胃と腸 54巻2号 (2019年2月)

今月の主題 胃・十二指腸内視鏡拡大観察の基本と最新知見

序説

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はじめに

 日本消化管学会,日本消化器内視鏡学会,日本胃癌学会3学会合同の診断体系である早期胃癌診断の単純化アルゴリズム(magnifying endoscopy simple diagnostic algorithm for early gastric cancer ; MESDA-G)によれば,早期胃癌疑いの病変について“DL(demarcation line)の有無”と“IMVP(irregular microvascular pattern)and/or IMSP(irregular microsurface pattern)の有無”の組み合わせで診断がなされる1)(Fig.1).病理医は小さな生検組織内で“細胞異型and/or構造異型の有無”のみならず“領域性/フロントの有無”を重視して腫瘍性病変とその良悪性を診断してきた.一方,“浸潤の有無”が本邦以外の消化管病理では重要視されている(Fig.2).

 本稿では拡大内視鏡検査で観察してほしい胃・十二指腸の上皮性粘膜内病変を,表面性状に注目し,上皮系統別かつアトラス的に提示することで序説としたい.

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要旨●正常胃・十二指腸粘膜の典型的な狭帯域光観察(NBI)併用拡大内視鏡像を提示し,その画像の成り立ちを理解するための基本となる解剖学的所見について概説する.正常胃底腺粘膜において,微小血管構築像は,規則的な蜂の巣状上皮下毛細血管網と規則的な集合細静脈から,表面微細構造は,規則的な類円形の腺開口部と類円形の腺窩辺縁上皮から成り立っている.正常胃幽門腺粘膜において,微小血管構築像は,規則的なコイル状または網状の上皮下毛細血管網から,表面微細構造は,規則的な弧状または多角形の腺窩上皮から成り立っている.正常十二指腸粘膜の拡大内視鏡像において,微小血管構築像は,規則的な鎖状絨毛上皮下毛細血管網と1本の絨毛細静脈から,表面微細構造は,規則的な弧状または類円形の絨毛辺縁上皮から成り立っている.これらの所見は,既報の解剖学的所見(血管鋳型を用いた電子顕微鏡像,粘膜表面の電子顕微鏡像,組織学的所見)とよく一致している.本稿で概説したように,現代の拡大内視鏡は,正確に粘膜の解剖学的コンポーネントを視覚化できるので,拡大内視鏡所見を記載する場合は,新しい用語を作成するのではなく,解剖学的用語を用いることが重要である.

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要旨●慢性胃炎や腸上皮化生の存在診断は胃癌のリスク層別化に重要である.また,胃癌を疑う病変の鑑別診断や癌の境界診断にかかわる背景粘膜の所見としても重要である.拡大観察により視認可能となる微小血管や微細表面構造に着目した胃炎分類が多数報告されている.Helicobacter pylori感染のない正常な胃底腺粘膜はfoveola typeの構造が観察されるが,萎縮・腸上皮化生が高度な慢性胃炎粘膜ではgroove typeの粘膜を認めるようになる.また腸上皮化生のNBI併用拡大観察ではLBC,WOS,marginal turbid band,ridge/villous patternなどの知見が報告されている.

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要旨●拡大内視鏡検査による早期胃癌診断の単純化アルゴリズム(MESDA-G)は,VS classification systemをもとに作成された本邦の統一診断体系である.本稿では,実際の症例を挙げ,MESDA-Gによる診断の手順およびその読影法について概説した.早期胃癌診断においてMESDA-Gは有用性の高い診断体系であるが,同時にそこに限界病変もあることを知り,通常観察・生検を含め,適切に対応することが重要である.

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要旨●白色不透明物質(WOS)は,NBI併用拡大内視鏡で明瞭に視覚化される粘膜表層の白色物質である.慢性胃炎粘膜の腸上皮化生,胃の上皮性腫瘍にしばしば認められる.WOSの正体は,上皮内,上皮下に集積した微小な脂肪滴であり,内視鏡からの投射光が強く散乱または反射されるために白色として認識される.WOSがあると上皮下の微小血管まで投射光が到達しないため,血管の視認性が低下する.WOSの形態学的特徴の違い(regular/irregular)は,癌と腺腫の鑑別に有用な指標となる.

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要旨●胃のNBI併用拡大観察では,非腫瘍性の陥凹型病変に“背景粘膜の腺窩辺縁上皮によって縁取られた内側に凸の明瞭な境界線(MCDL)”が観察されることがある.DLは陥凹型病変の73%(252/347)にみられ,MCDLはDL陽性陥凹型病変の34%(86/252)にみられた.MCDL陽性病変の97%(83/86)は非癌病変であった.MCDLの非癌病変に対する感度,特異度,陽性的中率はそれぞれ38%,91%,97%であった.MCDL陽性病変の97%に腸上皮化生を認め,その程度はMCDL陰性病変と比較して有意に高かった.

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要旨●WGAは,DL内部に存在すれば,低異型度腺腫や胃炎などの非癌から分化型癌を鑑別診断しうる特異度の高い胃の内視鏡所見である.さらに存在の判定が容易な所見でもあるため,内視鏡医の拡大内視鏡経験を問わず,WGAが存在することによる質的診断能への上乗せ効果が期待される.

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要旨●乳頭腺癌は管状腺癌と比べ,病理学的に生物学的悪性度が高いと報告されている.しかし,従来の通常内視鏡観察では乳頭腺癌を診断することは不可能であった.筆者らは,拡大内視鏡観察において円形の腺窩辺縁上皮で囲まれた円形の窩間部上皮下の間質に血管が存在する特徴的な所見を“vessels within epithelial circle(VEC)pattern”と呼称し,乳頭状の分化腺癌に特徴的な所見であると報告した.以前筆者らの報告した症例対照研究より,術前に分化型癌と診断された早期癌において,NBI併用拡大内視鏡により視覚化されるVEC patternが組織学的乳頭状構造を診断するうえで有用であったと報告した.さらに,VEC pattern陽性の早期胃癌の約1/4の病変に未分化型癌の混在や粘膜下層浸潤を認め,VEC patternが術前に癌の高い悪性度を予測するうえで有用なマーカーとなる可能性が考えられた.

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要旨●当院でESDを施行した2cm以内のH. pylori既感染胃の早期癌48症例54病変を検討した.NBI非拡大観察の病変内の色調(茶色:同色:白色:緑色)は病変外と比較し48:2:2:2例であった.またNBI拡大観察で厳密な境界を引ける境界明瞭群は88.9%であった.一括完全切除率は100%で,マーキング外に病変が進展した症例はなかった.境界明瞭群・不明瞭群で比較すると癌の細胞異型度,表層非腫瘍上皮の程度などに差はなかった.また表層非腫瘍上皮の程度は癌の異型度で差はなく,背景粘膜とも相関はなかった.NBI拡大像から表層非腫瘍上皮の存在・程度を推測することは困難だった.NBI拡大観察時のほうが範囲診断しづらい場合もあり,白色光観察およびNBI非拡大観察での全体像の把握も大切である.

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要旨●H. pylori(Helicobacter pylori)感染率の低下を背景に,従来まれとされたH. pylori未感染胃癌の存在が注目されるようになった.本稿では2005年4月〜2018年6月の期間に経験したH. pylori未感染早期胃癌のうち,胃底腺領域の超高分化型・低異型度腺癌と胃角部前庭部に局在する胃底腺・幽門腺境界領域の印環細胞癌計40例について,拡大内視鏡所見と病理組織学的所見を対比し特徴を検討した.胃底腺型胃癌や印環細胞癌は最表層を非腫瘍に被蓋され,表面構造と血管構築の不整に基づくdemarcation lineの認識が困難であった.表層に腺窩上皮型胃癌成分を有する病変は病理組織学的所見通り表面構造の不整が軽微であるものが存在した.しかし,いずれも丁寧な拡大観察によりその病理組織像を推定することは可能と考えられた.周囲に萎縮のない胃粘膜にする病変のため,その存在診断自体は困難ではないと思われ,拡大内視鏡診断は質的診断において重要と考える.

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要旨●十二指腸非腫瘍性病変の中で,白色化を呈するびまん性病変と胃腺窩上皮を伴う限局性病変(腫瘍様病変)のNBI併用拡大内視鏡所見を,病理組織学的に確定診断が得られた自験例に基づいて検討した.びまん性病変の白色化は,粘膜固有層に存在するリンパ流の停滞や脂肪滴の沈着(撒布性白点),マクロファージの集簇(Whipple病,炭酸ランタン関連病変)などに起因するものであった.この場合,白色化の表層の微小血管は視認可能であり,腸型腺腫にみられるWOSとの鑑別は可能であった.一方,腫瘍様病変の中で典型的な胃小区模様を伴うものは通常観察やNBI併用拡大観察で鑑別診断が可能であったが,十二指腸絨毛との鑑別が困難な症例も存在した.十二指腸非腫瘍性病変において,各疾患の病態や病理学的構築を念頭に置きながら,通常観察に加えNBI併用拡大観察によって表面構造や微小血管の有無,絨毛の外形に着目することがその鑑別診断に有用となる可能性がある.

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要旨●十二指腸上皮性腫瘍は早期発見例が増加しているものの,その疾患頻度の低さから,標準的な診断や治療方針は確立されておらず,通常内視鏡検査だけでなく術前生検においても腺腫と粘膜内癌の鑑別診断は困難とされている.近年,NBIなどの画像強調観察や拡大内視鏡の発達により,その質的診断の有用性が報告されており,今後生検によらない術前内視鏡診断の向上が期待される.十二指腸においては,生検を行うことで容易に粘膜下層の線維化が生じ,内視鏡治療が困難となることがあり,術前の安易な生検は避けるべきである.また,生検による人工的変化が生じることで,拡大内視鏡所見に修飾が加わることがあることを留意する必要がある.

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要旨●患者はH. pylori未感染の30歳代,男性.内視鏡検査で胃体部に3mmの表面顆粒状小隆起を3病変認め,内視鏡的に切除した.2病変は鮮紅色でraspberry様の外観を呈し,NBI拡大像で異常血管が増生した絨毛様構造を認めた.病理組織学的にはMUC5AC陽性の完全胃型粘液形質を持つ低異型度胃型腺癌(腺窩上皮型)で,欧米でfoveolar-type adenoma/dysplasiaと記述されている組織型と考えられた.残り1病変は淡紅色を呈し,NBI拡大像で血管視認性が低い脳回様構造を認め,組織学的には腺窩上皮型過形成性ポリープであった.H. pylori未感染胃癌は全胃癌の1%以下とされるが,筆者らは14例20病変の低異型度胃型腺癌(腺窩上皮型)を経験し,全胃癌症例の6.6%(14/212)を占めており,内視鏡像は既報のfoveolar-type adenoma/dysplasiaとは全く異なっていた.

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要旨●患者は50歳代,男性.EGDで胃体下部後壁に10mm大の発赤調平坦病変を認め,生検で胃癌が疑われた.NBI併用拡大観察で,腫瘍部で目立つLBC(light blue crest)により背景粘膜との境界を認め,軽微な不整を示す表面微細構造および微小血管構築像の所見が,小腸型低異型度分化型胃癌に相当する所見と考えESDを施行した.切除標本結果は11×7mm,tub2,pT1a(M)の小腸型低異型度分化型胃癌(狭義の横這型胃癌)であった.NBI併用拡大観察により小腸型低異型度分化型胃癌(狭義の横這型胃癌)の特徴を描出しえたと考えられた.

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要旨●患者は20歳代,男性.排便時出血を主訴に前医を受診し,高度の貧血を認めた.大腸内視鏡検査で直腸に病変を認め,生検で診断がつかないため当院に紹介となった.大腸内視鏡検査では,直腸前壁の第2 Houston弁上,第1 Houston弁上,直腸下端に白苔で覆われた発赤調の隆起性病変を認めた.診断目的で小病変に対して内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行し,直腸粘膜脱症候群と診断した.保存的加療で貧血が改善しないため,3病変すべてに対して内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した.ESD 2年後には直腸下端以外の2病変の再発がみられた.排便指導と緩下剤により,ESD 5年後には第2 Houston弁上の発赤を伴う浅い潰瘍のみとなった.貧血の改善が得られたため,ESD治療は有用であったと考えられた.

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要旨●患者は40歳代,男性.黒色便を主訴に来院し,貧血を認めたため入院となった.腹部造影CTにて近位空腸に造影効果の強い石灰化を伴う径約4cmの境界明瞭で内部不均一な類円形腫瘤を認めた.小腸X線造影検査を行ったところ,表面平滑で圧迫による形態変化の乏しい腫瘤性病変として認識された.小腸内視鏡検査では正常粘膜に覆われた立ち上がりのなだらかな腫瘍で,中心に陥凹を有し,一部びらんを疑う所見を認めたが潰瘍は認められなかった.生検の結果,小腸GIST(gastrointestinal stromal tumor)と診断され,腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した.中心陥凹を形成した機序として,腫瘍の筋層から粘膜下層方向への浸潤の程度が場所により不均等で,粘膜下層浸潤のない中心部分が相対的に陥凹を形成した可能性や,腫瘍内囊胞の自潰により中心陥凹が形成された可能性が推測された.

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 「胃と腸」誌は,消化管癌の中でも早期癌の形態診断の追求をメインテーマとして刊行された医学雑誌です.なかでも1990年代は陥凹型早期大腸癌の診断が最も注目された話題の一つでした.一方,この時期から本邦の潰瘍性大腸炎患者数が急増し,本症における内視鏡所見の詳細な解析もが「胃と腸」誌に取り上げられるようになりました.本号は,そのような状況において発行された大変ユニークな号となっています.当時,潰瘍性大腸炎は直腸から連続性に罹患する慢性炎症性疾患と信じられていましたが,本号では当時本症患者で高率に非連続性の虫垂開口部病変が認められることが示されました.その事実は,内視鏡所見のみならず大腸切除標本の検討からも明らかとなりました.

 一方,本号では潰瘍性大腸炎が区域性病変,縦走潰瘍,あるいは敷石様所見を伴うことも示され,Crohn病との鑑別が困難な症例が存在することも論じられています.さらに,サイトメガロウイルス感染を合併した症例,アフタ様病変から典型像へと進展した症例など,現在の炎症性腸疾患診療でも念頭に置くべき病態が示されています.また,拡大内視鏡観察下の重症度評価に有用な内視鏡像が網羅的に示されています.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 竹内 学
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 胃の拡大内視鏡診断学は,正常胃粘膜におけるRAC(regular arrangement of collecting venules)の発見に始まり,H. pylori感染胃炎やこれを背景とする胃癌の拡大観察へと発展し,NBIに代表される画像強調システムの開発により粘膜微細構造や微小血管像が極めて明瞭に認識できるようになり,共通の視点から議論できるようになった.

 しかし,拡大内視鏡所見の捉え方や用語の違いなどにより同じ画像でもその表現方法や診断へのアプローチが異なることが課題であった.そこで2016年に日本消化管学会,日本消化器内視鏡学会,日本胃癌学会の3学会承認の下,早期胃癌診断の単純化アルゴリズム(magnifying endoscopy simple diagnostic algorithm for early gastric cancer ; MESDA-G)が提唱された.さらに,除菌後や未感染胃に発生する胃癌に対し,これまでの拡大内視鏡所見を適応できるのかなど課題も浮き彫りになってきた.また,十二指腸上皮性腫瘍における腺腫と癌の病理学的鑑別は混沌としており,拡大内視鏡診断がこの領域にも重要な役割を果たす可能性がある.本号では,これらに関して学べる内容とした.

基本情報

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胃と腸
54巻2号 (2019年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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