胃と腸 8巻4号 (1973年4月)

今月の主題 症例・研究特集

症例

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 早期胃癌に対する認識が高まるにっれⅡc,Ⅱa等の陥凹型や隆起型の早期癌はかなり小さなものも術前に診断しうるようになったが,表面平坦型のⅡb病変については,中山ら1),白壁ら2)の集計にみるごとくその大部分は,癌や潰瘍,異型上皮その他の合併病変によって手術し,組織学的検索の結果偶然に発見されたものが多い.我々は,X線内視鏡,生検により術前にⅡbと診断しえた広範囲な単独Ⅱb病変の一例を経験したので報告する.

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 早期胃癌の診断は,その対象が隆起性病変においても陥凹病変でも1),大きさが2cm以下さらに1cm以下のものへと急速に進歩しつつある.そこでこれらの隆起,陥凹の程度も次第に低浅なものになり,早期胃癌分類でいう“周辺正常粘膜と同じ高さを示す”Ⅱb病変の粘膜の微細構造の検討がX線学的にも内視鏡学的にもようやく注目されるようになって来た.われわれは胃X線,内視鏡検査で幽門前庭部前壁のポリープと合併した胃体部高位後壁の多発性潰瘍瘢痕と診断され,同部の生検組織診で腺癌であった症例で,切除標本にて胃体上部から胃角部にかけ,予想外に広い辺縁不規則な発赤,褪色領域を示したHb病変を経験したので報告する.

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 近年胃疾患診断学の進歩は目ざましく,大彎側の病変も比較的容易に発見されるようになり,その部位の早期癌数も増加している.

 筆者らは,胃X線検査で発見した前庭部大彎側の比較的小さなⅡcの1例を経験したので,3年3カ月前のX線像,特に二重造影像,内視鏡像と対比して,またこの部位の病変のX線正面描写法について若干の考察を加えて報告する.

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 Ul-Ⅱの治癒潰瘍の辺縁にみられたReactive lymphoid hyperplasiaを伴なった微小胃癌で,組織学的には悪性リンパ腫を疑わせた興味ある一例を経験したので報告する.

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 本邦では胃癌あるいは胃手術後に生じた胃横行結腸瘻の報告は少くないが,胃潰瘍を成因とした胃横行結腸瘻は極めて少く,われわれが渉猟した限りでは現在まで9例の報告をみるに過ぎない.最近われわれは胃潰瘍による胃横行結腸痩をX線検査,内視鏡検査などにより確認し手術にて治癒せしめた一例を経験したので報告する.

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 胃に発生する非上皮性腫瘍は,癌腫に比しその発生頻度は低いが,なかでも特に血管由来の腫瘍はきわめて稀で,本邦での報告は良,悪性をふくめて20数例をみるにすぎない.

 我々は最近,小児期に胃血管腫を発見され胃部分切除術をうけた後,残胃に多発性血管腫が再発した1例を経験したので報告する.

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 サルコイドージスは最近になってようやく,アレルギー性疾患1)との説が強くなってきたが,いまだ原因不明の全身性疾患と考えられている.しかし両側肺門リンパ節腫脹2)(BHL)の認められることがほとんどであるために,胸部X線検査が有力な手がかりとなって,本疾患を発見または確認しうる手段と思われてきた.今回,胸部X線検査で異常が認められず,胃手術の結果,胃に限局性に発生したと考えられるサルコイドを経験したのでここに報告する.

 胃の限局性サルコイドは,外国文献でも報告例3)は少なく,本邦における報告例は1960年(昭和35年)長村ら4)の報告以来,約11例を数えるのみである.1965年(昭和45年),当院において本邦第7例目と思われる症例が経験されたが,偶然にも再度,本疾患を経験する機会を得た.

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 十二指腸のいわゆる良性腫瘍は非常に稀な疾患である.Raiford(1932)1)によれば,手術45,000例,剖検11,500例,計56,500例のうち,小腸に腫瘍を発見したものは88例(0.16%),良性のものは50例にすぎない.このうち十二指腸に認めたのは13例(全体の0.02%)である.またHoffmann(1945)2)も同様に68,000例中14例の十二指腸良性腫瘍を報じている.中村(1969)3)らの綜説によれば,最近までの報告例は欧米422例本邦87例である.十二指腸良性腫瘍の病理組織型は多彩であるが,迷入胃組織より発生したと考えられる症例は,本邦ではまだその報告はない.

 今回われわれは,かなり大きな十二指腸有茎性ポリープで,しかも病理組織学的に迷入胃粘膜組織から発生したと考えられるきわめて珍らしい一例を経験したので,ここにその症例を報告し,若干の考察を加えたい.

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 小腸平滑筋肉腫は欧米および,わが国でも,近年かなりの報告例が見られるようになったが,なお比較的まれな疾患である.教室では,さきに,十二指腸平滑肉腫3例について報告したが1)2),最近著者らは,回腸に原発した巨大な平滑筋肉腫1例を治験したので報告する.

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 腸重積症は,イレウスを起こす急性発症のものや,腫瘍等の原因に続発する慢性型のものが見られ,これらは日常の診療において,しばしば遭遇する疾患である.

 我々は,言わば腸重積症の亜型と考える回腸末端粘膜脱垂症の4例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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 Benign fistula between the stomach and colon is well recognised as a complication of partial gastrectomy for duodenal ulcer (Lowdon, 1963), or, spontaneously, it may complicate the rare peptic ulcer of the greater curvature (Smith and Clagett, 1965), and even colonic disease such as ulcerative colitis (Bargen and others, 1937). In contrast, malignant fistula is rare and usually arises from the colon rather than the stomach (Marshall and KnudHansen, 1957); McMahon and Lund, 1963.)

 This paper reports two unusual cases of cancer of the transverse colon with gastric fistula to highlight, firstly, the possibility of extrinsic invasion of the stomach when there is a lesion of the greater curvature, secondly, the importance of gastric photography and biopsy in assessment and, thirdly, the clinical differences from the features reported with gastro-jejuno colic fistula.

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 孤立性の浅い直腸潰瘍の患者を経験した.潰瘍によって強いテネスムスが生じ患者を苦しめ,難治性で,近位腸管に人工肛門を造設し便を遮断することにより軽快したが,人工肛門を閉鎖すると直ちに再発した.

 かかる疾患は本邦では未だ報告例がなく,欧米の小数の報告例で直腸の孤立性潰瘍(Solitary Ulcer of the Rectum)といわれる疾患で,しかも典型的な1例であることが分った.本症の本態は過誤腫であるともいわれているが決定的ではないようである.

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 胃内に異物を呑みこんでしまうことは,成人には比較的に少なく,乳幼児期に多い.異物としては,ボタン,貨幣,ヘヤピン,釘,針,安全ピン虫ピン等が多く,特に仰臥位で手にもってしゃぶっていたり,歯をっっいていたりしている時,周囲の人に急に声をかけられ,驚いて手を放し持っていた異物を,口腔内に落して,反射的に誤飲する.我々は成人の1症例を最近経験し,これを小電磁石により摘出したので,ここに報告する.

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 早期癌手術例の報告は年々増加し,1969年林田1)による全国集計では,22施設において昭和37年1月より昭和43年10月までの7年間に発見された早期胃癌は2,364例を数え,年毎にその発見例数は急増している.しかしながら噴門部を中心とする胃上部の早期癌は,ほぼ6.0%未満であり,松江(1970)2)による国立がんセンターの報告でも,早期胃癌300例中噴門部のものは10例(3.3%),春日井(1970)3)によると128例中9例(7.0%)に認めているにすぎない.われわれの教室において,昭和35年1月より昭和47年6月までの11年半の間に切除された早期胃癌は169例で,そのうち噴門部のものは7例(4.1%)と,諸家の報告に近似した頻度を示しているが(表1),今回はこれら7例の噴門部早期癌症例を中心に,X線並びに胃内視鏡による噴門部附近の術前診断について,切除胃所見と対比しながら,2,3の検討を加えてみた.

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 胃潰瘍の発生に関する研究は数多いが,潰瘍の治癒および再発に関する病因論は少ない.一方,創傷治癒には周辺の血行状態が大きな影響を持ち,血行不良の場合には下腿潰瘍にみられる如く難治性となり,また再発もおこり易いと考えられる.胃潰瘍をかこむ環境と一般創傷のそれとは非常に異なるとはいえ,生体の治癒反応という面では共通しているはずである.以上の観点から,潰瘍の治癒および再発には血管構築上の因子,すなわち血行が大きな役割りをはたしているのではないかと考え,われわれの改良工夫した血管造影法1)により,胃潰瘍の微細血管構築を検討した.

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 回盲弁はまたの名称をBauhin弁ともよばれていることは誰でも知っているが,大方の想定をうらぎることになるかもしれないが,決してBauhin〔boan〕が最初に記載したものではない.

 古くから人体解剖が行われていたヨーロッパでは時々回盲弁に関する記載がなされていて,その歴史は結局有名なLeonardo da Vinciまでもさかのぼるといわれている.

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色素撤布法とは

 本法は1967年津田が初めて報告したもので,赤色調を呈する胃粘膜に対称的な色調となる青色系の色素を撤布して,微細な凹面に色素が溜まることによって微細な凹凸を明瞭化しようとするものである.われわれが色素撤布法を始めたのは,類似Ⅱb症例の検討の際病巣表面の微細顆粒の異常を切除標本では指摘できても,術前の内視鏡像ではほとんど指摘できず,内視鏡検査における一層の精度の向上を痛感したことが動機になった.

 津田らは生検用ファイバースコープの鉗子孔から挿入したカテーテルを通して,無処置のまま直接胃粘膜に色素液を撤布している.確かに無処置のままでもかなり鮮明な微細凹凸像が得られることもあるが,周知のように胃粘膜面はいわゆるmucous barrierとしての役割を果たしている粘液で一面が覆われているもので,その表面に色素液を撤布しても必ずしも,胃粘膜自身の微細凹凸をそのまま表現するとは限らない.かえって粘液が色素液で染色され,観察を困難にすることも稀でない.本法が現在まであまり普及しなかった原因もこのあたりにあるように思われる.

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 良性疾患,例えば胃潰瘍,十二指腸潰瘍などで胃切除後長年月をへて,時には40年近くたって残胃に癌が発生することがある.そのほとんどは吻合部から発生するといわれる.このテーマを扱った報告は欧米に多い.日本でも,外科系の学会では,チラホラと報告のあるのを耳にする.私は数年前,シカゴ大学に在任中,このような症例2例を経験し,過去10年のカルテからさらに5例を発見し,合計7例の報告と共に,術後胃の内視鏡的,組織学的検索を行い,残胃における発癌の病理発生について論じた(Am.J.Dig.Dis.,15:905,1970).

 残胃癌が,良性胃疾患による胃切除患者で,一般人口より高頻度に発生するか否かは,議論のあるところだが,Hilbeらは,剖検例で約2倍を数えたと報告している.手術理由については,十二指腸潰瘍患者が多く,私の調べた症例でも,7例中5例は十二指腸潰瘍が手術理由であった.手術々式では,Billroth Ⅱ法および,単なる胃腸吻合術の場合に多く,Billroth Ⅰ法ではおこりにくい.初回手術後癌の発見されるまでの期間は,私の例では,14~38年で,平均23年だった.10年以内におこる場合もあるかも知れないが,前回手術時の癌病変の共存の可能性を否定するには,多くの文献では,10年以上を必要条件としているし,著者もこれには賛成である.吻合部が,ほとんどの例で侵襲されているのは興味深い.私の7例でも,全例吻合部がおかされ,うち4例は,吻合部が主なる浸潤領域だった.他の3例では,広範な侵襲のため,吻合部から発癌が始まったかどうか論ずるのが困難だった.他の報告も同様で,このあたりに病理発生上の要因が存在するのではないか.そこで手術胃と非手術胃の内視鏡的観察と,術後胃での部位別生検による組織学的変化を調べ,発癌に関する推論を試みた.手術群では,非手術群に比較して,正常胃粘膜は少く,胃炎(表層性胃炎・萎縮性胃炎)を示すものが多かった.Billroth Ⅲ法および胃腸吻合では,Billroth Ⅰ法に比べて,吻合部でのポリポイド形成を高頻度にみた.胃粘膜生検では,吻合部で萎縮が最も強く,それより遠ざかるにつれて萎縮の程度は弱くなっていた.萎縮陸変化の程度は,手術後期間に必ずしも比例せず,1年位で強い変化を示すもの,13年後でも比較的軽度のものもあった.これは手術前の粘膜変化の状態が生検で調べてないので分らないこと,術後に粘膜に影響を及ぼす諸因子に個人差が考えられることなどから,明確な比較が困難である.

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 胃体部における多発潰瘍および線状潰瘍のX線診断に際し,その足がかりとなる小彎の変形について述べてきた.

 これは,白壁先生の“変形をみて,こことここに潰瘍がある筈だという公式らしいものはできないか”という発想から始まったもので,その後約8年間の資料を基にしたものである.まとめてみると次のようになる.

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 現在膵胆道系疾患の最も有力な形態学的診断法は,経皮経肝的胆道造影法(Percutaneous Transhepatic Cholangiography,以下PTCと略す)と内視鏡的膵胆管造影法(Endoscopic Pancreato-Cholangiography,以下PECと略す)である.両検査法とも膵胆道系に直接造影剤を注入する直接造影法であるが,造影範囲が若干異る.すなわち,PTCは細い穿刺針を肝内胆管に刺入し造影剤を注入する一種の排泄性造影法であり,主として胆道系が造影され,膵管は造影されないか,または造影されても極めて不充分である.一方,EPCは十二指腸ファイバースコープにて十二指腸乳頭を観察しながら細いチューブを乳頭開口部に挿入し,造影剤を注入する逆行性造影法であり,胆道はもとより膵管造影も可能であるが,いずれか一方(特に膵管)しか造影できない場合もある.またEPCはスコープを下行脚に挿入できなかったり乳頭を観察できない場合には造影不可能である.われわれは1972年7月までにPTCを100例に施行し89例(89%)に成功したが,肝内胆管の拡張例にはほぼ100%に,また拡張のない例でも85%以上に造影可能であった.しかしながら,PTCで膵管像を得たのは造影成功例の15%と少く,主膵管全体が造影されたのはわずかに1例のみであった.一方,EPCを120例に施行し99例(82.5%)に成功したが,最近4カ月間の60例では96%の成功率であった.その造影範囲の内わけは膵胆管造影55例(56%),膵管造影のみ38例(38%)および胆管造影のみ6例(6%)すなわち膵管造影は93例(94%)に,胆管造影は61例(61%)に成功した.

 両検査法とも安全に実施できるものであり,いずれか一法でも従来の検査法に比しはるかに優れた診断法であるが,両検査法を併用すればさらに診断能が向上するものと思われる.

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 この本はもともとNew Jersey大学消化器内科教授のEddy D. Palmerが消化器病学のundergraduateおよびgraduate trainingを目的として教科書の補遺としてつくられたものを,多くの要望に応じて出版したものである.

 肝,膵,胆道系疾患をふくんで,175頁の小冊子であるから,いかに簡潔に要領よくまとめられているかが想像できよう.文字通り「山椒は小粒で1もぴりりと辛い」本である.しかも教えられることが多い.例えば第1章を「もっとも熟練した消化器病医にとって,臨床消化器病学はめずらしいppsychophysiologic phlnomenaのparadeである」と書初めているし,「ラボラトリーは疾患をはかることはできるが,病気をもった患者ははかられない」など味のある言葉が随所にみられる.さすがに1967年Functional Gastrointestinal Disease' The Williams&Wilkins,Baltimoreを書いた著者だ.この本も随分面白く読んだ.

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欧文目次

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 気楽に読めて,しかもためになる本とは,本書のようなものをいうのであろう.

 内視鏡に関する本で,読者の心をとなえるには,著者によほど豊富な自己体験と実力がなければだめなものである.この点著者は,自ら血のにじむような苦難の道をのりこえ,今日の大家の地位を築きあげられただけあって,この本に書かれた一言一句に著者の思想がにじんでおり,読者を納得させ,ひきつける迫力がある.

編集後記 高田 洋
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 症例・研究特集号を手にする時,私はいつも学会の地方会に出席する時に似た何かしらわくわくするような期待感をもってその頁を繰るのです.私共の短い生涯を通じての臨床経験でも,あるいは遭遇しないかも知れない稀な症例や,ささやかではあるが実際の診療に則した新しい工夫やアイデアをその数々の報告の中に見出すことがあるからです.またある場合には,あの時のあの症例は,あるいはこの疾病であったのではなかろうかと新たな反省の資を与えてくれるからです.

 経験を基礎にして組立てられている臨床医学の場では,他人の経験を自分の知識の資として絶えず問題意識をもつことによって我々は次の誤診から救われることを銘記すべきだと思います.本号にも数多くの貴重な症例が掲載されましたが,どれをとってみても教唆に富む報告ばかりです.読者各位の血となり肉となる事を念じます.

基本情報

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胃と腸
8巻4号 (1973年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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