言語聴覚研究 1巻1号 (2004年11月)

発刊に寄せて

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 日本言語聴覚学会の誕生に続いて,学術誌「言語聴覚研究」の発刊,おめでとうございます.

 長年の待望であった国家資格化を果たした本領域が,その社会的責任を全うするには,「言語聴覚障害学」本来の科学的・専門的知識の整備・体系化,さらには本領域独自の新たな知識の創出(Kent 2003)を通して,自らの専門性を強化し発展し続けることが必要でしょう.しかも隣接領域における最近の知見・技能の進展には目を見張るものがあり,従来の教科書的知識は時々刻々更新されつつあります.隣接領域の知見に依存する応用科学としての色彩が強いわが領域の専門的知識も,手をつかねていればたちまち時代遅れとなることは明らかです.専門職としてのcompetenceを維持し続け最良の臨床成果をあげるSTとしての社会的責任に対する大きなchallengeとも言えるでしょう.

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 「言語聴覚研究」誌発刊おめでとうございます.発刊に至るまでの関係者諸氏のご努力に敬意を表します.

 本誌の発刊は,我が国の言語聴覚障害学ならびに言語聴覚士の歴史に新たなページを加えるものであり,心からお慶び申し上げます.

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 言語聴覚士の資格が法制化され,一定基準のカリキュラムに基づく専門教育を受け,国家試験を通った言語聴覚士がこの春もまた多く誕生しています.資格法制化の一義的目的であった言語聴覚に障害のある児・者に対する専門的サービスの量と質を保証することへの第一歩は確かに踏み出されました.言語聴覚士の国家資格取得者による日本言語聴覚士協会が設立され,爾来,協会の手で専門業務遂行の基盤整備,専門領域の拡大および関連領域の進歩発展に即応するための会員への教育支援プログラムの実施等に精力的に取り組まれていることを見聞し,多忙な日常業務の傍らこれらの役割を背負っておられる関係者のご努力にエールを送ります.この秋には懸案であった学術誌が刊行されると聞きました.学術誌発刊に寄せることばを書く機会を協会会長から戴きましたので,発刊へのお祝いとこの学術誌に寄せる私の独りよがりかもしれない期待を述べさせていただきます.

 学術誌の発行は学会活動の中核すなわち学術活動の促進の柱となる活動であると考えます.学術誌としては掲載論文の質の保証が最優先課題であり,多岐にわたる専門領域の論文に対して学術論文の質を問う厳正な評価が必要でありましょう.一方資格を取得して間もない会員が多く,また少人数職種であり日常業務の場で適切な専門的指導が受けられる機会は乏しい現状にあっては,特に経験の浅い会員に日常臨床業務への研究的取り組みを促し成果を論文化し発表する機会を提供し,加えて提出された論文の修正を指導援助する教育的側面もこの学術誌に期待したい役割のひとつと考えます.言語聴覚障害の専門職としてこれまでにそれぞれの専門領域で研鑽をつみ臨床に研究に実績を残してこの領域を現在リードする立場にある方々の力が次世代の育成に注がれるよう,出来るだけ多くの方々の御尽力が得られることを切に願うものです.

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 ひとつの学問領域が成り立ち,進展するには,その専門領域および近接領域に関係する者が学術的に交流し,活発に科学的討論を行うことによって知見の客観性を高め,普遍化していく場をもつことが必要です.通常,そのような場は学会や学術専門誌が提供することになりますが,わが国の言語聴覚障害学領域に関しては,専門職による臨床活動が約45年前に始まったにもかかわらず,さまざまな経緯から,領域に属する大多数の者が参加する学会や学術専門誌は長い間存在しませんでした.このような状況は研究の蓄積や体系化にとって不利であるだけでなく,本領域の学問的アイデンティティーの形成を脅かしかねない可能性があることから,関係者は領域の柱となる学会や学術専門誌の誕生を強く願ってきました.

 この願いは1997年の言語聴覚士法制定を機にようやく具体化の方向へと向かい,2000年に全国の言語聴覚士によって日本言語聴覚士協会が設立され,協会が主体となって本年には日本言語聴覚学会が発足し,ここに学術専門誌『言語聴覚研究』が誕生することとなりました.本誌は言語聴覚障害に関係する諸学会・諸団体の専門誌と並び,今後,本領域の学問の進展に大きく寄与していくものと思います.

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 語想起課題は,一定の時間内で特定のカテゴリーに属する語をどれだけ多く産生できるかをみる検査であるが,健常者の成績についての研究は少ない.本研究では健常者の語想起課題におけるカテゴリー内の項目による語産生数,課題成績への年齢,性別の影響,産生語の内容について検討した.

 健常高齢者および若齢者を対象とし,「あ」「か」「動物」「野菜」を用いて語想起課題を行った.その結果,語想起課題では①健常者の語産生数のばらつきの幅は大きく,語産生数が非常に少ない者がいること,②加齢により語産生数は低下すること,③加齢により既に産生した語の繰り返しの数は増加すること,④条件に不適合な語の産生は加齢では認められないこと,⑤項目により性別で語産生数に差がみられることが示された.

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 当センターに通園する軽度~高度聴覚障害幼児の5歳児5例を対象とし,個別発達を配慮しながら集団話し合い場面で訂正方略の使用を促し,発話を観察分析して,①会話成立への影響,②言語聴覚士から他児への汎化,③訂正方略の推移など話し合い活動にもたらす影響について発達的に検討した.その結果,5歳代後期における会話では一方的な自発話が減少し,応答受信時の発話が増加し,併せて訂正方略使用率が増加した.また,訂正方略を用いた応答発話は,5歳代初期に言語聴覚士を対象とし後期には他児への使用に汎化した.さらに,5歳代初期~中期には,「全体型」から「確認型」の訂正方略に推移し,後期には,詳細な会話内容を問う「限定型」への移行を認めた.訂正方略技術を指標として話し合い活動の発達を促進・評価することの有効性が確認された.

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 本報告は,重度難聴,知的障害(軽度),自閉的傾向など重複した障害のある症例(訓練開始時年齢4歳10か月)への視覚的な方略の活用を重視した働きかけに関する症例研究である.働きかけは以下の経過をたどった.

 ①初期に,日常場面において絵・写真による予定などの環境の理解,訓練場面において身ぶり記号による単語理解が広がった.②絵・写真は,理解面だけでなく表現としても用いるようになった.③日常場面では,絵・写真が理解・表現ともに身ぶり記号に先行したが,その後両者は併用された.④身ぶり記号による表現語彙は,訓練場面から徐々に日常場面へと学習する文脈が拡大した.訓練の経過と結果の分析から,視覚的構造化により環境の理解を促し,理解を補完するAACにより記号の理解を拡大するアプローチを同時・併行的に進める必要性,理解と表現を連続的に捉える視点,日常場面において身ぶり記号の学習を進める方略の必要性が示唆された.

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 介護老人保健施設(以下,老健)利用者を対象とした言語聴覚障害スクリーニングテスト(以下,試案)を作成した.老健利用者52例(平均82.1±8.4歳)に実施し,臨床的有用性を検討した.試案の目的は,聴覚,言語,構音,嚥下,高次脳機能の5側面を簡便に評価し,言語聴覚障害の全体像を把握すること,記録が初期報告としてスタッフに情報提供しうること,今後の精査やケアにつながること,の3点である.結果として,①利用者52例中49例(94%)に何らかの不通過項目を認めた,②試案判定基準による言語聴覚障害の選別では,聴覚障害と痴呆が多く,中等度~重度例の割合が高かった.③90%が障害を重複していたことが明らかになった.結果①,②は先行研究とほぼ一致していること,試案の所要時間は平均23.5±8.5分であったことから,本試案の一定の臨床的有用性が示唆された.今後の課題として,対象の拡大と,試案の信頼性,妥当性の検討が考えられた.

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 人口の高齢化,最先端医療技術の進歩による重症患者の長期生存,摂食・嚥下障害に対する情報の普及などにより,摂食・嚥下障害治療のニーズが急増している.摂食・嚥下障害は,①脱水や栄養障害の原因となる.②誤嚥が肺炎や呼吸器合併症につながる.かつ,③食べる楽しみの喪失につながるという大きな問題を抱えている.このような状況の中で軽症から重症患者さんまで,言語聴覚士が積極的に関わって摂食・嚥下障害の指導や教育,治療の中心的役割を果たすことが期待されている.本稿では摂食・嚥下障害のチームアプローチの重要性について概観し,リハビリテーション医の立場から言語聴覚士に望むことについて述べることとする.

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 学術研究部急性期リハビリテーション小委員会では,急性期言語聴覚療法の実態について調べる目的で一次調査を2003年1月に実施し,さらに2003年11月~2004年2月にかけて,言語聴覚士の担当した症例について具体的な働きかけの内容など急性期の言語聴覚療法の詳細について二次調査を行った.その結果,1.急性期リハビリテーションを実施している場合には,全体の8割について発症から2週間以内に働きかけを開始していた.2.言語聴覚士が対象とする障害は摂食・嚥下障害だけでなく,高次脳機能障害,全般的精神機能低下,意識障害など広くコミュニケーション障害にわたっていた.3.働きかけの内容は評価,訓練,説明指導,コミュニケーション回路の確保に分けられ,訓練開始時と訓練期間中の働きかけの内容は異なった.などの知見が得られ,今後,急性期リハビリテーションに関する指針の作成が重要と考えられた.

リポート「現場,最前線」

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1.「きこえとことばの教室」とは

 東京都では,昭和30年代から通級制の学級を試行し成果を上げてきており,「通級指導学級」を心身障害学級の一形態として認可してきた.1993(平成5)年1月,学校教育法施行規則の一部を改正する省令が出され,制度化された.また,2003(平成15)年12月に東京都心身障害教育改善検討委員会から出された「これからの東京都の特別支援教育の在り方について(最終報告)」にも,「教育の成果と役割を継承しつつ」特別支援教育を推進していくものとして,指導体制に,いわゆる固定の心身障害学級とともに通級指導学級の形態を残すことが明言されている.

 「通級指導学級」とは,通常の学級に在籍する軽度の障害(言語障害,情緒障害,弱視,難聴,その他)がある児童・生徒に対して「特別の指導」を行う「特別の場」のことである.通称「きこえとことばの教室」は,難聴・言語障害児のための「通級指導学級」である.難聴学級では難聴児,言語障害学級では構音障害,吃音,言語発達遅滞児などに対して,「通級による指導」を行う.すなわち,各教科などの指導は通常の学級で行い,時間を決めて通ってくる児童・生徒に,障害に応じた「特別の指導」を行う.東京都では,小学生は週1~2回(1回2単位時間=90分)の指導を受けていることが多い.1対1の個別指導が中心であるが,必要に応じて小集団によるグループ指導も行っている.

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 第6回日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会を,2005年6月大宮ソニックシティにて開催いたします.科学的な訓練効果検討を1つの大きなテーマに,特別講演にはオーストラリアから訓練効果研究では第一人者のLyndsey Nickels博士をお招きします.臨床家にとって刺激的なお話が伺えることと思います.関連のシンポジウムや一般演題発表も予定しています.

 また,一般演題・ポスター演題の中から,優秀なご発表には会長賞その他の賞が授与される予定です.大勢の皆さまのご参加,ご発表,活発なディスカッションを期待しております.

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊する運びとなりました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 この度,購読会員を募集することになりましたので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 言語聴覚障害の臨床および研究に携わってきた者が長年願ってきたことは,それぞれの立場を超えて自由に研究情報の交換ができ,言語聴覚障害学の発展に寄与する学術雑誌をもつことでした.このような雑誌を発刊することはわが国で唯一の言語聴覚士職能団体である日本言語聴覚士協会の責務と自覚し,これまでその準備を進めてまいりました.そして,協会発足から5年目にして学術集会を日本言語聴覚学会として組織化し,生涯学習プログラムも発足し,学術研究部活動の成果も次々と発表されるようになりましたので,昨年6月に本格的に発行準備に着手し,ここに創刊号をお届けできることとなりました.これまで本協会の歩みを暖かく見守り,ご支援くださいました方々に心から感謝申し上げます.

 今回は,わが国の言語聴覚障害学領域のフロンティアであり,臨床・研究・教育において卓越した業績をあげられた笹沼澄子先生,船山美奈子先生,伊藤元信先生に発刊に寄せてのメッセージをいただきました.本誌は各先生のおことばを確かに受け止め,これまでの歴史を未来へとつないでいきたいと思います.講座は現在,言語聴覚士の多数が苦労し,模索している嚥下障害のチームアプローチのあり方について藤島一郎先生に論じていただきました.原著論文は4編で,健常言語,聴覚障害,言語発達障害,高齢者の言語・認知に関する論文でいずれも臨床に密着したテーマです.臨床過程を客観化し,科学化することは容易ではない作業ですが,これに正面から取り組んだ研究のさらなる進展が期待されます.急性期言語聴覚療法に関する調査研究報告は,学術研究部急性期リハ小委員会の活動によるものであり,急性期の言語聴覚療法の実態と課題が浮き彫りになっていると思います.リポート「現場,最前線」は特別支援教育が始まろうとしている教育現場から報告していただきました.

基本情報

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言語聴覚研究
1巻1号 (2004年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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