胃と腸 54巻10号 (2019年9月)

今月の主題 知っておきたい特殊な食道腫瘍・腫瘍様病変

序説

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 本号の主題である“特殊な食道腫瘍・腫瘍様病変”とは何を意味するのであろうか.

 頻度の少ない腫瘍すなわち扁平上皮癌以外の組織型を示す“上皮性腫瘍/腫瘍様病変”であると解釈できる.しかし特殊な腫瘍とされるものの,そのほとんどは後述するように上皮内扁平上皮癌,あるいは扁平上皮に由来し,その後,種々の組織型に分化を示す腫瘍あるいは腫瘍様病変である.それを理解するためには正常における扁平上皮の細胞分化と構造を知っておく必要がある(Fig.1).

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要旨●扁平上皮癌,腺癌を除く食道腫瘍の中の,類基底細胞癌,癌肉腫,腺扁平上皮癌,神経内分泌細胞癌,粘表皮癌を取り上げ解説した.これらは食道悪性腫瘍全体の10%にも満たない比較的まれな腫瘍である.これら特殊な食道腫瘍は病理組織学的多様性に富む腫瘍であり,扁平上皮癌や腺癌の併存率も高い.それゆえ生検を施行しても治療前に最終診断に至らないことがある.しかし,それぞれの腫瘍は肉眼的に粘膜下腫瘍様形態を示すなど,詳細にみれば臨床病理組織像が通常型扁平上皮癌と異なるため,切除検体では慎重に鑑別診断を進め,適正な治療に導くことが重要である.

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要旨●特殊な食道腫瘍として,類基底細胞(扁平上皮)癌,食道癌肉腫,腺扁平上皮癌,粘表皮癌,腺様囊胞癌,内分泌腫瘍/内分泌細胞癌,未分化癌,悪性黒色腫について,X線診断を中心に述べた.いずれも極めてまれな疾患である.また,肉眼的に隆起を示す傾向があるため,隆起の立ち上がりの状態,隆起の基部の形状,隆起の形態,表面の性状,上皮内進展の有無などを読み取る必要がある.X線診断においては形態的にどう捉えるかが重要であるため,形態的な特徴をイメージしながら鑑別診断を行う必要がある.

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要旨●本邦では,食道癌の組織型は大半が扁平上皮癌である.しかし頻度的には少ないながら種々の組織型があり,これらは特殊型とも呼称される.腫瘍形態では隆起が主体,粘膜下発育など色調でも特徴的な所見を呈するものもが多く,また扁平上皮癌に比べて極めて予後不良とされる組織型も含まれる.これら特殊組織型とされる食道悪性腫瘍では,内視鏡所見や臨床病理学的な特徴を熟知しての適切な診断・治療が必要である.

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要旨●早期の段階で悪性黒色腫を発見・診断・治療することは,予後の改善につながるため極めて重要である.発見および診断のためには深達度が浅い平坦型悪性黒色腫の内視鏡的特徴を知ることがポイントと考えられ,特にmelanosisとの鑑別が大切である.自験悪性黒色腫・melanosis症例より,通常内視鏡像では両者の色調,厚みや辺縁性状が鑑別点となる可能性があり,黒色腫では真に黒色調で墨汁に似た色調,全体的に若干の厚みを有し,多くは不整形を呈し比較的境界は明瞭であると考えられた.一方,melanosisにおいて色調は淡明かつ濃淡のある黒色・褐色調で,ほぼ平坦な病変内には樹枝状血管網が散見され,その境界は不明瞭なことが多い.NBI観察像では,血管はほとんど視認できないが黒色腫における拡張したdot状のIPCL様所見がmelanosisとの鑑別点になる可能性がある.

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要旨●2003年12月〜2016年2月までに内視鏡的切除術を施行した表在型食道類基底細胞癌(basaloid squamous carcinoma ; BSC)10例を対象とした.BSCのみで構成された病変(pure BSC)は2例で表層は非腫瘍で被覆されており,ともにT1a-LPMであった.BSCとSCCとの混在した病変(mixed BSC)は8例で,うち7例でBSCが最深部であり,T1a-MM以深であった.1例ではBSCが露出していた.WLIの特徴としてSMT様隆起,なだらかな辺縁隆起,黄色調顆粒が挙げられ,これらの特徴は8例80%に認められた.NBI-MEではpure BSCでJES Type B2を認め,菲薄化した非腫瘍上皮を通してBSC内の血管が透見されたと考えられた.mixed BSCでは表層がSCC(T1a-EP〜LPM)で被覆されている部位でJES Type B1,JES Type B2を認め,表層を覆うSCCを反映していると考えられた.

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要旨●現在の「食道癌取扱い規約 第11版」では食道の神経内分泌細胞腫瘍に神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor ; NET G1 or G2)と神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma ; NEC)が含まれる.ともにまれな疾患であるが,特に食道NETは消化管NETの中でも極めてまれであり,内視鏡所見に関する報告は少ない.また遭遇する食道NECの多くは進行癌であり表在癌で見つかることはまれである.食道NECは通常型扁平上皮癌に比べて予後不良であり,化学療法のレジメンも異なることから治療前の正確な診断が要求されるが,ゴールドスタンダードである生検診断でも確定診断が得られない場合が多い.そのため本疾患の内視鏡的特徴を理解し,疑われる場合には病理医と連携してできるだけ拾い上げるように努めることが重要である.

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要旨●食道乳頭腫に形態が類似した食道表在癌の特徴と鑑別点を検討した.2012年4月〜2019年3月に拡大内視鏡を用いた検査で発見した食道乳頭腫は51例55病変あり,その形態はイソギンチャク型が39病変(71%),桑実型が16病変(29%)で,長径5mm以下が大半を占めた.同期間中に食道乳頭腫と形態的に鑑別を要した食道表在癌は3病変であった.いずれも桑実型に類似していた.鑑別点は微細顆粒の形態や大きさが不揃いで,血管形態も不均一であることが挙げられたが,乳頭腫と非常に類似して鑑別が難しい部分も存在した.乳頭腫の血管は周囲を過形成性の扁平上皮で覆われているためヨード染色すると白点模様を有する正染を示すが,食道癌は不染になることが大きな相違点と考えられた.溝状の陥凹や不均一な表面構造は深部浸潤を示唆する所見と考えられた.

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要旨●唾液腺型食道腫瘍の概念,組織型の種類,病理組織学的特徴,診断上の問題点などについて,唾液腺原発腫瘍と比較しながら概説した.唾液腺型腫瘍という呼称は,唾液腺原発腫瘍と同様の組織像を示す腫瘍が唾液腺以外の臓器を原発として発生した場合に用いられる.食道では唾液腺組織に類似した固有食道腺・導管部に由来すると推測される.唾液腺原発腫瘍は多彩な組織像を示し,30以上の組織型が存在するが,食道においては粘表皮癌と腺様囊胞癌の存在が知られている.食道粘表皮癌は唾液腺原発の同名腫瘍と組織学的な定義が異なっており多くは扁平上皮癌の亜型に相当するため,診断基準の統一が望ましい.腺様囊胞癌では真の腺様囊胞癌と腺様囊胞成分を伴った類基底細胞扁平上皮癌を鑑別することが重要だがしばしば困難である.近年,唾液腺腫瘍で明らかとなった特徴的な融合遺伝子解析が食道でも有効であるか否かは今後検証すべき課題である.

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症例

 患者は70歳代,男性.主訴はなく,定期検診目的の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)にて食道に隆起性病変が認められた.

 現 症:体表リンパ節腫大なし,腹部腫瘤,圧痛なし.

 EGD所見:2個の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様病変を認めた.

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はじめに

 食道原発の悪性黒色腫はまれな疾患であり,その頻度は食道原発悪性腫瘍の約0.1〜0.3%とされている1)〜3).予後は極めて不良とされているものの,長期生存の報告例も散見される3).今回,食道原発の悪性黒色腫に対し姑息的に内視鏡的切除を行い,その後の経過で自然消退した1例を経験したので,経過および考察を加え報告する.

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はじめに

 VC(verrucous carcinoma)は細胞異形成をほとんど示さないで増殖する扁平上皮の増殖病変であり,1948年にAckerman1)により提唱された.悪性であるのかどうかは長年議論があったが,現在では扁平上皮癌の一亜型と位置付けられている.

 生検標本のみでは診断が不可能であり,よく良性疾患と誤診されることがある.間質浸潤は極めてまれとされ,臨床予後は摘出さえできれば極めて良好である.

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症例

 患者は60歳代,女性.スクリーニング目的の内視鏡検査にて,食道に黒色病変が指摘され紹介された.身体所見に特記すべき事項はなく,血液検査でも異常を認めなかった.

 切歯32cmの前壁に境界不明瞭な陥凹性病変を認めた(Fig.1a).内部は軽度凹凸不整で,黒色と赤色,白色が混在していた.NBI(narrow band imaging)では,黒色調の陥凹内に大小の白色調扁平隆起を認めた(Fig.1b).脱気すると辺縁隆起が強調され(Fig.1c),送気にて伸展する軟らかい病変であった(Fig.1d).

食道原発腺様囊胞癌 草深 公秀
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はじめに

 食道にも固有食道腺があることから,小唾液腺と同様に唾液腺型腫瘍がまれに発生するとされており,散発性に症例報告がある.その中でも食道原発腺様囊胞癌は全食道悪性腫瘍の0.1%以下を占めるとされているが1)〜3),実際には極めてまれであると考えられている.病理組織像は概ね唾液腺原発の腺様囊胞癌と同様であるが,食道原発の場合には類基底細胞(扁平上皮)癌(basaloid squamous cell carcinoma ; BSC)が類似の組織像を示すことがあるので,鑑別診断においては注意が必要である4).過去の文献をみるとBSCと思われる症例が“腺様囊胞癌”として報告されていることがしばしば見受けられる5)〜7).食道原発腺様囊胞癌症例の平均年齢は66.4歳で,男女比は5:1で男性に多いとの報告がある2).生検での診断は通常困難である8)

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はじめに

 pyogenic granuloma(化膿性肉芽腫)は,皮膚や口腔粘膜に好発する易出血性の良性腫瘍であり1),1897年にPoncetとDor2)により初めて報告された疾患である.皮膚および粘膜の結合織に由来する隆起性の肉芽腫性病変であり,後天的に血管腫が発生し,その後,二次的な炎症を合併し肉芽腫を形成する3)と考えられている.皮膚や粘膜に多いため,外傷,慢性刺激,感染など局所因子の関与が考えられているが4),妊婦の歯肉に好発するpregnancy tumorと病理学的特徴が一致することから,エストロゲンの関与を示唆する報告もある5).消化管領域での発生は極めてまれであるが,消化管の中では食道が一番多く,次いで小腸,大腸,胃,十二指腸と続く6)とされており,白苔を有する有茎〜亜有茎性の隆起を示すことが内視鏡像の特徴とされている.

食道腺導管腺腫 草深 公秀
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はじめに

 食道にも固有食道腺があるので,そこから唾液腺型の腺系良性腫瘍である腺腫も発生しうると想像できるが,実際には食道腺導管腺腫の報告は数例しかなく,極めてまれである.Andersenら1)の報告では平滑筋腫も含めた食道良性腫瘍の246例のうち6例(2.4%)しか認められず,また,通常はBarrett食道上皮に由来するとされている.一方,Haradaら2)は,MUC5Bの発現から,食道腺導管腺腫は,固有食道腺の小葉内終末導管の由来と推測している.以前には漿液性囊胞腺腫や乳頭状唾液腺腫の名称でも症例報告がある3)〜7)

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はじめに

 食道癌肉腫とは,同一組織内に上皮性および非上皮性の悪性成分が共存する腫瘍で,食道悪性腫瘍の1〜2%と比較的まれな腫瘍である1)2)

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小山 恒男
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 「知っておきたい特殊な食道腫瘍・腫瘍様病変」を平澤・新井とともに企画した.「本当に知っておくべき疾患なのか」など,編集委員会で鋭いつっこみもあったが,食道を専門とする者として「知っておきたい食道腫瘍・腫瘍様病変」を追求することにした.

 序説を,この分野に最も造詣の深い病理医である下田に依頼した.特殊な腫瘍が発生するステップを,正常の食道扁平上皮の基本構造から解説してくれた.期待通りの序説であり,まずはここを読み解いていただきたい.

基本情報

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胃と腸
54巻10号 (2019年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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