臨床整形外科 53巻12号 (2018年12月)

誌上シンポジウム 外傷における人工骨の臨床

緒言 名井 陽 , 最上 敦彦
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 人工骨は1990年代後半から2000年代にかけて,素材,微細構造,強度,吸収性,形状などで様々な工夫と技術を実装した各種製品が市販されるようになり,これとともに骨移植機会における人工骨の使用比率が爆発的に増加し,現在の整形外科治療において欠くことのできない医療機器として位置付けられるまでになった.こと整形外科外傷関連疾患の治療においても,新鮮骨折,変形治癒,偽関節,巨大骨欠損など,様々な病態において人工骨の使用が試みられている.まだまだ系統的なエビデンスがそろっているわけではないが,脛骨プラトー骨折の関節面沈下防止の目的の骨移植などでは,以前より人工骨の使用について一定の有用性を示す臨床成績が報告されている.一方で,骨折に代表される外傷部位は,受傷時の外力により荒らされた,いわば“戦場”ともいうべき通常とは異なる状況を呈している.また外傷は四肢・体幹のあらゆる部位に異なる状況で発症する極めて多様な病態である.よって,整形外科外傷治療における人工骨の使用においては,その部位・状況に応じた適材を適所に用いることが求められる.

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 近年,脛骨プラトー骨折の整復後に生じる骨欠損に対して,自家骨よりも人工骨のほうが使用される頻度が増えてきた.構造支持としての役割は人工骨のほうが強く,使用量に制限がないことがその要因である.なかでも,リン酸カルシウム類が最も利用されることが多いが,特に骨に置換される特徴を持つβ-TCPはその有用性が高い.これらの人工骨は種々の気孔率を有するものが使用可能であり,これにより強度や成型のしやすさが異なる.自家骨はもはや不要というわけではなく,骨誘導能を持つことから,人工骨と併用することでさらに有効性が増すと考えられる.

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 大腿骨転子部骨折手術におけるラグスクリュー挿入時に円筒形ハイドロキシアパタイトを併用し,術中ラグスクリュー挿入トルク値を計測して,人工骨の使用の有無,骨密度との関係を検討した.円筒形ハイドロキシアパタイト使用時のラグスクリュー挿入最大トルク値/健側頚部骨密度指数,ラグスクリュー挿入平均トルク値/健側頚部骨密度指数,挿入時間最終20%でのラグスクリュー挿入平均トルク値/健側頚部骨密度指数は有意に大きくなっており,術中ラグスクリュー挿入トルク値に有効な影響を与えると考えられた.

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 大腿部転子部骨折に対する代表的な合併症であるラグスクリューのcut outの予防策を探るべく,最大引き抜き強度値,回旋ピークトルク値を骨強度として定量化し,hydroxyapatite synthetic bone(HA)による増強効果を評価した.引き抜き強度は正常骨と比較し粗鬆骨では平均70%低下していた.HA追加により平均26%有意に増加していた.回旋強度は正常骨と比較し,粗鬆骨では平均75%低下した.人工骨の追加により回旋強度は平均17%有意に増加していた.粗鬆骨ではラグスクリューの引き抜き・回旋強度が大幅に低下し整復位の破綻やcut outの原因となることが示唆され,HAの追加により固定性を上げられることが示唆された.

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 陥没骨片を伴う橈骨遠位端骨折,橈骨頚部・橈骨頭骨折,肘頭骨折における人工骨移植を用いた手術療法について紹介する.人工骨を関節近傍に移植しないように注意する.陥没部の周りから海綿骨を集め,陥没骨片の直下に十分海綿骨をpackingして骨質を改善させ,海綿骨を採取して生じた欠損部に人工骨を充填する.つまり,「人工骨移植」が主ではなく,条件の悪い部位への局所の海綿骨移植が治療の本質と考えている.

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 脊椎固定術で用いる移植骨としては自家骨(自家腸骨)が安全性と骨癒合の点から最もよいとされている.一方で人工骨は優れた生体親和性と骨伝導能を有するが,骨形成能,骨誘導能において自家骨には劣る.そのため自家骨に匹敵する,または自家骨移植の限界を補う機能的な人工骨の開発がまたれている.本稿では脊椎手術における人工骨移植の現状と,われわれが行っている機能的人工骨の開発について紹介する.

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 組織を再生させるためには,(幹)細胞(cells),足場(scaffolds),シグナリング分子(signaling molecules)の3つの要素が必要で,これを再生医療のtriangular conceptと呼ぶ.この3つの要素は,骨再生における骨形成能(osteogenesis),骨伝導能(osteoconduction),骨誘導能(osteoinduction)に相当する.

 これまで,骨移動術や血管柄付き骨移植でなければ再建できないといわれていた,50mmを超えるような巨大骨欠損も,Masquelet法を用いれば遊離自家海綿骨移植で再建できることがわかった.その結果,骨欠損再建の限界は,採取可能な自家海綿骨の量で規定されるようになった.

 自家海綿骨に加えて,骨伝導能を持つ人工骨を併用することで,この限界を克服できる可能性がある.骨伝導能を有する材料としては,同種骨,生体材料,セラミックスがある.当院ではβ-TCPを用いて良好な臨床成績を得ている.

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 Masquelet法による感染巣切除後,外傷後の骨欠損再建では相当量の移植骨が必要となる.Reamer irrigator aspirator(RIA)は大腿骨髄内から多量の自家骨採取が可能であり,この用途に有用であると考えている.ただし骨欠損が大きくなるとRIA産物や腸骨海綿骨の移植だけでは量的に不足する.日本では欧米ほど手軽に同種骨移植が行いにくいため,人工骨の併用がよく行われている.筆者らの症例では38.7%で人工骨を自家骨と併用した.最適な人工骨の種類,形態と大きさ,気孔率,混合比率などが今後の研究課題である.

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 上肢変形矯正のための楔開き骨切り術を,術前シミュレーションに基づいた最適形状に切削加工した連通多孔体を有する人工骨(IP-CHA)を移植骨として用いて実施した.症例は前腕骨変形を有する5例で,患・健側のCT骨モデルを比較することで計算した移植骨形状にIP-CHAブロックを術前に切削加工し,手術に使用した.すべての症例において,シミュレーションどおりの手術が可能で,良好な骨癒合と矯正が得られ,隣接関節可動域と疼痛の改善が得られた.X線上,IP-CHAは18歳以下の4例では母床骨と完全に一体化したが,48歳の1例では遺残した.

Lecture

膝周囲のNormal Variant 新津 守
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 本稿では膝関節辺縁や周囲組織内に発生しやすい,液体貯留域などのnormal variantについて解説する.“normal”な構造物の範疇からは外れるが,普段あまり気づかれない,かつ比較的頻繁にみられる病的構造として,皮下に張り出す大きな半月板囊胞,Baker囊胞のvariationとその破裂,大腿骨遠位皮質骨不整について解説する.

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はじめに

 脊髄ヘルニアは脊髄が硬膜管から嵌頓して多彩な脊髄症状を呈する疾患である(図1).その原因として,特発性のほかに外傷や炎症,医原性(脊椎手術後)などが考えられている.本疾患は,比較的稀な疾患とされているが,近年のMRI検査の普及や画像精度向上により整形外科診療で遭遇する機会が少なくない.その診断や治療のためにはまず,脊髄ヘルニアを疑うことと,その特徴を知らなければならない.脊髄ヘルニアは胸椎,中年女性に多く,Brown-Sequard症候群を呈する頻度が高いとされるが,脊髄ヘルニアの症状や画像診断,手術予後などについて不明な点が多かった.われわれ名古屋脊椎グループ(NSG)では特発性脊髄ヘルニアに関する多施設研究を行っており1-4),そのデータを紹介するとともに脊髄ヘルニアについて概説する.

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はじめに

 2003年にGanzら1)が初めて体系的に提唱したfemoroacetabular impingement(FAI)の概念において,“The radiographs often appear normal at first”と記載されているように,単純X線像では一見大きな異常所見を認めないことが1つの特徴であり,その診断を困難にする最も大きな要因といえる.一方で明らかな形態的なFAI所見を有するにもかかわらず無症候な例も多く,その診断には臨床症状,理学所見,画像所見の3つを統合することが必要となる2).画像診断として,単純X線像やcomputed tomography(CT)では大腿骨骨頭頚部移行部の骨性隆起(cam形態)や寛骨臼の過剰被覆(pincer形態)などの形態学的情報が得られ,さらにmagnetic resonance imaging(MRI)では関節唇などの軟部組織の損傷状態およびその質的情報も得ることが可能である.

 しかし,従来用いられてきた画像診断では形態学的変化や質的変化が生じる以前の,より早期の異常を捉えることは困難であり,特にFAIにおける重要な病態の1つである骨性インピンジメント部位を同定するには不十分である.近年,細胞レベルでの代謝活動を画像化する機能的画像診断であるsingle photo emission computed tomography(SPECT)やpositron emission tomography(PET)などの核医学検査を用いてFAI症例を評価した報告が散見される.

 本稿ではわれわれが試みてきた18F-fluoride PET/CTによるFAIの病態評価に関する研究と最新知見について論述する.

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はじめに

 成人骨格は,骨吸収と骨形成からなるリモデリングが内分泌環境や力学的環境などの様々な刺激により調整を受け,ホメオスタシスを保っている1).この過程において,骨吸収と骨形成は,破骨細胞・骨芽細胞が連関的に働き(カップリング),この二細胞間や周辺細胞間で相互に情報伝達が行われていると考えられている.近年の研究では,種々の液性因子に加え,エクソソーム(exosome)と呼ばれる細胞外膜小胞が,相互の情報伝達に寄与していると報告されている.今回我々は,現在までに報告されているエクソソームが骨代謝に与える影響を紹介し,今後の展望につき考察する.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・4

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 前回は英文入力にあたっての根本と思われるフォントに関して説明しました.これで,日本語書体の混入,フォントの不統一などという,英語論文を執筆する以前の基本的問題が一掃できたのではないかと思います.さて,今回はその延長で,英文入力にあたり避けることのできない,“スペース”に関して少しお話しします.

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 放射線照射後に腰椎破裂骨折を起こした1例を経験した.症例は80歳男性.2016年11月頃から誘因なく右下肢痛を自覚し当科を受診し,L5椎体破裂骨折の診断で入院となった.2014年に前立腺癌に対し放射線治療を行っており,放射線照射が影響し椎体骨折を起こしたと考えたが,鑑別疾患として転移性脊椎腫瘍による病的骨折,骨粗鬆症による椎体骨折があげられた.腫瘍マーカーは陰性,CT画像,MRI画像,病理検査でも悪性を示唆する所見は認められず,MRI画像でL5椎体にfluid sign,CT画像で照射野に一致した骨透亮像と骨硬化像の混在した骨梁の粗造化を認め,放射線照射が影響し椎体骨折を起こしたと診断した.L3から仙腸関節まで後方除圧固定術を施行し,術後に深部感染を合併したものの鎮静化し,術後6カ月で下肢痛は軽度で杖歩行が可能となった.

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 人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)件数の増加に伴い,本邦における術後感染の0.8%は人工関節周囲感染(prosthetic joint infection:PJI)であると報告がある.しかし,2013 International Consensus Meetings in Musculoskeletal Infection Society(MSIS)で提唱されたPJI診断基準を満たさない症例が散見される.

 本研究ではTKA後に関節内水腫を認めるもPJI診断基準を満たさない3症例を対象とした.3例に対しSynovasure test(alpha defensin protein biomarker定量検査)を施行し,関節内水腫の寛解と増悪を繰り返した2例で陽性反応,寛解した1例で陰性反応を認めた.本研究の目的は臨床的にPJIが疑われる症例に対し,文献的考察とともにSynovasure Testの有効性を論ずることである.

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目次

欧文目次

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 本書は洛和会音羽病院救命救急センター・京都ERで「バイブル」とされてきた院内向けマニュアルを書籍化したものです.臨床教育病院の雄として名をはせる音羽病院由来のものだけあり,随所に秀逸なエッセンスが詰め込まれています.

 まずは冒頭数十ページの「原則編」にお目通しください.多くの医師にとってERという特殊な環境と特別な時間軸の中で診療することは容易ではなく,またその特殊性を研修医の先生方に伝えることも困難ですが,ここでは患者さんの臨床像の変化に対する時間経過とその考え方,救急外来での診療の流れにおける時間とその考え方が非常に明快に記述されています.そして,これら「時間」についての考え方は,以下「検査編」を経て「トリアージで考える 主訴別アプローチ編」では,さらに緊急度を付与して整理されるなど,本書を通して幹のように貫かれています.

次号予告

あとがき 吉川 秀樹
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あとがき

 整形外科の基本的手技の1つである骨移植は,他臓器・組織の移植と比べても,その歴史は最も古く,20世紀初頭からすでに臨床応用されてきました.自家骨移植はもちろんのこと,同種骨移植であっても,細胞成分が少ないという利点から,組織抗原の一致や免疫抑制剤を考慮することなく,整形外科の各分野で,広く臨床使用されてきました.一方,1980年代から,本邦を中心として,自家骨移植に代わるバイオマテリアルとして,セラミックス人工骨の研究・開発が始まりました.現在では,連通多孔体のハイドロキシアパタイトやβ-TCPなどの優れた人工骨が次々と発売されています.

 セラミック(ceramic)という言葉は「焼き物の,陶磁器の」という形容詞です.セラミックス(ceramics)には「s」が付いていますが,陶磁器という単数形の名詞です.これはギリシャ語のケラモス(keramos,粘土を焼き固めたもの)が語源となっています.セラミックスの歴史は非常に古く,紀元前2300年頃にすでに粘土を焼くことにより,容器や飾り物ができるということが知られています.中国の兵馬俑や古代ローマ遺跡においても,多くの焼き物をみることができます.日本の陶磁器産業を世界水準に発展させたのは,明治時代に活躍した森村市左衛門です.現在までTOTO,日本ガイシ,日本特殊陶業,ノリタケなどの森村グループは,洋式トイレに始まり,食器,美術品など,世界トップの技術,シェアを有しております.のちの京セラなど関連企業の発展に繋がっていきました.すなわち,人工骨を含めた陶磁器産業は,勃興当初から,わが国が世界をリードする分野の1つです.

基本情報

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臨床整形外科
53巻12号 (2018年12月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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