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Human immunodeficiency virus(HIV)に対する多剤併用療法の出現により,HIV感染者の生命予後は飛躍的に改善した.しかし近年,治療の長期化に伴う副作用が懸念されており,骨折リスクの上昇もその1つである.多剤併用療法は骨密度の低下をもたらすが,その低下は治療開始早期に限られる.一方で,骨折リスクはantiretroviral therapy(ART)開始から一貫して増加し続けることが知られており,骨折リスクの上昇には骨密度以外の因子の関与が示唆される.そこで筆者らは,多剤併用療法で広く使用されているプロテアーゼ阻害剤(protease inhibitor:PI)およびインテグラーゼ阻害剤(integrase strand transfer inhibitor:INSTI)が骨折リスクや骨質に与える影響を検討した.
まず,PIもしくはINSTIで治療されたHIV感染者30名のART開始前と1年後における血清中の骨質劣化マーカー〔低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC),ペントシジン〕を比較した.その結果,治療開始後,PI治療群ではINSTI治療群に比べて,血清ucOCおよびペントシジンの値が有意に増加していた.次に,同一患者においてPIとINSTIの作用を比較するため,2年以上PIで治療を継続後,INSTIに変更されたHIV感染者10名における血清中の骨質劣化マーカーを薬剤変更前後で比較した.その結果,PIからINSTIへの薬剤変更により,血清ucOCおよびペントシジンの値が有意に減少した.さらに,HIV感染自体が骨質に与える影響を除外するため,PIを野生型マウスに4週間経口投与したところ,骨密度の有意な低下は認められなかったものの,3点曲げ試験で骨強度の低下が確認され,血清ucOC値の増加も認められた.
以上の結果から,PIを含む多剤併用療法は骨質を有意に低下させ,骨脆弱性を誘導することが明らかとなった.骨折のリスクが高いHIV感染者に対しては,PIを含まないレジメンによる抗HIV治療が推奨される.
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