助産雑誌 74巻10号 (2020年10月)

特集 What's new? 最新情報をお届けします! 『乳腺炎ケアガイドライン2020』ダイジェスト

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乳腺炎は,授乳中の母親であれば誰でも起こり得る炎症性疾患で,発生頻度は約2〜33%と言われています。助産師は,母乳育児支援の一環で,乳房トラブルに関しても専門性を発揮できる職能ですので,乳腺炎に関わる機会もあると思います。

『母乳育児支援業務基準 乳腺炎2015』が改訂され,今年4月に『乳腺炎ケアガイドライン2020』として発表されました。今回は,日本助産師会と日本助産学会2団体の共同編集による改訂です。本特集では,どこが変わったのか,何を新しく追加したかなど,改訂のポイントを解説しました。また,診療報酬として収載・点数化された「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」を助産師がより活用しやすくなるよう,「記録用紙」の普及とケアの標準化を目指すための情報もまとめました。母親が,日本のどこにいても統一したケアが受けられることを願っています。

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乳腺炎に関するガイドラインが5年ぶりに改訂され『乳腺炎ケアガイドライン2020』として新しく生まれ変わりました。今回のポイントは,日本助産師会と日本助産学会の共同編集ということや,「乳腺炎ケアフローチャート」の大幅改訂,クリニカルクエスチョンの収載など,盛りだくさんです。本稿では,その概要を解説いただきました。

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はじめに

 「乳腺炎重症化予防ケア・指導経過記録用紙」(図1,2)と「その使い方」は,本ガイドラインに新しく加えたものです。

 乳腺炎は,適切な対処がなされないと,時間を追って悪化していきます。経過はカルテに克明に記録されていきますが,これを点数化しアセスメントツールとして用いることができるようにしたのが,「乳腺炎重症化予防ケア・指導経過記録用紙」です。これによって,一目で乳腺炎が治癒傾向にあるか,悪化しているかを評価することができるのです。

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はじめに

 母親は,母乳分泌不足,乳頭の損傷,吸着困難,しこりや痛みなどさまざまな母乳育児上のトラブルを抱えて,施設の母乳外来や地域の助産所に来所します。トラブルの多くは,母親の持つ治癒力を促す助産師のケアによって改善していくものです。しかし,中には医療を必要とする事例があり,治療の時期を逃すと重症化し,母乳育児を断念する結果となる場合があります。

 最初に母親に接する助産師は,情報を集め,吟味し,的確に鑑別し診断ができる力が必要とされますが,産後1週間の支援の経験しかない母乳外来新米の助産師には,大変荷が重いことでしょう。そこで本ガイドラインでは,経験が浅い助産師も,母親が“発熱”,乳房の“腫れ”“しこり”“痛み”を訴えて来所した時,どのように乳腺炎とその他の疾患やトラブルとの鑑別を行い,診断をつけていくのかを,段階を追って学ぶことができるように記載しました。

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フローチャートの目的

 乳腺炎は,時間経過と共に乳汁うっ滞の段階から,うっ滞性乳腺炎,感染性乳腺炎,膿瘍形成の段階へと進んでいくといわれています。この重症化を予防するために,助産師は,今母親が乳腺炎のどの段階にいるのかを把握し,早急に適切なケアを提供し,医療連携の必要性とタイミングを的確に判断できることが求められています。そこで日本助産師会では,初版から全ての助産師が的確な判断を行うための基準となるものを,フローチャートとして作成してきました。2020年版は日本助産学会と共同作成となり,2015年版から大幅な改訂を行いましたので,図を参照しながら確認してください。

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フローチャートの活用方法

 本ガイドラインでは,「乳腺炎ケアのフローチャート2020」の活用方法と事例展開をそれぞれA4サイズ1枚にして見開きで示し,現場での活用のしやすさを工夫しています。ただ,フローチャートだけの使用では,現場での活用が難しいので,本ガイドラインでは「状態1〜4」までのそれぞれの状態に当てはまる「臨床でよくある事例」を示し,事例展開と共にフローチャートの活用方法を紹介しています。助産院や母乳外来を持つ病院でよくある実際のケースを検討し,施設の違いを問わず活用できる事例を解説しました。

 左ページ(図①)には,状態ごとのフローと,「判断のポイント」および「改善の見通しのポイント」を並べています。「判断のポイント」は,本当にうっ滞性乳腺炎(状態1)と判断してよいか,見逃しているサインはないかのポイントを示しました。「改善の見通しのポイント」では,助産師の対処により症状が改善できると判断してよいポイントを示しました。

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フローチャートと事例展開

 本ガイドラインには,これまでの「状態1〜4」に加えて,新たに膿瘍形成に至った状態の対応フローチャートが追加されました。ここでは,本ガイドラインに掲載されている「状態3」の感染性乳腺炎,「状態4」の膿瘍形成の可能性がある場合について,それぞれの事例を基に状態の判断および対応のポイントについて述べます。

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実践に直結したCQ

 本ガイドラインの第Ⅵ章は,「CQに基づくガイドライン」が示されています。日本助産師会の会員から寄せられた乳腺炎に関するクリニカルクエスチョン(CQ:Clinical Question,臨床上の疑問)の中から,日頃の実践において助産師の関心が高く,多くの類似した項目が寄せられた8つのCQを設定しました。CQに対しては,教科書や専門家からの意見ではなく,入念な網羅的文献検索を行い,信頼できる研究を集め,それらの結果から,分かっていること(または,分かっていないこと)を記載しました。1つ1つの研究に加え,系統的レビュー(コクランレビュー),ABM臨床プロトコル第4号(2014年改訂版)の記載も参照して,8つのCQに該当するエビデンスを整理しました。収集されたエビデンスに関しては,『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017』およびGRADEを参考にエビデンスの強さを評価し,エビデンスからの推奨度(強い推奨から弱い推奨)を決定しました。また,個別のエビデンスが少ない,もしくはない場合には,日本助産師会・日本助産学会としてどのようなケアを提案できるか,コンセンサス会議において検討を行いました。全体として,推奨の決定までのプロセスを丁寧に記述し,読者がその妥当性を評価できる(納得できる)ように努めました。結果,約30ページと見応えのある内容になっています。

 乳腺炎ケアについては,研究は豊富そうだが,実際はどうなのだろうか? どのくらいあるのだろうか? 私たちが日々行っているケアは,信頼できる研究により裏付けられたものであるのか? そもそも,信頼できる研究って何? このような疑問をお持ちの方は,ぜひ,お読みください。目からうろこ,思わぬ発見ができるのではないかと思います。

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はじめに

 今回のガイドラインでは,以下の8つのクリニカルクエスチョン(以下,CQ)を設定しました。

CQ1:妊婦に,乳腺炎についての情報提供をすると,乳腺炎の発症を予防できるか?

CQ2:授乳中の女性が,脂肪摂取を制限すると,乳腺炎の発症を予防できるか?

CQ3:授乳中の女性が,乳製品の摂取を制限すると,乳腺炎の発症を予防できるか?

CQ4:授乳中の女性が,児の欲求に応じた授乳をすると,乳腺炎の発症を予防できるか?

CQ5:乳腺炎の女性が,葛根湯を服用すると,乳腺炎症状(発熱・発赤・疼痛・腫脹)が改善するか?

CQ6:乳腺炎の女性が,患側の乳房に冷湿布をすると,乳腺炎症状(発熱・発赤・疼痛・腫脹)が改善するか?

CQ7:乳腺炎の女性が,医療者,特に助産師による乳房マッサージや搾乳を受けると,乳腺炎症状(発熱・発赤・疼痛・腫脹)が改善するか?

CQ8:乳腺炎のリスク因子は何か?

 どれも関心が高いCQですが,全てのCQについて網羅的文献検討を行った結果,推奨できるケアのエビデンスの確実性は低い,もしくはエビデンスがないという結果になりました。

 その理由は,設定されたCQが,個人の好みや価値観といった患者の意思決定が尊重されるべき研究課題であったり,専門職による乳房マッサージなどのある程度効果が明らかな介入であるため,エビデンスレベルが高いとされるランダム化比較試験を行うことは倫理的問題が生じるためです。エビデンスがないというのは必ずしも介入の効果がないということを示しているわけではなく,今後の研究の蓄積により,その効果が示される可能性があります。

 これを踏まえて,日本助産師会,日本助産学会,日本看護協会,日本産婦人科医会,日本産科婦人科学会,乳腺外科専門医に加え,母親の代表者によるコンセンサス会議で全てのCQについて,意見交換と,合意形成のプロセスを経て,日本助産師会と日本助産学会から現時点で推奨できるケアを提案しました。

 本稿ではこれらのCQのうち,関心が高く,母親への影響が大きいと考えた乳製品・脂肪摂取と乳房マッサージについて紹介します。

乳房ケアの際の感染予防 吉田 みち代
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はじめに

 「助産師が行う全ての乳房ケアの場に,スタンダードプリコーション(標準的予防策)を!」ということが,初めて公益社団法人日本助産師会からの出版物『乳腺炎ケアガイドライン2020』において明文化されました。

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前版からの改訂作業を約2年かけて行ってきた日本助産師会 授乳支援委員会の皆さまに,新しく発表された『乳腺炎ケアガイドライン2020』の意義と活用のポイントをお話しいただきました。

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緒言

 日本の在住外国人のうち,国籍(出身地)欄「韓国」「朝鮮」は約17%で,日本の在住外国人の中で2番目に多い1)。筆者らは第1報(本誌74巻9号)で,妊娠,分娩,産褥,育児期の在日コリアン女性への支援を考える際には,他の在住外国人とは異なる支援,日本人女性と同様の支援が必要であることを提案した。日本の医療や保健の水準は世界でも最高水準にあるが,在住外国人は言葉や文化・風習の違い,経済上の問題などから,さまざまな問題を抱える2)と言われている。国内でも海外でも在外外国人は仲間同士のエスニックコミュニティを大切にしており,同じ国の者同士が地域コミュニティを形成しながら居住することが明らかとなっている3,4)。また,同国人と結婚し,相談相手や友人も同国同士であることが多く,ネットワークが小さなコミュニティ内で終わってしまうことも多い3)。在日コリアンも仲間同士のエスニックコミュニティを大切にしており,コミュニティを形成して居住している者も多い。先行研究では,在日コリアンコミュニティに居住する在日コリアンは,コミュニティ内で情報交換し,助け合っていることも明らかとなっている5)

 また,在日コリアンは伝統的儒教の価値観から強いジェンダー規範意識を持っており,家庭内での女性の家事・育児負担割合が強いことが明らかになっている5)。これは女性たちの健康に大きく影響する問題である。在住外国人の周産期,育児期に生じる困難は,言語6,7),文化的背景8,9),保健医療制度の違い6,10),支援者不足6,7,10)から生じていることが明らかとなっている。在日コリアンは,言語的問題はないものの,文化的背景には日本人と異なることも多く,それに加え,強い伝統的儒教の価値観もあることから5),特徴的な困難が生じていることが推測された。

 そこで,本研究では,在日コリアン女性の妊娠,分娩,産褥,育児期に生じる困難について明らかにし,必要な支援について検討したいと考えた。

連載 続・いのちをつなぐひとたち・22

永原郁子さん
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助産師が手を差し伸べれば「産めるいのち」がある

厚生労働省が報告した「子ども虐待による死亡事例などの検証結果等について(第15次報告)」によると2017年の0カ月児の虐待死亡例は14件で,その全員が0日の殺害であった。そして今年はコロナ禍の影響で,予期せぬ妊娠に追い詰められる女性が急増中だと言われている。永原さんは,助産師の立場からそうした女性たちの相談に乗る無料の施設「小さないのちのドア」を開き今秋で2年になる。その活動の詳細を聞いた。

連載 宝物,教えてください・56

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 助産婦学校を卒業し,8年間勤務した総合病院で退職後に3人の子を出産しました。勤務時代は助産師として,出産を振り返った時に母自身が頑張れたと思える,納得できるお産を目指そうと思い仕事をしていました。分娩各期での関わり方,医師との連携方法など病棟全体で工夫をするために話し合いもしました。

 その中で特に印象に残っているのは,母子健康手帳の「分娩の経過」の記入欄に,分娩介助をした助産師がひと言記載していこうと決めたことでした。今では当たり前かもしれませんが,当時の私にとっては助産師としての誇りと責任を強く実感できる決定でした。

連載 インタビュー 日本の“産婆の心”を受け継ぐために 小児科医師が聴く,助産婦の語り・3

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教員になるために助産婦学校へ

桑原 矢島さんが助産婦を目指されたきっかけを教えていただけますか。

矢島 これは私の宝物,矢じりなんです(762ページの写真参照)。これを拾い始めたことが,助産婦になるきっかけでしょうね。小学校に矢じりを拾う先生がいて,5000年以上も前におじさんたちがこれを使って生きていたんだと教わりました。私のうちは畑がたくさんあったので,矢じりを拾ってはそれを見ながら,いつも縄文時代を想像し,空想の中でおじさんと会話していたんですよ。縄文時代の人たちから,命がずっと今までつながってきていると感じていたんでしょうね。いつの間にか,私は医者になりたいと思うようになりました。でも,医者になるにはお金がかかりますし,看護婦だったら奨学金があるというので,高山赤十字看護専門学校に入ったんです。

連載 医療コミュニケーションことはじめ・3

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 人は,最初に会った時に,「相手が自分の味方なのか,敵なのか」を鋭く判断しています。生きていくために必要だからです。敵とまでは言えなくとも,自分にとって信頼してよいかどうかには,敏感なものです。医療機関を受診する患者は,病気を患い,不安を抱いていることが多いため,健康な人以上に,自分が診てもらっている医療者が,自分にとって信頼できるかどうかを,敏感に感じ取っているものです。

 そこで,患者との初対面の時から,相手に落ち着いた笑顔を向け,目線を合わせて,ペースを合わせながら,「私はあなたの味方ですよ」というメッセージを送ることが重要になってきます。これが「医療コミュニケーション」のスタートなのです。

連載 ワタナベダイチが解説!両親学級アイスブレイク集 こんな時,どんなアイスブレイク?・番外編

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はじめに

 本連載が始まった2020年4月は,まさに新型コロナウイルスが猛威を振るっている時期でした。前年夏ごろから企画を温め,満を持してスタートさせた連載だったにもかかわらず,自分自身のレギュラーの両親学級が軒並み閉鎖され,全国的にも両親学級などと言っていられないような雰囲気になっていましたよね。それでも,妊婦さんたちは待ったなしで出産まで突き進んでいましたので,弊社をはじめ徐々にオンライン両親学級が開催されるようになりました。そこで今回は番外編として,オンライン学級で使えるアイスブレイクを考えていきましょう。

連載 未来の助産師を育てています わたしたちの教育現場・63

順天堂大学医療看護学部
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沿革と教育理念・教育概要

 順天堂大学医療看護学部(以下,本学本学部)は千葉県浦安市にあり,東京ディズニーリゾートが近いことで有名です。キャンパス周辺は落ち着いた住宅地であり,学修環境は恵まれています。

 本学の沿革は,1838(天保9)年に日本最古の西洋医学塾として建学されたことに始まります。看護学教育は,1896(明治29)年に看護婦養成所を開設した後,専門学校を経て,1989(平成元)年に浦安の地に順天堂医療短期大学を開設,その後2004(平成16)年に4年制大学に改組し,現在に至っています。なお,助産師教育は,1992(平成4)年の専攻科(助産学専攻)開設に始まり,4年制大学のスタートと共に学部内教育で行うことになり,現在まで継続しています。

連載 りれー随筆・429

私の活動と働き方改革 佐藤 祐佳
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 神奈川県で助産師をしております佐藤祐佳です。助産師養成学校の同期からバトンを受け取りました。私たちは神奈川県の助産師養成学校で忘れられない1年間の濃厚な時間を共にし,「未来の母子保健に乾杯!」と日々語り合い,助産師になるのを楽しみに学生生活を謳歌しました。今回は私の活動について,この場を借りて紹介させていただきたいと思います。

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助産雑誌
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電子版ISSN:1882-1421 印刷版ISSN:1347-8168 医学書院

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