糖尿病診療マスター 7巻2号 (2009年3月)

特集 糖尿病診療のアート

名人からコツを学ぶ

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 弊誌『糖尿病診療マスター』は単独の診療科名を冠した雑誌としては,医学書院では初めてのものとして2003年に創刊した.その背景には飽食の時代といわれ国民の生活様式の欧米化が進む中で生活習慣病の一つとされる糖尿病とその予備群の増大がある.折しも糖尿病治療に関して幾つかの記念碑的な大規模試験が,糖尿病を厳格にコントロールすることで重篤な合併症が予防できることを明らかにした.それは糖尿病と一緒に生きる視点への気付きとも言える.その意味で本誌の創刊は糖尿病診療の転換期への先駆けであったのかもしれない.本号(第7巻2号)では,特集「糖尿病診療のアート―名人からコツを学ぶ」の巻頭を飾る鼎談として,「糖尿病診療のサイエンスとアート」のテーマで,創刊時からの編集委員である石井 均,内潟安子,𠮷岡成人の三氏に,それぞれの心の内なる“糖尿病のサイエンスとアート”を心行くまでお話しいただいた.

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 入院と比較して,時間的な制約が厳しい外来では,より効率的な診療が求められる.したがって,身体診察や各種検査の結果がそろった後に鑑別診断を行う,いわゆる後ろ向き推論は,入院では有用だが,外来で用いることは現実的ではない.このため,外来では,病歴から結果を予測しながらの前向き推論(Tips 1)が必須となる1)

 熟練した外来医は,後述するパターン認識や仮説演繹法,Semantic Qualifierを用いて,比較的短時間に疾患仮説を立て,日常的な問題はもちろん,複雑な問題をも解決していく.こうした制限の多い外来で,瞬く間に問題を解決する“技”こそ,外来診療におけるアートである.

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 食事療法が重要なことはみんな知っているが,なかなか実行に移れない.行動変化ステージを進めるには,エンパワーメントアプローチに基づく5つの開かれた質問を用いた介入が有効である1).「どこに問題があると思うか」「どのように感じているか」「どうなったらいいと思うか」「どんなことならできそうか」「実験からどんなことを学んだか」という質問を中心に,問題点の同定,感情への気づき,長期および短期目標の自己決定,実験結果の振り返り,の援助で主体性を支援していく.これらの過程を自己効力に配慮しながら患者と一緒に継続的に押し進める必要がある.そのためには最初に出会う医療スタッフの姿勢,すなわち食事療法への感情を抑え込まず肯定的に受け入れ,成功をほめ失敗から学ぶ未来志向の援助,特に最初の6カ月間に寄り添うように頻回に接することが大切である.ストレスで間食がやめられなかった患者さんを通じて,いかに教育チームとして食事療法への取り組みを支援していくか考えていきたい.

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症例:72歳女性,無職

 身長144cm,体重56.2kg.10年前糖尿病と診断されたが,たびたび治療を中断.7年前に当科を受診し,食事療法と運動療法が開始される.1日8千~1万歩の歩行を毎日行い,血糖コントロールは良好に経過していた.

 6カ月後,右膝に軽い痛みがあったが,自宅での足踏み運動を加えたころから,痛みが増強し歩くことが困難となった.その後,運動をほとんどしない生活となっていた.5年前大腸癌のため手術.うつ状態となった.血糖コントロールは不良となり,4年前よりSU薬治療となる.

 3年前,水中歩行を勧めたところ,水泳教室に参加.カナヅチだった水泳もバタフライ以外なら何でもこなせるほどになった.現在もSU薬治療中であるがHbA1Cは5%台と良好に経過し,うつ状態も改善している.体重は50kgと減量.時々水泳教室を休むことがあったが,仲間が心配してくれるので,今でも続けているという.水泳教室に通うのが楽しみになっている.

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症例:経口薬内服に抵抗する2型糖尿病患者

 患者:59歳,男性.会社員.

 現病歴:5年前,健診で糖尿病を指摘された.近医へ通院し,約1年間経口薬治療を続けたが,その後中断した.数日前,全身に掻痒を伴う発疹が出現して近医を受診.食餌性の蕁麻疹と診断され,注射,投薬を受けた.その時の血液検査で血糖(食後)280mg/dLあり,糖尿病の治療が必要と言われ,当院を初診した.

 初診時,身長165cm,体重73kg,BMI26.8,腹囲91cm.空腹時血糖190mg/dL,HbA1C8.1%,血圧146/88mmHg,TG340mg/dL,HDL-c53mg/dL,LDL-c111mg/dL,尿蛋白(-),尿糖(3+),尿ケトン(-).

 仕事は営業職で,外食,宴会も多い.体重はこの5年間では変化なし.ほぼ毎日,焼酎2合とビール700mL程度を飲酒する.喫煙は5年前にやめた.

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 糖尿病患者にインスリンをうまく使うには,製剤の特性と患者の状況をよく知り,適切な指示のもとに自己注射ができる環境を整えることが重要である.

 本稿では,1型糖尿病,2型糖尿病および高齢の症例をそれぞれ提示し,問題点を挙げながら適切なインスリン治療について説明する.

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 糖尿病をもつ患者さんが来院しなくなる場合の患者さん側の理由として以下のことが挙げられる.①死亡,②転居,③転院,④医療保険証の喪失,⑤経済的事情,⑥来院の時間がとれない,⑦勝手に良くなったと判断した場合,などがある.医療機関との関わりの中では,①待ち時間が長い,②採血に恐怖感を持っている場合,③説明が機械的,④粗雑な対応,⑤治療に対する不満,⑥時間外の対応に対する不安,⑦他の医療機関との連携が希薄,などがある.いずれにしても中断例においては合併症の進展ばかりではなく,医療費の問題も関わってくる.

 糖尿病などの慢性疾患において,「慢性」という意味は疾患そのものが治癒せず生涯に渡る長い疾病であるという意味ばかりではなく,皆医療保険のあるわが国では,転居や医療機関への不満がない場合は患者さんと医療者との関係が長きに渡って継続するという意味でもある.患者さんが継続し安心して治療に取り組むには,よりよい両者のコミュニケーションの基盤が大切である.本稿では3つの症例を提示した.1例目は患者さんの不安や不満な気持ちを受け止めること.2例目はコントロール不良例において密接なコンタクト(Close Contact)をとることにより改善した症例.3例目は中断により合併症が進展してしまった例であり,どのように関わっていったら治療の中断や放置を防げるかの手掛かりを探ろうと思う.

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 糖尿病は,その合併症の予防,進展防止のため,生涯にわたって血糖,血圧,脂質などの良好なコントロールが必要である.しかし,実際にはほとんど自覚症状のない状態で通院を継続することは患者の疾病に対する十分な理解と忍耐がなければ時に困難であり,結果として放置,治療中断という事態に至る.平成14年度の厚生労働省による糖尿病実態調査では1),糖尿病が強く疑われる人740万人のうち治療中が50.6%,治療中断が7.1%,治療を受けていないものが41.9%であり,特に健診を受けたことがない人では,89.4%は治療を受けていない(放置と考えられる)と報告されている(Box 1).平成18年の国民健康・栄養調査では2)糖尿病が強く疑われる人が820万人と増加しており放置,中断者も増加していることが予想される.日常診療では放置,中断により糖尿病合併症が進行,重症化することはよく経験される.治療中断歴の有無と糖尿病合併症の有無には明らかな相関がある(Box 2)との報告もあり3),数十万~数百万人と推定される治療中断者,放置者の今後の合併症の進行が心配される.

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□症例提示:突然インスリン注射を遵守しなくなった1型糖尿病症例

 症例:19歳男性.

 平成20年4月2日当院初診 東日本出身.平成17年(高校1年)血糖値481mg/dL,HbA1C13.7%であり1型糖尿病と診断され総合病院でインスリン導入.約1年後からHbA1Cが上昇し低血糖が頻発するため東京都内の大学病院糖尿病センターを受診.食事療法の変更や注射針のナノパスニードルへの変更の結果治療へのコンプライアンスが高まり糖尿病コントロール改善.今回,山口県内の大学に進学のため当院へ紹介された.下宿住まいだが食事は学生食堂で3食とも定食を食べる予定.

 初診時所見:身長170.6cm,体重67kg,HbA1C6.8%,随時血糖305mg/dL.インスリンは前医指示を継続しノボラピッド注300フレックスペン®14-12-12-0,ランタス注オプチクリック300®0-0-0-18とした.なお通学のため今後の受診はすべて土曜日午前中を設定した.

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事例提示

 ここは病床150床のA病院,糖尿病専門医が1名おり,糖尿病通院患者は月に200名程度である.毎週水曜日の午後に糖尿病教室が開催されている.糖尿病教室の内容は第1回「糖尿病とは?」(医師の話),第2回「糖尿病の食事療法―上手な食品交換表の使い方」(管理栄養士担当),第3回「糖尿病の運動療法とフットケア」(看護師担当),第4回「糖尿病の薬物療法と低血糖」(薬剤師担当)である(Box 1).この地域で最初に糖尿病教室を始めた時には糖尿病教室への申込者も多かったが,次第に減ってきた(Box 2)1).講義は各職種の分担制で内容もマンネリ化しており,独自に作成された糖尿病テキストの改定もここ数年行われていない.また,糖尿病教室への参加者も同じ顔ぶれで,固定化してきた.他の医療スタッフがどんな指導をしているのかも知らない状況にある.外来で看護師が「糖尿病教室に参加してみてはどうですか?」と誘ってみても「もうあの話はきいたから」と患者は関心を示さない.糖尿病専門医は熱心で,徐々に外来患者数は増加している.そのため,外来では十分な指導ができておらず,やや疲れ気味である.その姿をみて,他の医療スタッフも医師に声をかけにくくなっている.先日,スタッフの中に頑張って勉強して糖尿病療養指導士(CDEJ)の資格をとったスタッフがいるが,糖尿病教育の中でそれを生かせないので悶々としている.

Photoguide●楽しく食べる 第8回

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 今回は果物の甘みでアイスクリーム風味のおいしい氷菓をご紹介します.適量とされる範囲内の果物と低脂肪牛乳で作りますから,わずか30kcalで甘くて冷た~いデザートを楽しんでいただけます.

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 日本では2型糖尿病患者が著しく増加している.昨年末に公表された平成19年度国民健康栄養調査結果の概要によれば,日本全体で糖尿病が強く疑われる人は890万人,糖尿病の可能性を否定できない人は1,320万人,あわせて約2,210万人もの耐糖能異常者が存在するという.平成9年の調査に比べると,10年間で約1.6倍にもなっている.

 2型糖尿病の治療に関しては,熊本スタディ,UKPDS,Steno-2 studyなどの大規模臨床試験によって,私たちはきめ細かな代謝管理の重要性を再認識することができた.

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療 第14回

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脳神経外科救急病院からの紹介状

 昨日,意識障害にて救急搬送された患者です.貴院にて1型糖尿病にて加療中の方で,インスリンの過量投与によると思われる低血糖による意識障害にて入院されました.搬入時の血糖値は自己血糖測定器で測定下限以下(“Lo”の表示)であったため,50%グルコース20mLの静注を2回おこない意識はやや改善しましたが,すぐに呼名に反応しなくなるため5%グルコースで持続静注をおこなっています.頭部MRIにて異常はなく,低血糖が遷延いたしますので,今後の対応につき宜しくお願い申し上げます.

Introduction to Diabetic Patient Management●糖尿病医療学入門 第14回

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 いよいよ療養行動のレベルを高めていくための方法論の解説に入る.今回はそのプロローグとして「多理論統合モデル(変化ステージモデル)」を紹介する.

1.多理論統合モデル(変化ステージモデル)との出会い

 著者は1993年ジョスリン糖尿病センターのメンタルヘルスユニットに留学した.糖尿病の心理社会的側面(psychosocial aspects in diabetes)について学ぶためである.当時著者にはいくつかの糖尿病診療に関わる以下のような課題があった.

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 日常の糖尿病診療では,細小血管や大血管の障害をはじめとする合併症の発症予防は一つの目指すところとなっています.また,わが国においては,20歳以上で糖尿病が強く疑われる人は約890万人,糖尿病の可能性が否定できない人は約1,320万人と,合計で約2,210万人,すなわち5人に1人は糖尿病の可能性があるとされています(2007年国民健康・栄養調査).5年前の同調査結果から,それぞれ,実に150万人,440万人増にあります.糖尿病そのものの発症予防も重要性を増しています.こうした背景を受けて,できるだけ早期の段階の,いわば“隠れ糖尿病”をも捉え,生活習慣の改善を早期に支援することは,方策の一つとして求められています.

 以前から,ミオイノシトールは糖尿病症例の尿中に大量に排泄されること,また耐糖能異常の検出に尿中のミオイノシトールを評価することの有用性は指摘されてきました.しかし,なかなか臨床検査ベースで普及し得る測定方法がありませんでした.ところが,最近,この状況が打破されました.上に掲げた論文中には,ブドウ糖負荷試験(OGTT)前後の尿中ミオイノシトールを新規測定法で観察することによって,糖尿病や糖尿病予備群(“隠れ糖尿病”)を検出できるかどうかの検討結果が記載されています.

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□血糖自己測定(SMBG)データのグラフ化

 SMBGのデータは数字の羅列のみであれば暗号のようなものである.この暗号の中にちりばめられた法則を見つけ出し,道に迷った糖尿病患者さんの指標となるものを見つけていくことが患者さん自身にも医療者にも求められる.暗号を解く鍵のひとつがデータのグラフ化である.データのグラフ化を当院では下記のように行っている.

 1)カルテの前面にその患者の使用している機器がわかるシールを貼り付けておく.

 2)受付時に機器を患者から受け取る.

 3)機器とカルテを受け取った医療スタッフがパソコン端末でデータ通信を行う.

 4)瞬時のデータ取り込みの後,パソコン画面の「OK」をクリックするとあらかじめカスタマイズされた形式のグラフがプリントアウトされる.

 これらのステップは診療の最中にほとんど時間をとらずに行われる.こうしてプリントされたグラフを糖尿病療養指導士もしくは医師が患者とともにチェックする.

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血糖コントロール不良は慢性腎臓病のリスクとなるか?

和田 純子,中神 朋子

 

脳卒中,TIA後の頸動脈プラークは安定するのか?

細井 雅之・上野 宏樹・川崎 勲

 

2型糖尿病患者の治療において,低Glycemic Index食と高-食物繊維食はどちらが有効か?

辻野 大助・西村 理明

基本情報

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糖尿病診療マスター
7巻2号 (2009年3月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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