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筆者が東北大学第1外科において経皮的経肝性胆道造影法を始めたのは,たしか昭和36年頃であったかと思うが,その当時,少数例ながら地方会で発表していた.その頃,教室先輩の有力なる外科医から,手術すればわかるものを何故そんなに危険をおかしてまで診断を急ぐのかと,なかば嘲笑的な批判を受けたものである.事実,その頃は不慣れなせいもあって,合併症もみられた.たしかに外科医は開けばわかるという有利な立場にあろう.従って,安易な気持に陥りやすいのである.しかし,手術に臨むには精神的,肉体的な準備というものがある.手術前にできるだけ正確に病態を把握しておくことは,外科医の心構えとして強く望まれるのである.当時,筆者は経腰的大動脈撮影法をかなり積極的に試みていた.長い穿刺針を体の中に深く刺入するということは恐ろしいものである.心臓が高鳴りして手のふるえをおぼえたものであった.経皮的胆道造影の時も同じような心境であったことを思い浮かべるのである.これによって出血とか胆汁漏出があったらどうしようという,恐怖にも似た気持が先立ったのをおぼえている.当然のことではあるが如何に必要な検査とは言え,検査によって事故をおこすということは絶対に避けるよう心がけるべきである.筆者は常にそう念じている.当時は時折ではあるが合併症に接した.幸い,手術を前提にしてやったので不幸な事故には一度も遭遇しなかったが,この方法が何とか安全に,しかも誰にでも行なえるものであらしめなければならないと考えたのは筆者のみではないであろう.
検査法には外科的検査法とか内科的検査法とかの区別はあろうはずはない,当時はかなりの危険性が考えられたので,手術を前提にすべきことが強調されていた.その意味においては外科的検査法と言われたかも知れない.その安全な,しかも内科医でも行なえるような経皮的胆道造影法が千葉大学内科大藤正雄,大野孝則,土屋幸浩,税所宏光氏らによって提示され,ここに「経皮的胆道造影―肝,胆道,膵の診断―」なる名著として世に出された.まことに喜ばしい限りである.
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