胃と腸 8巻7号 (1973年7月)

今月の主題 消化管出血の緊急診断

主題

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 吐・下血を主訴とする上部消化管出血は日常よく遭遇するが,臨床家にとって迅速かつ,適切な処置が要求される症候群である.私達はこれまでも消化管出血をみた場合,早期内視鏡,または早期X線検査の意義を再三強調してきた1)~8).なかでも重症例においては患者の全身状態の回復に努める一方,緊急手術の適応決定のために,とくに“urgent endoscopy”(“emergency endoscopy”)として,同様に,またはむしろより積極的な内視鏡検査の意義を重視している.

 過去10年間に私達は上部消化管出血後,7日以内の内視鏡検査を214例に施行している(表1)が,これらを対象として内視鏡の立場から,消化管出血後の緊急内視鏡検査の意義と,その実際について述べてみる.

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 今回のシリーズは一般の消化管出血とはことなり,出血程度の判定基準を長尾,池内,鈴木らの提唱する中等症と重症とに限られているので,主としてこれらのことについてのべる.中等症とは出血後ショック症状となり,急速輸血(400~1,000ml)をおこない,血圧回復し,循環系が安定しているものをいう.重症とは上記輸血後,血圧回復なく,循環系不安定であり,出血頻発するものを含み,早期手術が望ましい状態にあるわけである.

 上記のように,一般臨床検査やレ線,内視鏡検査等が早期手術とのバランスにおいて,どのように考えられるべきであるかが,大きな分岐点にあるものであって,患者の経過が時間の因子によって左右される面もあって,たえず悩まされる問題である.

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Ⅰ.緊急内視鏡検査の実際

 上部消化管出血を伴う患者を診た時には,その出血源を確認し,部位の決定をまって,はじめて最適な治療上のアプローチが可能になる.出血病変の明白な確認は,ふつうレ線検査のような,間接的診断法では不可能である3).潜在的出血病変ならレ線検査でも発見されるが,それらの病変から出血が実際に起きているという確証は得られない.選択的血管撮影法が出血源の確認に役に立つケースもあるが8)18),頻繁には使用されていない.したがって,出血源を直接に観察することだけが,出血部位の確証となる.われわれは,出血が始まってから12~16時間以内のなるべく早い時期に緊急内視鏡検査(Emergency Endoscopy,E. E.)を行なう必要があると考えている12)14)

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 消化器病学の分野における緊急事態のなかで,上部消化管内視鏡検査で診断可能なもの,また異物嚥下や突然の大出血に際しては治療も可能な事態について述べてみたい.消化管内視鏡検査の現況では,出血に対する内視鏡医の役割は診断と経過観察しかないが,異物嚥下の場合には治療の役も果せるのである.私どもは以下診断,治療の2つの方法について過去3年間の経験を記してみたいと思う.

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 吐血または下血,あるいはその両者を訴える患者を診たときには,治療の効果をあげるために出血源を早く正確に決定する必要がある.

 この目的に使用する診断用の器材としては,レ線と内視鏡がある.レ線は内視鏡より古くから用いられ,その利用もより一般的であるが,顕出血の患者の診断には重大な欠点を有することが漸次明白になった.欠点というのは診断所見がfalse-positiveであったり,false-negativeとなることで,ともに患者や医師を利することは全くない.

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 城所(司会) 今日は「消化管出血の緊急診断」ということで,その方面の経験の豊富な先生方にお集まりいただきました.文字どおり緊急診断ということを中心にして話を進めてまいりたいと思います.

 上部消化管の出血に関しては,以前に「胃と腸」で取り上げたことがございますが,そのときには,緊急の時期から,さらに時期のたった時点までを含めての総括的な話が主であったと思います.実際にそういう症例に当たった場合には,生命を脅かすような患者の状態で入ってくることもありましょうし,どんどん出血していて,見るからに危険を感じさせる状態もあるわけですが,そういった時期にどういう検査をするか,処置ということとも関連づけて検査ということが非常に大事になってくる.ただ,検査だけの目的ではなくて,治療ということをからみ合わせた考え方ということが当然考えられます.一面,ショックの対策であるとか,外科的な問題もかなりこの中には含まれてくると考えられます.

 そういった意味で,今日は緊急的な意味合いでの出血の診断ということで座談会を進めていきたいと思います.

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 消化管ホルモンが消化器病学の中で大きな関心をもたれている.これは胃・十二指腸および小腸上部の腺細胞で産生され,刺激により血液中に分泌され,標的器官に作用して消化液の分泌や運動機能を調節する.

 消化液を外分泌する消化管が内分泌作用をもつていることはすでに周知の事実であるが,わが国では1928年緒方知三郎博士らによって唾液腺の内外分泌に関する研究が病理学的な立場から始められた.その後,牛の唾液腺抽出液からの分画精製によって実験動物の歯と骨の発育促進作用と,血清カルシウム量の低下作用を測定することによって,有効成分の分画をとり出している.これをparotinと命名した.17種のアミノ酸からなる分子量132,000のグロブリン性蛋白質であるといわれているが,単一の化学物質ではないらしい.このような唾液腺内分泌説に対して疑義がないわけではない.抽出されたホルモンについて,標的器官が不明確であること,化学的に単一のものとして示されていないことなどから,ホルモンと呼びうるものかどうかも問題となろう.従って,消化管ホルモンとしての位置づけができない状態である.

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 1968年Pragueでの第1回欧州消化器内視鏡学会のProceedingsは1969年に本書と同じKargerからEndoscopy of Digestive Systemの題で出版された.この学会には日本からの出席者が多かったので,かなりの需要があったと聞いている.

 この本は1971年PragueとCarlsbadとで開催された国際会議の記録である.日本からは,かつて印象記1)にも書いたが,京都府医大・東女医大から発表があっただけであるが,欧米から緊急内視鏡に関してたいへんうるさい多数の研究者が集まっただけに,このProceedingsは1冊の本になってみると,たいへん簡にして要を得たものになっていて,消化器の緊急内視鏡について世界の現況を知るうえに欠かせない本となっている.

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 消化管出血の場合の診断法としては,急性出血時においても積極的にVigorous diagnostic approachと呼ばれる方法が実施されるようになった.すなわちX線検査,内視鏡検査などの検査法であり,これらの著しい進歩により容易に実施されるようになり,患者の状態の許すかぎり出血源の確認に努力しつつあり,確認率は向上してきている.しかし,これらの検査法を実施してもなお出血部位を見出すことが困難な場合があり,その頻度は20%程度といわれている12).これは次のような事柄に起因するのではないかと考えられる.まずX線検査の問題点としては,バリウムによる造影,空気注入による二重造影を行う際,患者の状態が良好でない場合には胃部の圧迫,体位変換など外力が消化管壁に加わり,その機械的刺激により出血を増悪させるおそれがある.また出血部位には造影剤の付着が理想的に行われ難く,凝血塊などに被われ,判読を誤まるおそれもある.その他,術者の熟練度によっては出血部位の描出が不完全であったり,判読を誤まったりすることが考えられる.次に内視鏡検査についてはX線検査に比べて表在性の変化を出血といった色彩の変化として描出できる点はるかに優位である.しかし,患者の状態によっては無理な体位変換を行わせられないこと,出血中は生体の防禦反応として消化管壁は緊張して止血しようとしているので,この時期には抗コリン系鎮痙剤の投与は通常の検査の場合のように考えないなどの制約がある.しかしそれにも拘らず上部消化管出血の診断ははるかに向上してきている.

 ここでは私共の経験した選択的血管造影による出血巣の描出からその意義について検討したい.

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 消化管出血の診断には,主にバリウムX線検査と内視鏡検査が用いられている.Palmer1)はvigorous diagnostic approachと称して,バリウムX線検査と内視鏡とを急性期に積極的に駆使して,診断の向上に努めた.最近はファイバースコープの開発に伴い,内視鏡検査が安全かつ容易になり,積極的使用が強調されている2)3).しかしPalmerの最近の報告4)でも1,500例中104例6.9%の出血源不明例があり,なお診断困難な症例が多数あることを示している.

 1953年Seldinger5)により経皮的カテーテル挿入法が,1956年Ödman6)により選択的腹腔動脈撮影法が開発され,種々の腹部疾患の診断に応用されてきた.本法が消化管出血の診断にも取上げられ,Nusbaum and Baum7)~9),Reuter10)~13),Rösch,14)Kanter15),Koehler16)が,急性大量消化管出血では造影剤のextravasationを証明し,間歇期でバリウムX線検査などで診断困難な例で,出血源となる病変を発見し得ることを報告し,血管撮影が消化管出血の診断にきわめて有効であると述べている.

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 胃における消化性潰瘍の好発部位は,大井ら1)によって明らかにされたごとく,胃底腺と幽門腺の境界領域,あるいはそれよりやや幽門側とされている.このことは単発性潰瘍の場合は容易に容認できるが,多発性潰瘍では多少の問題点を内蔵している.すなわち多発性潰瘍の中でも接吻潰瘍,あるいは線状潰瘍は境界領域に沿って発生するので,潰瘍好発部位の原則と一致し問題はないが,小彎線に平行にたて,あるいはややななめに発生する多発性潰瘍は潰瘍の好発部位の原則とどのような関係にあるか興味ある問題である.従来の研究ではこのような点について詳細に検討した業績は意外に少ないので,本論文の主題としてとりあげた.

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 図1は前回(8巻6号750頁)に提示したX線写真のシェーマです.1は術前,2は術後X線像でaが空気少量,bが空気中等量,cが空気多量の二重造影像です.さて,前回にとりあげた問題点に対しての解答はいかがだったでしょうか.

 筆者の考えを要約しますと次のようになります.術前像と術後像との所見の違いは,①辺縁所見では1bと2b,1cと2cは似ていますが1aと2aでは全く違っています.1aではSchattenplus. im minusのように見えます.術後ではこのような所見をどうしても撮影できませんでした.術前でも空気量が多いとあらわれません.②辺縁内の所見の違いは,術前には粘膜ひだ像がみられるのに術後では粘膜ひだ形成がないということです.粘膜ひだ像は1aでもっともよくあらわれています.以上のような所見の違いは,生きている胃には胃壁が縮むという要素があることに由来するものと考えられます.

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 物を分類するに,詳しくする方法と,反対にきわめて簡単にするゆき方がある,胃癌の組織分類についてもそうである.種々の分類法が試みられてきたが,私ども臨床家が,実際に臨床像と関連させて理解のできる.しかも簡単な分類があると幸いである.従来の比較的詳しい分類法は,臨床的特徴や予後との相関関係が一定でない.また分類は,作成した人や,一部の人々にのみ使われ,World-wideの普遍性がない場合,データの人種間比較がむずかしくなる.遠く離れた他の国での病理学者による判定にもたいしたVariationをみず,病像との関連においても有用である分類がのぞまれる.

 1951年,FinlandのTurku大学のJärviとLaurénは,胃癌がしばしば腸上皮の特徴を有することを認め,少なくとも50%では,腸上皮化生から起こるだろうと主張した.その後文献上で“Intestinal-type gastric carcinoma”という語が使われるようになった.Laurénは1964年の論文で,腸上皮型と鑑別上問題になる他の型の存在をあげ,1965年の論文で“Diffuse gastric carcinoma”と呼んで,ここにLaurénの二大組織型“Intestinal type”と“Diffuse type”が誕生した.彼のシリーズでは,Intestinal typeは53%,Diffuse typeが33%,残りの14%はどちらにも属さないとし,otherとして一括した.

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 1958年,Hirschowitz1)のGastroduodenal Fiberscopeの登場以来,消化管疾患におけるFiberopticsの進歩は,まことにめざましいものがある.ことに本邦においては,数々の先人の努力の結果,胃内視鏡の発達には目をみはるものがあり,その基盤の上に,1969年町田製,オリンパス光学製とあいついで十二指腸専用ファイバースコープが開発された.このファイバースコープにより,十二指腸病変の観察,生検はいうにおよぼず,Vater乳頭開口部に細いカニューレを挿入し,造影剤を注入することにより,内視鏡的膵・胆管造影も可能になってきた.近年,内視鏡的膵・胆管造影は諸施設において一種のブームとでもいうべきいきおいで施行され,膵・胆道疾患の新しい検査法として注目をあつめている.しかし,Billroth Ⅱ法術後胃症例に対しては,その特殊性のため,いまだ造影に成功した報告はみられない.今回,筆者らはBillroth Ⅱ法術後胃の症例に造影が成功し,診断しえた胆石症例を経験したので報告する.

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 近年胃診断学の進歩は目ざましく,胃のほとんどの部位の病変も発見診断できるようになった.今なお発見のむずかしいとされている部位の病変の一つに,胃体部より高位の大彎に発生した病変がある.筆者らは吐血を主訴として入院された40歳の女性をX線スクリーニング検査にてFornix大彎の異常所見に気づき,X線精密検査,内視鏡検査,胃生検にて胃癌と確定診断し得た,部位的に発生頻度の少い比較的小さな胃癌の1例を経験したので,その病変の存在診断および質的診断のできるX線像,特に病変の正面描出法を中心に若干の考察を加えて報告する.

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 膵石症は本邦では比較的少ないとされていたが,1971年第2回膵臓病研究会1)で各大学から計121例の報告があり,また最近の診断技術の向上に伴い症例が増加しつっある.筆者らは最近,急性腹症で救急入院した患者で,腹部単純X線上,興味ある像を認め,低緊張十二指腸造影であたかもこの結石が十二指腸粘膜下腫瘍を思わせた1症例を経験したので報告する.

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 低緊張十二指腸造影法に際しゾンデ挿入の繁雑さを避けるためtubelessの方法が考案されているが,しかしゾンデを使用した方がよりよいレントゲン像を得る場合が多い.そのための迅速な十二指腸ゾンデの挿入法については,既にいくつかの記載がみられる.その主なものとして乗用車のスピードメーターのケーブルをガイドにする方法1)~3)や,選択的動脈撮影に用いられるMullerのguide systemを利用する方法4)などをあげることができる.しかしスピードメーターのケーブルはガイドとして用いるのにかなりの難があり,また後者の方法も操作が繁雑すぎるきらいがある.われわれの方法はそれらのアイデアをかりたものであるが,操作がきわめて簡単であり,多くの症例で十二指腸へのゾンデの挿入は1~5分で終了することができる.以下にその方法についてのべる.

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欧文目次

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 筆者が東北大学第1外科において経皮的経肝性胆道造影法を始めたのは,たしか昭和36年頃であったかと思うが,その当時,少数例ながら地方会で発表していた.その頃,教室先輩の有力なる外科医から,手術すればわかるものを何故そんなに危険をおかしてまで診断を急ぐのかと,なかば嘲笑的な批判を受けたものである.事実,その頃は不慣れなせいもあって,合併症もみられた.たしかに外科医は開けばわかるという有利な立場にあろう.従って,安易な気持に陥りやすいのである.しかし,手術に臨むには精神的,肉体的な準備というものがある.手術前にできるだけ正確に病態を把握しておくことは,外科医の心構えとして強く望まれるのである.当時,筆者は経腰的大動脈撮影法をかなり積極的に試みていた.長い穿刺針を体の中に深く刺入するということは恐ろしいものである.心臓が高鳴りして手のふるえをおぼえたものであった.経皮的胆道造影の時も同じような心境であったことを思い浮かべるのである.これによって出血とか胆汁漏出があったらどうしようという,恐怖にも似た気持が先立ったのをおぼえている.当然のことではあるが如何に必要な検査とは言え,検査によって事故をおこすということは絶対に避けるよう心がけるべきである.筆者は常にそう念じている.当時は時折ではあるが合併症に接した.幸い,手術を前提にしてやったので不幸な事故には一度も遭遇しなかったが,この方法が何とか安全に,しかも誰にでも行なえるものであらしめなければならないと考えたのは筆者のみではないであろう.

 検査法には外科的検査法とか内科的検査法とかの区別はあろうはずはない,当時はかなりの危険性が考えられたので,手術を前提にすべきことが強調されていた.その意味においては外科的検査法と言われたかも知れない.その安全な,しかも内科医でも行なえるような経皮的胆道造影法が千葉大学内科大藤正雄,大野孝則,土屋幸浩,税所宏光氏らによって提示され,ここに「経皮的胆道造影―肝,胆道,膵の診断―」なる名著として世に出された.まことに喜ばしい限りである.

編集後記 城所 仂
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 消化管出血の緊急診断に関して主題5,座談会が収録されている.今号では緊急診断に重点をおいたため,緊急内視鏡診断が強調されるようになったのは,やむをえないことかもしれない.

 しかし熟達者の諸先生の緊急時の施行方法,施行時の注意,麻酔医や外科医との協力の重要性,ショック対策の重要性などに関する御意見が浮彫りにされており,読者にとってもたいへん参考になるものと思う.

基本情報

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胃と腸
8巻7号 (1973年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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