胃と腸 45巻2号 (2010年2月)

今月の主題 中・下咽頭表在癌の診断と治療

序説

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はじめに

 中・下咽頭癌について「胃と腸」で取り上げられたのは,40巻9号(2005年)の「表在性の中・下咽頭癌」以来,2回目となる.近年,中・下咽頭表在癌の臨床例も増加し,頭頸部表在癌研究会の検討も加わって,その病態・診断・治療の各領域の進歩には著しいものがある.今回,特集「中・下咽頭表在癌の診断と治療」が組まれたことは,誠にタイムリーと言える.読者が上部消化管内視鏡検査を施行する際,中・下咽頭に注意していただく意味でも,その意義は大きい.最近,この領域は消化器関係の学会でもトピックスとして主題に取り上げられている.本特集ではこの分野の最高の執筆者がそろっているので,読みごたえのあるものになると確信している.

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要旨 アルコール依存症患者の口腔咽喉癌の症例対照研究を行った.内視鏡による口腔咽喉観察と食道ヨード染色を併用した5,210例の初回内視鏡検診から診断された55例の口腔咽喉癌〔43例は中・下咽頭癌(EP14例,SEP19例,より深い浸潤10例),13例は舌・口底・歯肉・声帯の癌(1例は中・下咽頭癌と重複)〕を対象症例とした.年齢と初回検診時期を1対5でマッチさせた275例を対照とした.中・下咽頭癌の危険因子は食道癌と類似し,ALDH2へテロ欠損型の非常に強い影響(odds比6.66)と,ADH1Bホモ低活性型(odds比3.15),フラッシャー(odds比2.71),赤血球MCVの増大(odds比3.60),高度の喫煙(odds比2.08)の影響がみられた.口腔咽喉癌全体でも類似のリスクを示したが,舌・口底・歯肉・声帯の癌でこれらの因子の影響は明らかでなかった.

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要旨 中・下咽頭領域においても,癌進展が上皮下層までにとどまる表在癌の症例が蓄積されつつある.中・下咽頭表在癌の肉眼型は0-IIa型あるいは0-IIb型をとることが多く,陥凹型は少数である.0-I型あるいは進行癌に類似する明らかな厚みを持った病変は1,000μmを超える深い上皮下浸潤を示し,脈管侵襲を伴うものが多い.0-IIa病変には上皮下浸潤を伴うものが約20%にみられる.上皮下浸潤を示す0-IIa病変は,隆起の表面に陥凹を伴う0-IIa+IIcの形をとるものが多い.また0-IIa病変のなかには咽頭扁桃の陰窩や付属腺の導管を足場にして進展・浸潤するものがある.自験0-IIb例中には上皮下浸潤癌はみられなかった.中・下咽頭領域の病理診断においては,“浸潤”の定義,浸潤距離の評価方法など,今後コンセンサスを形成すべき問題が残されている.

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要旨 自験中・下咽頭表在癌内視鏡治療例は63例84病変であり,全例男性,平均年齢68歳であった.63例中59例(93.7%)は食道癌の合併あるいは治療後,2例は頭頸部癌の治療後,1例は胃癌術後であり,癌の既往がなかったのは1例のみであった.多発病変が多く,同時性多発が15例(24%),異時性多発が9例(14%)であった.全例,上部消化管内視鏡検査で発見しており,最初の白色光観察で64病変(76%),NBI観察で13病変(16%),通常・NBIでは不明で,別病変治療時のヨード染色による発見が7病変(8%)であった.ヨード染色による発見例は,大きさ3~12mm,86%が0-IIb病変であった.存在部位は,中咽頭15病変(18%),下咽頭69病変(82%)であり,右梨状陥凹の病変が最も多く25%を占めていた.病変の大きさは3~40mmであり,内視鏡病型は,0-I 5病変(6%),0-IIa 36病変(43%),0-IIa+IIc 4病変(5%),0-IIb 26病変(31%),0-IIc 11病変(13%),0-IIc+IIa 1病変(1%),2型類似1病変(1%)と,隆起性病変が半数を占めていた.上皮内癌が68病変(81%),上皮下浸潤癌が16病変(19%)であり,上皮下浸潤癌のうち上皮下に広く深く浸潤した0-I型2例と2型類似1例の計3例(19%)は脈管侵襲陽性であった.深達度別に内視鏡病型を考えると,平坦な0-IIb,表面に凹凸を伴わない0-IIa,周囲に盛り上がりを伴わない0-IIcは上皮内癌であり,丈が高く,基部の広い0-I,0-IIa+IIcなどの混合型,辺縁隆起や陥凹内隆起を伴う0-IIcは,上皮下浸潤癌の可能性が高いと言える.

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要旨 上部消化管内視鏡でスクリーニングを行う際に,中・下咽頭の表在癌の存在を念頭に置けば,その拾い上げ診断はさほど困難ではない.ただし食道で有力なヨード撒布は中・下咽頭では一律には行えないので,NBI観察の際のbrownish areaの拾い上げが重要なポイントとなる.NBI観察でbrownish areaを拾い上げたら,その病巣をNBI拡大で観察するが,血管パターンの評価においては食道で適用しているIPCLパターン分類を咽頭にもそのまま適用することができる.組織学的に咽頭は食道と異なり,粘膜筋板が不明瞭化している.しかし,NBI拡大内視鏡でよく観察される食道の樹枝状血管網は,咽頭でも同様に観察することができる.その樹枝状血管からIPCLは垂直に立ち上がってくる.そのIPCLの変化は組織の構造異型に相関する.このように咽頭病巣には基本的に食道での診断学を当てはめることができる.

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要旨 食道癌治療前後の咽喉頭スクリーニング目的に経鼻内視鏡を導入し,経鼻内視鏡発見例8例を含む, 21例24病変を観察した.大きさ別では5mm以下3病変,5~10mm 2病変,10~20mm 8病変,20mm~ 11病変であった.5mmを超える21病変中20病変(95%)は,“領域性”とFICE+近接観察での“dot状血管の密な増生”をもとに経鼻内視鏡でも存在診断が可能であったが,5mm以下の病変の拾い上げは困難であった.また内視鏡治療を行った17病変中13病変(76%)は,ヨードでの不染域と経鼻内視鏡による範囲診断がほぼ一致した.咽頭観察において, 患者負担が少なく,詳細な観察が可能な経鼻内視鏡検査は今後標準的な咽喉頭スクリーニング検査法となりうる.

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要旨 当院では2002年2月~2009年3月に173例246病変の頭頸部表在癌(声門癌除く)の治療を行った.上部消化管内視鏡を用いたEMRやESD,従来の直達鏡や開口器を用いた2-hand-operation,彎曲型喉頭鏡を用いたELPSなど,種々のアプローチによる治療を実施してきた.これらの治療では出血はもちろん,喉頭浮腫による呼吸困難に注意する必要がある.当院では喉頭浮腫発症が懸念される症例に対しては気管切開ではなく,overnightで気管内挿管管理を行い翌朝抜管している.このような症例を10例経験したが,抜管後に再挿管を必要とした症例はない.また頸部転移を伴う中・下咽頭表在癌例に対しては,まず局所切除を行い,病理学的に頸部リンパ節転移を伴っていても矛盾がないか癌深達度を検討する必要があると考えている.

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要旨 食道表在癌に対する内視鏡治療が普及してきたなか,field cancerizationの概念から頭頸部の観察も必要であるという意識が高まってきたことによって,中・下咽頭に表在性の癌を指摘できるようになってきた.これまでは,中・下咽頭領域の早期癌に対する治療は部分切除もしくは放射線療法が主体であったが,近年,機能を温存し局所治療を目的とした内視鏡治療が新しい治療法として注目されてきている.しかし,内視鏡治療を行った場合,手技による合併症対策や,リンパ節転移の危険因子,追加治療の要否など,今後検討しなくてはならない課題も多い.現在多施設において中・下咽頭表在癌に対する内視鏡治療が行われつつあり,症例の積み重ねによってこれらの問題が解決され,内視鏡治療がこの領域の治療選択の1つとして確立されることが期待される.

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要旨 39例43病変の中・下咽頭表在癌に対して内視鏡切除術を施行した.全例男性で,年齢中央値(範囲)は65(50~82)歳,治療手技はESD 35例,EMRC 4例,腫瘍長径中央値(範囲)は2(0.7~48)mm,切除径中央値(範囲)は15(9~59)mmであった.同時多発咽頭癌を4例に認めたが,いずれも近傍に存在していたため,全病変をESDにて一括切除した.肉眼型は0-I型1病変,0-IIa型17病変,0-IIb型25病変で0-IIc型や0-III型は認められなかった.EMR/ESDは挿管全身麻酔下に施行し,一括完全切除率はEMRC 75%,ESD 100%であった.1例に後出血を認め再挿管を要したが,他に重篤な偶発症はなかった.上皮内癌は86%(37/43),上皮下浸潤癌は14%(6/43)で,腫瘍径10mm未満の35病変は全例が上皮内癌であったが,腫瘍径10mm以上の8病変中6病変(75%)は上皮下浸潤癌であった.肉眼型では主肉眼型0-I型は全病変が,0-IIa型では24%(4/17)が上皮下浸潤していたが,0-IIb型の上皮下浸潤癌は1病変(4%)のみであった.また0-IIa型17病変のうち,IIa成分径が5mm未満の病変は全病変(12/12)が上皮内癌であったが,IIa成分径5mm以上では5病変中4病変(80%)が上皮下浸潤癌であった.したがって,上皮下浸潤の危険因子は腫瘍径10mm以上,肉眼型0-I,およびIIa成分径5mm以上の0-IIa型癌であった.咽頭は狭く,複雑な形態であるが,佐藤・大森式喉頭鏡と把持鉗子によるカウンタートラクションを利用することで,安全で効率のよいESDが可能であった.現時点で咽頭癌に対する内視鏡治療ガイドラインはないが,上皮下浸潤癌ではリンパ節転移の報告もあり,慎重な経過観察が必要である.

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要旨 2000年2月から2009年8月までに治療を行った中・下咽頭表在癌 168例265病変を対象とし,長期予後とリンパ節転移,遠隔転移のリスクを評価した.治療は内視鏡治療を224病変(ELPS 139,EMRC 85)に施行した.中・下咽頭表在癌のリンパ節転移,遠隔転移と考えられた症例は6例であった.肉眼型はType 0-I 4例,Type 0-IIa 1例,Type 0-III 1例,深逹度は全例SEP,5例が脈管侵襲陽性であった.現病死4例,他病死28例,overall で3年生存率80.2%,cause specificで3年生存率96.6%であった.中・下咽頭表在癌の現病予後は良好で,その予後はむしろ併存疾患や重複癌で規定されていた.リンパ節転移や遠隔転移のリスクファクターは肉眼型がType 0-IやType 0-III,脈管侵襲陽性の症例であった.

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はじめに

 悪性リンパ腫の分類は,分子生物学の進歩を反映した分類が提唱されている.これは,形態に加え,臨床像,免疫組織化学染色,染色体検査,遺伝子解析が加味され,発生分化および,分子生物学的観点から分類される.悪性リンパ腫は,B細胞性リンパ腫,T/NK細胞性リンパ腫,そしてHodgkinリンパ腫に3分され,さらに免疫不全関連リンパ増殖異常症,組織球・樹状細胞腫瘍が大項目として含められている.また,B細胞性リンパ腫,T/NK細胞性リンパ腫は,さらにそれぞれ前駆型(precursor)と成熟型(mature)に分けられている(Table 1)1).Table 1のように,子細な分類となった背景には,従来の形態診断のみでは,分類不能であったが,その後の免疫組織化学染色,染色体検査,遺伝子解析の進歩により,独立疾患として認識できるようになった疾患単位の出現がある.今回は,免疫組織化学染色を主体に診断までの流れを解説する.

 診断に当たっては,リンパ球・組織球・造血器腫瘍と他細胞系腫瘍のどこに起源があるかが重要になる.(1)リンパ球・組織球・造血器腫瘍と他細胞系腫瘍の鑑別,(2)リンパ球・組織球・造血器腫瘍の鑑別(次号掲載),(3)悪性リンパ腫の鑑別(次々号掲載),以上の流れで解説を行いたい.

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要旨 患者は48歳,男性.検診の胃X線検査で異常所見を指摘され,当科を紹介された.胃X線,内視鏡所見では,胃体下部大彎に立ち上がりのなだらかな隆起性病変を認めた.表面は平滑であり,頂部は発赤し,その一部に浅いびらんを呈していた.クッションサインは陽性で,軟らかい粘膜下腫瘍と考えられた.超音波内視鏡所見では,病変は第3層に主座を置く,粘膜下腫瘍として描出された.内部は単房性の無エコー域であり,また第2層から粘膜筋板を越えて第3層に存在する嚢胞に突出したやや低エコーな領域を認めた.治療として内視鏡的粘膜下層剥離術を実施した.病理組織学的に,単房性の胃hamartomatous inverted polypと診断された.

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欧文目次

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DBEの手技や実践が手に取るように理解できる解説書

 自治医科大学教授 山本博徳先生が『ダブルバルーン小腸内視鏡アトラス』を医学書院より出版した.今日の小腸診療の広がりを考えると待ち望まれていた1冊と言えよう.ほとんどの消化器内視鏡医は,山本先生のことをよくご存じで私が付け加える言葉はないが,それでも彼がダブルバルーン小腸内視鏡(double balloon enteroscopy ; DBE)の開発者であり,世界DBEコンセンサス会議をリードしてDBEという名称を世界的に定着させた第一人者であることは,あえて述べておく必要があろう.今日DBEは欧米でもプッシュ式小腸内視鏡に取って代わり,全小腸観察と処置が可能な内視鏡として定着している.この小腸内視鏡を世界に広め,今日の小腸診療を可能ならしめたパイオニアが山本博徳教授であり,彼が満を持して出版した本が『ダブルバルーン小腸内視鏡アトラス』と言えるだろう.したがって,本書は小腸診療をこれからめざす消化器内視鏡医にとってはなくてはならないものと言えるだろう.

 本書ではパイオニアならではの視点で,なぜプッシュ式小腸内視鏡では小腸深部挿入が困難であったかが解説され,そしてその考察の上に立ってDBEを開発した経緯が詳細に述べられている.さらにこれからDBEを始めようとする内視鏡医にとっては,豊富な図によって挿入法が解説されており,読んでいるうちに誰でもできる気持ちにさせてくれる点が実によい.通常の内視鏡,特に大腸内視鏡の挿入手引書を読んでも山本博徳先生のDBEの挿入解説ほどには明瞭ではなく,結局大腸内視鏡は経験しないとわからない部分が大半であるが,本書に解説されたDBEに至っては,読めば誰でも頭で理解でき,明日から実践が可能と思わせてくれる.

編集後記 大倉 康男
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 内視鏡機器の進歩により,上部消化管の対象領域は消化管を逸脱し,中・下咽頭の表在癌に目が向けられつつある.本誌では2005年の第40巻9号に「表在性の中・下咽頭癌」として初めて取り上げられている.同号のタイトルが表在癌とされていないところにこの領域の大きな問題点があった.編集後記で小山恒男が“咽頭にも早期癌があるはずだ.幻の咽頭早期癌発見へ向け,内視鏡医の挑戦が始まった”と書いているが,その熱意が実を結びつつあることを本号では十分に読み取ることができる.その結果,本号ではタイトルに表在癌と明記されたのである.より多くの症例数に基づいた最新の診断と治療が取り上げられており,この領域に関心のある先生方には有用な1冊である.

 本号では,第40巻9号の基本的な事項を踏まえたうえで,門馬ら,井上らが内視鏡診断の具体的なところを解説している.また,川田らはスクリーニングにおける経鼻内視鏡の有用性を示している.一方,治療については,耳鼻咽喉科の立場からの治療方針を渡邉らが多数例をもとにして述べている.内視鏡治療の具体的な手技については,土田らがEMR(endoscopic mucosal resection)を,小山らがESD(endoscopic submucosal dissection)を,さらには彎曲型喉頭鏡を用いた良好な視野で行うELPS(endoscopic laryngo pharyngeal surgery)を川久保らが解説している.いずれも臨床の場で役立つ論文である.

基本情報

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胃と腸
45巻2号 (2010年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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