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はじめに
今回のガイドラインでは,以下の8つのクリニカルクエスチョン(以下,CQ)を設定しました。
CQ1:妊婦に,乳腺炎についての情報提供をすると,乳腺炎の発症を予防できるか?
CQ2:授乳中の女性が,脂肪摂取を制限すると,乳腺炎の発症を予防できるか?
CQ3:授乳中の女性が,乳製品の摂取を制限すると,乳腺炎の発症を予防できるか?
CQ4:授乳中の女性が,児の欲求に応じた授乳をすると,乳腺炎の発症を予防できるか?
CQ5:乳腺炎の女性が,葛根湯を服用すると,乳腺炎症状(発熱・発赤・疼痛・腫脹)が改善するか?
CQ6:乳腺炎の女性が,患側の乳房に冷湿布をすると,乳腺炎症状(発熱・発赤・疼痛・腫脹)が改善するか?
CQ7:乳腺炎の女性が,医療者,特に助産師による乳房マッサージや搾乳を受けると,乳腺炎症状(発熱・発赤・疼痛・腫脹)が改善するか?
CQ8:乳腺炎のリスク因子は何か?
どれも関心が高いCQですが,全てのCQについて網羅的文献検討を行った結果,推奨できるケアのエビデンスの確実性は低い,もしくはエビデンスがないという結果になりました。
その理由は,設定されたCQが,個人の好みや価値観といった患者の意思決定が尊重されるべき研究課題であったり,専門職による乳房マッサージなどのある程度効果が明らかな介入であるため,エビデンスレベルが高いとされるランダム化比較試験を行うことは倫理的問題が生じるためです。エビデンスがないというのは必ずしも介入の効果がないということを示しているわけではなく,今後の研究の蓄積により,その効果が示される可能性があります。
これを踏まえて,日本助産師会,日本助産学会,日本看護協会,日本産婦人科医会,日本産科婦人科学会,乳腺外科専門医に加え,母親の代表者によるコンセンサス会議で全てのCQについて,意見交換と,合意形成のプロセスを経て,日本助産師会と日本助産学会から現時点で推奨できるケアを提案しました。
本稿ではこれらのCQのうち,関心が高く,母親への影響が大きいと考えた乳製品・脂肪摂取と乳房マッサージについて紹介します。
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