言語聴覚研究 2巻1号 (2005年3月)

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 言語聴覚士は嚥下機能に関する評価・訓練を業とすることができる.摂食・嚥下リハビリテーション(以下嚥下リハ)とは,単に嚥下機能の改善を目指すだけでなく,人的・物的環境を調整し,機能の範囲内で最大限安全かつ質の高い摂食・嚥下状態を定着させようという営みである.そこには多数の要素が関与しており,多職種による密接なチーム・アプローチが必要になってくる.

 「嚥下チームの立ち上げ」とは,施設内の嚥下障害患者にかかわるすべての職種と情報を共有し,各職種の特性を生かした活動とその有機的結合を得ようとすることであり,「一斉スタート型」と「巻き込み型」の2つの方法があると考える.本稿では一公立総合病院での「巻き込み型」嚥下チーム立ち上げの過程を,病院の機能的特徴と職種間連携を通して述べる.巻き込み型嚥下チームの立ち上げには,他職種に嚥下リハの有効性と面白さを伝えるという嚥下リハのキャンペーン的側面がある.

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 リハビリテーションにおけるチームアプローチの重要性は周知のところであるが,摂食・嚥下障害に関するリハビリテーションでは,高度なリスク管理が必要とされ病棟や栄養部など他職種との連携が特に重要となる.またチームの構成員は,知識・認識を共有することが必要である.近年摂食・嚥下障害に関する取り組みを始める病院・施設において,経験の浅い言語聴覚士が嚥下リハビリの始動すべてを任せられることが多い.しかし,経験の浅い言語聴覚士が嚥下チームを立ち上げることは容易なことではない.本稿では,筆者自身の一般病院での経験について述べる.そこから得たチーム作りの糸口について整理し,最後に嚥下チームの立ち上げにおける言語聴覚士の役割の1つといえるコーディネーターの仕事について考えてみることにする.

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 近年,名詞と動詞の呼称能力に差を示す失語症例が報告されているが,検査語の語彙特性を統制し,厳密に両呼称能力を比較検討した研究は少なく,症例も左大脳半球前方病変例が多い.本研究では名詞と動詞の語彙特性(親密度,動詞の概念構造:項)を統制した呼称検査を作成し,左大脳半球後方病変の失語症例について動詞と名詞の呼称能力の差を検討した.その結果,①名詞より動詞の呼称成績が有意に低い者が3名,その逆の傾向を示す者が2名存在した.②主病変部位は,動詞不良群は左下頭頂小葉,名詞不良群は左側頭葉であった.③語の親密度が呼称正答率および誤反応に及ぼす影響は両群で異なった.結果から,左大脳半球後方病変の失語患者において名詞と動詞の呼称に二重乖離現象を認める症例が存在し,各群の語彙処理における障害特徴および病変部位は異なることが示された.

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 本研究では,成人話者の発話刺激におけるポーズ(以下,間)の持続時間が幼児の発話反応時間と復唱発話の間に及ぼす影響を検証した.発話刺激は「普通の間」「少し遅い間」「長い間」を設定し,CRTから提示した.その結果,発話刺激の間の変化は幼児の発話反応時間に影響するが,復唱発話の間には影響しないことが明らかになった.

 会話は話し手と聞き手における相互作用であり,その構造は「発話刺激―発話反応時間―応答発話」という時間的要素の繰り返しである.発話刺激に対して幼児が発話で反応するタイミングを規定する1要因に,発話刺激の間の持続時間をあげることができる.

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Ⅰ.言語聴覚療法における“倫理性”と生命(臨床)倫理学

 我々言語聴覚士は,平成10年に制定された法律に基づき日常の臨床活動を実践することが義務付けられている.臨床現場で提供される言語聴覚療法サービスの内容は法律を破らないことが,まず第一に重視され最優先される.しかし,欧米先進国では法を守るだけでは決して最善の言語聴覚療法とはいえないとされ,「法を適切に運用して最良の臨床サービスを実践するには,どのように専門技術・知識を提供するのが最も望ましいのか?」という臨床倫理的視点が最も重視される傾向にある(中村 1999).専門技術や知識を習得し,法律を知っただけでは,さまざまな臨床現場の事情に合わせたサービス提供は難しいということで,言い換えるならば,専門技術や知識の用い方いかんによって,専門性や治療・訓練の効果や意義が左右されるということである.このような視点から言語聴覚療法の臨床を考える場合にみえてくる特徴的な事象や課題などが“言語聴覚療法の倫理性”といえる.しかし,現在の日本の言語聴覚士養成教育カリキュラムでは,このような視点から生命倫理を導入するのではなく“倫理綱領の理解と実践”という観点から導入している.したがって,言語聴覚療法における“倫理性”を考え対処法を提出し,そしてそれらの妥当性を検証するというアプローチについては,残念ながら扱う教科が明確とはいえない.しかし,欧米先進国では,このような部分こそが言語聴覚療法の真髄であり,独自性と専門性を構築する重要な部分であると認識され,これらを扱う学問領域が教育の中に深く根を下ろしている.その学問領域の1つが生命倫理学であり,臨床倫理学や職業倫理学など,多くの下位領域を含む学問分野である(Beauchamp & Childress 1989).言語聴覚療法のもつ倫理性を理解するために,そして当該倫理性がもたらす倫理的課題に対処するために,あるいはまた言語聴覚療法の専門性や独自性のもつ倫理性を観察研究するために,私たち言語聴覚士は生命(臨床/職業)倫理学を学ぶ必要があるように解される.

 こうした形で生命(臨床/職業)倫理学が日本の言語聴覚士養成課程に導入される日を心待ちにしているが,そう呑気に構えるわけにもいかない状況があり,今年の言語聴覚士協会総会で『倫理綱領草案』(表1)が可決された.養成課程において言語聴覚療法の倫理性を考え学ぶ機会が少ない現在,会員1人ひとりが,どのような形で倫理綱領草案を理解し実践に努めるのか,そしてまた協会は今後,どのような形で当該倫理綱領草案実践のための活動を展開するのか,倫理的視点から問われることになろう.

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Ⅰ.はじめに

 2000年4月に「在宅重視」と「自立支援」を理念として介護保険制度が開始となり,2003年4月の介護報酬改定では個別リハビリテーションが設定され,リハビリテーション機能がますます評価されるようになった.さらに,2005年4月には介護保険開始から5年経過後の見直しが予定されている.医療保険においても入院期間の短縮が進み,回復期リハビリテーション病棟の設置や診療報酬の改定が相次いで行われ,在宅生活を支える地域リハビリテーションの環境整備が急ピッチで進められている.また,言語聴覚士を取り巻く制度上の環境も急速に整いつつあり,言語聴覚士は医療・介護・保健・福祉・教育の各分野でリハビリテーションチームの一員としての役割を果たすことが期待されている.

 このような状況を踏まえ,日本言語聴覚士協会学術研究部地域リハビリテーション小委員会では,言語聴覚障害の地域リハビリテーションの実態を把握し,現在の問題点と今後の課題を探ることを目的として会員を対象としてアンケート調査を実施したので,結果を報告する.

リポート「現場,最前線」

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 聴覚障害児・者の聴覚的補償手段には補聴器と人工内耳がある.テクノロジーの急速な進歩により精密電子機器である補聴器も小型軽量化・多機能化が進み,残存聴力を活用したいユーザーにとって,補聴器の進歩による恩恵は計り知れない.

 しかし,新製品が次々と発表され,そのたびに,いずれもが高性能をうたう状況においては,品揃えの豊富さや調整に必要な設備の更新,新製品情報,接客技術など,メーカーや販売店サイドの比重が高まることは避けられない.

書評

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 言語聴覚士の業務領域は,聴覚,成人言語,小児言語,発声発語と多岐にわたるが,いずれの領域の障害を対象とする場合にも,話しことばはその中心を占めている.それゆえ,話しことばの生成と知覚に関する仕組みを学ぶことは,言語聴覚士を目指す学生すべてにとってのファーストステップである.この仕組みの包括的な理解が,聴覚器官,発声発語器官および大脳の生理・解剖学,言語学,音声学,音響学,聴覚心理学など専門基礎領域の重要性の自覚につながり,専門領域である言語聴覚障害学へと学習を発展させていく過程における重要な鍵となる.

 本書では,まず話しことばの言語における位置づけから論を起こし,ことばの生成と知覚に関し音響学,発声発語器官の解剖生理,ことばの生成とフィードバック機構,聴覚の解剖生理,聴覚心理学などが有機的に構成されていることに特徴がある.読者はそれぞれの部分を独立したものとしてではなく,一貫性のある体系として話しことばに関する知識を学ぶことができる.原書は1980年の初版以来,およそ四半世紀にわたり第4版まで版を重ねた,隠れたロングセラーともいうべき本である.音声科学についての広汎な知識を統合的に伝えることを目的とした著者らの意図は,叶えられたと言えよう.

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 第6回日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会を,2005年6月大宮ソニックシティにて開催いたします.科学的な訓練効果検討を1つの大きなテーマに,特別講演にはオーストラリアから訓練効果研究では第一人者のLyndsey Nickels博士をお招きします.臨床家にとって刺激的なお話が伺えることと思います.関連のシンポジウムや一般演題発表も予定しています.

 また,一般演題・ポスター演題の中から,優秀なご発表には会長賞その他の賞が授与される予定です.大勢の皆さまのご参加,ご発表,活発なディスカッションを期待しております.

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 玉井 ふみ
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 言語聴覚研究第2巻第1号をお届けいたします.本号には,原著論文2編,昨年の学会のシンポジウムから,特集「嚥下チームの立ち上げと言語聴覚士の役割」2編,講座「言語聴覚療法に認める『倫理性』と『倫理綱領』の関係」,調査報告「介護保険施設における言語聴覚療法の現状と課題」,また,リポート「現場,最前線」として「補聴器の進歩と言語聴覚士の役割」が掲載されています.これらの論文や報告は,私たちの専門領域の動向を敏感に反映しているように思われます.すなわち,臨床と研究の対象や領域が拡がり,言語聴覚士としての独自性を持ちながら,異なる専門分野の人々とよりよいコミュニケーションを図ることによって,チームの一員としての役割を果たすことが求められているということです.また,専門領域が分化し多様化している現在,同じ言語聴覚士として仕事をしていても,すべての領域に通じることは至難の業です.支援を必要とする方々からの多様な,かつ変化するニーズに応じて,専門的サービスを提供していくために,本誌を情報交換や議論を深める場として活用していただければと存じます.

基本情報

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言語聴覚研究
2巻1号 (2005年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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