脊椎脊髄ジャーナル 34巻4号 (2021年10月)

特集 脊髄病変と排泄・性機能障害

特集にあたって 高橋 敏行
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 脊髄病変において四肢体幹の症状とともに膀胱直腸障害や性機能障害を伴うことは周知の事実です.しかしながら,実際の臨床では重篤な症状を認める,あるいは患者さんからの能動的な訴えがない限り,医療側も注意を払うことは乏しく,カルテ上も明記されることは少ないのが現状です.脊髄脊椎疾患の外科治療においても膀胱直腸障害の有無は手術適応を判断する重要な因子ですが,脊椎変性疾患などでは詳細な症候や機能評価を行うと,本人でさえ気づいていない潜在的な軽症,中等症例も多く発見され,有病率は予想以上に高いものと考えます.今回は日常診療でも遭遇の機会が多い圧迫性脊髄障害や腰部脊柱管狭窄に伴う馬尾障害,神経内科疾患なども含めた排泄・性機能障害の評価と治療法についてエキスパートの先生方に執筆をいただきました.

 関戸哲利先生には脊髄障害に伴う神経因性下部尿路機能障害の評価法と診療アルゴリズムについてガイドラインに則して解説いただきました.仙石淳先生と渡邊水樹先生には圧迫性頸髄症と腰部脊柱管狭窄に伴う排尿症状と障害の発生頻度および術後改善状況について報告いただきました.榊原隆次先生には神経内科領域である多発性硬化症や脊髄炎,髄膜炎が排尿機能に及ぼす影響についてまとめていただいております.兼松龍先生には手術を行った圧迫性脊髄病変において排便臨床スケールを用いた評価法と術前後での変化を,乃美昌司先生には保険適応となりました脊髄障害による神経因性大腸機能障害に対する経肛門的洗腸療法について詳しく説明いただいております.高橋良輔先生には性機能障害の機序を男女の調査も含めて報告いただき,その治療法についても解説いただいております.広田健吾先生にはまれではあるものの特異的である腰部脊柱管狭窄症に伴う歩行誘発性勃起について,小堀善友先生には脊髄損傷後の射精障害と妊孕性を維持するための対処法,治療法を詳述していただきました.

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はじめに

 外傷性・非外傷性の脊髄損傷〔脊髄障害(spinal cord lesion:SCL)〕患者における泌尿器科的な診療アウトカムは,尿路合併症の防止,社会的尿禁制の獲得,生活の質(quality of life:QOL)の改善,自律神経過(緊張)反射(autonomic dysreflexia:AD)の防止などである.2019年に改訂された本邦の「脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン[2019年版]」6,9,11)においても,この診療アウトカムを意識したアルゴリズムが提示されている.これらの診療アウトカムの達成のためには,SCLによる神経因性下部尿路機能障害(neurogenic lower urinary tract dysfunction:NLUTD)の病態を基本評価および選択的評価(表 1)によって十分に評価し,その結果に基づいて適切な尿路管理法や薬物療法を決定する必要がある.さらに,決定された尿路管理法や薬物療法によって診療アウトカムが達成されているかを,定期経過観察で確認する必要がある.本稿では,SCLによるNLUTD患者の診療における基本・選択的評価や定期経過観察の位置づけを明確化するために,まず上記ガイドラインの診療アルゴリズムを概説し,その後にSCLによるNLUTDに対する評価法に関してガイドラインの内容に従って簡潔に述べる.

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はじめに

 脊髄圧迫をきたす病変には,急性圧迫として脊椎の脱臼や圧迫骨折,急性椎間板ヘルニア,血腫など外傷に伴うものや転移性腫瘍,亜急性圧迫として硬膜下または硬膜外膿瘍や血腫,転移性髄外腫瘍,頸椎(まれに胸椎)椎間板ヘルニア,慢性圧迫として骨棘や脊椎症など種々の原因による脊柱管狭窄症などが挙げられる22).そして,これら脊髄圧迫をきたすあらゆる病変が排尿障害をきたし得るものと考えられ,実際に排尿障害をきたした脊髄への急性圧迫病変として脊髄硬膜外腫瘍からの出血1)や妊娠中の硬膜外血腫12),また寄生虫による感染性肉芽腫5)などの症例が報告されている.さらには,胸髄レベルで脊髄を圧迫したラットの実験において,膀胱機能障害の程度は下肢運動障害の程度と相関し,またその圧迫の強いほうが膀胱機能障害はより重度であり,膀胱重量の増加や壁肥厚もより高度であったことが確認されている21)

 しかしながら,一般臨床において遭遇頻度の高い排尿障害をきたす脊髄圧迫病変といえば,外傷性脊髄損傷と脊椎変性疾患であろう.後者の脊椎変性疾患は脊椎とその付属組織の形態異常をきたす疾患群を指し,代表的なものとして脊椎症(spondylosis),脊椎椎間板ヘルニア(disc herniation),脊椎管狭窄症(spinal canal stenosis),後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL),黄色靭帯骨化症(ossification of the yellow ligament:OYL)が挙げられる.これらは互いに,あるいは複数のレベルで合併することも多く,加齢とともに進行し,病初期には排尿障害はみられにくいが,脊髄外からの圧迫による直接の障害と循環障害により脊髄障害(脊髄症myelopathy)に進展すると排尿障害が出現するといわれている11).脊髄損傷と腰椎変性疾患(腰部脊柱管狭窄症)については他稿に譲り,本稿では頸椎変性疾患による圧迫性頸髄症と排尿障害について解説したい.

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はじめに

 脊髄脊椎疾患において,神経因性膀胱は主要な症状の1つである.しかし,尿閉や失禁などの重症の神経因性膀胱は認識されやすいものの,中等度から軽度の神経因性膀胱については,脊髄脊椎外科医や泌尿器科医,そして患者の関心が高くなく,その実態が明らかになっているとは言い難い.また,神経因性膀胱には,本特集の他項に記載されているように,排尿に関わる症状のみならず,排便障害や性機能障害も含まれており,さまざまな検討が行われている.

 脊椎変性疾患による神経因性膀胱についても,さまざまな面から検討された報告が散見されている3,6,8,9,14〜16,19,23,24).しかし,泌尿器系疾患の併存が記載されていない報告や,下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)と下部尿路機能障害(lower urinary tract dysfunction:LUTD)が混在している報告もあり,脊椎変性疾患による神経因性膀胱には不明な点も多い.

 本稿では,腰椎変性疾患における神経因性膀胱に注目し,特に,中等度から軽度のLUTSと過活動膀胱(overactive bladder:OAB)の,①術前に認められる割合と,②手術による改善程度について,自験例を供覧して概説する.症例は,2011年から2013年にかけて,藤枝平成記念病院脊髄脊椎疾患治療センターで加療した初回の腰椎変性疾患手術387例(平均年齢62.3歳,男性244例/女性143例)であり,診断は,腰椎椎間板ヘルニアが151例,腰部脊柱管狭窄症が155例,腰椎すべり症が81例で,固定術を併用した手術は90/387例(23%)である.

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はじめに

 神経内科での代表的な脊髄疾患として,多発性硬化症とその関連疾患がよく知られている.本稿では,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS),視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitis optica spectrum disorder:NMPSD),髄膜炎-尿閉症候群(meningitis-retention syndrome:MRS)の排尿症状・障害について述べる.

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はじめに

 非外傷性の頸髄症や馬尾症候群の臨床重症度評価において,排泄障害に主眼をおいた研究はいまだ不十分な状況にある.排尿機能については,日本整形外科学会による頸部脊椎症性脊髄症および腰部疾患の治療成績判定基準(JOAスコア)や頸部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)が包括しているが,脊椎変性疾患と排便障害については明らかにされておらず,評価項目の一部となっていないのが現状である.一方で,排泄障害が重症化しやすい脊髄損傷や二分脊椎においては,臨床評価がより重視されている2,4,11).特に排便障害については,神経因性大腸機能障害(neurogenic bowel dysfunction:NBD)と定義され,障害レベルによって,反射性大腸と弛緩性大腸に大別される13).NBDに伴う重度の排便障害は脊髄障害患者の全身機能やQOLに重大な影響を及ぼすことが知られており,脊髄損傷患者および二分脊椎患者を対象とした国内のウェブベース・アンケート調査では,それぞれ55%,51%が重度の大腸機能障害・排便障害を有していることが報告されている7).本稿では脊髄脊椎疾患と排便障害について,加齢変化に伴う圧迫性脊髄障害の評価法や術後成績の観点から考察を含め報告する.

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はじめに

 脊髄障害患者では神経因性大腸機能障害(neurogenic bowel dysfunction:NBD)に起因する便秘と便失禁が高頻度に認められ,排便機能障害は排尿,運動機能,性機能障害より困窮度の高い重要な問題とされる6).経肛門的洗腸療法(trans-anal irrigation:TAI)は微温水を経肛門的に直腸に注入することで便の排出を促す治療であり,本邦では2018年より保険適用となっている.本稿では脊髄障害による難治性排便障害に対するTAIについて概説する.

脊髄障害と性機能障害 高橋 良輔
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脊髄損傷患者の性機能障害

 米国の外傷センターからの報告によると,性機能障害を生じる相対リスクは,骨盤外傷(相対リスク1.45),下肢外傷(相対リスク1,48),脊髄損傷(相対リスク3.73)と,ほかの外傷に比べて脊髄損傷は性機能障害を生じる相対リスクが高いことが報告されている8)

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はじめに

 超高齢化社会を迎えているわが国では,腰部脊柱管狭窄症の有病率は増加しつつあり,治療の重要性が増している.腰部脊柱管狭窄症は,下肢痛や腰痛を認め,ときに膀胱直腸障害や性機能不全を引き起こす4,9,10,30).腰部脊柱管狭窄症に伴う歩行誘発性勃起は,まれな症状であり,その特徴として,①立位や歩行で誘発される,②痛み,しびれ,熱感に引き続いて勃起症状が生じる,③数分間の休息で消失すること,が挙げられる.これまで脳神経外科,整形外科,泌尿器科領域から歩行誘発性勃起の報告は散見されるが,まとまった報告は少ない.本稿では,歩行誘発性勃起の発生機序,臨床像,手術成績について報告する.

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はじめに

 日本の外傷性脊髄損傷者は現在推定10万人以上おり,毎年約5,000人が新規に発生している26).また,2002年の調査において,男性患者が70%以上を占め,年代別の発生件数では50歳代以降および20〜29歳に多くの患者が集まる二峰性のパターンであると報告されている25)

 脊髄損傷者の泌尿器科的問題として,生涯にわたる尿路管理が必要な排尿障害のほかに,男性に限っていえば,勃起障害・射精障害をきたす性機能障害の頻度が高い.20歳代の若い男性に脊髄損傷が多く発生することを鑑みると,脊髄損傷者患者における性機能と生殖機能は重要な問題である.また,射精できたとしても精液の質が悪いことから,生殖医療の補助なしに挙児が得られるのは10%のみとされ9),同時に脊髄損傷者は特異的な不妊集団を形成することとなっている.ここでは,男性の脊髄損傷者における射精障害と生殖機能について述べる.

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
34巻4号 (2021年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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