Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
軸椎歯突起後方に腫瘤を生じる病態には,髄膜腫,神経鞘腫,脊索腫,転移性腫瘍などの腫瘍性病変のほか,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に伴うパンヌス,長期透析患者の脊椎アミロイド沈着やcalcium pyrophosphate dehydrate(CPPD)沈着症に伴う歯突起周囲の軟部組織の増殖性変化などの非腫瘍性病変(歯突起後方偽腫瘍,retro-odontoid pseudotumor)がある.RAや透析を伴わない歯突起後方偽腫瘍は比較的まれな病態であり,1986年にSzeら16)によって報告されたものがはじめと考えられている.発生要因として環軸関節における不安定性が挙げられているが,1991年にCrockardら6)は明らかな不安定性を伴わない高齢者の歯突起後方偽腫瘍症例を報告した.環軸関節の不安定が軽微であっても後頭骨環椎間の癒合やC2/3間に前縦靭帯骨化を認めることが多いことから,その病態は環軸関節におけるメカニカルストレスに対する反応性線維組織形成であると考えられている4,21).
歯突起後方偽腫瘍の治療法には歴史的な変遷があり,今なお議論がある.古くは経口進入法による軸椎歯突起切除による腫瘤摘出と後頭骨頸椎後方固定術が行われていたが,手技的に煩雑なうえに合併症も多く,高齢者の多い本病態の治療法としては問題も多かった2,3,5,7,9).吉田ら20)は,環軸関節不安定性を伴ったpseudotumorにおいて腫瘤摘出を行わず,環椎後弓切除と後頭骨頸椎後方固定のみで腫瘤の縮小がみられたとの報告を行った.さらに,不安定性を伴わない例においても,後方固定により腫瘤の縮小が期待できることが明らかとなっており,後方除圧固定術は歯突起後方偽腫瘍に対する主流の治療法となっている4,10,14,19,21).一方で,東福ら18)は固定術を併用しない環椎の後弓切除で経過良好であった症例を報告し,Suetsunaら15)は環椎椎弓形成術のみで腫瘤の縮小を認めた症例を報告した.以降,環軸関節の不安定性が強くない歯突起後方偽腫瘍においては,固定術を併用しない環椎後弓切除術も有効な治療選択肢の1つと位置づけられている8,10,13,17).本稿では,歯突起後方偽腫瘍による脊髄症に対する手術治療としての,非固定環椎後弓切除術について解説する.
Copyright © 2018, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.