胃と腸 8巻3号 (1973年3月)

今月の主題 内視鏡的膵・胆管造影

主題

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 比較的早期の膵癌の診断は非常に困難であり,症状,臨床検査成績,上部消化管X線検査等に診断された時には,すでに末期で切除不能であることが多い.

 逆行性膵管・胆道造影法は1968年McCune1)により初めて報告され,翌年高木2),大井3)4)らにより,臨床応用が可能となった検査法であるが,本法は膵癌の診断に極めて有力な手がかりを与えることが知られてきた.その診断能についても未だ限界が残り,切除可能な膵癌の発見には,なかなか到達しえない現状である.このことは逆行性膵管造影の診断能のみの問題でなく,初期の膵癌患者は無症状で医師を訪れることは多いが,症状が発現して来院した時には進行癌であるという本症の特性にもよると考えられる.

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 膵疾患の診断において信頼のおける形態学的検査法のない現在,Pancreatographyは最も有力な検査法の1つと考えられる.

 Doubilet et al.1)によって紹介された術中Pancreatographyは,Pollock2),Keddie et a13).,Elmslie et al.4),Trapnel et al.5)などにより検討され,一般に安全性と有用性が認められたが,術中検査法であり臨床検査法として広く利用されるに至らなかった.

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内視鏡的胆管造影の歩み

 十二指腸ファイバースコープを用いて十二指腸乳頭から逆行性に膵管や胆管を造影する内視鏡的膵・胆管造影は,十二指腸フィイバースコープの開発当初から考えられていたことである.1969年2月に町田製作所でFDS-Lbが試作されるや,同年4月には内視鏡的膵管造影1)が,そして6月には胆管の造影2)が行われたことがそのことを如実に物語っている.

 しかし,はじめは膵管は造影されても胆管は造影されず,膵管に多量に注入した造影剤が胆管に逆流することによって胆管造影が得られた,だが,この方法では膵に過度の負荷をかけることになり,直接胆管へ挿管する方法が望まれた.胆管を造影するためにまず一度膵管に挿管した造影用カテーテルの方向を上方に向けていくことによって直接胆管に造影剤を注入することが成功し,一応,内視鏡的膵・胆管造影法の基本的手技が確立した3)

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 十二指腸ファイバースコープによる膵管胆管造影法は,大井,高木を先駆としてわが国で実用化されたが,既に膵胆道病変の診断法としての地位は確立されたといってよく,最近も国の内外からの報告が多い1)~8)

 実地臨床家にとって本法の魅力は,非観血的検査法であること,1回の検査で得られる情報量の多いことにあるが,十二指腸ファイバースコープの診断能を最大限に活用するには,検査適応を明確にする必要がある.当院では,①閉塞性黄疸,②間接胆道撮影陰性例,③膵腫瘍疑の上腹部腫瘤,④胆摘後遺症,が主な検査対象であり,手術適応の有無,あるいは手術術式選択の判断を目的に治療に直結する診断法として行なってきた.従って,検査施行220例中の122例が膵胆道症例であり,確定診断別では,胆道癌15例,膵癌9例,乳頭部癌2例,原発性肝癌2例,後腹膜肉腫4例など悪性腫瘍32例(開腹28例)および,胆囊結石19例,総胆管結石6例,総胆管胆囊結石10例,総胆管肝内結石4例,総胆管胆囊肝内結石6例,肝内結石6例など胆石症51例(開腹44例)を主とする良性病変90例である.逆行性造影は96例(膵胆管共63例,膵管のみ21例,胆管のみ12例)に成功した.

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 近年,内視鏡的膵・胆管造影法の普及はめざましく,膵,胆道系疾患の疑われる症例に対しては,積極的に本法が施行される現状にある.

 しかしながら,造影像が正常であるか否かの判定,あるいは,造影所見がいかなる組織学的変化に由来するかについては,未だ充分な検討がなされているとはいえない.

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患者:51歳男

主訴:右季肋部痛

現症の経過

 昭和46年5月頃より右季肋部の鈍痛が認められたが,そのとう痛は食事に関係がなく,歩行時にひびくように感じるとのことであった.その後症状は軽快したので様子をみていたが,12月末再び右季肋部痛を訴え来院,膵炎の診断のもとに加療を受けたが,とう痛は持続し,さらにるいそうが目だって来たので精検のため住友病院に入院した.

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患者:神○○○○郎 72歳 男

病歴:数力月前から全身倦怠.1週間前から38℃の発熱.抗生物質無効のため紹介され入院.

現症:肝腫大弾性硬.

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患 者:63歳 男子 会社員

既応歴:特になし.

現病歴:約1年前に下痢並びに腹痛があり内服加療にて軽快.3月前より心窩部の重圧感と共に腹痛を繰り返すため某医を受診.心窩部の腫瘤を指摘される.

現 症:黄疸なし.心窩部に驚卵大の硬い腫瘤を触知す.移動性なく軽度の圧痛を伴う.肝・脾・胆のう触知せず,心肺に著変を認めず.

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患 者:66歳 女性

主 訴:悪心および嘔吐.

既往歴:便中に回虫卵を指摘されたことあり.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:約2週間前より軽度の心窩部痛と共に悪心および嘔吐を認め,昭和47年5月6日琵琶湖胃腸病院を受診.

現 症:心窩部に圧痛を認める以外に著変なし.

一般検査所見:便に回虫卵を認める以外に血液検査,肝機能検査,その他諸検査に異常なし.

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患 者:51歳の主婦

主 訴:右上腹部痛,および微熱.家族歴,および既往歴に特記すべきことなし.

現病歴:昭和46年7月頃より食思不振を自覚し,8月頃一過性の黄疸を経験し,その後発汗を伴う悪感があり,微熱が続くようになった.12月7日本科受診.

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患 者:今○光○ 68歳 男 用務員

家族歴:父74歳,黄疸にて死亡,母56歳,胃癌にて死亡.

既往歴:66歳時,心筋硬塞.

現病歴:昭和45年10月頃より体重減少,背部へ放散する上腹部痛より,次第に食思不振増強.昭和46年に入り,痛みが強まりEPGの結果,同年3月22日入院.経過中黄疸なく,貧血もなかった.

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 一概に直線型変形といっても,いろいろなものがある.範囲の広いもの,狭いもの,硬さのあるもの,ないもの,更に境界のはっきりしているものとそうでないものなど.X線学的には,つっぱり,直線状,伸展不良,壁硬化という言葉であらわされている.ここでは,図に示すような硬さを伴う直線型変形をとりあげてみた.この硬さをみるには,やはり充満像が最も適している.

 一方,小彎およびその近くにある潰瘍瘢痕についてみると,粘膜集中を伴わず,肉眼的にもわからないものが少くない.このような瘢痕を含めての多発潰瘍の診断は容易でない.このような場合,特に変形による診断の意義は大きい.

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 Vater乳頭という用語が正式の解剖学名ではないと重々承知していても,つい使ってしまう.

 膵炎の成因の一っとして,Opieがcommon channel theoryを提唱したことは余りにも有名であるし,最近では方々で内視鏡的膵・胆管造影法が行われるようになって,膵管と胆管の末端開口部あたりの構造,ampulla of Vaterとかpapilla of Vaterの形態と,その意味づけが積極的に検討されるようになった.

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〔第10例〕I.K. 60歳,女

主訴:胸内苦悶および心窩部痛.

理学的検査所見:特に異常なし.

胃液酸度:ガストリン法で最高総酸度73mEq/L.

胃カメラ所見:図1に示すように,体中部後壁に不整形の活動期の潰瘍がみられる.被覆する白苔は,口側および小轡側にはみ出し,小轡側では不整出血もみられる.集中する粘膜ひだは潰瘍辺縁の手前で,一度くびれをみせ,辺縁で不規則に中断している.また,一部の粘膜ひだには発赤およびかなりの腫脹がみられる.

胃生検:図2に示すように,潰瘍辺縁より採取された標本の病理組織学的検索の結果,signet ring cell carcinomaであった.

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 十二指腸腫瘍の治癒過程にみられる再生粘膜は胃潰瘍の場合よりもさらに複雑な内視鏡像をしめすように思える,その理由として考えられることは,十二指腸の絨毛構造の再生過程のほかに,潰瘍周囲の炎症性変化が絨毛の腫大,充血,変形あるいは消失などをおこし,これらの像が再生上皮とたいへん類似した内視鏡像を示すと考えられるからであろう.

 なかでも,最近近接拡大観察によってきついていることは,再生過程における胃粘膜の島状の出現でありて,この内視鏡像はかなり特異的であるから注意深く観察すればそれと判断できるように思っている.この胃粘膜の島状出現はすでに1927年にA.L.Taylor1)が剖検2例を報告しているが,そのうち1例は十二指腸潰瘍をともなわないもので,当時は化生ではなく,生来性の胃粘摸迷入組織と考えられた.他の1例は十二指腸潰瘍をともなっていたが,その辺縁からすこし離れた所にみられたためやはり迷入と考えられた.その後1964年A.H.James2)が十二指腸潰瘍の再生粘膜に化生の形で生じたと思われる症例を報告している.

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 十二指腸の内視鏡検査の進歩はここ数年の間にめざましい進歩をとげてきた.とくに十二指腸内面の観察にとどまらず,Vater氏乳頭ロへの直視下挿管による膵管,胆管の造影(逆行性,または内視鏡的膵・胆管造影)が検討されて,実際,臨床的に有用な検査法となってきている.とくに膵臓の検査法としては,今後欠くことができない必須のものとなるであろう,しかし,この内視鏡的膵・胆管造影(Endoscopic Pancreatocholangiography略してEPCG,膵管造影EPG,胆管造影ECG)の方法は,まだ確立されたとはいえず,現在なお,この方法の手技は検討を要するものであるが,最近までに報告された本法の手技と共に,われわれの経験について報告し,内視鏡的膵・胆管造影のなお一層の普及をのぞんでやまない.

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 膵疾患を膵管造影により診断しようとする試みは,1951年Doubilet et al.1)の手術的経乳頭的膵管造影法に始まり,主として術中造影例による検討2)~19)と剖検例による基礎的検討20)~26)がなされてきた.しかし,術中膵管造影法は観血的方法であるため臨床的に広く一般化されるに至らなかったが,十二指腸ファイバースコープを用いた内視鏡的膵・胆管造影法(Endoscopic Pancreato-Cholangiography,以下EPCと略す)が一般の臨床検査法として応用されるに及び,非観血的に容易におこないうる検査法として急速に普及しつつある.本法は1968年McCune et al.27)の報告を最初とするが,本邦での十二指腸ファイバースコープの開発と共に大井28),高木29)らの報告以来,主として日本において発達した検査法である30)~37).われわれも現在までに206例にEPCを施行し,その有用性を報告してきたが38)~42),たしかにEPCは膵管と胆管を直接造影できる,しかも臨床的に比較的容易におこなえる優れた検査法である.とくに内視鏡的膵管造影法(Endoscopic Pancreatography,以下EPGと略す)は膵疾患に対する

有力な形態学的検査法として期待されるが,その診断能や診断基準(ことに慢性膵炎に対して)は現在なお明らかではない.

 今回,われわれはEPGによる慢性膵炎診断へのアプローチとして,手術例におけるEPG診断と術中膵肉眼診断および膵生検診断とを対比し,EPGによる慢性膵炎診断の可能性を検討するとともに,膵生検で組織学的に確認された慢性膵炎例の膵管像を検討したので報告する.

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 悪性貧血(以下PA)の胃粘膜像について,欧米においては剖検,胃鏡,生検学的報告が多いが,わが国ではもともとPA例が少いため,近藤の胃鏡学的研究1)がまとまっているが,内視鏡領域に関する報告は症例の呈示が多いと思われる.われわれは若年者のPA胃にみられる特異な胃炎分布について注目し,できるだけ積極的に多数個のファイバースコープ生検を行ないながら胃炎像を追求しているが,最近その1例において早期胃癌Ⅱaを認め,胃切除術を行ない,癌病巣ならびに切除材料の広汎な領域にわたる胃炎像の検索を行ったので,その結果を報告する.

印象記

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 第2回欧州内視鏡学会は昭和47年7月3日4目5日の3日間A.Cornet教授会長の下に,パリーの医科大学で行なわれた.部屋は5室あり,Aの部屋はシンポジウム,1室は映画が上映された.

 本学会は全欧州は勿論,米,ソ連に加えて目本よりの多数の参加がひとめをひくというより,ひとめをみひらかせた.先づ参加者の名薄を見ておどろいた.総計379名のうち地元のフランス人73名についで何と日本人は69名,ついで西独の34名という数字である.これにはかなり記載もれがあったようで,消化器病学会とあわせると,日本人の参加者は200~300名にも達し,総員の半分近くというと大げさになるが,そういう噂さが流れていたほどであった.

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欧文目次

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 消化管内視鏡検査はついに経口観察と経肛内観察が腸内の一点で合流することに成功し,さらには膵,胆道の内視鏡検査へと進もうとしている.日常検査に使用する内視鏡も食道用,胃用,十二指腸用,小腸用,大腸用と多種にわたり,内視鏡専門家といえどもうっかりしていると新しいスコープから取り残されそうな昨今である.

 この時期に竹本教授の「胃と腸内視鏡検査のポイント」が出版されたことは誠に意義深い.胃鏡からファイバースコープ通じて器械の開発と胃内視鏡診断学の体系化に全力を傾注された著者が,女子医大に移られてからは恵まれた環境と有能な愛弟子に囲まれて,食道から大腸に及ぶ消化管内視鏡診断学の領域で常に牽引車的役割を果してこられたことは周知の通りである.本書は内視鏡診断学の歴史に支えられた不朽の基礎的知識と最新検査法の要点とを肩の凝らない手法で解説されたものであり,この著者にしてなし得た異色の内視鏡実習書である.

編集後記 崎田 隆夫
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 本号は膵・胆管造影法の特集号である.御存知のように本法は最近数年間のトピックニュースの1つであり,本邦で次々に出された成果は世界の消化器内視鏡学会を湧かせたと形容できることがらである.

 本号は御覧のようにこの成果をあげた方々が百花僚爛とその名前をつらねておられ,誠に壮観といえる内容である.心ゆくまで熟読玩味していただきたい.

基本情報

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胃と腸
8巻3号 (1973年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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