胃と腸 9巻2号 (1974年2月)

今月の主題 食道・腸の生検

主題

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 食道の直視下生検にはbitebiopsyが広くおこなわれているが,硬性直達鏡では,管腔の大きさが8~9mmもあり,生検鉗子も径5mmと太く,先端の鉗子盃も大きいものを使うことができ,組織採取片の大きさも,切離する力も十分で,診断に適した組織片を採取することが可能である.

 一方,食道ファイバースコープに用いるものは,スコープの鉗子孔がほぼ3mmと小さいので,鉗子の径も2.2mmで,先端の鉗子盃部分も2.2×2.5×1.0mmと小さく,把持できる組織片の大きさと,組織を切断する力とに,まだ問題が残されている.

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 最近の内視鏡検査法の進歩は目覚しいものがあり,十二指腸病変についても明るい視野で十分に直視下観察が可能になってきた.それだけに直視下生検診断が単に質的診断の最終的役割を果すに止まらず,各種の十二指腸疾患の病態解明の上に多大の期待が寄せられていることも当然である.しかし,何といっても胃に比べて十二指腸には悪性疾患はまれであり,日常診断上生検を不可欠とする症例は少ない筈である.発見した病変の良,悪性の決定という役割よりも,むしろ内視鏡的異常所見の病理組織学的解明のための生検例が多くなるものと思われるが,本稿においては,教室における十二指腸疾患に対する生検診断の実態について述べ,併せて今後の問題点を指摘したい.

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 空腸および回腸の生検は歴史的には十二指腸の生検とほぼ同時期に始められた.すなわちShinerによって1956年にはじめてDuodenal Biopsy Tube1)が発表されたが,これに続いて同じ年内にJejunal Biopsy Tube2)も発表されている.その後はCrosby3),Rubin4)をはじめ多くの人々5)6)7)8)9)10)11)12)によって小腸の生検器具が作製されているが,これらの器具はいずれも生検の可能な範囲を十二指腸に止まらず,空腸以下に及ぶものとしている.しかしながら近年始められた内視鏡を用いて行う生検では十二指腸が内視鏡の完成によってすでに日常の臨床に利用されているのに対して13),空腸以下を観察の範囲とする小腸鏡は未だ試作の段階に止まっているため14)15)16)17),生検もまた実用化の域に到っていない.本稿では空腸より下部の小腸の生検に関する基礎的事項,生検器具と実施手技および生検材料の扱い方について述べるとともに2,3の症例を提示する.

大腸の生検診断 酒井 義浩
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 大腸fiberscopeが登場してほとんどの症例で回盲部まで挿入しうるようになり,補助診断としての精密度を確固たるものとした.すなわち直視下に観察するということよりもむしろ生検を同時に併用しうることにその有用性が存在した.採取される組織は通常8mm3程度のものであるが,粘膜下層の一部までを含有しうるので,一部の直腸・大腸疾患を除いて,その診断的意義は著しく高い.胃におけるそれとは異って内視鏡像のみから明確な診断を下せない現状では生検を欠く大腸fiberscope検査は多くの場合X線検査に似て精密検査となりえないのである.したがって生検は病態に対する必須の検索であり,大腸fiberscope検査の一部として常に存在するものである.

 著者は昭和44年5月以来大腸fiberscope検査1,100回を行なってきたが,その際の生検についていくつかの問題点をあげ,通覧的に各種の直腸・大腸疾患における生検の意義について述べる.更に組織診断という観点から従来の鉗子生検だけでなく,さまざまな新たな方法を用いて病巣または粘膜の一部を採取する広義の生検が登場してきているが,その是非は別としてそれらも簡略に紹介する.個々の病理学的所見に関しては多くの成書に譲ることとし本稿では触れない.

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 最近における消化管の内視鏡診断およびX線診断の進歩には目覚しいものがある.大腸においては,結腸ファイバースコープの開発により右側結腸の観察,生検がルーチン化されるとともに,X線診断の側では,ジャイロ式万能型X線テレビ装置の開発により従来盲点であったS状結腸,盲腸,上行結腸の二重造影が容易となった10).これら検査法の進歩は,単に病変の存在診断のみならず,質的診断をも向上させている.したがって,現在では病変の総合診断のためにきわめて豊富な情報を得ることができるようになった.

 ひるがえって,生検は一般的にその目的とする対象によって評価の仕方を変えなくてはならない.すなわち,炎症性疾患と腫瘍性疾患では生検が提供する情報は量的にも質的にも異なっている.炎症性疾患,たとえば潰瘍性大腸炎における生検は厳密には診断のための決め手とはならないし,また,大腸結核の場合にも生検によってつねに結核結節を含む組織片が採取されるとは限らない.したがって,炎症性疾患の揚合の生検の価値はあくまでも他の検査による情報と同格に扱われなければならないと同時に,全検査の結果を総合したうえでの判断を生検の所見と比較することが必要である.一方,腫瘍性病変の場合の生検では,その評価の仕方に多様性を持たせなくてはならない.まず第一に,生検で癌陽性であるものは,他の情報が何であれ,癌が存在する.しかし,生検で癌陰性というのは,癌が存在しないかまたは,癌の部位から組織片が採取されていない,との2つの場合がある.ここに,生検の技術的な問題の入り込む余地がある.第2に,生検の情報が十分であるにもかかわらず,癌か非癌かの判定の困難な場合がある.良性腺腫性ポリープ,境界領域,癌とつらなる連続的な異型性といわれる所見を生検組織片上でどのように判断するかというきわめて困難な問題が提起されてくる.そして,この問題はさらに,癌の診断基準とは何かという問題をも改めて提起することになる.

胃と腸ノート

Schatzki Ring 小林 世美
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 Plummer-Vinson(Patterson-Kellyともいう)症候群では,食道上部にwebが存在し,嚥下困難の原因になることはよく知られている.これとよく似たweb様のものが,食道下部にも発生し,嚥下困難の原因となる.中でも著名なのは“Schatzki ring”である.1953年Schatzkiによって記載されたので,彼の名を冠して呼ばれている.通常横隔膜の4~5cm上に位置し,固定されている.このRlngの直径如何が嚥下困難の有無を決定する.Schatzkiによれば,13mm以下の場合症状が発現し,25mm以上の際は無症状で,13~25mmの場合は,食物の種類,形により症状があったり,なかったりする.大きな肉片を食べた後におこるのを“Steakhouse症候群”と呼んでいる.ルチンの食道造影でどの位の頻度にみつかるか? Kramerは,症状のない100人の食道造影で,6人にSchatzkiのRingを発見したというが,私共の日常臨床では,極めてめずらしい.診断は,自覚症状,食道X線検査,内視鏡検査等により大して困難ではない.写真は自験例を示す.レントゲン(図1)ではRingによるスムーズなくびれが,対称性に両側から入っているのがみられる.描出には下部食道を十分伸展させることが必要だ.内視鏡診断は,従来の硬性食道鏡では難かしかったが,ファイバースコープによれば(図2),Ring近傍の上下を空気で適当にふくらますことが可能で,全周性の輪状の粘膜突出がみられ,スコープの挿入によるも,この部位の径は固定不変で,開閉運動がおこらない.

 このRingは,組織学的に一体何物であろうか.Mac-Mahonらの報告では,このRingの上半をおおう粘膜は,食道の扁平上皮で,下半には胃の腺上皮を認めている.固有筋層の肥厚はなく,粘膜筋板の肥厚と粘膜下組織での結合織の増殖がみられた.自験例でも,このRingの下方からの生検で,胃粘膜を,上方から食道上皮を得た.つまりRingは,食道胃粘膜接合部にある.レントゲン所見では,Ringがあれば,そこにはHiatus herniaの存在を意味する.

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 Gastric diaphragm1)という言葉をきいた人はずいぶん多いと思う.duodenal diaphragm2)というのもある.Bockusにはprepyloric septum,Demlingらの内視鏡の本3)にはAntrummembranとあるし,またCongenital antral membrane4)という論文も2,3知っている.

 Gastric diaphragmとは要するに胃の幽門洞に“膜”が存在するという先天性の奇形である.その膜は粘膜下層とそれを両側からおおっている粘膜とからなっている.時には粘膜筋板もふくまれている.それが存在する部位は幽門輪のこともあるが,しばしばprepylorusにあって,pylorusから1.5~7.0cmの部位の範囲にあり,とくに1.5~2.5cmに認められることが多い.prepyloric septumとかantral membraneといった同義語はそれを現わしている.

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 本症例は幽門輪附近のⅡc型早期胃癌であるが,共存した胃角部の大きな潰瘍性変化のために見直されたもので,それまでに少なくとも2年以上を経過したと思われる.

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 1962年の第4回日本内視鏡学会総会にて早期胃癌の肉眼分類が提案されたが,その時点においては“周辺正常粘膜と同じ高さを示している癌”と定義されたⅡbは,臨床的に術前に診断を下すことのできる可能性はきわめて低く,病理組織学的検索にてはじめて診断が可能の病変と一般的に考えられていた.しかし近年の胃X線診断,内視鏡診断,胃生検などの進歩はめざましく,Ⅱb病変の報告は年を追って増加している.

 1971年の第13回日本内視鏡学会総会においてはⅡbがシンポジウムにとり上げられ,Ⅱb病変が典型Ⅱb,類似Ⅱb,随伴Ⅱbと分けられ,臨床的に術前診断がどの程度まで可能であるかが検討される段階にはいってきた.われわれは術前に類似随伴Ⅱbの診断をしえた早期胃癌の1例を経験したので報告する.

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 現在の早期胃癌の診断は一部の病変,たとえばⅡbとか微小胃癌(<1cm)を除けば,ほぼ満足すべき成果を挙げているように思われる.しかしなかには通りいっぺんの検査ではしばしばその範囲までも含めた正確な診断のむずかしい症例もある.このような症例やⅡbないしは微小胃癌に対して,なんとかこれらを簡単に診断できるような方法はないものかと多くの努力が払われているが,まだその実状は悲観的である.

 内視鏡的色素着色法1)~4)はこのような見地から少しでもこの壁を打破しようとする意図のもとに試みられている.本症例の病変は幸いにもこの着色法によりきわめて著明な着色を示し,この診断を一層容易なものとした.そこで本症例の診断経過,組織学的特徴を示すとともに,この色素着色法についても触れてみたい.

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 内視鏡検査法の発達とともに,X線検査法では診断のむずかしい,微細な凹凸を伴う小病変も,色調の変化などより診断可能となった.ことに食道や十二指腸下行脚では,X線検査上,圧迫手技が行なえないだけに内視鏡検査の意義は大きい.最近Duodenofiberscopeまたはupper GI endoscopeによる球後部潰瘍の内視鏡的観察の報告がみられ始め1)2),従来X線検査のみにて行なわれた球後部潰瘍の診断について,新たな検討が必要となってきた.われわれはこれまでに11例の球後部潰瘍を経験したので,その成績について内視鏡的観察を中心として述べる.

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 日本でも,大腸早期癌の報告が漸次増えてきたが,内視鏡像に関するものはあまり多くない(棟方ら,渡辺,武藤ら).大腸癌の多い欧米でも早期癌(外国ではあまり早期癌という表現を使わないようであるし,ポリープ癌に対する考え方もまちまちであるが)の研究は主に切除標本でなされている.

 消化器病センターでは現在までに28例の早期大腸癌が経験された.そのうち,内視鏡で観察・生検を行なったものは16例である.

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欧文目次

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<質疑応答>欄への質問事項がありましたら「胃と腸」編集室質疑応答係宛お送り下さい.読者の皆様と本誌を結ぶ欄として御活用頂ければ幸いです.

(なお,解答の先生を御指定頂いても御希望に添いかねる場合もありますので御諒解下さい)

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Endoscopic Diagnosis of a Congenital Incomplete Diaphragmatic Obstruction of the Duodenum: H.Peters (Endoscopy 4: 167~169, 1972)

 上部消化管にみられる先天性閉塞はまれであり,それらの多くは十二指腸,殊にファーター氏乳頭以下にみられる.著者は比較的まれな先天性不完全十二指腸膜様閉鎖を経験したので報告する.症例は21歳の女性,生後6週で先天性幽門狭窄を疑がわれ幽門筋切離術をうけている.発育は正常であったが,ガス発生の多い食物の摂取後に腹満感があり,時に食後の嘔吐があった.入院2~3週前に初回の吐,下血を来たした.X線検査では十二指腸の上行部,下行部の著明な拡張が認められ,患者は下部十二指腸狭窄の診断の下に外科治療のため当病院へ入院した.十二指腸ファイバースコープが施行され,胃内には何ら病変を認めず,スコープは幽門輪を抵抗なく通過した.十二指腸の上行部,下行部は小児の腕位に拡張していた.ファーター氏乳頭に異常はない.更にスコープを進入すると下行部から水平部へ移行する部位に内腔の閉塞が発見され,それは中心が貫通しており,開口部はシャツのボタン程度のものであり,その開口部の前壁よりに浅い潰瘍形成を見た.手術により病変を確認した.先天性十二指腸膜様閉鎖では隔膜様の結合組織が内腔を閉鎖しており,両側共に粘膜で被覆されている.この隔膜は完全でありうるし単孔,多孔を有することもある.内腔の完全閉鎖の症例では,診断は生後すぐに容易につけられる.不完全閉鎖では時に診断が遅れ,時として生後何カ月後に,または何年も後になることがある.しかしながら小児の上部消化管の奇型を熟知し,既往歴における上部消化管通過障害に由来する症状を見逃がさぬことがこの疾患の診断上大切である.胆汁性嘔吐は,強くこの疾患を疑がわせしめ,診断の確定には十二指腸ファイバースコープが有用である.

編集後記 熊倉 賢二
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 昨年は公害や地震のうわさにおびやかされ,石油危機で年が暮れた.今年は,ほんものが見直され,求められる年だという.

 本号の主題および研究欄は,胃を除く消化管の生検診断である.いずれも日本で開発され,発展してきた真正真味のほんものばかりである.これが日本の生検が国境を越え,全世界に普及しているゆえんである.各筆者はのびのびと筆をとっている.

基本情報

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胃と腸
9巻2号 (1974年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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