脊椎脊髄ジャーナル 33巻9号 (2020年9月)

特集 脊椎硬膜病変—最近の話題

特集にあたって 谷 諭
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 髄液漏という疾患概念が注目を集めて久しくなりました.この疾患は「脊椎硬膜に裂け目(穴)ができている」が基礎病態でありますが,その病態を共有する疾患は多くありそうです.その1つは,脳表ヘモジデリン沈着症を生じ得る硬膜欠損部からの血液成分のくも膜下腔への流入でしょう.一方,硬膜外に囊胞を形成したり,はたまた脊髄そのものが陥入するような状態(脊髄ヘルニア)も知られていましたから,このような病態をduropathyと包括することが提唱されています.まれとはいえ,このようなpathological entityが提案されたことで,硬膜には病気があるということは間違いありません.

 考えてみますと,われわれ脊椎脊髄外科医は,骨,軟骨,靭帯という脊椎を構成する組織と,脊髄,神経という神経組織はこれまで扱ってきたわけですが,その脊椎と神経組織の境をつくっている硬膜の病変はあまり注目されませんでした.硬膜は,動く臓器である背骨の中でも,伸びたり縮んだりダイナミックな動きをして,脊椎の悪性新生物の浸潤から神経組織をガードしてくれる組織であります.悲しいことに,手術の際には,硬膜は「縫合すれば,適当につくであろう」と変に信頼された組織ですが,そこにも落とし穴(本当に穴)もあるかと思いますし,われわれが日頃,手術で必ずつくっている硬膜外の癒着にも,動く臓器の中では問題が起こり得ると考えるのが当然ではないでしょうか?

硬膜・硬膜外腔の解剖 内門 久明
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はじめに

 Duropathiesという概念が2012年にKumar9)により提唱された.脊柱管内の脊髄硬膜に欠損ができて,脳・神経および髄液循環障害を呈する病態と理解されている.Farbら4)は特発性低髄液圧症候群の硬膜の髄液漏出部位をType 1〜4型(1型:硬膜腹側,2型:椎間孔,3型:静脈瘻,4型:椎間孔外)に分類している.1型は全脊椎レベルで,2型は胸腰椎移行部に,3型は胸椎,4型は下部頸椎(まれ)に好発する.

 脊柱は動的要素を有する支柱であり,脊柱管を構成する椎骨・靭帯・筋組織を外組織とすると,硬膜に仕切られた脊髄神経はいわば内組織である.硬膜内は脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)により,硬膜外とは大きく環境が異なる.

 複雑な病態であるduropathyを理解するために硬膜(meningis),硬膜外の靭帯および静脈の解剖学知識は必須である.また,脊椎脊髄外科医にとって,この部位の肉眼および微小解剖は日常臨床において非常に重要となるため,頭蓋頸椎移行部から仙骨部に至る硬膜・硬膜外腔の解剖について概説する.

Duropathiesの概念 柳下 章
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概念

 2012年,Kumarは脊柱管内硬膜の欠損あるいは損傷により神経症状を呈する疾患に対してduropathiesという概念を提唱し,表 1の疾患が入るとした14)(本稿では原著に従い,用語としてはduropathiesを使う).

 Duropathiesはそのままでは硬膜(異常)症であるが,Kumarが記載しているように,主に脊柱管前部硬膜に欠損あるいは損傷があり,それに伴ってくも膜にも異常をきたし,髄液が硬膜外に漏出することにより起こる疾患群と考えられる.

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はじめに

 脳表ヘモジデリン沈着症は,慢性くも膜下出血によって特徴づけられる難治性疾患である.出血原因として,中枢神経血管奇形,腫瘍,アミロイド血管症,脳神経外科手術,外傷などが報告されているが,出血源がわからない症例も多い3)

 脊髄腫瘍との関連については,われわれは,粘液乳頭状上衣腫に合併した脳表ヘモジデリン沈着症を経験した.脳神経外科手術との関連については,他院での脊髄腫瘍術後症例に合併した脳表ヘモジデリン沈着症を経験している.さらには,脳脊髄液漏出症に合併した脳表ヘモジデリン沈着症も経験した.本報告では,われわれの経験した,脊椎・脊髄に出血原因がある脳表ヘモジデリン沈着症の症例を提示し,出血源を検討することを目的とする.

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はじめに

 脊髄ヘルニアは比較的まれな疾患で,1974年にWortzmanら17)によって初めて報告された.脊髄ヘルニアは硬膜欠損を介した脊髄の腹側偏位によって特徴づけられ,癒着および血管障害に続発して神経学的障害が生じるとされている3).硬膜囊前面の硬膜欠損の病因は不明であるが6),硬膜低形成や外傷,医原性(脊椎手術後),炎症および骨棘の存在が関与していると考えられている.近年,このような脊柱管内硬膜の欠損または損傷により神経症状を呈する疾患を総称したduropathy11)という概念が提唱されており,表在性鉄症や頭蓋脊髄血液量減少症とともに本疾患もduropathyの病態の1つとされている4,10,14〜16).脊髄ヘルニアではBrown-Séquard症候群を呈する頻度が高いとされてきたが,脊髄嵌頓の形式からさまざまな臨床症状を示し,鑑別に苦慮する画像を呈する症例もある.本稿では,duropathyの1つである脊髄ヘルニアの病態と治療について,名古屋脊椎グループで行った多施設研究の結果をもとに概説する.

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はじめに

 近年,硬膜の欠損部から髄液が異常漏出することによって生じる種々の神経疾患は新たにduropathiesと命名され,それは,2012年のKumar6)による脳表ヘモジデリン沈着症の出血源を原因とする報告を契機に,さらに注目される疾患概念となっている.一方で,1990年代より,髄液が減少する病態(以下,髄液減少症)は,国内外において関連した知見が多数報告され15,16,22,23,26-28),duropathiesとの関係性について論じられる機会が増えた6).しかしながら,髄液減少症については,急激な発症で複数の脊髄レベルから髄液の異常吸収や漏出が生じる原因や病態に加えて,頭痛のみならず多彩な症状の出現機序,さらにブラッドパッチの効果機序について,いまだ不明な点が多く残されている26,27).今回,髄液減少症の1症例を提示し,これらの問題と髄液動態や機能について検討する.

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はじめに

 肥厚性硬膜炎は,さまざまな原因により脳,脊髄の硬膜が肥厚し,さまざまな症状を呈する疾患である.過去にはまれな疾患とされていたが,近年MRIなどの画像診断の進歩により,脳における肥厚性硬膜炎はまれではなく,頭痛,脳神経症状をきたす鑑別疾患として認識されている.一方,脊髄のみに限局した肥厚性硬膜炎は,脳に比較し頻度が低く,比較的まれな疾患であり,経験が少ないため診断に苦慮することがある.今回,脊椎脊髄外科医が本疾患を診断,治療するのに役立てられるよう,脊髄肥厚性硬膜炎の病態,画像的特徴について述べる.

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 COVID感染症の猛威は一時期に比べ落ち着きつつあるが,7月に入り世界の新規感染者数は最多を更新し,東京都でも新規感染者数が連日200人を超えている.それでも,経済活動が再開され,スポーツ観戦も始まった.手術をはじめとして私たちの診療も自重ムードから徐々に開放されつつある.近頃メディアでもよく耳にする“withコロナ”ということか.“withコロナ”でのNew Normal(新しい日常)での診療はどうなるのであろうか.

 脊椎脊髄外科では特段変わりないように思うが,脳神経外科の経鼻下垂体手術や私たちが頭蓋底陥入症や脊索腫などで行う経口手術は,今後も多少制約を受けるかもしれない.

イラストレイテッド・サージェリー 手術編Ⅱ-118

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手術適応

 頸椎前方除圧固定術は,1950年代後半からSmith & RobinsonやClowardにより頸椎椎間板ヘルニアに対して始められ,胸鎖乳突筋の内縁を進入するアプローチが本邦にも普及した.胸鎖乳突筋は頭側ほど外側に位置するために,C3/4やC2/3を含む頭側の展開では同法は不利になる.この問題を解決するために,当施設では1997年以降,望月により始められた肩甲舌骨筋外縁を進入するアプローチを用い,5椎間症例も含む前方除圧固定術に適応してきた1).このアプローチの特徴は,①頸椎は後屈せず中間位とし,対側に回旋しない,②多椎間症例でも横切開を選択する,③肩甲舌骨筋外縁から進入することである2).通常,C2/3からC7/T1までの展開を安全に行うことが可能であり,頸椎椎間板ヘルニア,頸椎症性脊髄症,頸椎後縦靭帯骨化症,化膿性脊椎炎,脊椎腫瘍などが適応疾患となる.

 頸椎前方手術には,気道狭窄や食道損傷などさまざまな致死的合併症が報告されている3)が,その多くがアプローチに関連した合併症であり,アプローチへの習熟により回避可能なものが少なくないと思われる.本法は従来法に比較し,汎用性が高く合併症の予防につながる,肩甲舌骨筋外縁進入による前方アプローチが普及し,本邦における頸椎手術の今後の発展に寄与することを期待したい.

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
33巻9号 (2020年9月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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