胃と腸 53巻3号 (2018年3月)

今月の主題 好酸球性食道炎の診断と治療

序説

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疾患の頻度と概念の変遷

 近年,本邦で徐々に増加している疾患が好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis ; EoE)である.筆者が初めてこの疾患を知ったのは,2005年5月にシカゴで開催された第106回米国消化器病週間である.本疾患は,アレルギー,特に食物アレルギーが関与する疾患であり,成人だけではなく小児にも認められ,狭窄のため嚥下障害を来す疾患であることに驚かされた.

 日本に帰り,早速,PubMedでEoEをキーワードに検索をかけると,既に1960年代から海外では報告がなされていたが,当初は好酸球性胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis ; EGE)の食道病変としての報告であった1)〜5).EoEとしての最初の報告は,1978年のLandresら6)の心窩部痛を主訴として受診した44歳,男性例で,食道内圧検査でvigorous achalasiaと診断された症例に合併したものとされている.EGEの一病変として好酸球浸潤が食道に起こることは,Landresら6)の報告の1年前,1977年にDobbinsら2)が報告している.

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要旨●好酸球性食道炎は環境因子が大きく関与して発症する,食物抗原に対する慢性的なアレルギー疾患である.他のアレルギー疾患と同様に,疾患概念が1990年代に確立してから欧米を中心に急増しており,本邦においても増加傾向がみられる.30〜50歳代の若い男性に多い.海外ではさまざまなコンセンサスレポートや診療ガイドラインが作成されているが,疾患の理解が進むとともに改定が繰り返されている.本邦でも厚生労働省の研究班が2015年に診断指針を改定している.食道に起因する症状の存在と食道粘膜上皮層中の多数の好酸球の存在が診断には必須とされており,プロトンポンプ阻害薬治療に対する抵抗性は必須ではない.本邦では症状が軽度な例が多く,内視鏡検査での特徴的な所見が診断のきっかけとなることが多い.

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要旨●好酸球性食道炎の診断には食道生検が必須であり,その組織学的所見の特徴は,①食道上皮に15〜20/HPFを超える高度な好酸球浸潤を認め,好酸球浸潤は食道に限局すること,②浸潤する好酸球は上皮表層優位で,時に集簇巣(好酸球性微小膿瘍)を形成すること,③上皮は炎症により浮腫を来し,時に上皮の落屑を伴うこと,④上皮基底細胞の反応性過形成を示すことが挙げられ,この4つの特徴を満たすものは高い確率で好酸球性食道炎と考えられる.ほかに粘膜固有層の線維化や肥満細胞の浸潤を伴うこともある.食道上皮に好酸球浸潤を来す疾患は好酸球性食道炎以外にもあり,それらの疾患(GERD,カンジダ食道炎,アカラシア,好酸球性胃腸炎)の生検組織像も合わせて提示した.

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要旨●内視鏡所見および食道生検で好酸球性食道炎と診断され,食道X線造影像が評価可能な14例を対象とした.そのX線造影所見からlinear type,granular type,ringed type,所見が複合するmixed typeの4型に分類したところ,X線的に本症を疑う所見としてはringed typeまたはringed typeを含むmixed typeが有用な所見と考えられた.さらに,X線的に遡及的検討が可能であった5例について経時的変化を検討したところ,linear typeが先に出現し,その後ringed typeまたはmixed typeとなっていく症例がほとんどであり,ringed typeがlinear typeになる症例は1例もなかった.

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要旨●好酸球性食道炎は何らかの原因により,食道上皮内で好酸球が浸潤することによる慢性炎症が続くことで,つかえ感や嚥下障害などの症状を呈する疾患である.アトピー性皮膚炎や気管支喘息といった病気を合併する頻度が高く,その病因には食物などをアレルゲンとするTh2型の慢性炎症が関与している可能性が考えられている.最終的な診断は生検病理組織による好酸球浸潤の証明と自覚症状によって下されるが,特徴的な内視鏡所見から本症を強く疑うことが可能な場合が多く,その内視鏡像を知っておくことは有用であると考えられる.本稿では好酸球性食道炎の内視鏡診断に関して解説する.

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要旨●好酸球性食道炎(EoE)は,食道壁での好酸球性炎症による食道狭窄,機能不全から生じる疾患である.EoEはその診断・治療に臨床と病理の両方からのアプローチを必要とする疾患であり,特に内視鏡での生検が診断に欠かせない.しかし,臨床徴候がみられてもEoEに特徴的とされる内視鏡所見を認めない場合もあり,その際にはCTや超音波内視鏡検査(EUS)での食道壁肥厚が当疾患を疑うきっかけとなりうる.また,治療にて症状や内視鏡的生検での組織学的改善が得られても,粘膜下層や固有筋層の壁肥厚は残存している場合がある.壁肥厚が残存したまま治療を中止した際には再発が多いとの報告もあり,治療効果判定においてもCTやEUSによる食道壁全体の把握が必要である.

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要旨●好酸球性食道炎では高率に食道運動障害が認められることが報告されている.好酸球性食道炎に伴う食道運動障害は,さまざまなタイプが認められることが特徴であり,食道アカラシアと同様の食道内圧所見を呈する症例もある.近年,食道の伸展性を評価することができるendoluminal functional lumen imaging probe(Endoflip®)が開発され,好酸球性食道炎では食道の伸展性が低下していることが明らかになった.また,超音波検査を食道内圧検査に併用した検討では,好酸球性食道炎では食道の輪状筋と縦走筋の協調性が低下している可能性も指摘されている.治療前後の食道内圧所見をみると,好酸球性食道炎に対する治療において多くの症例で食道運動障害が改善することが報告されている.

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要旨●好酸球性食道炎は食物のつまり感や嚥下困難などの食道症状があり,上皮内好酸球が高視野で15個以上浸潤している慢性アレルギー疾患である.約半数以上がプロトンポンプ阻害薬に反応し〔いわゆるPPI反応性食道好酸球浸潤(PPI-REE)〕,残りのほとんどの症例はステロイド嚥下療法が有効である.しかしながら,薬剤の用量,投与期間など治療法として確立されていない部分も多い.そのほか,欧米の報告では4〜6種類の除去食,狭窄例に対する内視鏡的拡張術,生物学的製剤の有効性が挙げられている.

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要旨●健診目的の内視鏡検査7,587例中36例(0.47%)が好酸球性食道炎と診断された.男性32例,女性4例で,40歳代で最も多くみられたが,発見頻度では39歳以下も高かった.29例(80.6%)がアレルギー疾患を有し,つかえ感,胸やけなどの症状を25例(69.4%)に認めた.過去の内視鏡像の検討では,25例中12例(48.0%)に好酸球性食道炎を疑う内視鏡所見を以前から認めていた.PPI反応性を検討した30例中23例(76.7%)はPPI-REEであり,7例が狭義の好酸球性食道炎であった.PPI-REEにおいてPPI中止後は高頻度に再燃を認めた.

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要旨●好酸球性食道炎(EoE)に対する拡大,超拡大内視鏡観察について概説した.NBI拡大内視鏡観察によるEoEの特徴はベージュ色の粘膜,ドット状のIPCLの拡張(日本食道学会分類Type A),血管透見の消失である.これらすべての所見がEoEで認められることが多く,逆流性食道炎との鑑別に有用である.ECSによるEoEの観察では,表層の扁平上皮の核密度の上昇に加え,分葉した2核の炎症細胞浸潤を多数認めた.EoEに対しECS観察を併用すれば,狙撃生検や治療効果判定にも有用な可能性があり,有望な検査手技と言える.

主題関連

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要旨●好酸球性食道炎(EoE)は欧米で患者数の急激な増加がみられている.本邦では新生児〜乳児の消化管アレルギーおよび好酸球性胃腸炎(EGE)の増加は経験されているところであるが,小児の純粋なEoEは症例報告が散見される程度である.EGEと比べてEoEは,食道に炎症が限局しているため,PPI内服治療や吸入用ステロイド薬嚥下治療などの局所治療が行いやすく,長期的副作用を出さずに治療効果を得ることが可能である.小児EoEの欧米の報告をもとに,その特徴を理解する.

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要旨●本邦では小児の一次性好酸球性食道炎(EoE)の報告はまだ少ないが,他疾患に続発したEoEを筆者らはしばしば経験している.特に,先天性食道閉鎖および食道狭窄術後に関連したEoEを経験しており,本病態の解析はEoEの病態解明にもつながると考えている.今回,筆者らは先天性食道狭窄およびその手術に続発したEoEを経験した.総論的な内容を含め報告する.

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要旨●患者は20歳代,男性.18歳時に小腸型Crohn病と診断されたが,治療を自己中断していた.200X年にCrohn病再燃で入院した際の上部消化管内視鏡検査(EGD)で中部食道中心に白斑付着と発赤調の縦走溝所見を,生検で扁平上皮層内に高倍率視野1視野内に約30個の好酸球浸潤を認めた.無症状のため,好酸球性食道炎疑診例とし,メサラジンと成分栄養食でCrohn病治療を開始し寛解導入できた.約4か月後に食物つかえ感,胸やけ症状が出現し,再検したEGD所見ならびに生検所見とあわせて,好酸球性食道炎と確定診断した.フルチカゾンプロピオン酸エステルの嚥下療法を開始したところ,症状は改善し,好酸球浸潤も消失した.

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要旨●患者は40歳代,男性.検診胃X線検査で異常を指摘され近医を受診し,上部消化管内視鏡検査(EGD)で胃に多発した隆起性病変を認めたため,精査加療目的にて当院へ紹介され受診した.EGDでは胃穹窿部に20mm大,胃体上部大彎に15mm大,5mm大の粘膜下腫瘍様隆起を認め,生検の結果,いずれの病変も濾胞性リンパ腫と診断された.超音波内視鏡検査では濾胞構造を反映した小円形の低エコーを認めた.FDG-PETでは胃穹窿部病変のみに異常集積を認めたため,形質転化の可能性も含め,同病変に対してtotal biopsy目的に内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した.ESD切除標本の病理組織診断では形質転化は認めなかった.

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患者

 70歳代,女性.

主訴

 易疲労感.

現病歴

 3年前のスクリーニング検査で十二指腸に粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)を認め,翌年の経過観察を勧められたが受診していなかった.疲労感が出現したため近医を受診し,採血でHb 3.1g/dlの貧血を認めた.内視鏡検査にて十二指腸に出血を認め当科を紹介され,受診となった.

早期胃癌研究会

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 2017年7月度の早期胃癌研究会は7月28日(金)にベルサール高田馬場で開催された.司会は中島寛隆(早期胃癌検診協会附属茅場町クリニック),斎藤彰一(がん研有明病院消化器センター),病理は伴慎一(獨協医科大学越谷病院病理診断科)が担当した.「早期胃癌研究会方式による画像プレゼンテーションの基本と応用」は八尾建史(福岡大学筑紫病院内視鏡部:代読は長浜孝)が「画像診断プレゼンテーションの基本手順(基礎編):胃」と題して行った.

第18回臨床消化器病研究会

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 2017年7月29日(土)に第18回臨床消化器病研究会がベルサール高田馬場で開催された.「消化管の部」と「肝胆膵の部」に分かれ,「消化管の部」では主題1.炎症性腸疾患「症例から学ぶ腸の炎症性疾患」,主題2.消化管癌(形態学):上部消化管「胃癌診断の温故知新」,主題3.機能「慢性便秘症ガイドライン発刊を見込んで」,主題4.消化管癌(形態学):下部消化管「大腸隆起性病変の質的診断の基本とピットフォール」の4セッションが行われた.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小山 恒男
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 春間,大倉,小山が編集小委員を担当し,「胃と腸」誌として初めてEoE(eosinophilic esophagitis)をテーマとした号を企画した.EoEは比較的新しい病気で,1990年代に疾患概念が海外で確立されたが,著しく増加してきたのは2000年代になってからである.EoEは喘息などのアレルギー性疾患を伴うことが多く,発生病態として食事などの抗原に対するアレルギー反応が考えられているが,詳細は明らかではない.そこで本号では,欧米からのエビデンスを基盤にしつつ,本邦における詳細な病理学的,X線診断学的,内視鏡診断学的研究成果に基づき,現時点でのEoEに関するすべての疑問に答えられる内容を目指した.

 序説を担当した春間によると,本疾患を初めて知ったのはDDW 2005 in Chicagoであったと言う.本号の骨子となる“疫学と診断基準”を依頼した木下が,DDW 2005にて,春間とともにEoEに関する発表を聴講していたとは,偶然とは言え興味深い.本邦を代表する2名の消化器内科医が,常にアンテナを高く上げていた結果が,本号に表れている.

基本情報

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胃と腸
53巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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