胃と腸 49巻4号 (2014年4月)

今月の主題 虫垂病変のすべて―非腫瘍から腫瘍まで

序説

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 本誌において虫垂病変の特集が組まれたのは,25巻10号(1990年)「虫垂腫瘤」以来,実に24年ぶりのことである.他の消化管疾患と同様に,病変そのものを内視鏡やバリウムX線造影検査で直接確認できれば診断は容易であろうが,虫垂病変は病変が盲腸の管腔面に顔を出すことなく経過するものが多いため,間接所見に頼った診断を行わねばならず,確定診断が難しい.他誌を含め,虫垂疾患のみの特集が少ない理由のひとつと思われる.しかし,腸管の表面観察だけの内視鏡や注腸X線造影検査に加え,腸管壁の断層像が得られる超音波,CT,MRI,さらにはPET(positron emission tomography)検査などを行えば,その診断能の向上が期待できる.

 病理組織学的に,虫垂の炎症性病変には急性虫垂炎,急性虫垂炎以外の虫垂炎〔結核性虫垂炎,Crohn病,サルコイドーシス,潰瘍性大腸炎,放線菌症(actinomycosis),エルシニア感染症,住血吸虫症,蟯虫感染症,腸管スピロヘータ症,ウイルス性虫垂炎など〕が存在し1)2),腫瘤性病変は上皮性腫瘤,間葉系腫瘤,リンパ腫,二次性腫瘤に分類され,上皮性腫瘤には腺腫,鋸歯状病変,癌,神経内分泌腫瘍,杯細胞カルチノイドなどが,間葉系腫瘤には平滑筋腫,脂肪腫,神経腫,カポジ肉腫,平滑筋肉腫が存在する(Table 1)3)

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要旨 虫垂の非腫瘍性疾患・病変について概説した.本稿で取り扱った項目は,虫垂の正常解剖と組織像,虫垂重積症,虫垂粘液囊腫,急性虫垂炎(単純性,蜂窩織炎性,壊死性,穿孔性),虫垂周囲炎,虫垂周囲膿瘍,結核性虫垂炎,虫垂Crohn病,潰瘍性大腸炎の虫垂病変,肉芽腫性虫垂炎,虫垂憩室炎,放線菌症,エルシニア虫垂炎,および虫垂子宮内膜症である.虫垂腫瘍性病変の正確な診断のためには,虫垂の正常像はもちろんのこと,虫垂の非腫瘍性疾患にも精通しておくことが肝要である.

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要旨 切除虫垂916例のうち,粘液瘤を形成した44例(単純上皮過形成13例,粘液囊胞腺腫28例,粘液囊胞腺癌3例)を用いて,それらの病理形態像を解析した.いずれの組織型も虫垂壁内に種々の程度に粘液塊が侵入していたが,前二者では上皮増殖巣は粘液塊の内部に認められず,びらんを欠く囊状拡張部と非拡張部の内面に認められた.他方,粘液囊胞腺癌では粘液塊の内部に分化型腺癌組織が認められ,粘液癌と同様の組織像を呈していた.以上の所見を踏まえたうえで,適切な切り出しと丹念な組織学的検索を遂行することが肝要と考えられた.

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要旨 虫垂杯細胞カルチノイドと診断した11手術例を対象として,臨床病理学的特徴の検索を行い,本腫瘍の生物学的態度,すなわち悪性度について再考した.その結果,(1) 組織学的に粘液産生細胞,好銀性細胞,銀還元性細胞,Paneth細胞などの多彩な成熟細胞から構成される腫瘍である,(2) 全例に神経周囲浸潤を認め,リンパ管,静脈への脈管侵襲も高度である,(3) 手術の時点で回腸,盲腸への浸潤が7例にみられ,全例にリンパ節転移を伴う,(4) 腹膜播種の傾向がある,(5) 11例中3例が術後2年以内に原病死している,ことが明らかとなった.これらを根拠に,本腫瘍は通常の腺癌と同様に十分な悪性性格を有することを強調した.粘液形質の免疫組織学的検索にて,11例中6例が腸型(MUC2のみ陽性),1例のみが胃腸混合型(MUC2,MUC5AC両陽性)であった.また,ミスマッチ修復遺伝子蛋白の発現も検討したが,全例において発現の低下は認められず,組織発生において,これらの欠損や機能異常の関連が低いことが示唆された.

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要旨 虫垂には他の大腸と同様にさまざまな疾患がみられるが,虫垂粘液囊腫のような特異的な病変も存在する.虫垂は極めて狭い管腔臓器であり,病変を注腸X線造影検査,大腸内視鏡検査で観察することは難しい.また,病変の存在によって虫垂炎を来し,虫垂切除後に,病理診断がなされることが多い.診断に際しては,切除歴がないにもかかわらず,注腸X線造影検査で虫垂が描出されないことを異常としてとらえることが重要である.病変を直接観察できない場合は,圧排,変形,伸展不良,粘膜下腫瘍様所見などの間接的所見を読影する必要がある.また,腫瘤性病変の診断において,さまざまな程度に合併する虫垂重積症の所見を理解することも大切である.

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要旨 虫垂の体外式超音波(以下,US)診断について概説した.虫垂の確実な描出がUS診断の第一歩であるが,そのためには,上行結腸―回盲弁―虫垂開口部の順に同定を進める系統的走査が必須である.急性虫垂炎は虫垂の腫大,層構造の改変,同部直上での最大圧痛,さらには虫垂間膜や回盲部の浮腫などにより,その重症度も含めて診断可能である.急性虫垂炎に類似した病態であり,一般的に鑑別が困難とされる虫垂憩室炎もその特徴的なUS像から診断は容易である.一方,腫瘍性疾患においては,多くの場合穿孔などの合併症の出現が受診契機であることから,US施行時に必ずしも典型的な画像を呈しているとは限らないため注意を要する.基本的には他の消化管における腫瘍性疾患のUS像と同様の画像を呈するが,虫垂粘液囊腫は開口部が狭く盲端に終わる虫垂の特性上,内腔にほぼ無エコーな粘液が貯留して全体に囊胞状の形態を呈する点で特徴的である.また,造影USは壊疽性虫垂炎の確定診断や虫垂粘液囊腫における充実成分と粘液の鑑別などに非常に有用である.炎症,腫瘍いずれの病態においても虫垂の層構造を含めた詳細な評価が可能であるUSは,その形態学的診断上第一選択に位置付けられるべき検査法である.

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要旨 日常臨床で遭遇する虫垂疾患の大半は急性虫垂炎であるが,虫垂にはその他にもさまざまな炎症性病変や腫瘍性病変などが認められる.CT検査は迅速で,特別な前処置を必要としないため,救急疾患の診断に適しており,急性虫垂炎をはじめとする右下腹部痛を呈する疾患への適応も広い.また,MDCTのthin slice画像は高い空間分解能を有し,詳細な病的所見に加えて正常虫垂が認識可能であるため,さまざまな虫垂病変の診断やその否定,あるいは虫垂病変と紛らわしい病変との鑑別診断において極めて重要な役割を担う.本稿では,虫垂の炎症性病変として,急性虫垂炎,虫垂憩室症・虫垂憩室炎,Crohn病,また腫瘍性病変として,虫垂粘液腫,虫垂カルチノイド,虫垂癌を取り上げ,代表的な画像を紹介して画像診断のポイントを概説した.

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要旨 大腸癌研究会の全国登録(JSCCR登録,1974~2004年)および日本病理学会の病理剖検輯報(JAAD,2000~2009年)からみたわが国の虫垂悪性腫瘍の統計データを概観した.虫垂悪性腫瘍罹患率は,JSCCR登録の大腸癌手術例においては0.2%,JAADの剖検例においては0.08%であった.JSCCR登録の全345例虫垂悪性腫瘍の大腸癌に占める発生割合は経年的に増加する傾向がみられ,診断時年齢は,男女ともに60歳代にピークがあった.組織型は分化型腺癌>粘液癌>印環細胞癌・低分化腺癌>カルチノイドの順に多く,カルチノイドの割合が高い米国のデータベース(SEER)とは組織型の分布が乖離していた.虫垂悪性腫瘍の5年生存率は59.3%で,総じて結腸癌・直腸癌よりも低率であり,特にStage IIIは予後不良であったが,組織型別にSEERと比較すると,粘液癌と分化型腺癌の予後は良好であった.

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要旨 急性虫垂炎の診断には理学所見が重視され,緊急開腹手術が標準治療であった.しかし,画像診断技術の進歩,抗菌薬の開発,腹腔鏡下手術の普及により治療方針が多様化している.特に,非穿孔性虫垂炎に対しては保存的治療が選択される機会が増加し,delayed appendectomyやinterval appendectomyなど,緊急手術以外での手術治療も行われている.また,妊婦,高齢者では身体所見からの診断は困難であることが多く,画像診断を適切に用いて穿孔性腹膜炎となる前に手術を行うことが重要である.

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要旨 虫垂癌の特徴を明らかにすべく,当科で経験した虫垂癌を臨床病理学的に検討し,文献的考察を加えた.虫垂癌13例を盲腸癌138例と比較したところ,虫垂癌の特徴は,年齢が若い(62.7歳),分化型癌の頻度が低い(15%),Stage IVの割合が高い(38%),腹膜転移の割合が高い(38%),非治癒となる手術の頻度が高い(38%),であった.虫垂癌の術前正診率はいまだに14~22%と低く,急性虫垂炎の手術を行う際は,虫垂癌の可能性を患者や家族に説明しておく必要がある.虫垂切除後に癌が判明した場合には追加の結腸右半切除が推奨されているが,リンパ節転移が見つかる症例は多くない.追加手術の適応検討や化学療法の確立が今後の課題である.

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要旨 腹膜偽粘液腫はまれな疾患で,典型的には低異型度虫垂粘液癌が穿孔し,腹腔内に多量の粘液が貯留する.血行性・リンパ行性転移を来すことはまれだが,放置すると次第に進行し,致死的となる.病理学的にも臨床的にもlow-gradeとhigh-gradeに分類されることが多いが,その生物学的悪性度は広い幅を有する.虫垂粘液腫瘤の非穿破例においては,診断と治療を兼ねた早期の切除が望まれる.腹膜偽粘液腫に対しては,腹膜切除を伴う完全減量切除と術中腹腔内温熱化学療法の組み合わせが,今や標準治療として確立している.わが国においても今後,センター化による症例の蓄積を図ることにより,病態のさらなる解明と治療成績の向上が望まれる.

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要旨 患者は63歳,女性.大腸がん検診で便潜血検査陽性を指摘され,当センターを受診した.大腸内視鏡検査で挿入困難であったため,同日注腸X線造影検査を行ったところ,短縮した虫垂内にイモ虫状で細長い,大きさ約2cmの隆起性病変を認めた.再検査の大腸内視鏡検査では,虫垂入口部には異常所見を認めなかったが,生検鉗子を用いて入口部を広げると,発赤した表面平滑な隆起性病変が蠕動に伴って虫垂口から盲腸に脱出する様子が観察された.超音波内視鏡および造影CT検査を行ったが質的診断には至らず,虫垂原発の粘膜下腫瘍と診断し,右下腹部の慢性的な鈍痛の原因になりうることや悪性も完全には否定できないことから,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.病理組織学的検討から,虫垂体部に発生した子宮内膜症が虫垂重積を来し,それによってポリープ状の粘膜下腫瘍様病変が形成されたものと診断した.

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要旨 患者は80歳代,女性.検診2次検査で大腸内視鏡検査を受け,下部直腸に30×22mmの0-Is+IIa型病変を指摘された.0-Is型領域は結節集簇様病変で,NBI拡大内視鏡観察にて,広島分類C1・佐野分類IIIA,pit pattern診断では,IV型pitを基調としたVI型軽度不整pit patternであった.0-Is型隆起周囲には,絨毛状構造を呈する0-IIa型領域と血管透見が保たれている丈の低い0-IIa型領域が拡がっていた.丈の低い0-IIa型領域の表面構造は,マスクメロン様の網目状を呈する特異な形態で,不整腺管構造としてVI型pit patternと判断した.腺腫内癌と診断し,Hybrid-ESD法で網目状0-IIa型領域も含めて一括切除を行った.病理組織診断は,0-Is型,0-IIa型領域ともに,異型度の異なる細胞が,領域性を持たずに不規則に混在しながら,乳頭状ないし絨毛状構造を呈しており,全体として粘膜内に限局した乳頭腺癌(pap>tub1)と診断した.組織学的に網目状0-IIa型領域は,乳頭腺癌がまばらな腺管の表層を置換性に発育した,0-Is型隆起から側方に進展した病変であると考えられた.

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要旨 患者は65歳,女性.2007年に潰瘍性大腸炎(UC)を発症した.下痢や血便などの症状が増悪したため,2011年10月中旬に入院となった.薬物治療抵抗性であったため,11月下旬に結腸亜全摘術+回腸人工肛門造設術を施行した.術後,プレドニゾロン(PSL)の中止に伴って,気管支・肺病変を発症したが,PSLで軽快した.しかし,PSLの中止に伴い,新たに胃・十二指腸病変と回腸囊炎を合併した.PSLの投与により,気管支・肺病変と胃・十二指腸病変は寛解したが,回腸囊炎は改善しなかった.今回,UCの術後に複数の合併症を発症したまれな症例を経験したので報告する.

追悼

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 城所仂先生(元・順天堂大学教授)が平成25(2013)年10月28日,享年92歳で逝去された.まず先生の御冥福を心よりお祈り申し上げる.

 城所先生は福島県で御出生,茨城県日立中学,旧制水戸高校を経て,昭和15(1940)年4月東京帝國大学医学部入学,第二次世界大戦最中の昭和18(1943)年9月卒業,東大分院外科(科長 福田保助教授)の教室に御入局,直ちに海軍軍医を志願,軍医中尉としてインド洋方面警備隊に御赴任,終戦になり,シンガポール沖の無人島に収容され,食料不足で自給の苦しい生活を送られた由である.

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「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

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編集後記 二村 聡
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 今回,虫垂疾患の特集を鶴田修,松田圭二,江頭由太郎の3氏と筆者の4名で企画しました.鶴田氏による序説に明記されているように,25巻10号(1990年)以来の二度目の特集です.実地診療に直ちに役立つ内容にしていただきたい旨を各執筆者にお願いしました.原著形式4編,総説形式6編,主題症例1編から成る本号を読者諸兄諸姉にお届けします.興味のあるテーマからご自由にお読みください.皆さまからの御批正を乞う次第です.

 虫垂疾患の診療にはまず,疾病統計の把握が肝要です.急性虫垂炎がダントツで,それ以外の疾患の発生頻度が極めて低いことは誰もが予測できますが,具体的な数値はどれくらいでしょうか.そこで小澤氏らによる虫垂癌の臨床統計に注目してください.大腸癌研究会登録データから0.2%,日本病理学会登録データから0.08%という罹患率が算出され,あらためて虫垂癌が稀少であること,加えて組織型は分化型腺癌が最多で,これに粘液癌や印環細胞癌,低分化腺癌,カルチノイド腫瘍が続くことが判明し,カルチノイド腫瘍の占める割合が高い米国との相違点も明らかになりました.

次号予告

基本情報

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胃と腸
49巻4号 (2014年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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