日本内視鏡外科学会雑誌 6巻6号 (2001年12月)

特集 内視鏡下手術における血管損傷の予防と対処法

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 開胸術では,少々出血しても手指でいったん圧迫して止血することができるが,胸腔鏡下手術の場合はそれができないので,不要な出血を起こさないよう注意すべきである.特に,肺動脈や肺静脈など径の大きい血管の処理にあたっては細心の注意を要する.そこで,血管周囲の剥離はハサミを用いて鋭的に行うようにしているが,万一,血管を損傷した場合は,ひとまず内視鏡下手術用のディセクターで圧迫止血をはかる.ある程度圧迫して止血ができない場合は,血管用縫合糸を用いて縫合する.出血が軽度であれば,圧迫と縫合を交互に行って縫合を終えるが,この方法での縫合が難しい場合は,血管鉗子をかけるか,中枢側にテーピングを行ったのちに縫合する.

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 縦隔領域の血管は損傷時に重大な事態を引き起こす危険性が高く,胸腔鏡下手術における縦隔操作では開胸手術以上の慎重さが必要である.肺動脈,肺静脈,気管支動脈,奇静脈,上大静脈,およびそのほかの脈管について,それぞれの血管の特性に合った安全な操作が重要であるが,胸腔鏡下手術の限界を知り,危険を冒さないで早めに開胸手術に移行する勇気も必要である.万一の血管損傷時には状況に合わせた処置が必要であり,慌てず,かつ機敏に対応する.Endo-staplerは操作が簡便で,縫合が確実であるため,正しく使えばきわめて有用である.吸収性メッシュとフィブリン糊を使用した血管修復法は簡便で便利な方法である.

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 内視鏡外科手技を用いた肝臓癌に対するマイクロ波凝固療法(MCT)について,その合併症の1つである血管損傷を取り上げ,その予防と対処法について述べる.MCTによる血管損傷には出血と血管閉塞があり,これらの予防にはMCT予定部位の主要な血管の位置の把握が重要であり,それにはリアルタイムに血流を観察できるカラードップラ超音波断層装置が有用である.出血に対しては,その種類(oozing,拍動性出血,血腫,胆道内出血など)に合わせた対処が必要である.後者の血管閉塞は肝実質の萎縮や壊死を起すので,肝予備能の少ない肝硬変を合併する症例のMCTには細心の注意を払う必要がある.

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 腹腔鏡下肝切除術(Lap-H)において最も大切な脈管処理,および凝固止血法を切離層別に概説した.表層では切離線に沿ったマイクロ波凝固ののち,超音波凝固切開装置(LCS)による肝切離を行い,深層では超音波吸引装置によって剥離された脈管をクリッピングしつつ,LCSによる肝切離を行う.腹腔鏡用自動縫合器は外側区域切除におけるグリソン枝や左肝静脈切離,および肝外突出型腫瘍に対する腫瘍茎一括切離を安全に行い得る.術式の安全性を向上させるために,場合により肝門部血行遮断や用手補助下手術も併用する.Lap-Hを安全に施行するには,使用する手術器材の特徴や出血時の対処法を熟知し,切離層に応じてこれらを応用することが重要である.

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 腹腔鏡下副腎・腎手術で生ずる血管損傷について述べた.腹腔鏡下副腎摘除術における血管損傷の頻度は約2%,また腹腔鏡下腎摘除,根治的腎摘除術では3〜6%と報告され,約半数で開腹手術での修復,止血がなされていた.副腎,腎臓は腎動脈,腎静脈,大動脈,下大動脈などの大血管と解剖学的に近接しており,これらへの外科手術では大血管への操作が必要となってくる.腹腔鏡下手術では器具なども含めて手術操作に制限があるため,より注意深い操作を行い,血管損傷を避けることが重要であることを述べた.

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 前立腺や精嚢は狭い骨盤腔の最深部に位置し,周囲に太い血管はないが,深背側静脈束(DVC),神経血管束(NVB)や精嚢動脈などからの出血のコントロールが必要である.精管,精嚢は臓器そのものが小さく,周囲組織との十分な間隙もとれないことから,剥離時の止血にはバイポーラ鉗子が有用である.DVCには縫合・結紮を行うが,尿道は止血なしで鋏で切断する.一方,膀胱頸部はモノポーラで切離する.NVBを温存するにはクリップが安全である.NVBを前立腺とともに切除するには,バイポーラ鉗子や超音波駆動メスが有用である.このような術中の注意深い出血のコントロールにより,腹腔鏡下前立腺全摘除術は輸血の必要のない手技となり得る.

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 関節鏡視下手術における血管損傷は稀であるが,重大な合併症の1つである.そのほとんどは,膝窩動脈およびその分枝に生じている.膝窩動脈は膝関節の後方関節包に隣接して存在するため,半月板切除などの手術中に後方へ盲目的な操作を行うと,膝窩動脈の穿通損傷を起こし得る.膝窩動脈損傷が疑われた場合には,直ちに血管外科医に相談し,必要であれば緊急で血管造影と血管修復術を行うべきである.遅発性の偽性動脈瘤を生じた場合も,早期の動脈瘤摘出および伏在静脈による血管修復術が必要となる.そのほか,膝以外の関節の鏡視下手術における血管損傷についても述べた.

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はじめに

 内視鏡下手術がビデオモニターに映し出された手術視野を見ながら行う特殊な手術であることに起因して,様々な合併症が発生することが明らかになってきた1).臨床的な医療過誤防止については,safety managementとquality assuranceという類似した2つの概念があるが,前者が「人は誰でも間違える」を前提に,間違えを防げないシステムの問題ととらえて,業務体制改善によって,より安全な医療を提供していく対策を意味するのに対し,後者は医療を科学的根拠に基づいて標準化し,個々の医療従事者の研鑚によって,より質の高い医療を提供していく対策を意味するというニュアンスの違いがある.本稿では,医事紛争解決例の事案を参考に,safety managementについて医療過誤防止策を,quality assuranceについてインフォームド・コンセントを中心に述べる.

内視鏡外科手術に必要な解剖と術野の展開・6

横行結腸 宮島 伸宜 , 山川 達郎
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はじめに

 大腸疾患に対する腹腔鏡下手術は多くの施設で行われるようになったが,まだ普及し定着したとは言えない.特に,大腸癌に対して腹腔鏡下手術を行うにあたっては,適応となるstageに関する一定の考え方はなく,術式も固定化していないのが現状である1).腹腔鏡下手術を行うために最も重要なことは解剖の把握であり,とりわけ膜の解剖を理解することが要点である.本稿では横行結腸の解剖と術野の展開について,膜の解剖を基本として述べる.

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 食道癌の3例に片手補助腹腔鏡下の経食道裂孔的な食道抜去術を行った.上腹部正中に片手挿入のための約6cmの小切開をおき,左腹部に12mmのトロッカーを3本,留置した.手術手順は,まず脾臓の下極の高さで,LCSを用いて左胃大網動静脈,短胃動静脈を処理し,胃脾間膜を完全に遊離した,ついで,LCSを用いて食道裂孔から胃の小轡側への剥離を行い,左胃動静脈を切断した.縦隔内の食道周囲の結合織をLCSで切離し,食道を腹腔内に引き出した.授動された食道・胃を体外に引き出し,右側大網の処理を行った.胃管作成後,後縦隔経路にて頸部食道・胃管吻合を行った.3例の平均手術時間は210分,平均出血量は100mlであった.

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 症例は62歳,男性.食後の心窩部圧迫感にて胃内視鏡,胃透視を受け胃体上部小彎の圧排所見を指摘された.腹部超音波検査,腹部CT検査で肝外側区域より肝外に突出する48mmの腫瘍を認め,肝血管造影にて肝血管腫と診断された.ハンドアシスト法を併用し,腹腔鏡下に肝の剥離・授動および肝動脈,門脈,胆管の処理を行い,肝実質切離を小開腹創より直視下に自動縫合器を使用して行う腹腔鏡補助下肝外側区域切除術を行った。術後合併症はなく第13病日に退院した.本術式は従来の腹腔鏡下肝切除術に比べ,簡便かつ安全で,低侵襲手術の1つの選択肢として有用であると思われた.

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 腸間膜嚢腫は比較的稀な疾患で,発症頻度は入院患者2〜25万人に1人といわれる.本邦では,嚢腫内容が乳び性である頻度は低く,成人では11例が報告されているのみである.今回われわれは,腹腔鏡下に摘出した腸間膜乳び嚢胞の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は67歳,男性.高CK血症の精査目的にて行った超音波およびCTにて,腹腔内に直径40mm大の嚢腫を認めた.腹腔内嚢腫と診断し,診断確定および治療目的にて腹腔鏡下嚢腫摘出術を施行した.摘出した嚢腫は空腸間膜内に存在し,嚢腫内容液は乳びであり,腸間膜乳び嚢胞であると診断した.本症例においては,診断と治療を同時に行い得る腹腔鏡下手術が有用であった.

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 基礎疾患を持たない小児胆石症は比較的稀とされているが,近年これらに対し腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した報告例が散見されるようになってきた.われわれも,慢性的に胆石発作を伴う12歳の女児に対して,基礎疾患のないことを確認したのち,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.その際,ミニループリトラクター(MLR)を用い,小児胆石手術においてその有用性を確認したので報告する.

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 症例は72歳,男性.脳底動脈狭窄による失語症を認め,他院に入院した際に偶然,脾腫瘍が発見され当院に紹介された.画像検査の結果,脾原発悪性リンパ腫を疑い,右季肋部からの切開創より左手を挿入する腹腔鏡補助下脾臓摘出術(hand-assisted laparoscopic splenectomy:HALS)を施行した.手術時間は1時間44分,出血量は少量,摘出脾臓の重量は100gであり,脾腫瘍径は3.5×3.2cmであった.病理組織診断はT cell型非ホジキン悪性リンパ腫であり,術後化学療法を施行した.HALSは巨脾を伴う良性血液疾患のほかにも,悪性脾腫瘍に対する診断的治療としても有用であり,今後この手技の適応が拡大していくものと考えられる.

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編集後記 出月 康夫
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 札幌での学術集会も盛会のうちに終わり,内視鏡外科がわが国に根づき,着実に発展しつつあることを改めて実感している.最近では外科系の多くの学会の学術集会でも,内視鏡下手術に関連したテーマが大きく取り上げられ,外科系領域での医療に内視鏡下手術が不可欠のものとなりつつあるが,このような普及に伴って,学会としても早急に取り組まなければならない重要課題も山積している.

 内視鏡下手術への社会保険の適用は国民皆保険制度を実施しているわが国では不可欠である.来年4月に行われる予定の診療報酬の改定に向けて,外科系杜会保険診療委員会連合(外保連)が10月にまとめた外科系各学会からの重点要望項目は205項目にのぼるが,そのなかの約10%が内視鏡外科手術に関連したものであることも,この事情を如実に物語っている.昨今のわが国の厳しい財政状況では,来年4月に医療費の改定が行われるかどうかも不透明であり,改定が行われるとしてもマイナス改定となるとの情報が流れている現況では,新しい領域である内視鏡下手術にどこまで社会保険が適用されるかは,まったく未知数である.現在の医療制度の仕組みでは,手術や処置などについての保険適用の要望は医師側(専門学会や医師会)から出されることになっている.しかし,実際にその恩恵を受けるのは患者であることを,厚生労働省も国民もしっかりと認識して,患者にとって必要な新しい手術は早急に保険に適用して欲しいものである.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
6巻6号 (2001年12月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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