胃と腸 9巻1号 (1974年1月)

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 最近,わが国の各施設における胃生検の早期胃癌診断率は90~95%をこすが1),診断に際して未だ種々の疑問を抱かせる症例にしばしば遭遇する.この検査が胃切除を要するか否かの最終的判定をくだす重要な臨床的役割を果すことから,臨床医および病理学者もその結果について絶えず反省し,より良き診断成績の向上に努めるべきであることは言をまたない.

 本文においては,横山胃腸科病院において過去約5年間に行なわれた胃生検1,812例を資料として,主題の陥凹性病変を特に胃癌診断にしぼり検討を加えたい.

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 診断法の進歩により,現在では,Ⅲ型早期胃癌の診断およびⅡb型早期胃癌へのapproachを除き,早期胃癌の診断基準は,ほぼ確立された観さえある.この進歩には.内視鏡の発達と歴史を共にして発展してきた直視下胃生検法のあずかるところも大きい.

 1964年,常岡,竹本,春日井ら1)により,その優秀性が報告され,最近では胃内全域がほとんど盲点なく生検できる検査法にまで進歩し,すでにroutine化されている.

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 胃炎を中心とした病変,とくに慢性胃炎にたいして,ファイバースコープ生検法はどうやらまがりかどにきたように思える.

 1948年Benedictによってoperating gastroscopeがつくられ,胃鏡生検法(gastroscopic biopsy)が胃鏡専門家に用いられるようになったこと,1949年にはWoodsらのflexible gastricbiopsy tubeが誕生し,この吸引生検法(suction biopsy)は実施がきわめて容易であったことから,またたくまにひろく愛用されたことはまだ記憶に新しい.

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 胃生検の適応としては,胃癌や胃肉腫などの悪性腫瘍と,種々の良性の局在性病変との鑑別診断が第一に重要なものである.第二には,いわゆる慢性胃炎における胃粘膜内の病変のひろがりと進展を形態学的にfollow upする方法としても,胃生検が利用されている.しかし,第三の方面,即ち,種々の自己免疫疾患やヘモクロマトーゼなどの代謝疾患という全身性疾患の際の胃粘膜病変の生検組織学的検索については,あまり注目されていず,業績も多くない.

 種々の全身性疾患において,食道,胃,腸管などの消化管に病変を合併することは衆知の通りである.たとえば,悪性貧血における胃粘膜の萎縮や,汎発性硬化症における食道の病変などは,それぞれの疾患の主要な病変を構成するものであるが,その他,種々の全身性疾患において,頻度や程度の差こそあれ,消化管の病変を伴うことが少くない.

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 約50日の短期間に,急速に変貌した早期胃細網肉腫の1経験例を報告する.

症 例

 患 者:I.Y. 39歳 男 農業

 既往歴:35歳,黄疸で1カ月間入院治療.  現病歴:昭和47年10月上旬より,空腹時に心窩部痛を認めるようになった.少し痩せてきたので,11月5日に近医で内視鏡検査を受けた.胃潰瘍といわれ投薬を受けたが軽快しなかった.12月5日再内視鏡検査で,胃癌を疑われ,直ちに当院内科に入院した.

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 直径1cm以下の小胃癌は早期胃癌総数の3~10%を占めているとされ,実際X線,内視鏡で単独に見出されるものはごくわずかである.Ⅱc病変では直径5mmの大きさまでは陥凹の境界の不規則な性状から癌と診断しうるものがあるが,他方,直径6mm以上のものでも陥凹が軽度で良性ビランとしか肉眼的に認め難いものがあり,肉眼的に病変の形態から癌と認識しうる大きさは直径5mm前後であろうと述べられている.筆者らも早期胃癌180例203病変中直径1cm以下の病変は10例13病変を術前診断しているに過ぎない.地方の検査センターで照診に引き続き行なった生検で胃潰瘍合併の小胃癌Ⅱcを診断し,その検査センターの性格上,密な紹介病院との連絡ができず,X線検査の検討が不充分なまま手術が行われ,病巣の切除胃での同定が困難であった直径5mm程度の病変を経験し,若干の教訓を得たので報告する.

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 患 者:伊○忠○ 63歳 男

 昭和47年12月,人間ドックに入院.胃間接レ線検査で胃前庭部大彎側をチェックされ,内視鏡検査をすすめられて12月26日来院した.自覚的には,軽度の心窩部膨満感がある.

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 胃内視鏡検査の中で,直視下胃生検は不可欠なものとなり,胃生検が胃診断学に貢献した功績は,極めて大きい.しかし生検検査濫用のため,X線,内視鏡の読影がなげやりになって,万事生検に依存するといった傾向があるとしたら重大事である.本稿では筆者らが最近経験した胃重複癌症例で,胃体部後壁の潰瘍を経過観察中,幽門部のⅡc病変に気付き,生検にて確診しえた症例を経験したので供覧し,かつ胃生検の持つ役割とその問題点につき,若干の考察を加えた.

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患者:58歳 男

病歴:来院の2週間前より上腹部鈍痛を訴え,他医で胃X線検査をうけ,胃内視鏡検査の必要ありと言われて本院を受診した.

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 胃生検は診断の最終評価を決定する不可欠な検査法にまで進歩してきたが,しかし胃粘膜下腫瘍に対してはこれら病変の占居部位と生検鉗子の到達深度から判断して当然のことながら無力とさえいわれている.

 われわれは最近,十二指腸潰瘍による幽門狭窄症に合併した胃壁迷入膵を生検により確定診断しえた興味ある1例を経験した.

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 直視下生検法の普及した今日でも,癌病巣部と周囲粘膜との間に形態的な差が余りなく,輪廓の明瞭でないⅡb型早期胃癌は,診断面でもまた治療上にも多くの課題を提起している.随伴Ⅱb型(白壁ら1)の定義による)の1例における経験を,内視鏡診断を中心に外科医の立場からふりかえってみたい.

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患 者:天○九○ 66歳 男

現病歴:昭和46年3月より上腹部痛を覚え,某医を受診し胃X線および内視鏡検査で早期癌を疑われ,46年4月国立札幌病院消化器科に入院した.

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 食道静脈瘤からの出血は急激に重篤な状態に陥りやすく,しばしば致命的であり,門脈圧亢進症患者の予後を左右する重要な消化器疾患の一つである.

 すでに発表したが食道ファイバースコープによる観察所見にしたがって,静脈瘤の形状・占居範囲から,Ⅰ群(Ⅰ度);血管の怒張と蛇行を認めるが,食道の蠕動運動や過剰の空気の挿入によって静脈瘤の形状が不明瞭になり,占居範囲は第2,第3狭窄部の中間より肛門側の軽度のもの,Ⅱ群(Ⅱ度);半球状ないし結節状の隆起として観察され,蠕動や過剰の空気の挿入によっても比較的明瞭で,占居範囲は第2狭窄部位より肛門側の中等度のもの,Ⅲ群(Ⅲ度);著しく緊満した大きな連珠状の隆起で,蠕動や過剰の空気の挿入にもかかわらず恒存性があり,占居範囲も第2狭窄部位をこえて口側にまでおよぶ高度な静脈瘤,に分類している.

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 従来ペプシンと呼ばれて来た胃液消化酵素の中に数種のproteaseの含まれることが明らかになり現在では一般的な考え方となってきている.このproteaseの多様性を検討するために種々の方法が報告されているが,現段階ではSamloffらにより完成された寒天ゲル電気泳動法が,分析能力,再現性の点で最も信頼できるものである.この方法によると胃粘膜中に,は泳動度の速い順にpepsinogen 1~7と呼ばれるproenzymeと従来のpepsinとは性質を異にするslow moving protease(SMP)の計8種のproteolytic proteaseが認められる.一方,Anson & Mirskyによりペプシン測定法が開発されて以来,種々の測定方法が報告されて来た.殊に微量のペプシン定量にはradioactive assayが適している.筆者らは,寒天ゲル電気泳動法により分析され得る8種のproteaseの活性を定量することを試みた.まず,泳動の終了した寒天板上の資料を特殊のpunchにより100コの細片に分割した.それぞれの資料についてradioactive assyによりペプシン活性を測定すとる5コのmajorなproteolytic peaksと3コのminor peaksを認め夫々のpeaksは寒天板を染色した揚合に認められる8コのproteaseに一致する,この電気泳動とradioactive assayを組み合せた方法は定性的で,しかも定量的であることが今後のpepsinogenの研究に極めて有効である.

 一方,Samloffらはpepsinogenを分泌細胞及びその分布,また排泄よりgroup Ⅰ及びⅡのpepsinogen(Pg ⅠおよびⅡ)に分類している.両者ともChief cellまたmucous neck cellより分泌されるが,Pg. Ⅱに限ってはその他にpyloric glandまたBrrunner's grandより分泌され,また正常人の尿中に排泄されるpepsinogenはPg. Ⅰに限られ,Pg. Ⅱは排泄されないことを報告している.Samloffらは最近尿中に排泄されるPg. Ⅰを抗原に血清中のPg. Ⅰ radioimmunoassayのに成功し非常に興味深い結果を報告している.彼等の報告によると血清Pg. Ⅰは正常人において102.7±32.5ng/ml,悪性貧血患者では10.2±6.4ng/ml,胃全摘術施行後では,3.8±2.9ng/ml,Zollinger-Ellison症候群においては456.1±187.3ng/mlの高値に認められている.Zollinger-EIIison症候群に見られる血清ペプシノーゲンの高値は従来報告されているChief cellの増加を裏づけるものであり,胃全摘後の対象に認められる血清ペプシノーゲンについては食道また小腸にしばしば見られる異所性のfundic mucosaによるものであろうと解説している.年齢的に見ると加齢と共に,また胃粘膜の萎縮が進むと共に血清中Pg. Ⅰの量は減少し正常の最低値は50ng/mlにまで低下することが認められ,また,この事実は血清ガストリン値に逆比例している点で興味深い.これらの一連の事実は副交感神経により支配されていると報告されているペプシノーゲンとガストリンの分泌が同じ機序のもとで行なわれていないことを示唆している,このPg. Ⅰの定量は臨床的な意義も大きく,胃・十二指腸潰瘍の発生,遷延化潰瘍の病態生理の解明および予後の推定に大きく貢献するものと期待される.

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 最近,乳頭部癌の報告もその数を増してきたが,癌の判定が困難であり,かつまた腫瘍の占拠部位からみて,早期癌と考えたい症例を経験したので報告する.

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欧文目次

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 João C.Prolla,Joseph B.Kirsner両博士著Handbook and Atlas of Gastrointestinal Exfoliative CytologyがThe University of Chicago Pressから出版された.私が先ず第1に思い出したのは約20年前胃内視鏡に足を踏みいれた当初唯一の胃内視鏡の参考書,否バイブルとして何回もくりかえし熟読したR.Schindler博士の不朽の名著Gastroscopyの出版元がUniversity of Chicago Pressであったことである.

 シカゴ大学消化器内科はW.L.Palmer教授以来20数年に亘り多数の細胞診研究者をそだて,消化器細胞診に関しては数多くのユニークな業績を発表し,Rubin,Raskin,Klayman,Barton,Taebel博士らのすぐれた指導的消化器細胞診学者を輩出,米国は勿論世界の消化器細胞診のメッカであった.私どもも小林,吉井,服部博士らを派遣し,彼等と協同研究をつづけて来た.

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長らく休載しておりました〈質疑応答〉欄を本号より復活しました.

読者の皆様と本誌を結ぶ欄として御活用頂ければ幸いです.質問事項がありましたら「胃と腸」編集室質疑応答係宛お送り下さい.

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Endoscopic Trans-papillary Radiographs of Pancreatic and Bile: Cotton, P.B., Salmon, P.R., Beales, J.S.M., Burwood, R.J. (Gastroint. Endos. 19: 60~62, 1972)

 17歳から82歳にわたる121例に内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を試みた.対象は持続性閉塞性黄疸53例,胆道疾患の疑27例,膵疾患の疑41例であった.標準諸検査後診断が疑がわしい時ERCPを行ない,膵細胞診,血管撮影,アイソトープスキャンニングはまれに行った.

編集後記 佐野 量造
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 行く年,来る年.異常な物資不足という非常時めいた世相のうちに新年を迎える.消費文化に馴れた向きには,不安をいだく人もあろうが,今の若ものには想像もできない窮乏の時代に青春を過ごした私などは,惰眠から覚めたような緊張感と,何かしら意欲めいたものすら感ずる.いや,これも“乱世”に適した私の体質のせいか.

 先日,たまたま,聖ルカ病院日野原博士の「アメリカに於ける最近の医療教育のありかた」という趣旨の講演を拝聴する機会があった.

基本情報

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胃と腸
9巻1号 (1974年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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