連載 就労移行って何だ?・4
ストーリー化で人生を「面白く前向きに」—ディテールから情景を立て、当事者と同じものを見る
引地 達也
1,2
1シャローム所沢
2ケアメディア推進プロジェクト
pp.397-399
発行日 2016年7月15日
Published Date 2016/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200256
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無言の電話口
電話口で「内定になりました」と報告され、私は喜びを爆発させて「やりましたね!」とはじけてみた。が、相手はしばらく無口だった。働き盛りだった40代に脳梗塞で倒れ、半身不自由となり歩くのもやっととなったこの男性が、50代後半で手に入れた就職先は大手金融機関。悲願の内定が嬉しくないはずはない。照れ隠しで返す言葉に困ったのだろうと思っていたら、後日、本人が来所し、「あの時はすみません。涙が出て声が出なくて」と、そこでまた涙をこぼした。私も当然、涙目になった。
昨年、松葉杖をつきながらやっとの思いで事業所を訪れた彼は、「いったい、ここで何かできるのか。就職に本当に結びつくのか」といささか攻撃的な姿勢だった。不自由な身体の上に、自暴自棄からのうつ症状もある。居住する市役所の福祉サービスにクレームを申し立てること複数回。どうしても不満が先立ち、サービスが続かず、担当のケアマネジャーは就労移行支援も続くのか心配で、何度も私に「大丈夫ですか?」と確認してきたほどだった。
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