胃と腸 53巻1号 (2018年1月)

今月の主題 胃型形質の低異型度分化型胃癌

序説

  • 文献概要を表示

はじめに

 2018年年頭の主題は「胃型形質の低異型度分化型胃癌」となった.低異型度癌あるいは超高分化腺癌と呼ばれる腫瘍のうち,胃型形質が優勢なものに着目した特集号である.胃や腸の粘膜内で病理組織学的に(HE染色切片上で)腫瘍と診断でき,限られた視野内で間質浸潤の所見が得られないものをWHO分類1)などの欧米基準ではdysplasiaと呼ぶが,本邦では非浸潤性でもできるだけ“腺腫”と“腺癌”に分類する努力をしてきており,内視鏡診断・治療学もそれに立脚している.胃型の腫瘍性病変では“典型的”な幽門腺腺腫(pyloric gland adenoma)のみを胃型腺腫とし,そうではない胃型腫瘍性病変は“腺癌”とすることが多い.しかし,同じ胃型の腫瘍をみても腺腫と腺癌に診断意見が分かれることがあるのは,本誌の読者や早期胃癌研究会の出席者なら何度も経験されていると思う.したがって,本誌の主題は“胃型形質の低異型度分化型胃癌”であるが,序説のタイトルはあえて“胃型形質の低異型度分化型胃腫瘍”とした.

  • 文献概要を表示

要旨●低異型度分化型腺癌(LG-WDA-G)の頻度およびその臨床病理学的特徴を調べるため,胃癌186例202病変に対して免疫染色(MUC2,MUC5AC,MUC6,CD10)を施行し,LG-WDA-G 7病変が抽出された.LG-WDA-Gの頻度は,全胃癌中3.5%で,tub1の6.1%と低頻度であった.患者の性別,年齢,癌の発生部位や肉眼型には特徴的傾向はなかった.背景粘膜は1病変を除き中等度の腸上皮化生を伴う萎縮粘膜であった.大きさは2〜26(平均11)mm,深達度はT1a(M)6病変,T1b(SM)1病変,脈管侵襲はすべて陰性であった.組織型はすべてtub1で未分化型成分の混在はなかった.一方,高異型度分化型癌では胃型形質を有するものの,完全腸型より未分化型成分の混在頻度が高かった.LG-WDA-Gは未分化型への進展に乏しい低悪性度の癌であり,LG-WDA-Gの段階で発見すれば,内視鏡的治癒切除が可能であると考えられる.しかしながら,しばしば生検診断が困難であるため,生検診断にのみ依存することなく,臨床的特徴を十分把握して,癌の確定診断を行う必要があると思われる.

  • 文献概要を表示

要旨●胃癌の中には組織異型度が低く,生検組織診断上,見逃されやすい一群が存在する.胃型形質を呈する低異型度分化型腺癌もその一つであるが,その中で特に腺窩上皮型を主体とした低異型度腺癌について,その生検組織診断の問題点・注意点を症例の提示を通じて考察した.低細胞異型度と非腫瘍性粘膜組織の組織構築に類似した分化を呈することが特徴である.それらの胃癌からの生検組織を非腫瘍性組織と誤認しないためには,病変の概念の理解のうえに腫瘍上皮の軽微な異型を注意深く認識して,深切り標本作製や免疫染色の追加など必要な病理組織学的検索を行うことが重要であるが,さらに,内視鏡所見も含めた総合的な病変の評価を常に考慮することが必須である.

  • 文献概要を表示

要旨●早期胃癌269例305病変のうち,低異型度分化型癌は99例115病変で胃型37病変,腸型78病変であった.胃型病変は発赤調,papの割合が高く,水平断端陽性になりやすい.また,腫瘍表層で微小乳頭状構造,鋸歯状変化,小型腺房状構造を呈する割合が高かった.胃型の境界不明瞭病変はL領域で,腫瘍表層の微小乳頭状構造や小型腺房状構造が認められる割合が50%未満のものが多く,H. pylori既感染が多かった.見逃し例は27.0%で,治療前の生検診断正診率は86.1%であった.胃型低異型度分化型癌は,臨床病理学的特徴を踏まえ,より微細な所見を捉え,丁寧な観察と鑑別を進めることが,見落としの少ない検査と,正確な診断・治療に必須である.

  • 文献概要を表示

要旨●目的:胃型または胃優位型の形質を有する純粋超高分化腺癌のNBI併用拡大内視鏡的所見(M-NBI)の特徴を明らかにするために以下の検討を行った.方法:2006年1月〜2017年7月の期間に,当院で診断され,外科的切除またはESDを施行された早期胃癌のうち,胃型または胃優位型純粋超高分化腺癌は12例であった.これら12例について,M-NBIの特徴を求めた.さらに,胃型または胃優位型純粋超高分化腺癌と腺窩上皮型過形成性ポリープのM-NBI所見を比較した.結果:胃型または胃優位型純粋超高分化腺癌のM-NBI所見の特徴は,①周囲の背景粘膜と比べて病変の腺窩辺縁上皮(MCE)の幅が広い(100%),②VEC pattern陽性を呈する症例が多い(58%),③irregular MV patternを呈している(100%),以上3点だった.また,M-NBI所見において,超高分化腺癌群は腺窩上皮型過形成性ポリープ群と比較して,統計学的有意にirregular MV pattern,irregular MS pattern,VEC patternを高頻度に認めていた(p<0.01).加えて,腺窩上皮型過形成性ポリープ群は超高分化腺癌群と比較して,窩間部が開大し,窩間部の色調が焦茶色を呈する頻度が高かった(p<0.01).結論:M-NBI所見によって胃型形質の純粋超高分化腺癌を正しく診断するためには,irregular MV patternの所見が最も重要と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨●胃型低異型度分化型胃癌の悪性度を明らかにするため,胃型低異型度癌成分が粘膜下層以深に浸潤する13例(低異型度群),粘膜下層以深で一部に低異型度癌成分を含む8例(部分低異型度群)を臨床病理学的に検討した.低異型度群は腫瘍径が小さく,深達度が粘膜下層にとどまる症例が大部分で,進行癌症例は13例中2例のみであった.しかし,脈管侵襲を4例に認め,細胞増殖能は通常胃癌と同等であった.予後は低異型度群で1例の死亡例が認められ,再発形式は腹膜播種であった.部分低異型度群では腹膜播種2例,肝転移1例の死亡例を認めた.胃型低異型度分化型癌は低異型度のままでは浸潤傾向に乏しく,予後のよいものが大部分であるが,深部浸潤を示した症例は通常の進行癌と同等の予後を示すものと推察される.

  • 文献概要を表示

要旨●H. pylori感染状態を確認できた早期胃癌265症例300病変に対して,NBI拡大内視鏡観察を行い,乳頭・顆粒状構造を示すA typeを胃型形質,腺管開口構造を示すB typeを腸型形質,WOSをMUC2,LBCをCD10の診断指標とした場合の感度,特異度,正診率について検討した.A-B分類と形質発現には有意な相関を認めたが,A typeおよびB typeの診断能は,感度,正診率が低率で,H. pylori陽性例に比べH. pylori除菌後胃癌でさらに低率であった.WOSとLBCは各々MUC2とCD10に対して高い特異度を認めたが,感度は低率で,WOSの感度は高異型度癌やH. pylori除菌後胃癌でさらに低下した.胃癌は多様性を有することが特徴であり,形質発現とNBI拡大像との間に相関性はあっても,内視鏡的な形質発現予測には限界があることを理解して運用する必要がある.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,男性.人間ドックの上部消化管内視鏡検査で,胃体下部大彎に18mm大の周囲になだらかな丈の低い隆起を伴った白色調の陥凹性病変を認めた.背景粘膜に萎縮性胃炎の内視鏡所見は認めず,尿素呼気テストと血清H. pylori抗体も陰性であり,H. pylori未感染胃と思われた.生検で粘膜固有層深部から粘膜筋板内に不整な腺管の増生を認める.細胞異型は乏しくGroup 4と診断された.0-IIc+IIa型胃癌でSM癌であっても粘膜下層浅層までの浸潤と考え,ESDを施行した.病理組織学的所見は,HE染色像では,粘膜固有層深部から浅層に軽度の核異型を伴う腫瘍腺管が水平方向に増生浸潤し,胃底腺や幽門腺との細胞類似性の乏しい高分化管状腺癌であった.病変中央の陥凹部は一部びらんを伴うも,病変全体の表層は非腫瘍性の粘膜上皮で覆われ,癌の露出は認めなかった.一方,粘膜下層へは多巣性の浸潤を認めた.免疫染色像では,MUC6陽性,MUC5ACは一部陽性,MUC2とCD10は陰性で胃型形質を示し,pepsinogen IとH/K-ATPaseは陰性で,腫瘍は胃底腺への分化は示さず,粘液腺への分化と一部で腺窩上皮への分化が示唆された.これらの病理組織学的特徴は,既報とは異なったタイプの胃型形質の分化型胃癌であることを示し,胃癌の細胞分化と腫瘍発生段階のさらなる多様性を示した興味深い症例と思われる.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は70歳代,女性.上部消化管内視鏡検査で,胃穹窿部に50mm大の丈の低い隆起性病変を認めた.周囲陰性生検を7点確認のうえ,ESDを施行した.病理組織学的には萎縮の乏しい胃底腺粘膜を背景に,腺窩上皮類似の低異型度の腺管から構成される高分化型管状腺癌を認めた.粘膜下層への浸潤を認め,リンパ管侵襲が陽性であった.免疫染色で腫瘍腺管はMUC5AC陽性,MUC6陽性,MUC2陰性であり,胃型の低異型度高分化型腺癌と診断した.追加手術を施行し,腫瘍の遺残を認めた.胃型の低異型度分化型腺癌が疑われる際には,範囲診断の難しさや粘膜下層浸潤や脈管侵襲の可能性に留意した,より慎重な対応が必要と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,男性.H. pylori未感染.前医で施行した上部消化管内視鏡検査(EGD)で胃癌が疑われ,精査加療目的に当科へ紹介となった.治療前のEGDで胃穹窿部に平坦隆起性病変を認めた.白色光観察では病変は淡い発赤調,強い発赤調,白色調の3領域から構成されていた.拡大観察では強い発赤調領域に一致して微小血管の口径不同を認め高分化腺癌を疑い,内視鏡治療の方針とした.切除標本の病理組織学的検索では,淡い発赤調領域はMUC6陽性細胞が主体の胃型(幽門腺型)腺腫から成り,強い発赤調領域にはMUC6とMUC5AC陽性細胞が混在する胃型形質を示す低異型度高分化腺癌成分を認めた.白色調領域はMUC5AC陽性細胞が主体であったが,構造異型・細胞異型は軽微で胃型(腺窩上皮型)腺腫と診断した.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,男性.201X年12月,早期胃癌に対して内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を受けた.201(X+1)年8月,前医のESD後経過観察の内視鏡で,胃体下部前壁に1cm大の褪色陥凹面を認めたが,生検の病理診断がGroup 1であったため,フォローアップとなった.半年ごとに上部消化管内視鏡検査(EGD)および1年ごとにCT検査が行われていたが,201(X+6)年12月に病変の明らかな増大傾向を認め,当院に紹介となった.当院でのEGDでは,胃体下部前壁〜大彎に7cm大の4型の病変を認めた.発赤調の凹凸不整な粘膜と周囲に腫大・融合した皺襞を認めた.NBI拡大内視鏡検査では発赤した不整粘膜に一致して微小血管と表面構造の不整を認めたが,周囲粘膜との境界は不明瞭であった.病変に対して,腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.切除標本による病理学的所見では,細胞・構造異型の乏しい腺管が漿膜下層まで浸潤する低異型度分化型腺癌であった.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,女性.変形性膝関節症に対して非ステロイド性抗炎症薬を内服していた.黒色便,貧血を認めたため,近医で上・下部消化管内視鏡検査を施行したが明らかな異常所見を認めなかった.小腸精査目的で当科へ紹介され受診となった.カプセル内視鏡検査(CE)にて,空腸に全周性の潰瘍性病変とその近傍に白色顆粒状隆起を認めた.ダブルバルーン内視鏡検査(DBE)でも同様の所見を認め,生検にてFL(follicular lymphoma)Grade 1と診断した.PET-CT検査にて病変は空腸に限局しており,腹腔鏡下空腸部分切除術を施行した.以上,CEで指摘しDBE下生検で確定診断した比較的まれな潰瘍型空腸原発FLの1例について画像所見の特徴を含め報告した.

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 2017年6月の早期胃癌研究会は2017年6月28日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は蔵原(松山赤十字病院胃腸センター)と土山(石川県立中央病院消化器内科),病理は菅井(岩手医科大学医学部病理診断学講座)が担当した.「早期胃癌研究会方式による画像プレゼンテーションの基本と応用」は,高木(芦屋中央病院内科)が「画像診断プレゼンテーションの基本手順(基礎編):食道」と題して行った.

--------------------

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

  • 文献概要を表示

 私自身のことで恐縮であるが消化器内科を志す大きな動機となったのは,患者さんが多いこととともに,2重造影法や内視鏡によって自らの手で診断できるということにあった.現在では,CTやMRIなどの画像診断は主に放射線科が担っているが,内視鏡をはじめとする画像診断の魅力が消化器内科を志す大きな磁力として働いていることは間違いないであろう.現在,内視鏡や超音波は単に診断ではなく治療にも拡大し,わが国の消化器内科医の技能は名実ともに世界をリードしているといっても過言ではない.

 このたび下瀬川徹教授監修のもとに東北大学諸氏の総力を結集してまとめられた消化器画像診断アトラスは,美しい画像が豊富であることは無論,各疾患に対し疾患の概要,典型的な画像所見とその成り立ち,確定診断へのプロセス,治療について簡潔かつ要を得た記述と必要最小限の文献が記載されており,これまでに例のない,まさに圧巻の絢爛たる画像アトラスである.

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小澤 俊文
  • 文献概要を表示

 病理診断ならびに内視鏡診断の進歩により,従前には発見できなかった胃病変が認識されることになった.その中でも,低異型度胃癌は色調や表面構造の変化に乏しく,通常白色光観察はもちろんNBI(narrow band imaging)など,特殊光による拡大観察を行っても存在診断や境界診断に難渋する場合がある.また,病理組織学的にも異型が弱いため,生検診断を繰り返してもなお確定診断に至らず,結果として病変が進行し,臨床的辛酸を舐めさせられることがある疾患である.それゆえに,本誌でも繰り返し特集を組んで警鐘を鳴らしてきた.

 本号では2010年(45巻7号)以来,7年ぶりになるが,腸型ではなく胃型形質を有する低異型度分化型腺癌に限り特集した.その企図は,本病変が生検診断において再生異型腺管や腺窩上皮過形成腺管など非腫瘍との鑑別が困難であるためである.対象病変はN/C比50%以下で核異型に乏しく,HE染色切片と免疫染色にて完全胃型または胃優位型の形質を発現した分化型腺癌とし,狭義の胃底腺型胃癌は除いた.

基本情報

05362180.53.1.jpg
胃と腸
53巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)