筆順は浮動的で試行錯誤の末に正答に至る場合もあれば,逆に混乱して諦める場面もあった.写字では筆順・運筆の異常は残存したが書き取りに比べ軽減し,文字形態は改善した.本症例の失行性失書は,①書字運動プログラムの障害および②文字視覚心像と書字運動プログラムを結ぶ双方向性と思われるアクセス経路の脆弱性,この2要因が重畳した結果生じたと考えられた.

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Ⅰ.はじめに

 小児の構音の問題は,いわゆる機能性構音障害や口蓋裂に伴う場合のように,主たる問題として生じることもあるが,知的障害,言語発達障害,発達障害,聴覚障害,吃音など様々な障害に伴うことも多い.合併する障害の有無にかかわらず,構音の問題をどのように捉え,どのように対応するか判断が難しいことが少なくない.子どもによって異なる構音の問題を言語発達や全体発達の視点から適切に評価し対応を考えることは,言語聴覚士の専門性やアイデンティティにかかわる重要な点である.

 そこで,日本言語聴覚士協会学術研究部小児構音小委員会では,小児の構音の問題に対して行っている臨床の実態を把握し,臨床の充実に向けた今後の指針を得ることを目的にアンケート調査を実施したので,結果を報告する.

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1.はじめに

 2007年に全国失語症友の会連合会が行った「失語症者のリハビリテーションと社会参加に関する調査研究事業」の集計結果1)から,言語聴覚士(以下,ST)に望むことは,社会参加を含めた長期的な視点でリハビリテーション(以下,リハ)を十分に受けたいということであった.また,厚生労働省が行った一般社団法人日本言語聴覚士協会への聞き取り調査2)から,標準的算定日数,いわゆる「発症から180日」では訓練が足りないケースもあるが,除外規定が設けられており,制度上は障害者が受ける不利益は少ない.しかし,運用面では標準的算定日数内で訓練終了となるケースが多いと報告されていることから,現実的にはさまざまな制限で利用者が求めるようなサービスを十分利用できない状況にある.このように,限られたサービス提供体制の中で,STに対して持つニーズにできるだけ応える努力をしていかなければならない.そのためには現行制度下で実働されているSTの情報収集と問題点の把握が必要であると考えた.

 そこで,成人領域を担当されているSTの現状と課題を明らかにすることを目的として,兵庫県内で成人領域の臨床業務に携わるSTから協力を得て,ST業務におけるSTの意識と実態のアンケート調査を行ったので報告する.

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 今年は春の到来が遅れましたが,その後天候は安定し,碧空に新緑が映える美しい日々が続きました.この時期,巷間ではSTAP細胞に関する論文への疑惑が大きく取り上げられ,科学者に対する人々の眼差しが一段と厳しさを増したように思います.

 大学院教育に携わっている筆者は,STAP細胞論文を書いた若手研究者の記者会見をTVで見ながら,学生が研究における倫理性や科学性を確実に身につけ実践できるようになるまでの責任の重さを改めて痛感しました.研究活動における不正行為には,捏造,改ざん,盗用,重複発表などがあり,研究成果がどのようなものであれ,不正行為がなされた場合,その研究の科学性は否定されます.研究が科学的であることは,客観的証拠に依拠している,再現性がある,理論や仮説がある,推論に論理的整合性があるなどを条件とします.本誌では査読を通して,論文にこれらの問題がないことを確認していますが,投稿者におかれましても慎重な自己確認をお願いします.

基本情報

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言語聴覚研究
11巻2号 (2014年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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