胃と腸 54巻9号 (2019年8月)

今月の主題 消化管X線造影検査のすべて—撮影手技の実際と読影のポイント

序説

消化管X線造影検査総論 斉藤 裕輔
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はじめに

 近年の内視鏡機器1)〜3),CT/MRIの進歩4)5)などにより,消化管疾患診断におけるX線造影検査の役割はいっそう低くなり,行われる機会も減少している.以前は無症状の集団検診群においては細径内視鏡を用いても侵襲が大きかったため,集検群における内視鏡検査希望者は34%程度と少なかった.しかし,近年のさらなる内視鏡機器の細径化,経鼻内視鏡の普及などによりスクリーニングも内視鏡検査が主役となり6),X線造影検査は主に内視鏡検査により拾い上げ,診断された症例の精密検査・術前検査の一つとして施行されているのが現状であろう.

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要旨●食道X線造影検査について,スクリーニング検査と精密検査との立場から,それぞれの撮影法および読影のポイントについて述べた.スクリーニングX線検査では,食道表在癌拾い上げ診断の実際について,また精密X線検査では,実際の撮影手順と所見の捉え方,読影に必要な病変の描出方法や周囲粘膜を含めた画像のあり方,深達度診断では特に側面変形の重要性について述べた.形態診断としてのX線造影検査の有用性を改めて見つめ直すきっかけとなれば幸いである.

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要旨●胃がんX線検診の標的病変は胃癌である.その拾い上げの精度向上をはかるための撮影法,すなわち撮影手順と撮影体位を基準化した基準撮影法が,今,全国に普及しつつある.その基準像の一つである腹臥位二重造影正面位像(頭低位)の画質をさらに改善するには,当センターで検討した“両肩当て・左向き手技”が役立つように思われた.一方,検診精度は読影能にも左右される.しかし,読影判定のための枠組みあるいはルールといったものは今のところ見当たらないようである.良性悪性判定の基本的な所見として馬場らが発表した肉眼的異型度理論は胃癌のX線診断の指針であり,胃がんX線検診の良性悪性判定の指針でもある.

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要旨●これまでの胃X線検査には,スクリーニング検査と精密検査のスタンスに乖離があった.そのため,両者に共通する到達目標を設定し,撮影と読影の技能をシンクロさせながら検査精度を高めていく必要がある.また,検査プロセスには被検者因子,環境因子,検査側のハード因子・ソフト因子が介在し,それらの影響によって難易度の差が生じる.難易度による検査精度のばらつきを少なくするためには,日本の武道や伝統芸能などの分野における師弟関係や技術伝承のあり方である“守・破・離”の概念がポイントとなる.筆者らはこれらを総合的に踏まえた胃X線検査の段階的な技能修得指針として,胃X線撮影法虎の巻と読影法虎の巻を構築したので概要を述べる.

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要旨●精密胃X線撮影法(ゾンデ法)は,胃粘膜へのバリウムの付着不良の原因となる胃粘液を処理することが可能であり,また,腹臥位で透視台を起こしながらバリウムを徐々に注入することができるため,小腸へのバリウムの早期流出を回避して,バリウムの重みと圧迫フトンで胃を鉤状胃形に整えることができる.情報量の多い詳細な画像を得るためには,撮影前のこれらの処置は極めて重要である.現在,詳細な観察が可能となった内視鏡検査に対して,X線検査では,胃全体を1枚の画像で描出できることを生かして,粘膜層だけでなく粘膜下層以深に拡がる病変の深達度診断および範囲診断を行い,特に縮小手術が適応となる症例では,病変から噴門部や幽門部までの距離を正確に描出することができる.したがって,精密胃X線検査で情報量の多い画像を撮影するためには,内視鏡検査で得られた情報に追加すべき所見を撮影前に考慮し,目的に応じた撮影計画を立てて検査に臨むことが必要である.

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要旨●十二指腸X線造影は十二指腸管内の病変の描出,および隣接臓器の病変と十二指腸の関係を評価する目的として施行される.低緊張性十二指腸造影(hypotonic duodenography)は鎮痙剤を使用して二重造影像を撮影する方法で,有管法と無管法(簡易法)の2つの方法がある.有管法はゾンデを十二指腸まで挿入し,鎮痙剤を投与して腸管の緊張を取り除いた後に造影剤と空気を直接注入して二重造影像を撮影する方法で,造影剤や空気量の調節が自由にでき,微細所見の描出にも優れており十二指腸の精密検査に適している.先端バルーン付き十二指腸ゾンデを十二指腸球部に留置後,抗コリン薬を静脈投与しバリウムを注入して充盈像の撮影を行う.その後,腹臥位または背臥位第一斜位で,空気を300〜400ml程度ゆっくりと注入し,十二指腸管を十分伸展させて撮影する.二重造影では十二指腸乳頭部の正面像と側面像の描出を心掛ける.腹臥位第一斜位,腹臥位正面,腹臥位第二斜位,背臥位正面,背臥位第一斜位などの体位で十二指腸下行脚から水平脚にかけて二重造影像を撮影する.読影では,①十二指腸の形状および辺縁の変化を読影する,②Kerckring皺襞の状態および十二指腸乳頭の位置・形状を把握する,③粘膜面の異常所見の有無を読影する,さらに④空気や体位を変えた複数枚の写真で評価する,ことが重要である.

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要旨●小腸X線造影検査はバリウムの投与経路から経口法と経管法(ゾンデ法)に分類される.経口法では充盈像と圧迫像が,経管法ではバリウムに加え空気を投与することにより,充盈像,圧迫像と二重造影像が得られる.潰瘍性病変を呈する炎症性疾患のX線診断では,特に管腔変形・狭窄例において,①狭窄の形態,②狭窄と腸間膜の位置関係,③周囲粘膜の随伴所見,の解析が鑑別診断に有用となる.びまん性病変を呈する疾患は,X線上,皺襞肥厚と顆粒状粘膜の組み合わせを呈することが多く,両所見の解析が診断に重要である.腫瘍性病変の鑑別診断には,①SMT様所見の有無,②管外性発育傾向の有無,③狭窄部の両端のoverhanging edgeの有無,④壁伸展不良所見の程度,などの解析が有用である.生理的に管腔が狭い小腸では,狭窄合併例での内視鏡的アプローチには限界があり,X線造影検査の併用が病変の全体像の把握に有用となる症例が少なくない.二重造影像は切除標本肉眼像,病理組織像との対比に有用であるが,特に管腔変形・狭窄所見は,内視鏡検査では得られない輪郭線から成り,その解析は鑑別診断に極めて有用で,質的診断能の観点から内視鏡検査を凌駕する可能性がある.

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要旨●過去5年間に注腸X線造影検査,通常内視鏡検査,NBIおよび色素拡大内視鏡検査のすべてが施行された大腸上皮性腫瘍95例を対象とし,SM深部浸潤癌のX線造影所見,および各検査法のSM深部浸潤癌の診断能を検討した.注腸X線造影所見では,SM深部浸潤癌は腺腫,粘膜内癌,SM軽度浸潤癌に比べ表面平滑,陥凹内の不整,側面変形の頻度が有意に高かった.SM深部浸潤癌の正診率は,注腸X線造影検査78.9%,通常内視鏡検査78.9%,NBI拡大内視鏡検査89.5%,色素拡大内視鏡検査85.3%であった.また,注腸X線造影検査はSM深部浸潤癌診断の感度が最も高く,特異度が最も低かった.以上より,内視鏡検査で浸潤度診断に苦慮する大腸癌では,注腸X線造影検査は有用な検査法と考えられた.

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要旨●注腸X線造影検査による炎症性腸疾患の診断について,特に読影の観点から解説した.注腸X線造影検査が実施される機会は年々減少しており,炎症性疾患も内視鏡検査で診断される機会が多い.しかし,視点が内視鏡検査では管腔内,注腸X線造影検査では体外にある点で根本的に異なっている.注腸X線造影像は“面”と“輪郭線”で構成される.“面”は“テクスチャー”,“図形”,“線”に分解される.“輪郭線”は注腸X線造影像でのみ描出されるが,腸管のさまざまな変形は“輪郭線”により表現されるため,腸管変形の診断は注腸X線造影検査の独壇場である.本稿では,代表的な注腸X線造影所見(びまん性病変,萎縮瘢痕帯,潰瘍,隆起,敷石像,変形,ひだ・集中像,瘻孔)について実際の画像を提示するとともに解説を加えた.注腸X線造影検査の意義が再認識されることを期待したい.

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要旨●小腸疾患においてX線造影検査は全体像の把握など極めて有用である.しかしながら,経口的にアプローチする小腸造影では,バリウムの停滞,小腸狭窄および癒着などのため下部小腸,特に骨盤内小腸の描出が難しい場合がある.この欠点を補うために逆行性回腸X線造影検査を行うことがあるが,筆者らはバルーンアシスト下小腸内視鏡を用いて独自の方法を開発し,必要に応じて各種の小腸疾患,特にCrohn病に対して行っている.本稿では,福岡大学筑紫病院式ゾンデチューブを用いた逆行性回腸造影の手技について解説する.

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要旨●患者は70歳代,女性.約4年前より,数か月に1回の周期で発熱と右下腹部痛が出現し,3〜4日間持続した後に自然軽快することを繰り返していた.今回も同様に発熱と右下腹部痛が出現したため,201X年に当科を受診した.大腸内視鏡検査では近位上行結腸から盲腸,終末回腸にかけて連続するびまん性,全周性,区域性の発赤調粗糙粘膜面を認め,同領域内に境界明瞭な小潰瘍の多発と回盲弁の変形・開大を認めた.同領域からの生検ではやや好中球浸潤が目立つ非特異的な慢性炎症細胞浸潤を認めた.また,注腸X線造影検査では近位上行結腸腸間膜付着側に腹膜炎を示唆する硬化所見を認めた.その後,発熱,腹痛は数日で自然消失し,内視鏡上も腸炎の軽快傾向を認めた.家族性地中海熱を疑い遺伝子検査を施行したところ,MEFV遺伝子exon2(G304R)ホモ変異を認めた.他疾患の除外診断とコルヒチンへの反応性に基づいて家族性地中海熱関連腸炎(MEFV遺伝子関連腸炎)と診断した.以後,コルヒチンの継続投与により腸病変は軽快し,発熱,腹痛の再燃なく経過している.本例では,X線造影検査で腸炎の罹患部位に一致して腹膜炎が存在することが画像的に示唆されたこと,加えて,定点生検により,内視鏡的に区域性腸炎像を認めた範囲以上に広範な腸管炎症が潜在している可能性が病理組織学的に示唆されたことなど,本腸炎の病態を考えるうえで興味ある臨床所見と病理組織学的所見を認めたので報告する.

追悼

江頭由太郎先生への追悼文 平田 一郎
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 本年3月30日の朝,大阪医大の後輩と秘書さんから急な電話がかかってきた.思いも寄らない江頭由太郎先生の訃報であった(3月29日に逝去された).2月に関西の大腸疾患研究会で江頭先生と会った時は,体調が良くないと言って先生は途中で帰って行った.先生は,以前,心筋梗塞で冠動脈ステントを入れていたので心配だったが,3月初めには別の研究会で症例のプレゼンテーションをし,会終了後も立ち話で症例のディスカッションをした時は元気そうだったので安心していた矢先だった.あまりにも突然のことで茫然とした.その日,仕事を早めに切り上げて後輩の先生と一緒にお通夜に参列した.小雨がぱらついて寂しい夜だった.江頭先生の遺影は,胸から上だけだがいつものカジュアルな服装で優しそうな眼差しだった.今にも話しかけてくる様で亡くなられたことが信じられなかった.帰り際に,棺の中の江頭先生にお別れをした.病状が急だったこともあるのか,江頭先生の顔はやつれた感も無く穏やかだった.「江頭先生,お疲れ様,今まで有り難うございました」と心の中でお礼を言った.

 江頭先生は小生の入局から12年後に大阪医大第2内科に入局してきた.約10年間,大阪医大第2内科で一緒に仕事をしたが,温厚で物静かな先生だった.頭が良く,医学的知識も豊富で消化器領域以外でもいろんなことをよく知っていた.また,内視鏡技術も高く,非常に器用だった.小生が,“大腸腫瘍の内視鏡診断・治療”と言う様な内容で講演をした時,大きなLST-G病変のpiecemeal EMRのビデオが,小生や他の教室員の誰よりも江頭先生のものが一番エレガントだったのでそれを借用したこともあった.また,バイト先の病院では大腸内視鏡挿入をその施設の先生に教えたりして兄貴と慕われていた.

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 平成31年3月20日(水),いつものように笹川記念会館で早期胃癌研究会が開催されました.その日は朝の10時から「胃と腸」誌の大腸腫瘍に関する座談会があり,いつもの仲間と診断基準について楽しく議論を戦わせました(写真).9日後の3月29日(土)の夜,江頭由太郎先生は帰らぬ人となりました.彼には心筋梗塞の既往があり,細心の注意を払って出張をされており,早期胃癌研究会も宿泊することなくほとんど日帰りにされていましたが,あまりにも早い訃報を翌朝の新幹線の車内で受け愕然としました.

 江頭由太郎君は昭和35年に生まれ,私と1か月違いの同学年で,同じく下田忠和先生の薫陶を受けた消化管病理仲間として追悼文を書くことになりました.彼は大阪医科大学を卒業後,消化器内科を専攻していましたが,平田一郎先生の勧めもあり,平成3年から東京慈恵会医科大学で,下田先生のご指導のもと消化管病理の道を歩むようになりました.その頃,私は滋賀医科大学の大学院生で,胃型腺癌の研究を始めていたのですが,慈恵医大と交流があり,下田先生から「慈恵で江頭君と言うのが同じ研究をしているよ」とお聞きし,その存在を知ることになりました.江頭君はその時の研究を「胃分化型腺癌の粘液組織化学的検討」1)というタイトルの論文にまとめ,学位を取得されました.彼が慈恵医大の病理に入門した時,その独特の風貌から「大阪から来た地上げ屋」と言われたそうです.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 蔵原 晃一
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 近年,一般臨床において消化管X線造影検査が行われる機会は減少しつつある.胃X線検診を除くと,消化管スクリーニング検査の主役は内視鏡となり,X線造影検査の多くは,一部の施設において,内視鏡により拾い上げられた症例の精密検査・術前検査の一つとして施行されているのが現状であろう.また,X線造影検査は技術的な習熟に時間と経験を要するため,造影検査を施行している施設においても撮影技術の継承に苦慮している場合が少なくないと思われる.

 一方,X線造影検査は,充盈像,二重造影像と圧迫法の併用により,腫瘍性病変と炎症性疾患のそれぞれにおいて,病変の部位,形態,大きさ,分布,変形や狭窄,周囲臓器との関連などを客観的に評価でき,全体像の把握や鑑別診断に有用で,特に内視鏡が挿入困難な管腔狭小化,あるいは瘻孔形成が予測される疾患の診断や病態把握において内視鏡検査を凌駕している.

基本情報

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胃と腸
54巻9号 (2019年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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