胃と腸 8巻6号 (1973年6月)

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 大腸癌のX線診断に関する種々の問題は,早期癌の診断を含めて,現在まで少なからずとりあげられてきた.しかし,常に散発的であったために,確実にいいきれることと,そうでないことの区別が曖昧にされてきたような気がする.また大腸癌の頻度は直腸,S状結腸に偏しているために,すぐにのぞける直腸鏡が有利と考えられ,X線診断が内視鏡診断に一歩遅れて現在に至ったとも考えられる.

 そして,このような内視鏡とX線の関係は,さらには大腸癌の肉眼病理とX線診断の間にも疎遠な状態を作り出してしまった,そのために,これまで,X線診断が信用できるのは,全周性の非常に大きな進行癌だけで,小さな進行癌になるとその性状までは診断しきれなかったし,また,その存在すらつかめないものが多かった.したがって,良性病変,早期癌との鑑別診断も十分ではなかった.そして,X線診断が熟しきれないうちに,内視鏡の分野では,盲腸部まで観察するColonofiberscopyの時代を迎えてしまった.これでは,X線診断の立場がますます頼りにならなくなってしまいそうである.

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 大腸ファイバースコープがほぼ実用的な機能をもって登場して以来4年経過した.この4年の歳月はその大半がいかにして大腸をくまなく観察するかという努力が払われてきた時期であり,いまだに広く普及して簡易に行えるには至ってない,しかし日々に大腸ファイバースコープ検査の需要は増え,大腸疾患の内視鏡診断に関する知見が集積されつつあるのも事実である.ここでは著者らの610例750回の使用経験をもとに内視鏡診断に関する現況と展望について述べる.

スコープと検査法

 現在日本で使用されている大腸ファイバースコープはオリンパス光学製のものと町田製作所製のものがあり,回盲部までを観察目的とした長いもの,S状結腸以下を観察目的とした短いもの,その中間の左半結腸のみを観察目的としたものが両社でそれぞれ製品化されている.その仕様ではオリンパス光学製のものが送気送水・吸引の自動装置を組込んでいる他には大きな差はない.しかしスコープの挿入手技に関する相違は少くなく,一般仕様には表われてないスコープ軸の被覆の素材や構成,先端硬性部分の機構の差に基くものであろう.さらに外国製のものではACMI社のものがあり,先端の180.屈曲と独特のアングルノブを除いてはオリンパス光学製のモデルと類似しており,慣れると使いやすいが日本で使用される事は少いので省略する.

大腸隆起性病変の病理 武藤 徹一郎
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 わが国における下部腸管疾患の頻度は,従来,欧米に比べて著しく低かったが,近年増加の傾向が認められている.それと共に,下部腸管疾患に対する関心も高まりつつあり,胃疾患研究におけると同様な幅広い研究体制の確立が望まれる.

 胃疾患と異なり,腸疾患においては隆起性病変が病理学的にも臨床的にも主役を占めており,癌とも最も関係が深いと考えられている.隆起性病変には理論的に良性,悪性,上皮性,非上皮性があり,それらの組み合せにより4種のカテゴリーがあるわけであるが,今回は日常もっとも遭遇することの多い良性上皮性ポリープの病理とその臨床的取り扱い方を,主として癌と対比しながら概説することにしたい.以下,著者の経験をもとに親しく教えを受けたSt. MARK'S病院Dr. Morsonらの考え方の紹介を主にして筆を進めていくことにする.

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 Morson1)は,大腸ポリープを表1のごとく分類しているが,大腸ポリープの分類は諸家2)3)4)5)により多様である.特に大腸ポリポージスという言葉の定義については混乱が多く,単に複数のポリープをポリポージスと呼称している者も少なくない.Welch4)は比較的限局した範囲に発生した複数のポリープをmultiple polyposisと呼んでおり,Dorand's illustrated“Medical dictionary”のpolyposisの項には,“The development of multiple polyps on a part.”と説明されているにすぎない.槇6)は,ポリポージスとは単に数個のポリープが発生した場合を意味するものでなく,より多数のポリープが広範囲に発生したものを意味すべきであると述べている,すなわち,大腸ポリープを(a)単発性ポリープ(polyp),(b)比較的限局した範囲に2個以上のものが存在する場合を多発性ポリープ(multiple polyp),(c)結腸に広範囲に多発しているものをびまん性ポリポージス(diffuse polyposis)と分類しており,卜部7)もこれに同意している.著者らもこの分類が臨床上妥当であると考えている.しかし,Peutz-Jeghers症候群のポリープは,必ずしもdiffuse polyposisではないが,multiple polypsとも異なるので,大腸ポリポージスに含めた.

 大腸ポリポージスは,稀な疾患であるといわれてきたが,Colonofiberscopeの開発された昭和43年5月から47年5月までの4年間に,松永内科教室では家族性大腸ポリポージス3家系17症例,Peutz-Jeghers症候群3家系6症例を経験しており,決してごく稀な疾患ではない.

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 白壁(司会) すでにr胃と腸』7巻12号で“腸の潰瘍性病変”の座談会がありましたので,重複しないようにしましょう.

 まず大腸癌,続いてpolyposisを扱いたいと思います.武藤先生,Morsonの定義をお願いします.

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 大腸のX線検査および内視鏡検査を行なっているうちに,直腸および結腸粘膜にびまん性に散在する直径2mm前後のわずかに隆起を示す病変が時に認められ,その生検を行なって組織学的に検索してみると,粘膜上皮の増生は認められず,その隆起性病変は主として粘膜下層または粘膜固有層内のリンパ濾胞の増大した状態であることがわかった.これらの症例を呈示し,考察を加える.

症例

 われわれの経験した症例は,X線検査または内視鏡検査でのみ診断し,組織学的には増大したリンパ濾胞を,種々の理由から証明しえなかった症例も含めて,全例で10例である(表1).

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 術後X線像と術前X線像とを対比し,写真の撮りかた,読影のしかたなどを検討することは,X線診断を向上させるのに役立ちます.対比検討の目的はほかにもあります,両者のX線像を比較してみると気がつくことですが術後X線像にみられない所見が術前X線像にはあります.術後X線像は摘出胃粘膜の肉眼所見を忠実に再現していますから,それ以外の情報を術前X線がもっているということになります,生きている胃と摘出胃の情報の違いとでもいえるものです.その違いを分析し利用することは,X線診断を,よりいっそう向上させると思います.

 この「胃と腸ノート」は,これから数回にわたって,術前と術後X線像の所見のあらわれ方の差を検討し,そして,生きている胃のX線像の特徴とその内容を考えてみることにします.

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 内視鏡検査を始めたてのころは案外偶発症に出会うことが少ない.偶発症の発生をおそれて,慎重のうえにも慎重な挿入・観察操作を行なうためであり,また患者に対しても特別神経を使うためでもある.

 といっても,始めたての初心者が起こす偶発症もないわけではない.大きな事故をひきおこしてしまえば,術者はその後の内視鏡検査は放棄しがちであろう.

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 従来日本人には,胃疾患が多く,下部消化管疾患は非常に少なかった.十数年前の著者の学生時代にさかのぼると,大学の講義で,大腸疾患についてあまり聞いた覚えがない.潰瘍性大腸炎の患者をはじめてみたのが,入局して3年目であり,消化器中心の著者の所属していた内科でさえも,この診断名のつくのが年に1~2例だった.1960年,Lockhart-Mummeryらの記載する大腸のクローン氏病一のちにLindnerがGranulomatous colitisと命名一は,全く耳にすることさえない疾患だった.だいいち,本家本元のRegional enteritis(クローン氏病)をみたことがないのだから,当り前である.

 ところが,卒業後7年目に機会を得て,シカゴ大学のDr. Kirsnerのもとへ行ってみると,GIカンファランスで,毎週のごとく,Ulcerative colitisかRegional enteritisの症例のDiscussionが行なわれ,ある所にはあるものだと痛感した,これらの疾患に十分お目にかかって帰国してみると,日本はやはり大腸疾患,ことに非特異性慢性炎症の砂漠地帯であるのを再認識せざるをえない.

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 幽門部およびその近傍に発生した潰瘍の名称として,juxtapyloric ulcer,prepyloric ulcer,pyloric ulcer,ulcer of the pyloric channel等があることはよく知られている.このような名称が不統一な理由の最大なものとして,潰瘍の組織学的発生部位を正確に臨床的に決めることがむずかしいことがあげられよう.

 昔の胃鏡ではこの領域はさだかに見えなかったし,X線的にも潰瘍が胃側なのか十二指腸側なのか正確に診断することがむずかしいので,幽門近傍潰瘍のような言葉が生れたのである.

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 われわれは,胃,小腸,大腸にわたる広範なポリポージス,皮膚の色素沈着,脱毛,爪甲の萎縮,低蛋白血症があり,遺伝歴のない2症例を経験したので報告する.本症例は,1955年にCronkhiteおよびCanada1)が,generalized gastrointestinal polyposis with pigmentation, alopetia and onychotrophiaとして報告し,1966年にJarnumら2)がCronkhite-Canada症候群として考察を加えたものと同一と思われるので,ここに症例を述べて考察を加えたいと思う.

症例

 〔症例1〕 57歳,女,織物工員

 家族歴,既往歴に特記すべきものはない.

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 最近,乳児の直腸から肛門部にわたる潰瘍の症例2例を経験した.潰瘍は生後まもなく出現し,広範囲に拡がり,乳児の一般状態にも重篤な影響をおよぼした.いずれも近位大腸に人工肛門を造設し直腸から肛門への便の移行を阻止することにより,潰瘍は消褪していき,生命を維持することができた.この症例は著者が調べた範囲ではいまだ報告例をみない新しい疾患のようであり,成人にみられる潰瘍性大腸炎あるいはクローン氏病とは病変部の性状,性格,病理学的所見からみても異なっている.この疾患の病因も不明であるが,いずれにせよ新しい生命が生まれ,栄養を摂取して発育する過程に必然的に生ずる排泄物により生体が破壊されていくという悲劇的な疾患である.

症例

〔症例1〕

 患 者:6カ月,男子

 病 歴:生後まもなく肛門周囲に湿疹様のかぶれを生じ,皮膚科を受診,軟膏をつけてもらっていたが増悪する一方である.生後3カ月時に肛囲の一部に膿瘍を形成し,切開排膿をしてもらった.生後2カ月まで母乳を飲ませていたが,下痢便が続きあまり飲まなくなったのでミルクに替えた.その後も肛門から会陰のびらんは進行していき,1日4~5回の下痢便があり,出血を伴ない痛がる.その他,生後1カ月時に石油ストーブをつけている室で真青になり,受診しガス中毒にかかったという.生後3カ月頃より喘鳴がはじまり,現在まで継続している.生後5カ月時に全身に発疹を生じたが,麻疹ではなく原因ははっきりしないといわれた.家族歴,出生時の状況などについては表1に示した.

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 近年のわが国における大腸診断は,胃疾患部門に比べて著しく立ち遅れており,早期大腸癌についてみても,その報告例はきわめて少ない.このことは,大腸検査方法の確立と普及の遅れによるところが大きいと考えている.

 われわれは,注腸検査をブラウン氏変法に統一して日常の診療にたずさわっているが,最近,多発性大腸癌の1例を経験し,大腸の発癌を考える際に,非常に興味深い資料と考えたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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 1950年Gardner7)はhardtumor(骨腫),soft tumor(軟部組織腫瘍)の2徴候に消化管polyposisを合併した症例を報告して以来,欧米では同様の特徴を持つ症例が次々と報告させ,これがGardner症候群と命名された.本邦では1966年小坂ら16)17)が発表して以来,10例余の報告をみるにすぎない.

 最近,私共は家族的発生は認められなかったが,頭蓋骨,四肢骨の骨腫,胸背部のfibroma,歯芽形成異常,開腹術創部に発生したdesmoid tumor,消化管polyposis等の所見の他に直腸癌の併存をみた症例を経験,Gardner症候群と考えられるので報告する.

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 潰瘍性大腸炎は,その本態,および成因について,明確な定義はなされていないが,1903年Boas1)がColitis ulcerosaと記載して以後,―独立疾患とみなされるに至った.本邦においては,1928年稲田2)が,重症大腸炎として報告以来,数々の報告がなされ,詳細は松永3)により,第55回内科学会総会の宿題報告として,259例についての検討がなされている.小児科領域での本症は,比較的稀な疾患4)で,欧米では,Helmholz5)によれば,Logan6)による1例報告が最初のようであり,本邦では,1952年中山7)による乳児の剖検例が報告されている.われわれは,最近小児の潰瘍性大腸炎の経過観察をする機会に恵まれたので,ここに報告する.

症例

 患 者:11歳6ヵ月,男児(長男).

 主 訴:下血.

 家族歴,既往歴:特になし.

 現病歴:当科初診の約1年位前より,有形便周囲に鮮血が附着する事に気付いたが,近医にて痔といわれ,坐薬を使用してしばらく止まっていた.7カ月前頃から前回同様の下血が始まり,薬物療法を受けるも軽快せず,貧血増強したため,他病院へ転院し,諸検査の結果潰瘍性大腸炎の疑いにて,ステロイド投与,ACTH,輸血等を受け,下血は止まった.しかし,ステロイドを中止したところ,高熱並びに下血が始まり,次第に増強して来たので,千葉大学附属病院小児科へ入院した.

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 近年,大腸の単純性非特異性潰瘍は注目を集めてきており,本邦においても報告例が散見されるようになった.最近,著者らは下行結腸,S字状結腸移行部に発生した単純性非特異性潰瘍の1例を経験したので若干の考察を加え報告する.

症例

 患 者:山○ツ○,55歳,女子

 主 訴:便秘,左下腹部痛

 家族歴:特記すべきことなし

 既往歴:約5年前より高血圧症にて薬物治療を受けている.

 現病歴:27歳にて第2子を出産した後より1カ月に3ないし4回,軽度の腹痛を伴なう軟便ないし水様下痢をきたすようになった.しかしこれらの症状は止痢剤の服用にて短時日で軽快していた.この状態が2年前(53歳時)まで持続したが,この頃より次第に便秘に傾きはじめ,下痢は1カ月に1回位に減少した.数カ月前からは便秘はさらに頑固となり強い左下腹部痛を伴なってきたため,昭和46年7月10日当院に入院した.

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欧文目次

書評「肝臓病」 奥田 邦雄
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 今回医学書院から高橋忠雄・織田敏次両氏の編集になる「肝臓病」なる書物が出版された.この書は,序にも説明されているように1964年同じく医学書院から出版された「肝臓」の第2版に当るもので,当時の「肝臓」は同じく高橋忠雄教授らの編集になる肝臓の基礎的な面と臨床的な面の両分野を1冊に包含した書で,その頃のその方面の本邦の権威者の分担執筆によってでき上ったものであった.

 日進月歩の肝臓病学も,α-Feto-protein,次いでオーストラリア抗原の発見までは,刮目するほどの進歩が見られずやや遅滞していたようにも思われたが,昨今このような免疫学的なmethodologyと知見の進歩と相まって,肝臓病の領域でもとみに研究が活溌となってきたことは読者とともに同慶に存ずる次第である.そのような進歩にともなって初版の内容が古くなったので,改版を基礎領域と臨床領域とに分けて分冊して行ったということである.すなわち基礎的な分野は昨年2月同じく医学書院より「肝臓一構造・機能・病態生理」の第2版として高橋忠雄監修,三浦義彰・斎藤守・織田敏次編集で出版されたが,今回のものはそれよりも更に大きな分担執筆に成る肝臓病学の臨床を纒めた書物である.執筆者は44名で,いずれも第一線で活躍中の専門家であり,それぞれの得意の領域を分担しておられる.

編集後記 白壁 彦夫
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 座談会で,なおキメの細かい討論に追込めなかったのは,司会の不行届き,菲才による.お許し願いたい.大腸に関しては,癌研のすばらしい集積と業績は別にして,目本の一般では,胃に比ベタッチがかなり遅れていた気配がある.したがって,大腸だ,大腸だという掛声が,ここ2~3年の間に,あちこちできかれた,あせりとやるせなさであった.また胃と比較して,という格差感であった.そのため業績ならぬ臨床統計,臨床経験が相次いでみられることにもなった.

 臨床外科28巻1号,臨床成人病3巻2号,それに本誌,こうなると,まさにオンパレードである.読者は,それらをつきあわせて,その内容を熟思あらんことを.

基本情報

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胃と腸
8巻6号 (1973年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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