精神看護 19巻4号 (2016年7月)

特集 精神科ならではのファーストエイド(応急処置)と、とっさの声かけ

三上 剛人 , 中村 創
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ファーストエイド(応急処置)の基本はどの科であっても同じはずですが、精神科には精神科ならではの特別な患者さんの状態・状況があり、判断に迷うケースがたくさんあります。

精神科は日々ファーストエイドが必要になるわけではありませんので、いざという時の対応に自信がある人のほうが少ないと思われます。皆が「これでいいのかな」と不安をかかえつつ対応しているはずです。

そこでこの特集では、精神科で実際に起きたケースを再現し、写真を多様しながら、ファーストエイドのノウハウを解説していきます。

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状況

 20代後半の男性患者(統合失調症)。22時頃「体中の血管を虫が這っている。腕が疼いて仕方ない」と言い、プラスチック製の櫛の柄で左前腕を切っているところを発見される。柄は折れており、血が付いた先端部分がベッド横で発見された。折れた柄で腕を切ったことで柄の断面が鋭くなり、さらに裂傷が深くなったと考えられる。正中から手首にかけてミミズが這うように裂傷が走っていた。表情はボーっとしているが口調ははっきりしていた。右に1本、裂傷は2本確認できた。縫合に20針を要した。

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状況

 40代前半の男性(アルコール依存症)。酩酊状態で自宅周辺の道端で倒れているところを近所の住民が発見し、通報。当初総合病院の救急外来に搬送された。精神科に受診歴があったことから23時に救急外来から精神科病棟への医療保護入院になる。意識レベルはJCSⅡ-10であった。特に目立った外傷がなかったので個室にベッドを用意し臥床して経過していた。患者は臥床後すぐに入眠した。5時の巡回時、ベッド上でもぞもぞ動く患者を発見したため意識レベルを確認するために声をかけると、看護師のほうを見上げ起き上がろうとした。その直後吐血した。

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 想像してみてください。自分の夜勤帯に、患者さんのリストカットを目の当たりにしました。あなたはどんなことを感じるでしょうか。

 「大変なことをされてしまった」「このあとの処置をどうしよう」と焦るでしょうか。または「面倒くさいことになった」「信じられない」「人がいない勤務帯に限ってなぜ?」と、患者さんへの否定的な思いがよぎるでしょうか。あるいは頭が真っ白になってしまうでしょうか。

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 大塚は、自殺未遂患者への対応の中での「してはならないこと」として、「安易な激励」「自らの価値で相手を説得する」「患者に話をさせない」「患者自身を批判・否定する」「カタルシスを精神状態の改善と勘違いする」*1を挙げています。患者さんの中で起こっていることを考えると、これらの対応が患者さんをさらに孤独にし、追い詰め、自殺の再発率を上げていることがわかります。本来、支援者である私たちは患者さんを孤独にするべきではありませんし、追い詰めるなど言語道断のはずです。しかし、現場ではこの「してはならないこと」を多く見かけます。なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。その理由について考えてみます。

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1.自傷・自殺が看護師に与えるすさまじいストレス

 「看護師を続けていていいのだろうか」。そんな思いを持ったことが、私自身何度もあります。自身の未熟さを痛感する時、病棟に自分がいる意味を見い出せない時、思うように患者さんの回復が見て取れない時、などさまざまなことが背景となって、その疑問が私の中で浮かんでは消える、が繰り返されます。その中でも患者さんの命にかかわる重大な事故に遭遇すると、それは鋭利な刃物となって、私を容赦なく私を責め立てます。こうなると、心の声は自問自答といったレベルではなく「看護師を続けるべきではない」と、確信めいた内容に形を変えます。

 ケース⑧のような事例に遭遇した方がいらっしゃるとするならば、そのストレスの凄まじさは当事者でなければわからないほどだと思います。

解説4

家族へどう対応すべきか 中村 創
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1.家族が持つ心理的負担への理解

負担の中身を見つめてみると

 自傷行為、自殺企図を含め、患者さんの生命維持が損なわれるかもしれない出来事は、看護師にとっても衝撃的なことですが、家族にとっても同等、あるいはそれ以上に衝撃的です。

 私たちが家族とやりとりする機会は、急変した患者を自宅から家族が連れてきた場面や、病棟での事故を家族に報告する場面など、いくつかあります。そこで、そうした場合に家族へどう対応するのが望ましいのかを考えてみようと思います。

特別記事 医療安全に役立つ注射・輸液の進化

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患者さんと医療者の双方を守る医療安全。2016年度の診療報酬改定で医療安全加算が組み込まれたことも受けて、現場では医療安全への意識が高まっている。

今回は医療機器メーカーであるニプロ株式会社にご協力いただき、医療機器の装備や仕組みが現在どのように進化し、医療安全に貢献できるのかをご紹介いただいた。よりよい器具の選定と、適切な使用方法の理解により、医療機器の進歩を現場に役立てたいものだ。(編集部)

読者体験レポート 谷 俊明
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ニプロ株式会社は医療者向けの専門的研修施設「ニプロiMEP」を開設しています。

模擬病室や医療機器、最新の患者シミュレーターがそろったこの施設では、医療安全の充実と医療職の課題解決能力の向上を目指したさまざまな講習会が開催されています。

今回、シミュレーション学習を通して急変対応を学ぶ講習会が開かれるにあたり、弊誌読者モニターにも参加してもらうことにしました。講習会での体験と学びを紹介してもらいましょう。(編集部)

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・110

連載 いいのかなと不安に思いながらやってしまっている

身体のアセスメントと手技を徹底検証・3

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看護師さんからのQuestion 1

患者さんが転倒した場合、まずすべきことはなんですか?

夜勤を開始したばかりの新人看護師がある日の夜間、患者さんの転倒事例に遭遇しました。ドスンという大きな音がして、部屋へ駆けつけると患者さんが床に倒れていました。まず何をすべきでしょうか。

ドクター杉田からのAnswer 1

まず患者さんの様子を観察し、本人に痛いところがないか聞きましょう。

連載 [インタビュー]向谷地さん、幻覚妄想ってどうやって聞いたらいいんですか?・3

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それはディズニーの世界?

—前回は山姥の話で盛り上がりましたが、当人はさぞかし怖いでしょうね。

向谷地 アナザーワールドの世界で戦っているんだって彼は言いますね。彼自身がよく言うんですよ、「アナザーワールドとリアルワールド」って。

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無言の電話口

 電話口で「内定になりました」と報告され、私は喜びを爆発させて「やりましたね!」とはじけてみた。が、相手はしばらく無口だった。働き盛りだった40代に脳梗塞で倒れ、半身不自由となり歩くのもやっととなったこの男性が、50代後半で手に入れた就職先は大手金融機関。悲願の内定が嬉しくないはずはない。照れ隠しで返す言葉に困ったのだろうと思っていたら、後日、本人が来所し、「あの時はすみません。涙が出て声が出なくて」と、そこでまた涙をこぼした。私も当然、涙目になった。

 昨年、松葉杖をつきながらやっとの思いで事業所を訪れた彼は、「いったい、ここで何かできるのか。就職に本当に結びつくのか」といささか攻撃的な姿勢だった。不自由な身体の上に、自暴自棄からのうつ症状もある。居住する市役所の福祉サービスにクレームを申し立てること複数回。どうしても不満が先立ち、サービスが続かず、担当のケアマネジャーは就労移行支援も続くのか心配で、何度も私に「大丈夫ですか?」と確認してきたほどだった。

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感謝されない。それが精神科

 笑顔を取り戻した患者さんたちの姿、「おかげさまで」と嬉しそうに発せられる感謝の言葉、それがわたしたち精神医療に携わる者にとっての「元気の源」なんです♡と、そんなことを言える人はハッピーだと思う。頻繁に「元気の源」が供給されているからこそ口にできる言葉に違いないのだから。

 治したという達成感を求めて精神科で働くのは、得策ではない。ましてや患者に感謝されることを期待して精神科医療に携わるのは、見当違いだと思う。いや、そもそも医療者に「治してもらった」と患者に思わせるようではマズイ、自分の力で治ったと思えるように持って行かなければ駄目である、といった意見すらある。

連載 武井麻子のOh!それみ〜よ・6

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感情革命を知っていますか?

 前回紹介した映画『パーソナル・ソング』では、介護施設で暮らす人々に好きな音楽を聴かせて生き生きとした表情がよみがえってくる様が描かれていた。彼らは「あなたにとって音楽とは?」と聞かれて、「愛」「生きること」「よろこび」と答えていた。音楽が彼らの中に眠っていたポジティブな感情を呼び覚まし、世界とのつながりと生きている実感をもたらしたのだ。

 音楽に治療的効果があることはかなり前から知られていたが、そこに「感情」というものが介在することについてはあまり注目されてこなかった。「感情」に光が当てられるようになったのは1990年代以降である。

連載 失恋の話を聞きまくる男たち。桃山商事・13

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「やはり清田さんって恋愛マスターなんですか?」

 桃山商事の活動をしていると、頻繁にこんなことを聞かれます。言わんとしていることはわかります。このような活動をしている男に対し、「それだけ女性の相談に乗ってるんだから、自身の恋愛偏差値もかなり高いのでは?」と思うのも無理はないからです。

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はじめに

 介護系の施設では身体拘束ゼロを掲げる施設も少なくないが、医療施設では治療における患者の安全を優先するという名目の下、身体拘束がなされているのが現状である。

 医療施設で患者の安全を守るためにやむを得ず身体拘束が行われる理由の1つに、精神症状が挙げられる。手術後の環境の変化、身体的不均衡などによるせん妄や、認知症における周辺症状(BPSD)、身体疾患の関連症状(肝性脳症など)や物質からの離脱(アルコール離脱症状など)などを原因とする諸症状である。

 患者が点滴ルートやカテーテルを挿入した治療の状況を理解できないなど、治療・看護上の安全が保持できない状況が身体拘束の対象となるが、倫理面からみると、医療における自律尊重原則(患者が自己決定した内容を尊重する)と善行原則(患者に利益をもたらす医療を提供する)との相克によるジレンマが生じる状況でもある。

 羽島市民病院(以下、当院)では2014年2月から約2年間、精神看護専門看護師(以下、CNS)と医療安全管理者が協働して、入院中の全身体拘束患者の病室をラウンドし、身体拘束の最小化や解除を目指す「行動制限最小化・解除ラウンド」(以下、ラウンド)を実施した。CNSは、精神症状への質の高いケアを提供することや、臨床現場における倫理調整、病棟看護師からの相談に対する教育的介入を担う。医療安全管理者は、医療現場における安全で質の高いケアを提供する役割を担う。

 以下に、そのラウンド活動を具体例を交えて紹介する。なお、すべての事例の記述にあたり、倫理的配慮から個人が特定されないよう、事例の本筋を失わない範囲で変更してある。

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次号予告・編集後記

基本情報

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精神看護
19巻4号 (2016年7月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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