胃と腸 53巻2号 (2018年2月)

今月の主題 IBDの内視鏡的粘膜治癒─評価法と臨床的意義

序説

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はじめに

 本邦での有病率の増加に伴い,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)の診断と治療は消化管専門医や内視鏡医にとって重要な課題となっている.特に,Crohn病(Crohn's disease ; CD)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の治療では,生物学的製剤や免疫調節薬を用いた治療法選択と効果判定に一定の知識が要求されるようになった.

 IBDの治療に大きな影響を与えたのは抗TNFα(tumor necrosis factor α)抗体である.抗TNFα抗体は腸病変を治癒に至らしめ,良好な臨床経過が得られることから,従来の“症状改善”とは異なる治療目標,すなわち“粘膜治癒”や“組織学的寛解”の概念が導入され1),治療目標を個別化した治療方針(treat-to-target)の概念が提唱されるに至った2).しかし,粘膜治癒の定義と意義に関しては未解決の点も少なくない.本号はこれらの問題点を解決すべく企画された.

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要旨●活動期内視鏡所見が高度の潰瘍性大腸炎症例を用いて,非難治例39例と難治例32例の生検粘膜の組織学的活動性を比較検討した.組織学的活動性の判定にはMattsの生検組織分類とRileyおよびGeboesの生検組織スコアをもとに作成した9項目から成る生検組織スコアを用いた.Mattsの生検組織分類では,難治例は非難治例に比べて活動性炎症の程度が高く,Grade 5の頻度が有意に高かった(84.4% vs. 59.0%).生検組織スコアの比較では,難治例は非難治例に比べてスコア合計の平均が有意に高かった(19.3±3.4 vs. 15.9±4.1).個々の組織所見の比較では,難治例は非難治例に比べ好中球浸潤スコアと表層上皮破壊スコアが有意に高く,好中球浸潤スコアが好酸球浸潤スコアに比べて高いものが有意に多かった(40.6% vs. 5.1%).これらの結果から,内視鏡的所見が同質の粘膜であっても,その組織学的炎症活動性には違いがあること,炎症の活動性に関する組織所見の総和が難治化という臨床的重症化の指標としても有用であることが示唆された.

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要旨●IBDの診療に長期予後の改善を目的としてtreat to targetのコンセプトが導入され,内視鏡的寛解(粘膜治癒)が治療目標として設定された.粘膜治癒の概念は臨床試験のみならず日常臨床にも普及しつつあり,粘膜治癒の達成が長期予後に相関するというエビデンスも蓄積しつつある.一方で,潰瘍性大腸炎では臨床症状がなくても内視鏡的活動性のみで治療介入するのか,Mayo内視鏡サブスコア=0を目指すべきなのかといった課題,Crohn病では内視鏡的評価の妥当性や利便性など解決すべき課題も残されている.

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要旨●現在,潰瘍性大腸炎を評価するための内視鏡スコアは多数存在するが,スコアの統一化についての一定のコンセンサスはない.これまでのスコアは検者内・検者間一致率などの信頼性評価が十分ではなかったことがその要因の一つである.2012年に提唱されたUCEISはその問題を指摘し検討した上で作成された内視鏡スコアである.今回,筆者らは現在汎用されているMESとUCEISの両者に関して検者間一致率を検討した.その結果,UCEISはMESと比較し,検者間一致率が高い傾向にあった.今後の課題として,UCEISによる粘膜治癒の定義や長期予後との検討などが挙げられるが,妥当性の検証結果からは今後の臨床研究などで使用するスコアとしてより適したものであると考えられた.

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要旨●潰瘍性大腸炎の内視鏡検査では白色光観察のほか,画像強調内視鏡(IEE)を組み合わせることで疾患の診断や,より詳細な重症度・治療効果の評価が行われてきている.IEEには消化管組織から出る微弱な自家蛍光を画像化し病理組織学的な炎症強度を数値として評価する客観性の高い自家蛍光内視鏡(AFI)や,粘膜表層の微細構造変化から炎症を評価する拡大内視鏡などがある.これらのIEEによる炎症の評価は病理組織学的活動性と相関するため,重症度や粘膜治癒の評価,再燃の予測が可能となり,最適な治療選択と長期の寛解維持へとつながることが期待される.

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要旨●潰瘍性大腸炎(UC)の疾患活動性をNBI拡大内視鏡観察する場合,白色光観察に対して上乗せ効果が期待されるものとして,血管所見が挙げられる.高度な粘膜治癒が達成されたUC粘膜のNBI拡大内視鏡所見は,蜂巣状構造を呈する.寛解期UC粘膜のNBI拡大観察所見で,蜂巣状構造以外の所見を細分化して,予後との関連を検討した報告は乏しい.NBI拡大内視鏡観察は点の観察となるため,組織学的活動性との関連についての報告がみられる.しかし,UCは面の拡がりを病理学的特徴とする疾患であり,拡大内視鏡で観察した部位が,大腸全体の疾患活動性をどの程度担保するのかが課題となる.

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要旨●潰瘍性大腸炎は内視鏡的寛解が長期予後の予測に有用であることが知られているが,近年は組織学的寛解が重要視されるようになってきた.組織学的活動性評価には生検が必要であるが,生検は局所的な評価である.またわずかであるが出血や穿孔といった偶発症の可能性もある.近年新しいデバイスとして超拡大内視鏡(ECS)が登場した.ECSは最大450倍まで拡大し,腺窩を観察することが可能になった.筆者らはその拡大所見をECS scoreで数値化し,組織学的活動性が相関することを示し,さらに内視鏡的寛解期においても組織学的活動性を評価することが可能である.ECSは再燃リスクの新たなモニタリングツールとなりうる可能性がある.

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要旨●抗TNFα抗体製剤による寛解導入後に内視鏡による治療効果判定を行い,その後の臨床経過が1年以上追えた大腸型もしくは小腸・大腸型Crohn病(CD)37例を対象に,臨床的二次無効予測に対するSES-CDの有用性を遡及的に評価した.その結果,SES-CD>10群ではSES-CD≦10群に比べて有意に二次無効率が高かった.一方,5mm以上の潰瘍性病変の有無で二次無効率を比較した場合,2群間で二次無効率に差を認めなかった.多数例を用いた前向き研究による検証が必要であるが,SES-CDによる内視鏡的活動性のスコアリングは抗TNFα抗体製剤治療における二次無効予測に有用である可能性が示唆された.

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要旨●Crohn病において小腸病変評価は治療方針を決めるうえで重要である.バルーン内視鏡の普及により小腸病変を詳細に評価できるようになった.定量的な内視鏡評価は重要であるが,現在小腸を定量的に評価可能な内視鏡スコアは存在しない.本稿では当施設での内視鏡評価方法および内視鏡スコアについて紹介する.またバルーン内視鏡検査は臨床的に非常に有用である一方,検査可能な術者や施設が限られる点などを考慮すると,内視鏡の代用となりうる検査についても重要な課題であり,当施設で行っているバルーン内視鏡とMRI検査との直接比較についても報告する.今後,バルーン内視鏡検査の利点,欠点をよく検討し,その他の検査も含めた診療のストラテジーを構築する必要がある.

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要旨●小腸病変を有するCrohn病(CD)に対するカプセル小腸内視鏡検査(SBCE)は,低侵襲に小腸粘膜の炎症像を視覚化できる検査法でありCDの診断や病状評価・経過観察に有用である.SBCEのスコアリングにはLewis scoreとCECDAIがある.治療介入前後の変化を明瞭化した.一方で,臨床的疾患活動度やbiomarkerとの不一致例の存在や,粘膜治癒後の瘢痕狭窄もスコアに影響を及ぼし,単純に合算した数値では,疾患活動性を十分に評価できない問題がある.重症度の評価のためのスコアは,臨床的疾患活動度と相関し,治療措置および転帰に影響を及ぼすべきである.情報の蓄積により,CDに特徴的なSBCE所見を抽出し,治療介入の機会や病態の把握につながる新規スコアリングの開発も期待したい.

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要旨●共焦点レーザー内視鏡は,レーザー光と光学技術を使って生体組織を細胞レベルで視覚化するために開発された顕微内視鏡であり,現在使用可能なプローブ型は内視鏡の鉗子孔から挿入して使用できる.生体内の自家蛍光,または生体に投与された蛍光造影剤をレーザー光で励起し放出された蛍光を口径の小さな共焦点絞りを通すことで,細胞レベルまで鮮明に観察できる.その利点として,リアルタイムな仮想病理診断,適切な生検部位の選択や生検個数の削減,通常のパラフィン固定HE染色像で観察できない生体組織のダイナミックな観察(例えば脈管),蛍光造影剤の生体内動態の観察や,蛍光標識物質による分子イメージングなどが挙げられる.筆者らは小腸炎症性疾患に対して,バルーン内視鏡下プローブ型共焦点レーザー内視鏡を用いて通常の内視鏡では観察できないleaky gut症候群や脈管の異常を観察してきた.本稿ではその概要を述べる.

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患者

80歳代,男性.

家族歴

特記事項なし.

既往歴

 高血圧,心筋梗塞,狭心症,心房細動,右下肢急性動脈閉塞症.

現病歴

 健診の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)で胃前庭部に小さな陥凹性病変を指摘された.早期胃癌が疑われたが,抗凝固剤内服中のため生検されず,精査目的に当科を紹介され受診した.

現症

 身長170cm,体重76.3kg,特記すべき異常身体所見なし.

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要旨●患者は60歳代,女性.貧血進行と末梢血赤芽球陽性の精査目的で行われた骨髄生検で低分化腺癌が指摘され,原発巣の検索目的に当科に紹介となった.上部消化管X線造影検査および内視鏡検査で,胃穹窿部,胃体部前壁・後壁に壁硬化像,不自然なひだの走行,ひび割れ様の粘膜所見と多発する発赤びらんを認め,生検で低分化腺癌と診断された.4型胃癌に類似する所見であったが,粘膜表面への腫瘍露出を示唆する所見に乏しく,伸展不良所見を多中心性に認めたことから転移性胃癌を考慮してCTとPET-CTを行ったところ,左乳房に外観では認識し難い腫瘤が指摘され,生検で浸潤性小葉癌と診断された.骨髄・乳腺・胃のいずれの生検組織においても,免疫組織化学染色では,CK7(+),CK20(−),estrogen receptor(+),progesterone receptor(±),E-cadherin(−),GCDFP(±)であり,乳癌の胃・骨髄転移と診断した.原発巣より先に転移性胃癌が診断されることはまれであるが,本例は画像所見と生検組織所見を注意深く検討することにより正診しえた貴重な症例と考えられた.

早期胃癌研究会

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 第56回「胃と腸」大会は2017年5月10日(水)にリーガロイヤルホテル大阪で開催された.司会は梅垣(神戸大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野)と清水(大阪鉄道病院消化器内科),病理は江頭(大阪医科大学病理学教室)が担当した.早期胃癌研究会方式による「画像プレゼンテーションの基本と応用」は,斉藤裕輔(市立旭川病院消化器病センター)が「序論:消化管病変診断の基本手順(消化管全般)」と題して行った.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

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 中山書店から《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズ3巻の『ここまできた肝臓病診療』(専門編集 佐々木 裕)が刊行された.このシリーズでは消化器疾患の臨床を臓器別に4巻に分けて,日常臨床で遭遇することの多い疾患を中心に最新の専門知識と診療実践のスキルを,視覚的にわかりやすく提示している.本書は本邦に多い肝疾患について疾病構造の変化を俯瞰しつつ,新たな疾患概念,診断法・治療法について図表を多く取り入れ理解しやすく記載している.

 医学・医療の進歩には目を見張るものがあり,肝疾患の領域でも新しい診断マーカー・画像診断や有効性の高い治療薬が開発されただけでなく,疾患の概念が変わった疾患もあり,その進歩は際立っている.特に,本邦において疾患頻度の高いC型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)関連肝疾患では,その診断や治療は大きな変貌を遂げている.C型肝炎の領域では従来のインターフェロン治療からインターフェロンフリーのDAA製剤による治療に大きく変わり,C型肝炎ウイルス排除率は非常に高くその治療効果も大きく改善したが,これらの薬剤の投薬に当たっては副作用や薬剤耐性など多くの専門的な知識が要求される.一方,NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)やNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)などの新たな疾患概念なども提唱され,肝疾患や消化管疾患など多岐にわたる消化器系疾患の臨床に携わっている消化器系領域の専門医が,常に最新の情報を知り日常の診療に活用することは容易なことではない.本書は,肝疾患総論,検査・診断,治療法総論,治療法各論で構成されている.肝疾患では個々の疾患で共通の診断法や治療法があり,本書のような構成の方が診断や治療をより体系的に理解でき,先生方にも有用と考える.また,カラー図を多く使い最新の情報をまとめられており,多忙な先生方でも容易に肝疾患の最新情報をご理解いただけ,日常の臨床にも有用な実用書である.

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 蔵原 晃一
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 抗TNFα抗体製剤の登場により,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)の治療目標が“症状改善”から“粘膜治癒”へと変わりつつある.しかし,“粘膜治癒”の定義自体が,依然として不明確なままであり,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の内視鏡的重症度評価やCrohn病(Crohn's disease ; CD)における小腸内視鏡所見の位置づけについても一定のコンセンサスは得られていない.そこで本号では,これらの問題点を踏まえて,治療効果判定や長期経過観察に適した内視鏡的重症度評価の確立に寄与することを目標に,「IBDの内視鏡的粘膜治癒─評価法と臨床的意義」をテーマとし,松本,味岡,蔵原の3名で企画を担当した.

 まず,序説の松本論文ではIBD診療におけるtreat to targetの概念,粘膜治癒の定義と内視鏡的スコアリングの現状と問題点について概説された.

基本情報

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胃と腸
53巻2号 (2018年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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