血液フロンティア 28巻11号 (2018年10月)

特集 加齢と造血

特集扉

序 ~造血の老化と全身の老化~ 北村俊雄
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 加齢と造血に関して最近注目を集めているのは,一見健康に見える高齢者において白血病に認められる遺伝子変異を有するクローン性造血である。クローン性造血を有する人は造血器腫瘍を発症しやすいが,それよりも生命予後を悪くするのは,心筋梗塞,脳梗塞,癌である。このことは,クローン性造血が存在すると生活習慣病発症率が高まることを示唆している。今回の特集では,幹細胞老化やクローン性造血に加えて,高齢者の貧血,骨髄異形成症候群(MDS),急性骨髄性白血病(AML),急性リンパ性白血病(ALL),多発性骨髄腫,骨髄移植について,最近の知見を交えてそれぞれの分野の専門家にまとめていただいた。種々の造血器腫瘍の成り立ちにクローン性造血が関与することがあることも含めて紹介されている。

1.老化と造血幹細胞 田久保圭誉
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 個体老化においては,近年,幹細胞とその近傍の微小環境(ニッチ)の加齢変化―ステムセルエイジング―を切り口にした研究がクローズアップされている。ステムセルエイジングは幹細胞の数と質を変化させて,その結果,臓器の恒常性に変容をもたらし,加齢形質や加齢関連疾患の原因となる。本稿では,ステムセルエイジングの個体老化研究における位置づけと,造血幹細胞エイジングの分子機構についての近年の進歩について概説する。

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 近年の大規模シークエンス解析により,健常者においても白血病で同定される遺伝子変異を1つ以上有するクローン性の造血(clonal hematopoiesis:CH)が起こっていることが明らかとなった。クローン性造血が認められる集団では,造血器腫瘍の発症リスクが有意に高いことも示され,悪性腫瘍の発症機序を考える上で極めて重要な事実として捉えられている。さらに,クローン性造血を有する場合には冠動脈疾患や脳梗塞の発症リスクが上昇することから,その影響は造血系にとどまらないことが示唆されている。将来的には,クローン性造血をスクリーニングする妥当性の評価や,治療可能性を探索することが重要であると考えられる。

3.高齢者の貧血 大田雅嗣
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 高齢者では「多病」が特徴的で,貧血の存在が明らかになった際,背景にある種々の病態の存在を考慮しながら貧血の原因を精査し,適切な治療を行うことが重要である。貧血が進むと高齢者特有の脆弱性(frail),筋力低下,転倒(fall),認知機能の低下,鬱状態の発現など「老年症候群」に影響を与えQOLの低下につながることを念頭に,治療による貧血の改善が高齢化社会における健康寿命の延長につながることを期待したい。

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 他の組織と同様,造血器も加齢に伴い変化する。しかし,単なる加齢においてみられる変化は,生体の維持に必要な造血機能を十分保持する範囲内にとどまる。一方,MDSは正常な造血能を保持できない「疾患」であり,加齢変化とは明らかに一線を画している。しかし,加齢とMDSにおいて造血系に生じる変化には程度の差があるものの共通点をもち,加齢変化がMDSを発症する下地を形成しているとすることは無理のない考えである。ここでは,造血器の加齢に伴う変化の特徴と,それがどのようにMDSなど骨髄系腫瘍の発症に関連するかを概説する。

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 高齢者AMLは治療抵抗性のことが多く,治療では治療関連死が多い。基本的にはすべての高齢者でAMLの化学療法を考慮する。治療関連死のリスクを予測して化学療法に適合(fit)するかを判断し,適切な強度の化学療法を選択する。予後良好あるいは中間リスクでfit症例では強力な化学療法を選択し,unfit症例では低用量治療を行う。予後不良リスク症例では臨床試験を考慮する。また,高齢者AMLの治療成績は不良であり,あらゆる症例でランダム化比較試験への参加を考慮すべきである。

6.高齢者のリンパ腫 坂田麻実子 , 千葉滋
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 悪性リンパ腫(以下,リンパ腫)とは,成熟リンパ球に類似した性質をもつ細胞の“がん”の総称であり,多種多様な疾患の集まりである。リンパ腫全体としては高齢者に多く,なかでも一部のタイプのリンパ腫は高齢者に特徴的にみられる。高齢者にリンパ腫が多い要因については,リンパ腫のタイプ毎に異なる可能性があるものの,明らかにされていない。おそらくは,リンパ腫の多くは単一の異常では発生せず,発がんに必要な因子が多段階に年月をかけて蓄積することにより発生するためと推察される。本稿では,高齢者のリンパ腫について,病態という点から考察する。

7.高齢者の多発性骨髄腫 今井陽一
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 多発性骨髄腫は,診断時年齢が平均70歳と高齢で患者数の約4割が75歳以上である。様々な染色体異常を伴い,高齢者と若年者では染色体異常の種類と頻度に違いがある。一方,予後不良染色体異常であるt(4;14)やdel(17p)の頻度が高齢者で若年者より高くなる傾向はなかった。年齢は合併症とともに多発性骨髄腫の治療方針の決定に関わる大きな要素のひとつであり,これらを基にしたfrailty scoreが導入されている。レナリドミド,ボルテゾミブや抗体薬などの新規治療薬の使用により治療成績の改善がみられる。

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 多くの血液悪性腫瘍の発症年齢中央値は60歳以上であり,高齢化の進む本邦において高齢者に対する同種造血幹細胞移植の症例数は増加している。強度減弱移植前処置の開発やドナーソースの拡大,支持療法の進歩等により高齢者に対する同種移植の治療成績は向上したものの,治療関連死亡率は30%程度と高く改善の余地が多く残されている。高齢者に対して同種移植を行う際には,原疾患の再発リスクだけでなく,治療関連死亡を避けるために合併症や身体機能を正確に評価し,適切なドナーソースと移植前処置を選ぶことが重要となる。

連載 臨床研究,私の思い出(195)

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血液フロンティア
28巻11号 (2018年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1344-6940 医薬ジャーナル社

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