胃と腸 46巻2号 (2011年2月)

今月の主題 NSAID起因性小腸病変

序説

NSAID起因性小腸病変 飯田 三雄
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 近年の高齢化社会を反映し,整形外科領域では変形性関節症や腰背部痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs)を投与する機会が増加している.また,循環器・脳血管領域では血栓予防の目的で低用量アスピリンの使用が急速に拡大しつつある.このような背景から,最近,低用量アスピリンを含むNSAIDsの副作用として,しばしば消化管粘膜傷害が発生し臨床上問題となることが多く,その対策が急務となっている.

 NSAID起因性消化管病変のうち,上部消化管病変については従来から多くの基礎的研究や臨床的研究がなされており,2007年に改訂された「EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン」にもNSAID潰瘍に対する治療指針が示されている.一方,下部消化管病変については,アプローチの困難さもあり,比較的最近になって検討が行われるようになった.すなわち,大腸内視鏡検査の普及とともに,まず大腸病変の臨床像が明らかとなり,さらに近年の小腸内視鏡検査の進歩によって小腸病変についても多くの知見が集積されてきた.本誌「胃と腸」の特集では,NSAID起因性消化管病変が2000年(35巻9号「薬剤性腸炎─最近の話題」)と2007年(42巻12号「非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)起因性消化管病変」)の2回取り上げられている.本号ではNSAID起因性小腸病変のみに焦点を絞って,最新の知見が述べられる予定である.

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要旨 小腸内視鏡の進歩は,非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)により,胃のみならず小腸に多彩な病変が高頻度に起こることを明らかにした.特に通常型NSAIDでは2週間で50%を超える服用者に小腸粘膜障害が現れる.NSAID起因性小腸粘膜傷害には粘膜障害と絨毛欠損という異なる2種類の形態があり,小腸粘膜傷害の起因には複数の因子が関与している.NSAID起因性胃粘膜傷害に対して予防法・治療法が確立したため,NSAID服用者の下部消化管傷害に対する対応の確立が急務となっている.本邦を中心として,NSAID起因性小腸粘膜傷害に対する予防薬・治療薬の候補を探すため二重盲検無作為化比較試験を含む複数の試験が小規模ながら行われた.今後は見込みのある薬に対して,より大規模な臨床試験が望まれる.

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要旨 NSAID起因性小腸病変24例の生検材料を用いて臨床病理学的検討を行った.組織学的には全例で軽度~中等度以下の非特異性炎症を示し,その細胞浸潤形態は巣状であった.またうっ血・浮腫16例(66.7%),リンパ管拡張13例(54.2%),上皮の幼若化14例(58.3%)の所見が比較的高頻度であり,NSAID起因性消化管病変のうち小腸のみに認められる所見としては偽幽門腺化生を2例(8.3%)に認めた.アポトーシス小体については13例(54.2%)にみられたが合計切片上の出現個数は2個以下と少ないものが9例(69.2%)と多く,この組織所見のみからの確定診断は困難と思われた.NSAID起因性小腸病変の組織診断に際しては他の炎症性疾患の除外が重要であり,より明確な診断のためには多くの鑑別疾患の把握と詳細な臨床情報を加味することが肝要と考えられた.

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要旨 小腸X線検査を施行した非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)起因性小腸潰瘍21例を対象とし,内視鏡所見別にみたX線描出率とX線所見を検討した.高度狭窄病変がみられた4例全例において,X線検査で短い両側性ないし偏側性狭窄が描出された.輪状潰瘍陽性12例中9例(75%)では両側性の管腔狭小化,あるいは線状のバリウム斑がみられ,斜走・縦走潰瘍3例中2例(67%)で偏側性変形ないし線状バリウム斑が描出された.一方,小病変がみられた13例中5例(38%)ではX線で透亮像を伴うバリウム斑が認められた.X線描出15例と非描出6例で臨床像,検査成績,投与NSAIDsに差はなかった.以上より,X線検査を用いることでNSAID起因性小腸潰瘍の粗大病変は診断可能であるが,小病変診断のためには内視鏡検査を優先させるべきと考えた.

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要旨 カプセル内視鏡検査,バルーン内視鏡検査の普及とNSAID(nonsteroidal anti-inflammatory drug)が長期使用されるケースが増加していることによりNSAID起因性小腸病変が問題となっている.当科で経験したNSAID起因性小腸病変19例では病変存在部位は回腸が17例と最も多くみられた.鑑別すべき疾患としてCrohn病,感染性腸炎,非特異性多発性小腸潰瘍症などが挙げられる.NSAIDの使用中止が望ましいが実際には困難なことも多く,診断,治療が困難なことも多い.

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要旨 カプセル内視鏡の登場によりNSAID起因性小腸病変の臨床像が明らかにされつつある.NSAIDは内服期間の長短にかかわらず高率に小腸粘膜病変を引き起こす.COX-2選択的阻害薬は短期的には小腸病変の発症を軽減するが,長期的には非選択的NSAIDと同等のリスクがあるという報告もあり,NSAID起因性小腸病変の予防・治療薬が望まれている.近年レバミピドやミソプロストールなどがNSAID起因性小腸病変に対して有用であると報告されているが,少数例でもあり今後さらなる症例検討が必要である.またカプセル内視鏡にて多数の小腸病変を認めるも臨床的に無症状例も多く,治療適応や長期予後など今後の検討課題は多い.

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要旨 カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡(DBE)が開発されて以降,小腸へのアクセスが容易となり,NSAIDsによる小腸傷害への関心が高まっている.それとともに,従来の認識より,高頻度に小腸傷害が発生することがわかってきている.病変は多彩であり,びらんや様々な形態の潰瘍を生じ出血することもある.NSAIDsの内服を中止することで,速やかに治癒することが多いが,それ以外の治療法や予防法は確立されていない.NSAIDs起因性の小腸膜様狭窄を生じた場合,従来は外科的手術が行われていたが,DBEによるバルーン拡張術により有効かつ安全な治療が可能となった.

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 〔患 者〕 70歳代,男性.

 〔既往歴〕 3年前に進行直腸癌に対し根治手術が施行された.

 〔生活歴〕 喫煙歴はなく,4年前から禁酒していた.

 〔現病歴〕 スクリーニング目的の上部消化管内視鏡検査で食道隆起性病変を発見された.理学所見および血液検査に異常所見は認めなかった.

胃と腸 図譜

直腸GIST 松田 圭二 , 渡邉 聡明
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1 概念,病態

 GIST(gastrointestinal stromal tumor)は,筋層内にあるCajal介在細胞が増殖し,腫瘍となったもので,腫瘍細胞の細胞膜にあるKIT,またはPDGF-Rαという蛋白の異常が主な原因と考えられている.GISTの発症頻度は人口100万人当たり20人/年と推測されており,大腸GISTは消化管GIST全体の4~10%とまれである.発症年齢は55~60歳で男性に多く,初発症状として血便,肛門痛,排便困難などがあるが,症状のないものもある.直腸の中では下部直腸に多くみられる.他のGIST同様,転移は肝臓や腹膜播種がメインで,リンパ節転移はまれである1)

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はじめに

 病理診断に際してわれわれは様々な目的で特殊染色を施行する.診断と治療に直結するものから,研究目的に過ぎないのではないかと揶揄されるものまで種々の染色が行われている.消化管病理の形態学を行う身として,少なくとも個人的には,画像の裏にあるマクロ病理,マクロの裏にあるHE切片,そしてそのような病態を説明するための特殊染色や遺伝子解析を行うことにより,マクロを見る目,HE切片を見る目を深めることができるのではないかと思っている.本稿では,食道と胃の病理診断にしばしば用いられている特殊染色のポイントについて紹介する.

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 論文中に責任病変,責任病変同定率,責任病変同定,責任病巣の用語が使用されています.貴誌においてははじめて登場する用語と思います.拝読しまして,いささか釈然としない点があります.つきましては,以下の事項に関しましてご説明いただけますと幸甚です.

早期胃癌研究会

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 2010年10月の早期胃癌研究会は10月20日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は赤松泰次(須坂病院内視鏡センター)と田中信治(広島大学内視鏡診療科),病理は味岡洋一(新潟大学分子診断病理学)が担当した.画像診断教育レクチャーは,小山恒男(佐久総合病院胃腸科)が「胃拡大内視鏡診断の基本─simple is best」と題して行った.

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 2010年のJDDWは10月13日(水)から16日(土)まで,パシフィコ横浜で開催されました.東京に勤務する私にとっては,片道1時間以内という大変ありがたい会場設定です.ただ,逆に近いがゆえに,診療や会議の合間に会場へ行き発表したり,ぜひ聴講したいセッションの途中で大学へ戻ったりという慌ただしい日々ともなりました.食道関係のポスターは初日から3日目まで,主題は3日目(と一部4日目)に集中していました.4日間のうち会場には会議などを含め3日間足を運べましたが,会場への出入りの激しさとも相俟って,あまり落ち着いて勉強することはできませんでした.

 ポスター発表はじっくりと見てもらえるため,最新の研究報告を行うのに適した機会ですが,同時にその優劣が比較的はっきりと出てしまいます.食道に関して言えば,第1日目が消化器病,第2日目が内視鏡,第3日目が消化器外科関連となっていました.効率よくポスターを見ることができるよう配慮されていましたが,残念ながら短時間では十分な理解ができませんでした.欧米の学会におけるポスターに比べると,研究の背景から結論(まとめ)までの流れがわかりにくいものが少なくない印象でした.JDDWに限らずわが国におけるポスター発表は,その意義と重要性がまだ十分には理解されていないようで,内容はともかくポスターそのものの出来も余りよくないものがみられました.いつものことながら,自戒を込めて,ポスター発表を大切にしなければと思います.

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 パシフィコ横浜で開催されたJDDW 2010.次月にAPECの開催が予定されており,多くの警察官,パトカーに見守られての学会であった.

 筆者の勤務地は横浜市の外れであり,会場まで電車で30分程度である.遠方の学会は遠方であるがゆえに参加しにくく,近隣の学会は,準備不足で参加できなかったりするのだが,今回はこの学会印象記執筆を言い訳に同僚に無理を強い,会期中フル参加を果たした.

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 JDDW(Japan Digestive Disease Week)2010は,10月13日(水)から16日(土)までの4日間,消化器疾患関連の6学会が合同で主催する会議として,日本を代表するコンベンションセンターの1つであるパシフィコ横浜の地で開催された.ご存じのようにパシフィコは,港横浜を象徴するランドマークとして国際的にもよく知られ,各会場を移動する度に眺望される海の景色は大変美しく,熱心な討議が続くセッションに,ややもするとぐったりと疲れ気味となる出席者の心を癒しリフレッシュさせてくれていた.横浜の街はいつ来てもどこか心地よい開放感を感じさせてくれるが,今回は11月に同地で開催されるAPEC JAPAN 2010に備え,全国から動員された防弾チョッキ着用の警察官が学会場の出入り口や周辺街角のあちこちに立って,テロ対策の警備活動を行っていたのが,いつもとは異なる緊張感を学会にもたらしていたように思われた.

 まず,学会初日の13日は午前中に,自分自身が下部消化管内視鏡医として日頃から検診業務にも関与していることから,樋渡信夫会長が主催された日本消化器がん検診学会の宿題講演と会長講演を拝聴させていただいた.西田博先生の宿題講演「便潜血検査を用いた大腸がん検診の費用便益分析」は,本邦の経済状況も年々厳しさを増すなか,検診の精度と医療経済学的な効率の両立という難問に真正面から取り組まれた充実の講演であった.樋渡会長の会長講演「大腸がん検診─歩んできた道,そしてこれから」は,ご自身のルーツの1つでもあり,日本のがん検診の草分けとなった宮城県対がん協会(初代会長黒川利雄先生)のお話に始まり,会長が深くかかわってこられた大腸癌検診の歴史とこれからについて講演された.2007年に「がん対策推進基本計画」が策定されたのも,これまでがん検診学に尽力された諸先生のご努力の賜物と痛感させられた.昨今,メタボリックシンドロームを中心とする特定機能検診の開始に伴って,大腸がん検診の受診率が低下している自治体も多いと聞いており,大腸内視鏡に伴う患者の負担感の緩和や広報活動などを通じた受診率の改善が急務と思われる.

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欧文目次

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 日比紀文先生編集による本書『炎症性腸疾患』は厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」(以下,班研究)の2002年から2007年までの研究成果の集大成である.同様の成書は1999年,11年前に,当時班研究の班長を勤められた武藤徹一郎先生がまとめられ,私もそのお手伝いをした経緯があり,今回の書評を仰せつかったものと思う.

 班研究の業績は毎年まとめられ,コンセンサスが得られた診断・治療方針などその年の業績集に記載されている.しかし,業績集は班員には配布されるものの一般の医師の目に触れる機会は少ない.また,その一部が専門誌で解説されることはあるが業績の全体に目を通す機会はない.消化器専門医は診療や学会の研究発表を正確に理解するために班研究で決められたことを理解しておく必要がある.

第17回「白壁賞」論文募集
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 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

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 元来アトラスは地図帳であったようだが,いつのまにか図譜を指す.だから多くの図が必要であり,そのために長い年月か多数の協力者,またはその両方を必要とする.本書は内視鏡に青春をかけて,今や重鎮とも言うべき3名の編者を得て,多数の執筆陣からなる豪華な出来栄えになっている.

 しかし,先にひとつ苦言を加えれば,「下血」の表現である.下血は上部消化管出血のメレナの邦語訳である.タール便ともいう.であるから,大腸には有り得ないはずであるのに,堂々と登場するのは困ったものである.指導者が,また本書のような指導書が,誤った用語を表記すると,誤りを伝播することになり,その責任は重い.忙しい編者が提出された文章をすべて点検することは無理かもしれない.が,一点の誤りが命取りになりかねないことから,誠に惜しい失点になってしまっている.別に目くじら立てなくたって…という意見もある.みんなで使えば怖くない…とも言われる.しかし,用語というものはすべて定義があることを忘れてはならないし,仮に翻訳して世界に出すときに,恥をかかないようにしてもらいたいものである.英語で出版しても,充分評価されうる内容であるだけに遺憾としか言いようがない.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 松井 敏幸
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 NSAIDs(nonsteroidal anti-inflammatory drugs)は使用量が増加し,低用量アスピリンを含めるとわが国で数百万人が服用していると思われる.ちなみに脳疾患や循環器疾患に対する抗血小板薬は600万人以上が(多くは継続的に)服薬していると推定されている.このような状況から,NSAIDによる消化管傷害のうち消化性(胃・十二指腸)潰瘍では病因の主役になりつつある.また,下部消化管疾患に対するNSAIDsの影響も明らかになりつつある.その中で小腸病変がどの程度生じ,どの程度臨床症状を呈するか,あるいはその傷害を臨床的にどの程度診断できるかは大変興味ある話題である.

 近年,カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡(double balloon enteroscopy ; DBE)検査により小腸病変を的確に診断する技術が開発され,その病態が臨床的に解明されつつある.臨床的にはOGIB(obscure gastrointestinal bleeding)として発症し,その診断過程で原因にたどり着くことが多い.NSAID起因性腸炎の診断基準も確立してはないが,多くは原因薬剤の排除により治癒過程を辿る.また,小腸病変は意外にも多彩な形態を呈し,なかには非特異的な像のみからなる場合もあり,必ずしも特異的な変化を来すものばかりではないようである.その詳細が本号で解析されることが期待される.

次号予告

基本情報

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胃と腸
46巻2号 (2011年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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