胃と腸 5巻11号 (1970年10月)

今月の主題 大腸の早期癌―胃を除く消化器の早期癌(2)

総説

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 わが国では,胃のX線診断学にくらべ,大腸診断の遅れが,最近よく問題になる.

 大腸疾患の頻度が胃に比して極めて,少ないこと,検査法に統一性のないこと,などがそのおもな理由であろう.実際,これまでのわれわれの症例をふりかえってみても,大腸癌は,ほとんどが進行癌であり,早期癌はきわめて少ないのが現状である.

大腸早期癌の臨床と病理 山田 粛
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 近来早期癌問題の関心がたかまり,大腸癌においても早期癌の実態を明らかにし,その基準を定めるように要求されている.以下主として臨床家の立場からこの問題を考えてみたい.

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はじめに

 大腸のポープを癌との関連について考察するとき,次の3つの問題点が注目されるのであろう.すなわち,①悪性ポリープの頻度,②良性ポリープの悪性化の可能性,③大腸の進行癌への移行とその頻度である.

 いずれも難しい問題であり,古くから多くの論争があるが,ここにわれわれの経験した症例を検討し,筆者の現在の考えを述べたいと思う.

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はじめに

常岡(司会) きょうの座談会は,先号に引き続き胃を除く消化器の早期癌ということで,前回余した大腸の早期癌を中心にして,いろいろお話を伺いたいと思います.

 それで,食道,胆道系,膵臓系,それぞれ臓器の特徴があって,早期癌ということになると,あるところは比較的取っつきやすいようだし,あるところはいまのところではどうも取っつくすべもないというような傾向もございますが,大腸の早期癌は他のものに比べればかなり攻めやすいんじゃないか,胃癌に次いでかなりの期待をもって早期癌を診断したり,治療できるのじゃないか,という期待がもてそうです.

 今日のメンバーは過日,学会でパネリストとなった方お2人と,その方面の研究なさっている先生お2人に加わっていただいております.まず最初に,過日,パネリストでお話になった方々に,そのときの内容をかいつまんでお話願ってから,ほかの皆さんのお話を伺ったらどうかと思います.それでは山田先生,お願いいたします.

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 初回のレ線診断で良性潰瘍と診断したが,内視鏡検査では広範な広がりのⅡc病変内に,BorrmannⅡ型を合併する進行癌と診断し,術後これを確認した症例を報告する.本例は胃疾患診断における綜合診断の必要性と,多方向よりのレ線撮影の有用性を示すものである.

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1.症例

患者:62歳 男

主訴:特に述べることはない.

現病歴:母が胃癌死亡のため,7年前胃精検を受けたが,当時は異常なしと言われた.約3カ月前頃から食欲はあるが,食後時々胃部不快感があり,時に軽い疼痛があったので,昭和42年12月6日本院に受診し,加療により症状は間もなく消褪したが,X線,内視鏡検査の結果胃前庭部に隆起性病変を指摘され,昭和43年1月8日手術のため本院に入院した.

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 胃癌の発生母地として,潰瘍,ポリープ,胃炎のほか,迷入組織もその一つに古くから考えられている.迷入組織としては主に腸上皮,食道粘膜上皮および膵組織がとりあげられているが,迷入膵組織から癌化したと思われる症例は,ごく早期のものであっても癌病巣は胃壁深層にみられることが多い.

 最近筆者らは迷入膵が母地となったと思われ,しかも粘膜層のみに限局したⅡc型早期胃癌の極めて珍らしい症例を経験したので報告する.

特別寄稿

胃癌に関する諸問題 Rene-A Gutmann
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 美しい図説のはいった日本の雑誌“胃と腸”を毎号受取り,英文の論文や抄録を興味深く読んでいるが,この雑誌の主題がいつも胃癌に関するものなので,私にも2~3の知見を述べさせてほしい.

 これまでに私は,数多くの論文を発表し,講演や学会発表も多数おこなってきたが,そのほかに,私が胃癌の早期診断について3冊の本を出版したことを御記憶のことと思う.2冊めは1956年に,3冊めは1967年に出版したものである.しかし,本文では,とくに,30年前に出版した最初の本,“Le cancer de lestomac au debut”(初期胃癌)を中心に,私の考えを述べてみたい.私の最初の本は,500ページにわたリ,630枚の図説を入れて,臨床,X線,病理の事項を述べたものである.このなかで私は,胃癌の「腫瘤型」,「浸潤型」,「潰瘍形成型」の諸型について述べた.これらの型は,日本の早期胃癌の分類である「隆起型」,「表面型」,「陥凹型」の原型ではないかと思う.

 さて,私は,ここで,胃癌の研究のなかでもとくに重要であるつぎの3つの問題,すなわち,「早期胃癌の予後」,「早期胃癌の定義」,「早期胃癌の診断法」について述べることにする.

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 切除された胃の肉眼所見の検討こそ,X線や胃カメラ診断の基礎であることは申すまでもないことです.これから数回にわたって思いつくままに,私の経験した早期胃癌の肉眼診断についてのべてみることにします.

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 患者は39歳の男性である.BorrmannIV型の進行胃癌のために胃全剔手術を受けて6カ月に撮影した大腸X線写真が図1,2である.手術時には,リンパ腺転移が19個中10個に認められた.手術後,4カ月頃から高度の心窩部痛が出現したという.手術の5カ月後に来院したときには,心窩部に硬い鶏卵大の腫瘤を触れ,ダグラス窩にも転移が認められた.さらに1カ月後に大腸のX線検査をおこなった.

 図1のように,充えい像では,横行結腸の中部よりやや肝彎曲部よりに,両側性の陰影欠損があり,比較的狭窄を呈している.図2の二重造影像では,同じ部位の伸展性がわるく,とくに,その上縁は陥凹して,ささくれだった所見がみられる.また,粘膜ひだがこの部では密に錯走している.透視では,腫瘤の位置は,この部に一致していた.このような所見は,前回同様,癌が漿膜面から浸潤したものと考えるべきである.この症例では,術後の再発像としてあらわれたのであるが,同じような所見は,進行した胃癌ではよくあるわけであるから,手術する前には大腸のX線検査も必ずやっておくべきである.

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欧文目次

久留勝先生を悼んで 村上 忠重
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 少時御入院というお話は承知していたが,前にもあったことなので,すぐまたお元気を回復されるものとばかり思っていた矢先,久留先生が御逝去になったという報に接し,一瞬心臓の止まるような感を受けた.肺性心とのことで,お話を伺うと余計残念に思われる.ここに雑誌「胃と腸」編集同人,ならびに全読者一同とともに,謹んで哀悼の意を捧げる.

 先生の御業績に就いては今さら申すまでもないことであるが,学問に対する情熱,外科手術における練達,切除材料に対する徹底的な研究,それにもとつく秀れた論証性,さらにその上に立った後進の指導と,何から何まで優れておられ,これ以上の指導者はあり得まいと思われる方であった.ことにその御専門が乳癌ならびに消化管の癌,癌痛を除去するための脊髄の機能の研究など,私どもにとってはどのお話を聞いても教訓となることばかりであった.

書評「二重造影法」 高田 洋
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 本書を手にして,ついに出たという深い喜びを感じたのは私一人ではなかったろうと思う.

 今日わが国で消化管のX線診断に繁用されている二重造影法は,充盈像と並ぶ大きな柱となっていることは衆知の通りである.大腸の検査に用いられていた二重造影法を上部消化管診断に応用し,今日の確固たる診断価値を与えたのは白壁,市川,熊倉氏らの偉大な功績である.X線診断にたずさわる医師なら,今日至極あたりまえの技法として日常安易に応用されるまでになった本法ではあるが,一歩退いて反省する時,本当に二重造影法の最大の診断的効果をあげているかどうかは疑問な場合も少なくはない.おざなりの不充分な二重造影像でお茶をにごし,本当の意味での二重造影法の特徴を発揮できていないフィルムを見かけることも多い.編者の白壁教授がその序文で記しているように「偶然にえられた撮影像ではなくて,計算された.しかも予定通りに撮らなくてはならない撮影像」というのが今日の要求なのである.Area gastricaeのレベルに於て病変が論じられ,診断しようと努力している時代である.本書はこうした最良の二重造影像をとるための解説書であり,指導書である.

編集後記 常岡 健二
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 前号に引続いて,「胃を除く消化器の早期癌」の第2部として「大腸の早期癌」

を主題に綜説と座談会をお願いした.山田,丸山,北条,田島博士の御努力のお蔭で大腸についても早期癌の発見の可能性が十分あること,また早期胃癌と大体同じレベルで大腸の早期癌も話しができそうなことが分って,これらの企画の有意義であったことを喜んでいる次第です.つぎの問題としては,大腸早期癌発見のための諸検査の進歩と普及,さらには早期胃癌の研究におけるごとく,多くの材料の集積と検討をもつことでありましょう.これによって,carcinoma in situを含めてポリープの癌化と早期大腸癌の主体をなすポリープ状癌との関連等についても,明確な病理学的見解を提出して貰いたい.

 研究・症例には迷入膵に関するものが2題,長与博士の迷入膵の病理組織と発癌の前癌(駆)病変としての意義,広瀬博士のこれがⅡc型早期胃癌の発生に関与したと考えられる症例など,今後迷入膵の診断が増加するであろうと思われる時期において,大変参考になる報告であった.また鹿岳博士のPolypoid cancerの四重複例も珍しい.

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 前号に紹介した全ソ消化器病研究所上部消化管内視鏡グループの主たるレポートは次のようなものである.

 a.吐血の早期内視鏡診断

 b.胃粘膜像の内視鏡診断と生検診断の比較

 c.胃潰瘍のStage分類

 d.胃切後の胃粘膜像の変化

 e.日本製ファイバースコープの優秀さ

等々である.

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 既にご存知の通り,第2回世界内視鏡学会と第4回世界消化器病学会は日本から多数の参加者が出席して,それぞれ盛会のうちに幕を閉じたが,ご出席の先生方にお願いしてその時の印象をお書きいただいた.

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 膵組織の胃壁内迷入に関しては多くの文献があるが剖検胃に偶然見出されたものの報告およびその統計的観察が主体をなしている(表1).

 近時診断法の進歩により,胃粘膜上の小病巣をも検出することが可能になり,粘膜下腫瘍の診断の下に迷入膵病変による胃の切除例が増加しっつある.

 筆者らは過去17年間の切除胃の組織検査から25例の該当例を得ているので,これらの例について病理組織学的所見およびその特徴等について述べ今後の治療指針の参考に供したい.

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 下部消化管疾患の診断における内視鏡検査の重要性については,改めてここで論ずる必要はないと思う.しかし,最近著しく進歩した上部消化管の内視鏡検査に比して,残念ながら,下部消化管のそれは非常に遅れている.これは,下部消化管では解剖学的制約が非常に大きく,かつ本邦では下部消化管疾患が少ないことが原因しているためであろう.しかし,下部消化管の解剖学的制約は最近の科学技術の進歩によりほとんど解決されており,また一方では,食生活の変化とともに,本邦でも近年,下部消化管疾患の頻度が上昇してきている.したがって,消化器疾患に関心を持つ人は,今後大いに大腸内視鏡検査を活用してほしい.

 大腸の内視鏡としては,従来はStrauss以来の直腸S状結腸直達鏡がもっぱら用いられてきている.この直達鏡は金属の単なる筒にすぎないが,その大腸疾患診断に寄与する点は非常に大きい.また,この直達鏡を自由自在に使いこなすことが後述するSigmoidocamera,Colonofiberscope操作の基本となる.直達鏡の経験なくて,直接Colonofiberscopeを習熟することは困難であり,かつ危険でさえある.逆に直達鏡に習熟している人であれば,最近のColonofiberscopeは短期間で容易に使いこなせ得る.

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 あまり早期胃癌の症例が続いてもあきがくると思い,今回は趣をかえ,表題のような問題をとりあげてみた.

 従来,アニサキス様幼虫が胃壁内に侵入し,特有の好酸球性肉芽腫を形成したものを胃アニサキス症と称してきた.ところがわれわれは,いかの刺身,たらの子,生ずしなど(これらはいずれも生きたアニサキス様幼虫を含むことがよくある)を食べたあと数時間して,いわゆる”食あたり”症状を呈してくるものを,早期にファイバースコープで観察すると,ときにアニサキス幼虫の胃壁内穿入の現場を見出しうることを知った.またこの虫体はレントゲン写真でもうつし出されることが分った.ただこの虫体がアニサキス幼虫であるというには,胃生検用鉗子で虫体をつまみ出し,寄生虫学的に同定する必要がある.このようにしてわれわれは,これまで17例について生きたアニサキス幼虫を発見し,吟味してきた.これらはその急性胃症状とてらして,臨床的に”急性胃アニサキス症”とよんではどうかということを,この春の内視鏡学会総会において提唱した.これについてくわしく述べる余裕もないし,この欄の趣旨も考えて,ここでは注意深く観察すれば,胃内のアニサキス幼虫を内視鏡的にも,またレントゲン的にも見出しうるものであることを述べるにとどめる.まず症例について,その実際をみていただこう.

基本情報

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胃と腸
5巻11号 (1970年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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