臨床整形外科 25巻3号 (1990年3月)

シンポジウム 予防処置導入後の乳児先天股脱

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 第28回小児股関節研究会の主題に「予防処置導入後の乳児先天股脱」を取り上げた.これは第27回研究会における主題「Rb法の限界」の延長線上にある問題である.先天股脱に対する予防は諸氏の努力により全国的に行き渡っている.むしろ新生児検診よりも普及している.しかしその結果としての先天股脱症例の減少で満足できるものであろうか.子防処置導入後の乳児先天股脱の現況はどのようになっているのであろうか.前年に行われた討論をさらに発展させていただいた.

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 抄録:一地域における先天股脱の発生頻度を,就学児童全員を対象に,先天股脱予防処置導入徹底前後の10年間調査し,これらの児童の出生時期に行われた新生児検診の結果と比較検討した.先天股脱の発生頻度は予防処置導入前の2.87%から導入後の1.20%へと減少していた.この発生頻度の推移は新生児先天股脱の発現率と平行して減少を示すものであった.減少率は臼蓋形成不全のような軽度の異常に著明であり,脱臼・亜脱臼も減少させるが減少率は劣っていた.

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 抄録:乳児先天股脱の成因と脱臼を伴わない非対称性開排制限との関係を知る目的で,1984年から4年間に当院で出生した3053例の中で認められた乳児先天股脱21例(0.7%)と開排制限540例(17%)を中心に検診結果と追跡結果(最長5年,平均1年6カ月)を調査分析した.乳児先天股脱は5例が脱臼,16例が亜脱臼であり前駆症状として95%に開排制限を認め,その程度は66%が10°以下であり完全脱臼は全例10°以下であった.一方,開排制限の95%は自然治癒し,5%に乳児先天股脱が発症した.しかし周産期要因の分析と臨床像から乳児先天股脱の成因に開排制限は関与せず遺伝的因子と生後環境因子の関与を認めた.一方,開排制限を先天性と後天性に分類し同様の検討をした結果,その成因として前者は母体内環境因子と遺伝的因子が関与し,後者は生後環境因子が主に関与していた.乳児先天股脱の診断には前駆症状である開排制限をその程度にかかわらず検出する事が必要である.

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 抄録:予防処置導入後の乳児先天股脱の病態を知るために,その発生率と整復率を調べた.1972年より1988年までの長崎市における出生数と乳児先天股脱との比は,1972年には0.63%であったが,その後漸減し1988年には0.22%となった.また,乳児先天股脱173股のRB整復率を3年ごとに見ると,1972~1974年では86%であったが,1985~1988年では70%と低下した.しかし,整復不能例の絶対数は年間2.4股で年度別の変動はなかった.RBで整復されなかった例のうち,観血整復が必要であったものは,1972~1981年にはなかったが,1982~1988年には6例であった.予防処置導入によって,軽症例が減少したため乳児先天股脱の発生率は減少し1000人中2~3人となったが,難治性先天股脱の問題点は依然として存在しているといえる.

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 抄録:予防活動普及前後の先天股脱症例の変遷を知る目的で昭和49年より63年までの15年間に当科で初期治療を行った症例について,予防活動普及前の第1期(49年~53年),普及前後の第2期(54年~58年),普及後の第3期(59年~63年)の5年間隔で検討した.49年より59年まで症例数は漸減し,60年以後はほぼ同数で,第3期の症例数は第1期のおよそ3分の1であったが,各期を通じて寒冷期の発生数が明らかに多かった.RBの初回整復率は第1期83.7%,第2期84.8%,第3期69.2%と第3期において低下し整復難航例の占める割合が増加していた.補正手術の行われる頻度は整復時期が遅くなるほど高くなり,1歳1カ月以上で整復されたものは41.3%に施行されていたが,これら24例中20例は乳児検診で異常を指摘されておらず検診での見逃し例と考えられた.今後の課題としては,予後不良例の多い年長整復例を減少させるため現在行われている検診制度の改善が重要であると考える.

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 抄録:先天股脱予防運動の浸透にともない,発生率の低下と共にRb.による整復率が最近減少傾向を示している.1969年から1978年までの126関節を先天股脱予防処置確立前の群,1980年から1988年までの115関節を予防処置確立後の群として,生後6カ月未満初療例の年代的な比較検討を山室のa値を用いて行った.その結果予防処置普及後の症例において,それ以前のものと比較し脱臼度の軽度な症例が減少し(14.3%→5.2%),脱臼度の高度な症例が増加して(0.8%→13.0%)いた.すなわち先天股脱予防処置の導入は,脱臼度の軽度な症例に対して有効に働き,その発生率を減少させていた.一方,最近は,脱臼度の高度な先天性,奇形的要素を有する先天股脱例が増加していると考えられる.また,Rb.による整復率は予防処置普及後の生後2カ月児で(96.4%→68.8%)減少していたが,脱臼度の変化との相関は見出せなかった.

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 抄録:我々は千葉県松戸市において1977年から,オムツのあて方等の育児法の指導を基本とする先天股脱予防処置の普及に努めてきた.予防処置導入以前の1973~77までの5年間(前期)と,定着した1979~88までの10年間(後期)でのCDHの発生状況,治療内容の変化を比較し,後期群の異常児の発生に育児法がどの程度関与しているか分析を試みた.対象は満3カ月股関節検診で直接検診を行った前期群10540名,後期群16695名の乳児である.前期群に脱臼57例0.54%,後期群に41例0.22%の発生を認め,予防処置導入後明らかにいわゆる乳児先天股脱の減少を見た.後期群の股脱発生の分析では,乳児期の育児法はあまり関与しないという結果を得た.またRbによる整復不成功率は年々上昇しており,open reductionを余儀なくされる症例の絶対数は1973年以来一定している.予防処置の導入で本来の意味での先天性股関節脱臼というものが輪郭をあらわしてきたものと考える.

視座

A Follow-up Study 井上 明生
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 「背信の科学者たち」(W.ブロード・N.ウェード著,牧野賢治訳,化学同人刊)を読んだ.科学者といわれる人たちの欺瞞に満ちた非科学的な仕事を列挙したものであるが,それが意識的になされた場合は犯罪である.

 しかしながら,それがしばしば無意識になされていることがある.いろいろの例話がでている.ハーバード大学の心理学者ロバート・ローセンサルが一つの実験を行った.かれは心理学を専攻する学生たちに,二つのグループのネズミを研究用として与えた.一つは,迷路を走り抜けるための特別な訓練を受けた“迷路に明るいグループ”であり,一方は“迷路に暗いグループ”で生まれつきのろまなネズミであると告げられていた.こうして学生たちに二つのグループが迷路を走り抜ける能力実験が命ぜられた.その結果は,「迷路に明るいネズミ」が「迷路に暗いネズミ」よりも,はるかに速く走り抜けるのが確認された.

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 抄録:腰椎椎間板ヘルニア患者143例を対象としてキモパパインによる椎間板内注入療法を実施した.最終的な改善率は82.3%(102/124)を示し,自覚症状,他覚所見,日常生活動作のいずれにおいても改善が認められた.副作用は4.2%(6/143)に発現したが,いずれも軽度で重篤なアナフィラキシーまたは神経学的副作用は認められなかった.厳密に対象患者の選択を行い,かつ適切な手技を用いるとき,本療法は腰椎椎間板ヘルニアの治療に対して高い有用性を持つと考えられた.

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 抄録:著者らが1982年以来行ってきた,自家膝蓋腱および大腿四頭筋腱を用いた膝前十字靱帯再建術式の詳細を報告する.手術は前外側皮切で行う.大腿四頭筋腱および膝蓋腱より,膝蓋腱中1/3幅で長さ約15cmの,脛骨粗面で脛骨に付着した長方形の移植腱を採取する.大腿四頭筋腱部を前額面で2枚のflapに切離して1枚を反転し,膝蓋骨部を補強しつつ筒状に形成する.関節内へは経膝蓋腱進入法で進入し,脛骨側骨孔を作製する.次いで腸脛靱帯に縦切を加え,示指で後方関節包を介して大腿骨側のisometric pointを触知する手技を用い大腿骨側の骨孔をあける.移植腱を両骨孔に通し,isometryを確認した後に十分な張力を与えspiked stapleで大腿骨外側へ固定する.術前より採形しておいた北大式膝装具を装着し手術を終了する.臨床的および関節鏡学的経過観察において,良好な3~7年成績が得られている.本再建術式は応用可能な多くの長所を有している.

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 抄録:近年,軟部および骨の線維性組織球性腫瘍についての研究が発展し,軟部のものは既にその概念が確立された感があるが,骨原発のものについては尚不明な点が多い.特に良性線維性組織球腫(BFH)については,日整会骨腫瘍分類に独立した項目がなく,取扱いが不明である.骨原発のBFHの代表的なものは非骨化性線維腫(NOF)であるが,BFHはNOFと基本的には同性状の細胞成分で構成され,ほぼ同様の組織像を示しながら,臨床的には異なる症例に遭遇することがある.我々の施設でも,このような症例を6例経験したが,その中4例はなんらかの原疾患があり,二次的変化としてのBFHの像と考えられた.他の2例は臨床的にNOFとは異なり,骨の原発性BFHと思われた.骨のBFHを原発性のものと二次性のものとに区別し,NOF以外に骨原発のBFHがあることを報告し,その概念の確立を試みた.

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 抄録:我々が1976年から1988年まで観血的治療を行った大腿骨転子下骨折は38例あり,追跡調査可能だったのは32例であった.内固定具はcompression hip screw(以下CHS)15例,Jewett nail 7例,Endernail 5例,A-O condylar plate 3例,Kuntscher nail,K-U plate各1例ずつである.一次性に骨癒合が得られたのは32例中27例(84%)であり,合併症として内固定具の破損が2例,抜釘後の再骨折が1例,変形治癒が7例あった.これらの検討の結果,大腿骨転子下骨折の治療法は,骨折線が転子間から転子下近位部にわたる骨折にはCHS,転子下部及び転子下から骨幹部に骨折線がわたる骨折にはA-O condylarplateを使用し,内側部の安定性が得られない例では骨移植を加え荷重を遅らせる方法が望ましいと考える.ただし,CHSの場合には内側部にgapがあってもlag screwがsliding可能な骨折型であれば骨移植の必要はない.

整形外科を育てた人達 第80回

Leo Mayer(1884-1972) 天児 民和
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 手の外科で大切なのは指を動かす腱の取扱いであるが,Leo Mayerは腱の解剖・生理から手術まで研究をして手の外科の基礎を造ったと言っても過言ではないと思うので,Leo Mayerの伝記を紹介することにした.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

膝前十字靱帯損傷の手術 守屋 秀繁
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はじめに

 ACL損傷は,それ自体で膝の安定性を大きく失いスポーツレベルの維持に困難を生じ,さらにそれを放置したままスポーツ活動を続けた場合,早期に非常に高頻度に半月板損傷や2次性変形性関節症変化を惹起する.従ってACL損傷の診断や治療には特別な注意を払わなければならない.

認定医講座

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関節の拘縮と強直

 関節の可動域の制限はいろいろの原因で起こる.関節包外の軟部組織に原因がある場合を拘縮(contrac―ture)という.一方,関節包内の骨や軟骨などの関節構成体に原因がある場合を強直(ankylosis)という.しかし,変化が次第に関節包の内外に及ぶと一次的原因が拘縮か強直か区別がつかない.

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 化学療法の発達により骨関節感染症は治療しやすくなり,急性化膿性骨髄炎はもはや致死的な疾患ではなくなった,しかしなお,慢性骨髄炎は手術療法なしには根治できず,又骨関節感染症の病態は変貌し,その診断や治療において,適切な対応がせまられている.

 骨関節感染症における変貌としては,①血行性感染の減少と外因性感染の増加,②激症型感染の減少と非定型的発症の増加,③免疫能減弱個体の増加による弱毒菌感染症の増加,などがあげられる.その原因として,社会環境の変化,栄養状態の向上,医療技術の進歩などで,特に化学療法が最大の要因であると考えられる.これに伴って,薬剤耐性菌や菌交代現象などの問題が生じている.

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 抄録:大腿骨顆上部開放粉砕骨折は最も治療に難渋する外傷の一つである.今回我々はその2症例を経験したのでここに報告する.症例は37歳女性と46歳男性であり,両症例とも交通事故による受傷であった.治療経過としてまず開放創に対する処置を行い,炎症の消退を待った.次に骨片の脱出やde―bridementで生じた骨欠損部に対し,腸骨や腓骨を用いた自家骨遊離骨移植を行い,Wagner創外固定器にて固定した.両症例とも術後膝関節機能の問題は残したが骨癒合は良好であり,ほぼ満足できる結果が得られたと考える.

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 抄録:infiltrating angiolipomaは1966年Gonzalez-Crussiらがその概念を提唱した稀な良性間葉性腫瘍である.この腫瘍は良性でありながら,その浸潤性のゆえに治療に難渋する場合が多い.我々は,局所再発のため4回の摘出術を施行し,現在も厳重に経過を観察している1例を経験したので報告する.

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 抄録:fibrous dysplasiaは線維性骨病変を示す良性疾患である.このうちpolyostotic typeは約20%にみられるが脊椎病変が問題となる例は極めて稀であり,著明な後側彎変形に対する手術報告はない.症例は,亀背を主訴とした34歳の女性である.脊柱は側彎20度・後彎142度で,T9からT12にかけて嚢腫様変化に伴う椎体の圧潰と前方の骨癒合がみられた.本症例に対し変形の矯正と進行防止を目的として前方解離・固定術及び後方固定術を施行した.術後8カ月を経た現在,後彎は118度に改善し,lossof correctionもみられない.

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 抄録:症例は73歳,男性.不整脈の治療のため埋没鍼の治療を行っていた.左半身のしびれを主訴として来院し,数度の神経根ブロックにも関わらず症状が消失しなかった.頸部単純X線写真及び,頸部CTにてC3-4に伏鍼を認めた.片開き式脊柱管拡大術を施行し,術中エコーで硬膜外より鍼を確認し開放する脊椎レベルを決定した.鍼は左後方より刺入され,硬膜を貫き脊髄に刺入していた.長さは約3cmだった.術後,シビレ感は軽減した.

追悼

山田憲吾名誉教授
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御略歴

本籍 新潟県北蒲郡中條町大字中條1771番地

現住所 徳島市佐古7番町1-24-9

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 恩師山田憲吾先生は,平成2年1月19日午後忽然として逝かれました.正に晴天の霹靂というほかありません.78歳の御生涯に残された足跡は誠に偉大なるものがあります.昭和29年9月徳島大学医学部教授に御着任されて以来,整形外科学教室の内にあっては熟察して明を開き,発想を転換され,外にあたっては才気換発し,臆せず迷わず不屈の努力を尽くされました.そのおすがたは実に強烈で人心を捉え,私共門下生はもとより先生を知る多くの人々から斉しく畏敬と共感をもって迎えられてきました.

 先生は普遍なるものへの追求を学問の使命とし,脊椎カリエスに対する病巣廓清術ならびに腰椎椎間板ヘルニアの病態と治療は着任時,既に大成されていました.後に,脊髄損傷の治療方針の確立,さらには脊柱側彎症の成因として平衡機能異常の実証,それに立脚した治療ならびに対策としての学校検診制度を練り上げるなどを加え,脊椎外科に不朽の金字塔を打ち立てられました.関節外科にも挑まれ,特筆される関節硬着に対する滑動装置再建術を創始されました.リハビリテーションの方面,特に筋ジストロフィー症の装具やサリドマイド児の電動義肢で画期的な研究を物にされるなど,独創性に根差した業績は数限りないものがあります.

基本情報

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臨床整形外科
25巻3号 (1990年3月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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