胃と腸 7巻12号 (1972年12月)

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 腸の潰瘍性病変には,腸自身の病変によるものとして,結核などの特異性炎症,腫瘍,放射線障害などによるもののほか,原因の不明な非特異性炎症性変化によるものとして,いわゆるクローン病や潰瘍性大瘍炎などがある.そのほか,全身性病変が腸にも及んで潰瘍性病変を呈するものとして,動脈硬化性変化に基づく血行障害や,ある種の膠原病,Behget病,代謝障害などに二次的に生ずるもの等があげられる.第58回日本消化器病学会総会では,腸の非特異性潰瘍のテーマでシンポジウム1)が行なわれ,そこで主として論議された非特異性多発性小腸潰瘍症,潰瘍性大腸炎,intestinal Behçet,クロ一ン病と癌の合併,潰瘍性大腸炎と癌の合併,腸の出血性潰瘍性病変などについては,それぞれ本号に集録されている.

 よって,ここでは腸の潰瘍性病変のうちとくにクローン病を中心に,腸の非特異性潰瘍について,われわれの検討した成績も加えて考察することにする.

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 胃のX線診断学は,本邦においては,近年著るしい進歩を遂げている.その結果,多数の早期胃癌が,日常の診療時に容易に発見されるようになってきた.しかし腸のX線診断に関しては,胃の場合のような進歩は,いまだ見られていないように思われる.もちろん腸といっても,小腸と大腸とではかなりようすが異なる.

 大腸に関しては,最近,早期大腸癌のX線診断が話題になりつつある.従来はX線で診断された大腸癌のほとんどが進行癌であったことから考えると,大腸のX線診断は進歩しつつあるといってよいであろう.大腸のX線検査法も注腸法からFischerの二重造影法へ,ついでWelinの二重造影法,さらに最近では,Brownの直接二重造影法が広く行なわれつつある.二重造影法によって,胃の場合と同様に腸粘膜の微細所見を,比較的容易にX線像として描写することが可能になってきた.その結果,大腸癌の早期X線診断が,徐徐にではあるがなされつつあるのが現状である.従って,胃のX線診断で見られたのと同様な進歩が,大腸のX線診断で実現する日も近いように思われる.しかしながら,小腸に関しては,本邦に小腸疾患が少ないこと,小腸そのものが著るしく長く,X線検査が繁雑であること,胃や大腸のように二重造影法を実施することは,一般にはなかなか困難なことなど,様々な悪条件があるために現状では残念ながらX線診断上で進歩らしいものが見られていないというのが実状であろう.

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 “非特異性多発性小腸潰瘍症”は,1966年岡部1)らが,「非特異性原発性小腸潰瘍症の3例」として報告したのを嚆矢とする.その後崎村らと共に症例を重ね2),1970年には“非特異性多発性小腸潰瘍症”として,本症の6例について詳細な臨床的病理学的検討を加え,特に限局性腸炎との異同を中心に詳述している3)

 即ち,本症は,臨床的には主として若年者を侵し,腸管からの長年月に亘る潜・顕出血,高度の続発性貧血を主症状とする.病理学的には回腸中~下部の浅い多発性潰瘍または潰瘍瘢痕の形成を主病像とし,限局性腸炎の特徴的所見とされる異常に強い結合織の増殖や,granulomaはみられない.その組織反応の差は,限局性腸炎を“ulcerative proliferative process”と呼べば,本症は“ulcerative non-proliferative process”とでも呼ぶべき疾患であろうと述べている.

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 市川(司会) 今日は「腸の潰瘍性病変」ということで座談会をいたします.皆さんベテランの先生方ですから,自由にご発言いただきたいと思います.さて,人間の病気はほんとうの原因はわからないのが多いわけですけれども,その中でもとくに腸の潰瘍性病変という今日の話題のものは,わからない面が非常にあると思います.たとえば,十二指腸潰瘍というと,もうわかったような感じがしますけれども,それはただ十二指腸にある潰瘍といっているだけのことで,数が多いために,ある程度の概念はわかっていても,本質的にはわからない面がたくさんあると思います.小腸の潰瘍,大腸の潰瘍についても同じようなことがいえるのではないかと思います.そういう面からいいますと,きわめて未開の分野であると思います.したがって,話題として出てくる病名も,実際はある病気の一部しかいっていないようなことも多いのではないかと思います.けれども,腸の病変が注目され始めておりますので,現在われわれが持っている知識,また変なところで誤解しているような面を洗いざらい出していただいて,話題にすることは非常に有意義ではないかと思いますので,どうぞ活発にお話をいただきたいと思います.

病気の種類

 順序として小腸から大腸にいきたいと思いますが,小腸では,潰瘍性病変ということになるとCrohn氏病,またの名は限局性回腸炎,小腸炎,小腸結核,そのほか非特異性の潰瘍などいろいろなものがあります.ところが,それ以外となると,あるにはあっても,小腸独特の病気としてはないものが多いように思うんですけれども,いかがでしょうか.そのほかに,こういうのが小腸の潰瘍性病変といえばいわなくてはならないというものはありますか.

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 陥凹型変形は,もっともしばしばみられる変形である.単発潰瘍にもひろくみられる.しかしその程度が強くなると(図1,2),単発潰瘍は少なくなり,ほぼ線状潰瘍,多発潰瘍に特徴的となる.陥凹型も,その辺縁や底の形によっていろいろ分類できるが,ここではもっとも単純な形をとりあげ図1に示した.図3は,この強い陥凹型を示した線状潰瘍,および,多発潰瘍配列線の小彎に対する位置関係を示したものであり,この図から,次のような傾向をみることができる.

 1.横軸(小彎と直角)の要素が強い.

 2.線状潰瘍,および多発潰瘍の配列線は比較的長いものが多く,小彎をはさんでほぼ対称的な位置関係を示している.

 3個以上の潰瘍からなる多発潰瘍についても,配列線が上記の傾向を示すものには,この変形を認める場合が多い(図1).

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 最近,わが国でも潰瘍性大腸炎の患者に接する機会が多くなっているが,その本態を含め,なお多くの未解決な問題をもっている.

 教室では本症のcolonofiberscopeを中心とした内視鏡所見から,第Ⅰ群:易出血性,発赤,粘膜粗糙,血管透見の異常,第Ⅱ群:多発ビランまたは潰瘍,第Ⅲ群:偽ポリポージスの3群に分類し,その経過を観察している.第Ⅰ群の所見だけでは本症の疑いにとどまるが,これに第Ⅱ群,さらに第Ⅲ群の所見が加わるにつれ確実となる.

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 一般に長く経過した腸の炎症性疾患において癌が発生し易いことはよく知られている1)

 とくに潰瘍性大腸炎では,10年以上経過した症例においてはかなり高率に,しかも一般の癌年齢より若年者に結腸癌の合併がみられる2).欧米では予防手術すらも行なわれることがある3).一方潰瘍性大腸炎と並んで代表的な慢性経過をとる非特異性炎症性腸炎であるクローン病(限局性腸炎)については,癌の合併した症例が稀である.Ammann4)はむしろ一般人口における発生率より低く,クローン病は前癌状態としては評価できないといっている.

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 潰瘍性大腸炎は従来欧米に多く,わが国には少ない疾患とされていたが,最近増加の傾向があり,わたくしどもはすでに44例を経験している.なお潰瘍性大腸炎の癌化例はわが国では欧米に比較してはるかに少ない.

 我々は臨床的に原発巣を決定しえなかった癌性腹膜炎の患者を剖検して,これが潰瘍性大腸炎の癌化によるものと考えられる1症例1)2)を経験したのでその概略を報告する.

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 最近の15年間にわれわれの教室で手術をうけた17例の非特異性小腸潰瘍患者のうち8例が組織学的に非特異性原発性多発性慢性小腸潰瘍と診断された(表1).このうちに2組の姉妹が含まれていたことは誠に興味ある点であったが,いずれにせよ他の4例と臨床的,組織学的にもほとんど差異を認めなかったので,この2組の姉妹の症例を述べ,本症に対するわれわれの考えをまとめてみたい.なおこれらの症例についてはすでに度々報告1)しているので症例報告とは少し異るが以下のようにまとめてみた.(これらの症例は本年の消化器病学会総会のシンポジウムで一部報告した)

症例

 表1の4,5と6,7がそれぞれ姉妹である.症例4,5の姉(症例4)は12歳で貧血と浮腫をもって発病.幾つかの病院で種々の診断の下に治療をうけたが次第に増悪し22歳で本学第1内科へ入院した.蛋白漏出とレ線上で小腸下部に多発性狭窄を認め蛋白漏出性胃腸症として当科で手術をうけた.即ち図1に見る如く多発性狭窄を含む回腸130cmの切除を行った.表2は症例4,5の臨床検査成績の推移を示したものであるが,術後2カ月目に一旦血清蛋白は増加し,貧血,糞便中潜血も改善し,体重も増加した.しかしこの頃すでに蛋白漏出が認められており病変の残存,または再発が疑われる所見であった.その後に結婚したが,5年後(28歳)妊娠中にも拘らず低蛋白血症による浮腫と貧血を訴えて来院,蛋白漏出,血清アルブミン交替率の亢進,糞便中潜血の増悪を認め妊娠の継続と分娩が困難と考えられたので再手術が行われた.その際図1の如く前回とほとんど同様の所見が吻合部の上方にみられ約90cmの切除(残存小腸170

cm)を行い,2カ月後には全身状態,検査成績(表2)も改善し,その後無事出産することができた.しかし,2年後の昨年夏再び貧血,浮腫,無月経,下痢を主訴として来院,再発と診断され当科へ入院した.入院時の検査成績は表2,3に挙げてあるが,低蛋白血症,貧血と比較的軽度の蛋白漏出を認め,レ線でも本症再発が確認された.しかし,小腸広範囲切除によると考えられる蛋白,脂肪の吸収障害が認められたため,これ以上の腸管切除がはばかられたので輸血,輸血漿,栄養補液により全身状態の改善をみた.しかし輸血,輸液を中止すると間もなく検査所見の増悪をみ,更に吸収不良が認められたので試みに中鎖脂肪(MCT)の経口投与を行ってみたところ,幸いにもMC・8 250~300g/日(乳糖不耐症状を呈し3g/日のlactase剤の同時投与を要した)の経口投与で改善をみ約2週間後に退院せしめることができた.退院後今日まで200~250g/日のMC・8と9錠/日のサラゾピリン,2錠/日のフェログラジュメットの経口投与で一応良好に経過している.

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 近年わが国において多発し,難病として社会的問題にまで発展したBehçet病(症候群)はその臨床症状の多彩な事,後天性失明の首位を占めるに至った事1)2),その病因が不明で病像進展機構も不明な点が多い事など,医学的にも解決しなければならない多くの問題を含む疾患である.

 Behçet病では口腔粘膜および外陰部の反復せるアフタ性有痛性潰瘍及び眼症状の三主徴の他に皮疹を加え,この四症状のそろったものを完全型,他を不全型と呼ぶ29)

印象記

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 今回パリで開かれた第9回国際消化器病学会における消化管のX線と内視鏡診断に関するシンポジウムは,日本の診断技術が画期的に世界の専門家達の間に認められた本当の意味での第一歩であったといえよう.

 1972年7月8日から12日まで,5日間にわたってパリ大学の建物の一部を会場とし,およそ消化器に関するありとあらゆる話題を網羅して盛大に行われたが,そのなかで本誌に特に関係が深いレ線と内視鏡診断のシンポジウムについて概要を紹介する.

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 腸管に非特異的に発生する出血性潰瘍性病変は,十二指腸潰瘍など消化性のものを除くと一般にまれとされている.限局性腸炎,非特異性潰瘍性大腸炎,放射線照射による腸潰瘍など比較的はっきりした疾患単位としてとりあげられるものもあるが,潰瘍性病変そのものの発生原因,誘因に関しては議論の余地が多い.

 “胃潰瘍”や“十二指腸潰瘍”などの呼び方は,単に潰瘍の発生部位を示すものであり,発生原因を暗示するものではない.これと同じく腸の非特異性潰瘍,単純性潰瘍の呼び方も単なる病変の存在を示すだけの名称であるが,その発生原因の検索が,胃・十二指腸潰瘍に比べて立遅れているため,このような呼び方がなお繁用されている.また発生原因の明らかなものに,腸間膜動脈閉塞や絞扼性イレウスのときにみられる出血性腸壊死のような阻血性変化があるが,このような場合臨床的には,腸管の病変はむしろ二次的なものとして片付けられることが多い.

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 潰瘍性大腸炎が文献にみられるようになったのは19世紀も後半になってからである.最初の報告としてよく引用されるのはWilks1)の論文である.さらにさかのぼって探そうとして諸種の論文が挙げてあるが,現在でも未解決の点の多い疾患であるので不備な古い論文からあまり確実なことはいえないと思う.いずれにしてもそう古くない疾患であるといえる.しかし潰瘍性大腸炎は,現在では,少くとも欧米においては最もポピュラーな大腸疾患の一つである.日本においても戦後漸増し,大腸の感染症が減少した今日では,下血をきたす患者において癌,ポリープと並んで先ず考慮すべき疾患となっている.消化器病センターでも過去約2年半の間に,ファイバースコープで観察した症例だけに限っても34例に達している.今後益々増えることが予想される.この論文では内視鏡像と生検組織に重点をおいて,潰瘍性大腸炎について述べる.

材料

 昭和44年10月から,昭和47年5月までの2年7カ月間に,ファイバースコープ(FCSおよびFSS)で観察した潰瘍性大腸炎は34例,延べ検査回数は94回である(表1).

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 近年わが国で開発された消化管ファイバースコープの進歩は目ざましく,最近はさらに未踏の地とされていた小腸全域にわたる内視鏡検査も開拓されはじめるに至った.即ち十二指腸ファイバースコープが幽門輪を通り十二指腸空腸曲(Treitz靱帯部)という関門,また大腸ファイバースコープが逆行性に回盲弁(Bauhin弁)という関門をそれぞれ突破し,空腸・回腸への内視鏡挿入に成功すると,いち早く小腸専用のファイバースコープが未完成ながら開発された.そして著者らは経口的小腸ファイバースコープ挿入と経肛門的大腸ファイバースコープ挿入とにより,同一腸管内でのスコープのドッキング1)2)3)に世界ではじめて成功し(1971年3月29日)全腸管にわたる内視鏡診断の一つの可能性を立証した.しかし小腸は非常に長い,細い,屈曲に富んだ管腔臓器で,しかも腹腔内を上下左右に蛇行,重畳し,また口からも肛門からも到達し難い部位にあるため,小腸全域にわたる内視鏡検査法はきわめて至難の技といわねばならない.このため小腸の解剖学的特徴に適合した小腸鏡の完成にも幾多の難問がたちはだかっているといえよう.一方,これら小腸ファイバースコープ挿入法にしても,技術上想像されなかった難問に直面し,第14回日本内視鏡学会総会シンポジウム「小腸(空腸・回腸)の内視鏡検査」においても,幾多の問題点が提起されたが,なお小腸内視鏡検査法は黎明期であるという印象であった.著者はこのシンポジウムで腸ひもを利用したRopeway式小腸ファイバースコープ挿入法について主として報告したが,この方法によりはじめて全腸管の直視下観察,直視下生検に成功し,新しい腸診断法の1つとして登場し,腸の形態的,機能的解明に役立つ検査法と考えている.そこで本論文のねらいはRopeway式小腸内視鏡診断の方法論に的をしぼり述べてみたい.

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欧文目次

編集後記 石川 誠
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 本年4月,日本消化器病学会で,シンポジウムに腸の非特異性潰瘍がとり上げられた.よって,本号では主として,その内容を中心に編集された.すでに潰瘍性大腸炎については本誌4巻12号で論じられたので,今回は主題にはクローン病を中心にとり上げることになった.かつて,わが国では潰瘍性大腸炎としてはきわめて重症なもののみを考えていた時代があったが,直腸鏡,生検などの普及によって炎症像の把握が容易となり,最近では定型的なものの他に,比較的軽症の直腸炎型などの症例も増加しつつある.クローン病は潰瘍性大腸炎よりもさらに少ないが,主題ではこの方面の権威者のDr.Morsonの考え方を紹介した.

 すなわち,Crohnらの原著に比べて,英学派では,はるかに広くその概念を広げて考えていることがわかる.胃疾患の診断では,世界をはるかにリードしているとのパリーでの国際消化器学会からの報告は,まことにたのもしく御同慶に堪えない.これからは,わが国でも腸疾患の研究が盛んとなるべき趨勢にある.

基本情報

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胃と腸
7巻12号 (1972年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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