胃と腸 54巻1号 (2019年1月)

今月の主題 大腸内視鏡拡大観察の基本と最新知見

序説

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 拡大内視鏡の研究開発は1960年代後半から始まっており,多くの先人がさまざまな研究を行っているが,実際の臨床の場で生体内で拡大内視鏡観察が可能になったのは工藤らとオリンパス社により開発され,1993年に発売されたズーム式拡大電子内視鏡CF-200Zが汎用機として市場に登場してからである.当時のこの内視鏡は,ズームレバーも扱いにくく,また内視鏡の先端硬性部が太くて長く,初心者には挿入を含めてやや扱い難い内視鏡であった.その後,拡大内視鏡は飛躍的に改良が進み,現在では,先端硬性部の太さや長さは拡大機能のついていない内視鏡とほぼ同じになり,挿入性や操作性に全く相違を感じなくなっている.このような状況で,汎用機で拡大機能を搭載していない内視鏡を製作販売する意味はなくなっている.現在では,オリンパス社のみでなく,富士フイルム社,ペンタックス社(現在はHOYA社)など各内視鏡メーカーから拡大電子内視鏡が販売されている.さらに,NBI(narrow band imaging)やBLI(blue laser imaging)などの画像強調内視鏡(image enhancement endoscopy ; IEE)による拡大観察が保険適用になっており,現在の内視鏡診断において拡大観察は標準的な診断手法となっている(Fig.1)1)

 大腸拡大内視鏡観察の原点はpit pattern診断である.実態顕微鏡所見の分析によって確立された工藤分類2)が,1993年以降実地臨床でリアルタイムに診断できるようになったときの感激は今でも懐かしい.その後,工藤分類と鶴田分類3)のV型pit pattern細分類の呼称が統一され4),現在のpit pattern分類は“工藤・鶴田分類”と呼称される5).当時,分類の箱は統一されたが,VN型pit patternやVI型pit patternの診断基準が各施設で異なっておりやや混乱していた.そのことに関しては,工藤班班会議(班長:工藤進英先生)や箱根コンセンサスミーティングにおいて統一見解を得て,現在に至っている6)

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要旨●大腸癌の増加に伴い大腸癌の早期発見,早期治療の重要性が認識されるようになり,大腸内視鏡検査の重要性がうたわれている.大腸内視鏡検査による適切な診断・治療の選択において,拡大観察は重要なモダリティである.画像強調観察(IEE)の一つであるNBI拡大観察を有効に使用するには,NBIの原理,観察方法,分類の意義と特徴を十分理解する必要がある.

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要旨●レーザー内視鏡では狭帯域光観察であるBLIやLCIが可能である.BLIにはBLIモードとBLI-brightモードの2つのモードがあり,概して腫瘍は茶色調となる.その違いはBLI-brightモードはより明るいモードであり,BLIモードはより高いコントラストが得られるモードである.そして双方でJNET分類を用いたより繊細な拡大診断が可能である.一方でLCIは腫瘍が赤色調となり主に非拡大観察での腫瘍の発見やその範囲の同定に役立つ.また,2018年5月にはBLIおよびLCIが可能なLED内視鏡も登場しており臨床に期待が持たれる.本稿ではBLI,LCIの実臨床における手技の解説を行う.

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要旨●NICE分類はType 1〔過形成性ポリープ(SSPを含む)〕,Type 2(腺腫〜SM軽度浸潤癌),Type 3(SM深部浸潤癌)に分かれたNBIの非拡大分類として2009年に提唱され現在も海外で広く使用されている.一方,JNET分類は日本の既存の拡大NBI分類(佐野分類・広島分類・昭和分類・慈恵分類)を統一した分類であり,NICE分類を基調として科学的根拠に基づき2014年に作成された.JNET分類はNICE分類同様Type 1〜3に分類されるが,Type 2はType 2A〔腺腫:ポリペクトミー(分割切除許容)〕とType 2B〔粘膜内癌・SM軽度浸潤癌:EMR・ESD(一括切除必要)〕の2群に亜分類され,NICE分類をより進化させた分類である.

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要旨●pit pattern診断の歴史を簡単に概説し,その基本とNBI拡大内視鏡所見との関係について当科のデータを示し考察を加えた.JNET分類とpit patternの対応関係を大腸の過形成/SSP,腺腫,早期癌を対象にして検討した結果,整なsurface patternを呈する病変(JNET分類Type 1,Type 2A)ではNBI拡大内視鏡所見とpit pattern診断はほぼ一致していた.不整なsurface pattern(JNET分類 Type 2B,Type 3)を呈する病変では約3割でNBI拡大観察のsurface patternがpit patternよりも不整に見える傾向があった.NBI拡大観察におけるsurface pattern(pit様構造)と色素を用いたpit pattern所見には相違があり,個々の病理組織背景と診断特性を理解したうえで日常診療において使い分けることが重要である.

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要旨●大腸腫瘍性病変に対する拡大内視鏡診断は腺腫・早期癌に対する質的診断,量的診断において欠くことのできない診断手法となった.しかし,SSA/Pという新たな疾患概念の登場により,鋸歯状病変の拡大内視鏡診断は新たなステージを迎えている.今回筆者らはHPを除いた大腸鋸歯状病変180病変に対して従来のpit pattern分類にII型・IV型の亜分類(開II型,伸II型,鋸IV型)を加えて分類し,病変全体の均一性の観点からpit pattern単一群とpit pattern複合群とに分けて検討した.その結果,単一群において,SSA/Pでは81病変中69病変(85.2%)と高率に開II型を示し,TSAでは12病変中10病変(83.3%)と高率に鋸IV型を示すことが判明し,各々高い感度,特異度,陽性的中率を認めた.一方,複合群においては,SSA/P+CDでは31病変中24病変(77.4%)と高率に開II型+鋸IV型を示し,開II型+何らかのpit(α)で,またTSAでは何らかのpit(α)に鋸IVが付随することで高い感度と陰性的中率を示したが,特異度,陽性的中率は劣っていた.Ca in SSA/Pでは開II型+VI型が高率に認められたが,Ca in TSAでは特徴は見い出せなかった.その理由として,TSAの病理組織学的診断上の問題などの関与が示唆された.以上より,大腸鋸歯状病変に対する拡大内視鏡観察では均一性の確認が重要であり,複合したpit patternを有する病変では慎重な対応が望まれると結論した.

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要旨●大腸腫瘤性病変において,上皮性腫瘍と鋸歯状病変の遭遇頻度は高く,拡大観察による診断学は確立している.一方で,局在性のあるリンパ増殖性疾患や腫瘍様病変として扱われる病変(鋸歯状病変は除く)は,疾患頻度が低く,診断体系が確立しているとは言い難い.有茎性〜亜有茎性ポリープの形態を示すPeutz-Jeghers型ポリープ,若年性ポリープ,炎症性筋腺管ポリープ,炎症性ポリープ,また粘膜下腫瘍様隆起を呈するMALTリンパ腫,良性リンパ濾胞性ポリープについては多彩な所見や類似した所見を示すものが多く,内視鏡観察による鑑別の有効性のみならず限界点も認識すべきである.

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要旨●潰瘍性大腸炎(UC)の寛解期粘膜と腫瘍性病変における画像強調内視鏡所見と病理組織学的所見の関係を遡及的に検討した.寛解期UCにおけるNBI観察下の粘膜浅層微小血管陰性粘膜は陽性粘膜よりも炎症細胞浸潤の頻度と腺窩の乱れの頻度が有意に高かった.UC関連腫瘍13病変を対象にJNET分類およびpit pattern分類と組織型・深達度の関係を検討したところ,JNET分類Type 2Aでは粘膜下層深部浸潤癌は認めず,Type 2Bを呈した9例中3例で,Type 3を呈した1例で深部浸潤癌がみられた.またpit pattern分類のIIIS型〜IV型では深部浸潤癌はなく,VI型軽度不整7例中2例とVI型高度不整ないしVN型を呈した2例は深部浸潤癌であった.以上より,寛解期UCのNBI非拡大観察は組織学的炎症の判定に有用であり,JNET分類やpit pattern分類は,UC関連腫瘍でも適用可能と考えられた.

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要旨●近年,細胞のin vivo観察を可能とする2つの超拡大内視鏡検査が臨床応用されており,注目を集めている.すなわち,Endocyto(CF-H290ECI,Olympus社製)とCLE(Cellvizio®,Mauna Kea Technologies社製)の2つである.Endocytoはスコープ先端に光学顕微観察用レンズを搭載した軟性鏡であり,腺腔と核と血管を520倍率で可視化する.CLEはプローブ先端から発光されるレーザーにより,細胞内に吸収された蛍光色素(フルオレセイン)を介した励起光を画像化し,腺腔と血流を1,000倍率で可視化する.本稿では,2018年2月に発売になったばかりのEndocytoにフォーカスを当て,特徴・使用法・精度について概説する.大腸腫瘍診断においては,Endocytoは既存のpit pattern診断に精度の上乗せ効果が期待できるとともに,診断の確信度を上げる効果が期待できる.

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要旨●本邦の大腸内視鏡診断は,白色光観察,NBI(narrow band imaging)観察,色素撒布拡大観察による3段階診断法が用いられている.各段階における病理診断の一致率との各診断法との関連性は明らかでない.本研究では複数の読影医に大腸腫瘍40例〔管状腺腫5例,管状絨毛腺腫5例,粘膜内癌10例,粘膜下層浸潤癌10例,鋸歯状病変10例(SSA/P 6例,鋸歯状腺腫4例)〕を用い,各段階における内視鏡診断と病理診断との一致率と各診断法の推移について検討した.腺腫,粘膜下層浸潤癌,鋸歯状病変は白色光観察で診断できた場合が多かったが,NBI観察,色素撒布拡大観察を用いて診断の補正が行われていた.内視鏡診断法は表面からの水平方向の観察に基づいており,垂直方向の2次元の観察方法による病理診断とは次元を異にしている.内視鏡診断は病理診断に近接していたが,上記の違いを認識して内視鏡診断法の確立がなされるべきであると思われた.

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要旨●大腸拡大NBI統一分類がmodified Delphi methodによるコンセンサスを得て2014年6月提唱された.その後,班会議,日本消化器内視鏡学会附置研究会を通じて議論を重ね,Type 1におけるSSA/Pの問題,Type 2Bと3の線引きや領域性の定義など微調整が必要な箇所の出現により2018年8月に第2次Web試験がスタートした.欧米においてもJNET分類をグローバルに展開する必要性があり日本消化器内視鏡学会(JGES)初の欧州内視鏡学会(ESGE)との共同研究(International Evaluation of Endoscopy classification JNET ; IEE-JNET)がスタートし議論を重ねているところである.

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本欄では,本誌初の試みとして,早期胃癌研究会を模した症例検討会を誌上で再現した.X線・内視鏡(通常・色素・NBI拡大)ごとに画像を提示し,再掲する「読影写真」にて各読影者の指摘部分を矢印や円囲みなどで示した.各症例の末尾に病理解説を示しているので,読者もぜひ提示写真から読影をして,症例検討会の臨場感を味わいながら読み進めてほしい.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

書評

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 菅井 有
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 本特集号のテーマは“大腸内視鏡拡大観察の基本と最新知見”である.本邦では大腸粘膜内腫瘍を中心に積極的に内視鏡治療が行われているが,その治療が有効であるためには正確な内視鏡診断が必要である.最近の若手の内視鏡医は内視鏡治療に興味を持つ者が多いが,正確な診断が適切な治療の前提になっていることを銘記すべきである.

 本邦の大腸内視鏡診断は,白色光観察,NBI(narrow band imaging)観察,色素撒布拡大観察の順になされており(3段階診断法と仮称する),それぞれの内視鏡所見と病理組織所見の対比を行うことにより内視鏡所見の意義を理解することが熱心に行われてきた.この内視鏡医と病理医との共同作業が本邦の内視鏡診断の進歩を支えてきたと言っても過言ではない.

基本情報

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胃と腸
54巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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