臨床整形外科 53巻11号 (2018年11月)

誌上シンポジウム 椎間板研究の最前線

緒言 西田 康太郎
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 脊椎における基礎研究の対象として,椎間板は常にその中心的存在となってきた.その理由の1つとして,椎間板の変性が多くの退行性脊椎疾患に直接的あるいは間接的に関与していることがあげられる.その一方で,椎間板研究には様々な障壁が存在し,過去20年,順調であったとは言い難い.

 腰椎椎間板は人体最大の無血管組織であるがために,その再生能力には大きな限界がある.ヒトの髄核にはわずか6,000個の細胞しか生存していないとされる.無血管に伴う低酸素・低栄養状態ではこれくらいの細胞数しか維持できないのであろう.また逆に,髄核細胞はこの環境に適応し高度に分化した細胞であるともいえる.このわずかな数の細胞が,細胞外基質の塊のような大きな椎間板の恒常性を維持しているというところに,そもそも無理があるように思えて仕方がない.また,理想的な椎間板変性モデルの作成が難しい.臨床をよく反映した動物モデルに乏しく,また作成にも技術を要するものが多い.さらにいうと,in vitroや小動物ならともかく,上記の環境に伴う必然として椎間板の基質はvery slow turnoverとならざるを得ない.その結果,何らかの治療に伴う生物学的な効果が,形として認識されるようになるためには非常に時間がかかる.

椎間板変性と疼痛 宮城 正行
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 椎間板は腰痛の原因組織として考えられているが,通常の加齢性の変化で起こる椎間板変性が必ずしも慢性化する腰痛を来すわけではない.過去の基礎・臨床研究結果から,椎間板変性の過程で起こる椎間板内層への神経侵入と神経感作,椎間板内に発現する疼痛関連物質,椎間板に加わるメカニカルストレスが椎間板由来の慢性的な腰痛の発症において重要と考えられる.そのため,椎間板由来の腰痛の慢性化を防ぐためには,腰痛急性期における適切な安静と適切な薬物治療により,慢性化する前に最大限“芽を摘む”ことが重要なのではないかと筆者は考えている.

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 椎間板は無血管組織ゆえの物理的バリアーと免疫学的特権を有する組織である.椎間板変性の過程で宿主免疫に曝露され,炎症反応を生じる.宿主免疫の中でも,マクロファージと椎間板組織との相互作用は,TNFα依存性炎症(IL-6,PGE2産生)とTNFα非依存性炎症(IL-8産生)を生じ,疼痛関連行動を惹起していた.椎間板変性と炎症をマクロファージと椎間板の相互作用とそれによって起きる炎症を中心に解説する.

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 超高齢社会による運動器疾患患者の増加に伴い,椎間板治療の重要性はさらに増えており,医療経済的な視点からも早急に椎間板変性に対する新たな治療方法が求められている.我々は基礎的研究で,酸化ストレスが椎間板変性に関与し,抗酸化剤N-acetylcysteine(NAC)投与は椎間板変性を抑止することを明らかとした.今後,椎間板変性に対する新規画像評価法のQ-space imaging(QSI)を用いて,椎間板変性に対する抗酸化剤NACの効果を臨床研究として進めていく.

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 椎間板変性は椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄,背椎すべり症などの背椎変性疾患のトリガーになりうるが,椎間板変性発症の分子生物学的機序についてはいまだ不明である.椎間板細胞は特異的な微小環境(ニッチ)で生存かつ適応するために独特の制御機構を有するが,そのうちこれらを制御する分子生物学的シグナルのなかでも古典的Wnt/β-cateninシグナルが注目されてきた.これまでの研究からWnt/β-cateninシグナルは椎間板の発生過程や変性過程において重要な役割を果たしていることがわかってきており,今後の椎間板変性に対する治療標的になる可能性が示唆される.

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 椎間板障害に対する治療は,従来,脊椎固定術や摘出術などの外科的治療が普及し,一定の成果が確認されているが,病因に対する直接的なアプローチではないことから,椎間板変性に対する根本的な新規治療法が期待されている.これまで,髄核細胞のアポトーシスを抑制することで椎間板変性治療を行う研究を進めてきたが,脊椎外傷に伴う椎間板傷害に対して,一過性にアポトーシス最終実行因子であるcaspase 3の発現を抑制するような分子標的治療法が根本的な新規治療法となる可能性が高いことが明らかとなってきた.

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 椎間板変性は腰痛の主たる要因の1つである.椎間板の解剖・生化学的特徴から自食作用「オートファジー」とその調節を行う「mTORシグナル経路」が椎間板細胞の恒常性維持に重要であると仮説を立てた.本検討からオートファジーがヒト椎間板髄核で細胞死や老化を抑制しており,mTORシグナルへの選択的な干渉がオートファジーの誘導を介して炎症刺激に抗して椎間板細胞保護作用を来すことが判明した.mTORとオートファジーの制御は細胞自身の清浄・治癒力を高めて疾患の進行を抑制する,生理的な治療・予防法となる可能性がある.

椎間板変性治療:抗VEGF・MMP 大場 哲郎
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 椎間板変性メカニズムにサイトカインが深く関与していることは古くから研究されており,原因サイトカインの同定は新規治療ターゲットとして有効であり,抗サイトカイン療法として期待されてきた.その中でも血管新生や軟骨基質の分解メカニズムに深く関与するサイトカインである血管内皮細胞増殖因子(VEGF)とマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)はtarget moleculeとして注目されてきた.まだ臨床応用には至っていないが,これまでに多くの研究が報告されている.本稿では当科の研究成果に文献的考察を加えて述べたい.

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 椎間板変性は炎症性サイトカインの異常発現を基盤とした組織変性が原因と考えられており,組織断裂に伴う疼痛や変性疾患の発症に関連する.多血小板血漿(PRP)は血小板に含まれる多種のサイトカインや成長因子を高濃度に含有しており,組織再生に臨床応用されている.我々は活性化PRPから得られた上清(PRP上清)が椎間板細胞を活性化し,細胞増殖および基質合成が促進することを報告した.基礎研究結果をもとに椎間板性疼痛患者に対する自己PRP上清注入治療の臨床試験を行い,PRP治療の安全性および予備的な疼痛の改善効果に関して報告する.

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背景:肩関節疾患における夜間痛の一要因である肩峰上腕骨頭間距離(以下,AHD)の狭小化について,夜間痛の発生しやすい背臥位と,抗重力位である端座位を比較してAHDの評価を行った報告はない.

対象と方法:健常成人男性21例に対し,超音波検査で肩峰と上腕骨頭を描出し,背臥位と端座位でのAHDを比較した.

結果:端座位と比較し,背臥位でAHDは有意に減少していた.

まとめ:夜間痛を有する肩関節疾患に対して,背臥位でAHDの狭小化が生じるため,就寝時のポジショニング指導が必要であると考える.

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背景:今後は大腿骨近位部骨折患者の高齢化が予測されるため,転倒予防対策として超高齢者の転倒の特徴を知ることが必要である.

対象と方法:85歳以上の大腿骨近位部骨折患者246例(男性53例,女性193例)に対して,転倒状況(時間帯,場所,原因)の聞き取りを行った.原因は内的要因と外的要因に分類した.

結果:屋内転倒が79.3%を占め,そのうち71.3%が居間と寝室であった.段差や障害物など外的要因による転倒は31.3%に過ぎなかった.

まとめ:転倒予防対策として身体能力に応じた運動療法の介入が奨励される.

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はじめに—痙縮とは?

 痙縮は,中枢神経の障害によって錐体路系や錐体外路系に対する抑制機構が不十分になると生じる上位運動ニューロン徴候の1つである.筋緊張の異常亢進が生じ,筋の伸張性や随意運動の自由度が損なわれる.これにより患者・家族は日常生活上の様々な弊害を被る.また,痙縮を患う期間が長いほどその弊害の重症度も高まる傾向がある.筋緊張の亢進状態には痙縮,固縮,ジストニアなどのタイプがあるが,臨床で診る痙縮はこれらが重複している状態が多い.

整形外科/知ってるつもり

肉離れの新しい治療 世良 泰 , 松本 秀男
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はじめに

 肉離れは中高生から高齢者まで幅広くみられる疾患である.特にスポーツ動作に伴って大腿部や下腿部に起こることが多く,肉離れの多くは保存治療が行われる.スポーツ復帰については特に適切な初期治療が重要であり,プロスポーツ選手ではいかに早く復帰できるかが問われる.

 本稿では肉離れの機序から基本的な治療,そして最近行われている新しい治療について解説する.

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特発性大腿骨頭壊死症とは

 特発性大腿骨頭壊死症(osteonecrosis of the femoral head:ONFH)は,大腿骨頭が虚血により壊死する原因不明の難病であり1),具体的な本症の発生機序,すなわち虚血のメカニズムは解明されていない.壊死部が圧潰すると変形性股関節症へと進展し,股関節痛や機能障害を引き起こす.日本全国で毎年3,000人程度の新規患者が発生し,20〜60代の青壮年に好発する2)

 疫学研究によりステロイド治療やアルコール飲酒が本症発生と関連することが判明している(ステロイド関連ONFH・アルコール関連ONFH)が3),これらと関連なく本症を発生する患者も存在する(狭義ONFH).また,ステロイドやアルコールなどの関連因子を有する人が皆本症を発生するわけではなく,疾患感受性(病気のなりやすさ)には個人差がある.ゆえに,本症は多因子遺伝病であり,環境因子(ステロイドやアルコール)と遺伝因子の相互作用により発生すると考えられている.

境界領域/知っておきたい

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筋萎縮性側索硬化症の概略

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral screlosis:ALS)は,主に中年以降に発症し,一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である.病勢の進展は比較的速く,人工呼吸器を用いなければ通常は2〜5年で死亡することが多い.日本におけるALSの発症率は,1.1〜2.5人/10万人/年であり,有病率は7〜11人/10万人と推定されている.ALSのうち約5%は家族歴がある1)

 ALSは発症様式により,①上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で,下肢は痙縮を示す上肢型(普通型),②構音障害,嚥下障害といった球症状が主体となる球麻痺型,③下肢から発症し,下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ,二次運動ニューロンの障害が前面に出る下肢型の3型に分けられることがある.これ以外にも,呼吸筋麻痺が初期からみられる例や体幹筋障害が主体となる例,認知症を伴う例もある.上肢型は頚椎症との鑑別が問題となり,下肢型は腰椎症との鑑別が問題になる.

骨転移リハビリテーション 林 克洋
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骨転移症例の治療方針

症例1(図1a)

 胃癌の既往のある75歳女性.右肘の腫脹,疼痛を3カ月前から自覚していたが放置していた.整形外科受診時,肘可動域−60°〜90°,疼痛著明で廃用肢となっていた.X線像では尺骨頭に大きな骨透亮像を認め,上肢全体に骨萎縮となっていた.骨シンチグラムでは多発骨転移が指摘された.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・3

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 さて前回は,ワープロを立ち上げる前に済ませておく至極当然な準備を,私見を交え述べました.今回から数回にわたり,英語論文を書くにあたっての作法をご紹介します.指導医・principal investigator(PI)からすれば当たり前のことばかりですが,こうした作法をまとまった形で指導・教育されることはないのではないでしょうか? しかし,これらがあまりにできていない原稿に遭遇すると,校閲する気が一気に萎えます.指導医・PIに“てにをは”の修正をさせるのはもったいないです.もっと彼らの知識,エネルギーを有効活用してください.

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 当院側弯症外来患者の受診契機とその内訳を明らかにした.学校検診が発見理由として最も多かったが,検診以外での指摘も一定数存在していた.特に保護者からの指摘による受診症例は初診時点のCobb角が大きい症例が多かった.また側弯指摘後1年以上適切なフォローを受けずに当院側弯症外来を受診した群では,そうでない群と比較し有意にCobb角が大きく,40°以上の割合も有意に多かった.今回の情報を共有し,検診精度の向上や保護者でもできる簡便なスクリーニング方法の啓発,専門医への早期受診の意識付けが必要である.

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欧文目次

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 手術にかかわる外科系若手医師にとっての最大の関心事は,毎日訪れる手術を安全に乗り越え,執刀件数を増やすことではないかと思います.私自身ももちろん同様の思いで20年近く手術技量を磨くべく邁進してきたつもりです.ところが最近になって「自分の行っている手術が本当に患者さんの恩恵につながっているのだろうか?」とふと考えることがあります.このような“壁”にぶつかる外科医は少なくなく,その場合,カルテ記載を調べ自分の行ってきた手術成績を検討する,いわゆる“後ろ向き研究”を行い,満足(安堵)しているのではないでしょうか.私を含め手術技量の向上に注力し,臨床研究について系統的に学ぶ機会がなかった外科系医師にとっては,それしか方法がないといっても過言ではないと思います.

 本書『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』は,臨床研究とは何か,Research Question(RQ)の整理の仕方,研究デザインの構築などといった臨床研究の基本的な考え方から,バイアス,交絡因子のコントロールの方法,またわれわれが絶対的な指標と信じているp値,多変量解析に潜むわななどについて非常にわかりやすく,系統的に解説されています.特に本書第4章に記載されている論文作成の方法は秀逸で,初めて原著論文を書く若手医師のみならず,いままで何本も論文作成を行ってきた医師にとっても目からうろこの内容であり,臨床研究に興味がない方にとっても必見の価値があると確信します.また最後には昨今話題になることが多い研究不正についても言及されており,著者である本多通孝先生の臨床試験に対する熱い思いを感じられる内容です.

次号予告

あとがき 山本 卓明
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あとがき

 「55番の方,3番診察室へお入りください」.9時に来院し,待つこと1時間半,ようやく診察が始まりました.親族の1人に健康診断で異常が見つかり,年齢は80歳を超え,歩きもおぼつかなく,杖も必要,字もよくみえないようで,一緒に受診することにしました.

 病院につくと,まず受診する科の受付場所がよくわかりません.何とか担当科にたどり着くと,3枚つづりの問診票を渡されました.私が音読しながら一緒に格闘すること10分,受付に提出後,番号表が渡されました.後は,呼び出しモニターで番号が呼ばれるのを待つだけです.ただ,モニターには,現在診察中の番号しか表示されません.次に呼ばれるかもしれないと思うと,読書にも集中できず,トイレにも行きにくい状況です.看護師による再度の問診後,さらに待ち,診察となりました.新患患者さんは,このような多くのステップと待ち時間を経て,診察室のドアを開けておられるのだと改めて実感しました.

目次

基本情報

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臨床整形外科
53巻11号 (2018年11月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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