胃と腸 5巻10号 (1970年9月)

今月の主題 胃を除く消化器の早期癌(1)

総説

食道の早期癌 鍋谷 欣市
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はじめに

 早期食道癌はごく最近まで全く報告をみなかったが,1966年東北大山形ら1),東京女子医大中山ら2)の報告以来,各種食道検査法の進歩向上と相俟って次第に多くなってきた,

 たまたまこれと相前後して1965年に食道疾患研究会が発足し,しばしば早期食道癌についての検討も重ねてきた.そして,1969年4月には食道癌取扱い規約3)が結ばれ,その中には早期癌の定義がなされている.すなわち,「進行度とは別に組織学的判定によって癌浸潤が粘膜下層までで止まる癌を早期癌と定義する(図1).このさい,リンパ節転移の有無にはかかわらない.なお,術前合併療法を行なってこれに該当するものについてはたとえば術前照射例ではR・早期癌と記載して,いわゆる早期癌と区別する」と述べられている.筆者もこの規約の草案者の1人であるが,この定義の決定には2,3の問題点4)5)6)7)が残されているので,今後さらに検討されなければならないと考えている.特にR・早期癌については多少の誤解を招く恐れもあるので,次のような基準で集計することにした.すなわち,「R・早期癌の場合は,筋層以下に照射前癌浸潤があったと思われる変化のないもの」とした.これは進行癌であったものが,術前照射によって少なくとも筋層以下には癌細胞が消失し,瘢痕,萎縮などの変化を残している例を除くためである.

 このような基準にしたがって早期食道癌を集計すると,表1のごとく,1970年2月までに28例に達している.配列は報告年度順であり,以下主な項目についての集計成績を述べる.個々の症例の所見については,できるだけ既発表文献を載せて省略することにした.

胆道系の早期癌 永光 慎吾
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はじめに

 胆道の癌は予後の極めて悪い疾患であり,術後5年生存例は非常に少ない.従って,早期癌の定義を決めようとしても,討議の資料となるべき症例が少ないために,胆道系では早期癌の定義すら決定されていない.第56回日本消化器病学会総会に於て胃以外の消化器の早期癌がパネルに取上げられ,筆者は胆道疾患研究会の会員として胆道系の早期癌について報告するよう求められたのであるが,以上のような事情から一応術後5年以上生存したものをもってこれに当てることとした.症例の収集は胆道疾患研究会会員の協力によって行なわれ,調査対象はほぼ全国にまたがり,127施設である.なお,本論文では胆道を胆嚢および肝外胆管に限定し,十二指腸乳頭癌は除外した.十二指腸乳頭部癌は癌の発生母地が胆管上皮であるのか,膵臓起源であるのかあるいは,十二指腸粘膜に由来するのか明らかにし得ないものが多く,また解剖学的,組織学的にも胆嚢および胆管のもつ特殊性と異なるところがあるので,これを胆道系の癌から除外した.

 予期したように5年生存例は極めて少なく,収集し得た症例は胆嚢癌14例,胆管癌5例のみである.

 胆道系の癌のうち,胆嚢癌と胆管癌とでは癌の進展の様態,症候の現われ方,胆石との関係,また診断法および手術術式においてもそれぞれ異なるものがあるので別々に述べる.

膵臓の早期癌 石井 兼央
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はじめに

 消化器系の癌のなかでも,膵臓癌は診断,治療がもっとも困難をきわめる臓器癌の1つであり,現在の時点でその早期癌を論ずるのは時期早尚であるとのそしりをまぬがれないかもしれない.しかし,膨大部領域癌(以下には膨大部癌とよぶ)を含める広義の膵頭部癌―この部位の癌が表1にしめすように,膵臓癌の約70%をしめる1)―に対しては根治手術である膵頭十二指腸切除術が確立,普遍化しているので,早期診断が可能でさえあれば,膵臓癌の半数以上において術後の長期生存が望みうるであろうし,また,最近の10年間に膵臓癌診断のための積極的な検査法がつぎつぎに登場するという進歩があって膵臓癌の早期診断の可能性にも希望がもてはじめてきたことなどの理由から,現段階における膵臓癌の早期像の把握と早期診断へのアプローチを試みることは無意味ではないであろうと思う.膵臓は薄い被膜でおおわれた実質臓器であり,筋層を有する管腔臓器の胃・腸とは局所解剖学的に異なっているので,膵臓の早期癌については早期胃癌のような組織学的定義を適用することはできない.また,膵臓はリンパ系の豊富な臓器であるが,そのリンパ系は複雑多岐であって体系がまだ十分には明確でないので,膵臓の早期癌を組織学的に規定するためにはさらに今後の基礎的検討が必要であろう.

 したがって,この論文では多くの施設の御協力によって調査しえた,1)膵頭十二指腸切除術後の長期生存例,2)早期と考えられる膵臓癌の剖検例3)臨床的に比較的早期と思われる膵臓癌の症例について膵臓癌の早期像をまとめ,ついで比較的新らしい診断技術の診断意義にふれることとした.

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 胃以外の食道,胆道系,膵臓の消化器系の癌はその早期発見や治療が困難とされており,今後に多くの課題をかかえています.ご出席の方々に,それぞれの臓器の早期像の描出,またその造影法や比較的新らしい診断技術などについてお話し願いました.

 なお,大腸の早期癌については次号の座談会(第2部)に掲載致します.

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はじめに

 カルチノイドは,セロトニンを分泌する内分泌腫瘍として知られ,主に消化管に発生し,稀ではあるが,気管支,膵,上顎洞,卵巣,胆嚢にも発生する.

 胃のカルチノイドは,稀な疾患ではあるが,Askanazy(1923)1)の剖検による偶然の発見以来,1961年までに84例を数えるという2)

 筆者らは,昨年も,X線,内視鏡にて胃粘膜下腫瘍として胃切除を行ない,病理組織学的に胃カルチノイドと診断した症例を報告した3)

 その後,術前X線および内視鏡所見より,胃カルチノイドを疑い,胃生検所見と合せて胃カルチノイドと診断した1例を再度経験したのでここに報告し,その診断面について若干の考察を加えてみたい.

 なお,本症例は胃原発カルチノイドの本邦第11例目にあたる症例報告と思われる.

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1.症例

 患者:K.N. 58歳 男

 主訴:心窩部痛

 家族歴:兄が胃癌で死亡

 既往歴:約8年前より高血圧症

 現病歴:昭和41年1月頃心窩部痛を覚え,某医を訪れ,しばらく投薬を続けたが改善をみず,同年2月某病院を紹介され,胃潰瘍の診断のもとに手術をうけたが,胃切開の結果,病巣が認められないということでそのまま切開部をとじただけであった.その後投薬を続け,経過は良好であった.42年2月頃再び心窩部痛を覚え,某医にて投薬を続け症状の改善をみた.44年7月頃より再三心窩部痛を覚え,44年8月当科を受診した.

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はじめに

 早期胃癌Ⅱc型に類似した非癌性病変についてはいろいろの検討がなされているが,両者の鑑別は必ずしも容易ではない.筆者らは最近,比較的広汎な陥凹を呈したⅡc類似良性疾患の1例を経験したので,ここにその大要を報告する.

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はじめに

 胃脂肪腫は,胃良性腫瘍のうちでもまれなものとされており,その頻度は一般に0.6~4.8%といわれている.Whiteら1)(1929)が14例を報告して以来,Alverzら2),Palmerら3),Peabodyらが次々に多数例を集計報告しているが,本邦では,水野ら5)(1954)が胃癌に合併した一例を報告して以来現在までの報告例は,筆者らの調査では本症例を含めてもわずか19例にすぎない(表2).

 最近,筆者らはX線上ならびに内視鏡上胃ポリープと診断し,手術後胃脂肪腫と判明した一症例を経験したので報告する.

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はじめに

 胆道系疾患の治療を適切に行なうには,疾患の正しい診断が前提となることは,述べるまでもない.胆道系疾患の診断には,従来より胆道・胆のう造影法(経口的,経静脈的,経皮的)が重要な位置を占め,ひろくroutineとして施行されてきている.とくに,術中胆管造影法は胆道内腔の変化をよく描写して手術に即応できるため有用ではあるが,一方,注入造影剤の濃度や結石の種類と大きさ1),患者の肥満度2)によって左右されることがあり,実施上の繁雑さとあいまって,必ずしも満足するものではない.

 術中胆道内視は古くから試みられ,胆道内対象を直視下に観察できる点でその有用性は認められている.とくに,胆道造影法と併用すると,遺残結石の発見や腫瘍による狭窄の確認・鑑別に役立つことはすでに述べられており2)3),筆者らもすでに報告した4).また,胆道炎のin vivoにおける診断は胆道内視が唯一の正確な方法である3).したがって,胆道結石などで胆道狭窄のある症例では,しばしば胆道粘膜の炎症性変化を伴なっていることが多いが,このことを認識して治療を行なうかどうかで胆石再発の可能性がちがってくる2)

 以上のように,胆道内視は,近年,その重要性が再認識されるようになってきた4)5)6).筆者らは1967年来,胆道ファイバースコープの開発を,胆・膵管内視鏡的診断法の一環として十二指腸ファイバースコープの開発7)8)とともに意図し,基礎的検討を重ねてきた.1969年5月,オリンパス光学工業株式会社において臨床応用可能な先端バローン式胆道ファイバースコープ(CHF)第4号機が試作され,その紹介と使用経験についてはすでに報告した4).今回は,現在までの基礎的研究および臨床応用から得たいくつかの問題点を中心に胆道内視を論じてみたい.

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 本号から3回にわたって,X線診断上,大腸癌と鑑別しなければならない疾患のX線像をおめにかけ,問題の所在について少々の解説を試みたいと思います.はじめは,膵尾部に発生した癌が左結腸曲に浸潤した症例です.

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 日本国厚生省 内田恒夫殿

 在日ソビエト大使館は,ソ連保健省が,モスクワの全ソ消化器病研究所およびレニングラードの腫瘍研究所において,研究のために日本国立がんセンター三輪剛博士を4月10日から6月15日までソ連に招待することをお伝えします.

在日ソビエト大使館

E.NEVEDROV

1970年3月27日

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 実は,先方より崎田部長宛に打診があって,崎田部長の指名により,私が招かれることになった次第である.

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はじめに

 食道のX線像で,造影剤と空気との織り成す二重造影像の美しさは,X線診断に携わる人なら誰もが以前より気付いていることと思うし,また古くからこのような像を撮影するべく,心掛けている人たちも多いと思われる.筆者らは食道外科に関連して,主として手術適応,手術術式決定の目的で,癌浸潤の上下界を明確にするという意味で,好んで二重造影を用いていたが,この4~5年来,食道においても早期癌が脚光を浴びるようになり,食道の小病変の診断,特にX線検査という,いわば診断の第一歩においてこれを拾いあげようとする意図からスクリーニングの段階で積極的に食道の二重造影を得るように心掛けている.

 筆者らの用いている方法は,①造影剤嚥下時に一緒にのみ込まれた空気が造影剤の通過後食道壁をおし拡げながら降下するところ,すなわち,自然にできる二重造影像をタイミング良く狙撃撮影する.②積極的に経鼻的に,チューブを食道内に挿入し,送気しながら造影する.③チューブまたは発泡剤を用いて胃を膨満せしめ,胃内空気の食道内逆流を利用する方法などであるが,以下,これらの方法につき,症例を供覧しつつ述べてみたい.

診断の手ほどき

胃切除残胃の癌 城所 仂
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症例

 41歳の男子で,19年前に十二指腸潰瘍の診断で胃切除術ビルロートⅠ法が行なわれている.1年前から下血,心窩部痛があり,検査の結果,入院手術を施行した.

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欧文目次

編集後記 村上 忠重
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 本号は「胃を除く消化器の早期癌」をテーマにした.大腸を第2部としたので,食道,胆道系,膵の早期胃癌が第1部の論題ということになる.このテーマは実は今年の3月大阪で開かれた消化器病学会のパネルディスカッションのテーマそのものなのであるが,その司会を会長増田教授からおおせつかった時にはいささか躊躇した.はたしてそのようなパネルが可能なのかと怪しんだからである.しかし,学会は時代の研究の傾向を見きわめ,時には,その最先端に立ってその研究を助長し,脚光を浴びさせるという,一つの役目を荷っている.そこで,勇気を出して司会をお引き受けした.しかし,そのテーマを現実に引き受けて講演をしていただく方はもっと勇気がいるであろうと思い,一新法を考え出した.それは食道は食道研究会,膵臓は膵臓研究会といったように,それぞれの臓器の研究団体ないしは学会に依頼して,その研究会や学会より演者を推薦してもらう.そして早期癌の例数の少ない場合は,それぞれの会で症例を持ちよって検討の資としてもらうということであった.

基本情報

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胃と腸
5巻10号 (1970年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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