脊椎脊髄ジャーナル 31巻10号 (2018年10月)

特集 歯突起後方偽腫瘍

特集にあたって 高安 正和
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 歯突起後方偽腫瘍(retro-odontoid pseudotumor)の概念は,1986年Szeらの3例の報告に端を発する.これらの症例では,関節リウマチや透析など特定の原因をもたず,慢性的な不安定性によるメカニカルストレスが偽腫瘍発生の原因と推測された.全例に椎弓切除と病変の部分切除が行われ,組織学的には線維性肉芽組織が確認されている.また,診断においてMRIの有用性が強調された.その後,MRIの普及に伴い,このような症例が国内外より数多く報告されるようになった.成因や治療法に関してはさまざまな説が提唱されており,X線の機能撮影において明らかな不安定性を認めない例も存在する.ただし,固定後に病変が縮小することは共通の認識となっている.そこで,治療法に関しては固定術が主となるが,固定範囲に関しては後頭頸椎固定を推奨するものと環軸椎固定のみでよいとするものがある.しかし固定後,病変の縮小までに時間を要することから,脊髄症状が高度の場合は除圧が必要となる.除圧に関しては,環椎後弓切除のみの間接除圧から偽腫瘍の直接切除まで幅がある.また,偽腫瘍の患者は高齢者に多いため,より低侵襲な治療が望まれ,固定を行わず環椎後弓切除のみで済まされることもある.

 本特集では,関節リウマチも含め歯突起後方の非腫瘍性の腫瘤性病変について広く専門家に執筆をお願いした.特に,さまざまな手術法については具体的に記載いただいた.歯突起後方偽腫瘍は本誌において初めての特集となるので,少しでも多くの読者に目を通していたければ幸いである.

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はじめに

 頸椎における脊髄症の多くは軸椎下高位で生じ,環軸椎高位で起こることはまれである.しかしながら,1986年Szeら53)の報告に端を発し,軸椎歯突起後方偽腫瘍(retro-odontoid pseudotumor:ROP)が圧迫性脊髄症の原因となった例が近年多く報告されるようになった.ROPの発生原因となる病態は多岐にわたり,その治療としての手術療法についても,後弓切除による除圧術のみ行うか,後方固定術を行うか,あるいはその固定範囲に頭頸移行部を含めるかどうかなどに関しての一定の見解はいまだに得られていない.

 今回われわれは,最近までに得られた文献による考察を加えながら,ROPに関する病態,画像診断,手術法,成績などについて,自験例による検討を含めつつ包括的に述べることとする.

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歯突起後方偽腫瘍(retro-odontoid pseudotumor)

[1]臨床

 環軸関節の不安定性(慢性の機械的ストレス)により軸椎歯突起後方を主体に生じる非腫瘍性の腫瘤である7).成人の関節リウマチによるpannus形成とは異なる(下記の「鑑別診断」参照).

 同義語として,Ross10)はcalcium pyrophosphate dihydrate deposition disease(CPPD),crowned dens syndrome,pseudogoutを挙げている.

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 頸椎歯突起後方軟部組織肥厚に影響する因子について考えるには,まず歯突起後方の解剖学的構造を理解する必要がある.歯突起後方には,環椎の左右外側塊に付着する環椎横靭帯があり,後正中環軸関節を形成する.これは滑膜関節であるが,環椎横靭帯の歯突起関節面は線維軟骨(sesamoid fibrocartilage)である.横靭帯と直交する縦束が大孔後縁と軸椎の椎体後縁を結び,横靭帯を補強している.横靭帯と縦束を合わせて環椎十字靭帯と呼ばれる.さらに,その背側には蓋膜が斜台に始まり,下行して後縦靭帯となる.したがって,歯突起背側の軟部組織には滑膜,線維軟骨,横靭帯,蓋膜が存在する(図1)16)

 歯突起後方軟部組織の肥厚がいずれの成分に由来するかは,さまざまな原因により異なると考えられるが,特に横靭帯が中心として考えられており,関節リウマチなど炎症性変化の場合には滑膜もその要素となり得る.関節リウマチにおいては全患者の2/3という高頻度で頸椎が侵され,環軸関節に亜脱臼をきたすことがあるが,そのような患者において特に炎症に侵された後正中環軸関節に炎症性肉芽(パンヌス)を形成することが知られている5,20).Pettersonら10)やYonezawaら17)は,MR画像から,パンヌスばかりではなく慢性的な機械的刺激による線維性組織も含まれていると報告している.

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はじめに

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)では,四肢の関節のみならず,脊椎,特に頸椎病変を有することも多い.RAに対する治療はメトトレキサートや生物学的製剤の登場により大きく進歩したが,2011年のわれわれの調査結果ではRA患者の42%に頸椎病変が認められており11),今なお多くのRA患者が頸椎病変を有していることが判明している.

 RA患者における頸椎病変の特徴は上位頸椎に多い点である.C1-C2間には椎間板がなく,前方の環椎歯突起関節も後側方の外側環軸関節も滑膜関節であるため,RAの滑膜炎に侵されやすい.環軸椎水平亜脱臼や垂直脱臼がよく知られているが,歯突起後方偽腫瘍も重要な病変の1つである.本稿では,RAにおける歯突起後方偽腫瘍に焦点を当て解説する.

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はじめに

 後頭頸椎固定術(occipito-cervical fusion:OCF)は,リウマチ性脊椎炎,先天奇形,外傷,腫瘍などさまざまな頭蓋頸椎移行部病変に対して行われる術式である31).OCFは,1927年にFoerster8)によりはじめて報告されて以来,骨移植のみを行い内固定材を使用しない術式22)からsublaminar wiringとrodを使用する術式7,11,25)などを経て,1990年代以降はhookやclampを使用する術式6,10,16),さらには外側塊screwや椎弓根screwを使用しての強力な固定性が得られる術式1,9,27)も行われるようになった.本稿では,歯突起後方偽腫瘍に対するOCFについてその概略を述べたい.

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はじめに

 環軸関節周囲に発生する非リウマチ性歯突起後方偽腫瘍は,発生機序として環軸関節の不安定などに起因した靭帯損傷に伴う反応性腫瘤と考えられている2,19).そのため,根治的には環軸関節を含めた固定術が望ましいとする報告が多い.しかし,固定術に伴う合併症を考慮すると,手術安全性および侵襲性を念頭に置いた手術術式選択を必要とする場合がある.本稿では,当科における歯突起後方偽腫瘍に対する手術術式選択を提示し,環軸椎後方固定術の技術的問題点について考察する.

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はじめに

 歯突起後方偽腫瘍は圧迫性脊髄症を生じ,場合によっては延髄症状も生じ得る非腫瘍性疾患であると考えられている.60〜70歳代に多く9),環軸椎間の不安定性が最大の発症要因と想定されており1,16),そのため治療法としてC1-2後方固定を第一選択とする報告が多い1,11).一方で,さまざまなアプローチでの摘出術や頸椎後方除圧術のみでの症状改善症例も多数報告されており4,8,10),治療法はいまだ標準化されていない.本稿では,後側方経硬膜摘出術について述べる.

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はじめに

 軸椎歯突起後方に腫瘤を生じる病態には,髄膜腫,神経鞘腫,脊索腫,転移性腫瘍などの腫瘍性病変のほか,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に伴うパンヌス,長期透析患者の脊椎アミロイド沈着やcalcium pyrophosphate dehydrate(CPPD)沈着症に伴う歯突起周囲の軟部組織の増殖性変化などの非腫瘍性病変(歯突起後方偽腫瘍,retro-odontoid pseudotumor)がある.RAや透析を伴わない歯突起後方偽腫瘍は比較的まれな病態であり,1986年にSzeら16)によって報告されたものがはじめと考えられている.発生要因として環軸関節における不安定性が挙げられているが,1991年にCrockardら6)は明らかな不安定性を伴わない高齢者の歯突起後方偽腫瘍症例を報告した.環軸関節の不安定が軽微であっても後頭骨環椎間の癒合やC2/3間に前縦靭帯骨化を認めることが多いことから,その病態は環軸関節におけるメカニカルストレスに対する反応性線維組織形成であると考えられている4,21)

 歯突起後方偽腫瘍の治療法には歴史的な変遷があり,今なお議論がある.古くは経口進入法による軸椎歯突起切除による腫瘤摘出と後頭骨頸椎後方固定術が行われていたが,手技的に煩雑なうえに合併症も多く,高齢者の多い本病態の治療法としては問題も多かった2,3,5,7,9).吉田ら20)は,環軸関節不安定性を伴ったpseudotumorにおいて腫瘤摘出を行わず,環椎後弓切除と後頭骨頸椎後方固定のみで腫瘤の縮小がみられたとの報告を行った.さらに,不安定性を伴わない例においても,後方固定により腫瘤の縮小が期待できることが明らかとなっており,後方除圧固定術は歯突起後方偽腫瘍に対する主流の治療法となっている4,10,14,19,21).一方で,東福ら18)は固定術を併用しない環椎の後弓切除で経過良好であった症例を報告し,Suetsunaら15)は環椎椎弓形成術のみで腫瘤の縮小を認めた症例を報告した.以降,環軸関節の不安定性が強くない歯突起後方偽腫瘍においては,固定術を併用しない環椎後弓切除術も有効な治療選択肢の1つと位置づけられている8,10,13,17).本稿では,歯突起後方偽腫瘍による脊髄症に対する手術治療としての,非固定環椎後弓切除術について解説する.

Nomade

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 私は理学部物理学科修士課程を卒業したが,科学者としての能力不足を悟り,医学部に再入学し,遅れて医師になった.医学と物理学,どちらも理系で私のような転身者はときどきいるので,大差はなさそうだが仕事の理念はまったく異なる.

 身体と心に関して困った人々を助けることが医師の職務で,医学は人の役に立たなければならない.一方,物理学は本質的に人の役に立つことを目指していない.自然現象が従うルールを知りたいという知的好奇心が研究の根本的動機である.

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はじめに

 本術式の最大のメリットは,腫瘍に接する椎骨動脈や脊髄などの重要な軟部組織との境界を前方後方それぞれから正確に視認し,安全かつ確実にgross totalに腫瘍を切除することができる点である1〜3).C5/6高位の砂時計腫に対する術式を概説する.

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基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
31巻10号 (2018年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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