胃と腸 45巻10号 (2010年9月)

今月の主題 Crohn病小腸病変に対する診断と治療の進歩

序説

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はじめに

 Crohn病(Crohn's disease ; CD)の診断と治療は近年大きく変化した.診断面では,従来のX線検査診断に加え,内視鏡診断が著しく進歩した.2000年以降,カプセル内視鏡(capsule endoscopy ; CE)とバルーン内視鏡が臨床で広く用いられるようになり,小腸疾患の診断と治療は大きく変貌を遂げた1)2).その結果,CDにおける小腸の典型病変や微小病変の内視鏡診断も可能となった.また,治療面では生物学的製剤や免疫調節薬の投与が一般的となったため,腸病変の治癒も実感されることが多い.

 しかし,CDの病変のうち,小腸病変は相変わらず診断が容易でない.内視鏡検査は進歩したが,しばしば遭遇する小腸狭窄が十分な検査を妨げることが多い.そのため,CDの小腸病変に関する治癒の実態はほとんど報告がない.

 例えば,インフリキシマブはCDの腸管病変に対して高い治癒効果を有することが明らかとなっているが,その根拠は大腸病変の観察結果によるものであり,小腸病変の治癒の実態に関してはいまだ不明の点が多い.また,治療面では,小腸狭窄性病変に対して内視鏡的拡張術や狭窄形成術も有用と考えられているが,その長期的有効性は明らかではない.そこで本号では,従来の小腸X線検査に加え,最近の小腸内視鏡検査や新しい小腸診断法にも言及することで,小腸病変の望ましい診断・治療における有用な情報などの提供を目指した.

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要旨 バルーン小腸内視鏡やカプセル内視鏡など全小腸を検索できるモダリティが普及し,これまでX線検査ではとらえきれなかった微細な病変も検出できるようになってきた.Crohn病の診断においても同様であるが,X線検査は病変の大きさ,範囲,分布,配列などを客観的に把握でき,内視鏡の到達しえない狭窄病変の先の情報も得られる点で有用であり,状況に応じて使い分けることが重要である.

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要旨 Crohn病患者に対するシングル・ダブルのバルーン小腸内視鏡は,挿入時の偶発症を避けるために慎重な内視鏡操作を必要とするものの,小腸病変の詳細な観察が可能となっている.また,小腸内視鏡で認められる病変の程度は,臨床的活動度(CDAI)と必ずしも一致しないことから,診断に用いられるだけでなく,今後内視鏡所見を加味した治療方針決定にも重要な役割を果たすと考えられる.さらに,内視鏡的バルーン拡張術は,開腹術と同等の効果が得られることが明らかとなり,腸管合併症の狭窄に対する治療法の1つとしてさらなる普及が期待されている.

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要旨 Crohn病診療におけるダブルバルーン内視鏡の有用性は,診断においては,特徴的な内視鏡所見を詳細に観察し,同時に生検組織が得られることである.小腸には潰瘍を生じる様々な疾患があり,潰瘍の腸間膜付着側への偏在性や偏向性の確認も鑑別診断に役立つ.また,Crohn病の治療では,mucosal healingという質の高い目標を置くことが推奨されつつあり,ダブルバルーン内視鏡により定期的な観察を行い,現在の治療が適正であるかどうかの評価と,それに基づいた治療変更をすることが望まれる.技術面では,深い潰瘍をオーバーチューブで越えて挿入する場合には,穿孔を起こす危険性があり注意を要する.深い潰瘍が存在する場合や癒着で挿入が難しい場合は,内視鏡を挿入しなくても選択的造影を行えば,より深部の情報を得ることができる.

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要旨 Crohn病の診療において,体外式超音波はそのスクリーニング,合併症の検出,病態のより詳細な評価,治療効果判定などあらゆる点で有用な検査法である.Crohn病のUS像はその多様性がむしろ特徴的とも言えるが,腸間膜側にみられる楔状の層構造消失(FD sign)は縦走潰瘍を反映した所見であり,本症に比較的特異である.組織の変化をより詳細に評価する方法として,最近では造影USの有用性も報告されており,またエラストグラフィなども将来的に期待される手法である.わが国での本症の診療においても,非侵襲的で簡便かつ豊富な診断情報を提供する検査法である体外式超音波の積極的な導入が望まれる.

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要旨 Crohn病の治療において,免疫調整剤やインフリキシマブに粘膜の炎症を消失させる効果,いわゆる粘膜治癒効果があることが最近報告されている.経腸栄養療法は,本邦ではCrohn病患者に対する第1選択の治療法として提唱されているが,その粘膜治癒効果についてはこれまで十分な評価はなされていなかった.筆者らは,活動期および寛解期のCrohn病患者を対象に臨床試験を行い,経腸栄養療法の臨床的および内視鏡的有効性を検証した.その結果,経腸栄養療法が活動期,寛解期いずれのCrohn病患者においても,臨床的にも内視鏡的にも活動性を抑制することが証明された.

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要旨 免疫調整薬(6-MP,AZA)はCrohn病の寛解導入,維持,ステロイド減量効果に有用であるが,内視鏡的な粘膜治癒効果については明らかではない.今回筆者らは,小腸内視鏡を用いてCrohn病の術後再燃に対する治療効果について免疫調整剤を中心に解析した.術後吻合部に病変を有する割合は,吻合部以外の回腸や大腸よりも多かった.また,回腸病変の活動度と臨床的活動度には,相関関係は認められなかった.さらに,吻合部以外の回腸病変の活動性は,術後に免疫調整薬を使用された例のほうがインフリキシマブ使用例に比して高いことが確認された.一方,吻合部の病変の活動性は術後の治療法に関係なく認められた.ただし,短期間での評価であり,長期間免疫調整薬を投与した場合の粘膜治癒効果については今後の研究が必要であると考えられた.

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要旨 Crohn病に対する抗TNF-α抗体治療はインフリキシマブの開発により目覚ましい進歩を遂げた.単に炎症の改善のみにとどまらず,瘻孔の閉鎖や腸管の潰瘍治癒による腸管粘膜治癒という新しい概念を生み出し,患者QOLの向上をもたらした.しかし,維持投与中に効果が減弱あるいは消失するいわゆる効果減弱例や2次無効例が出現して,治療に難渋する症例がみられるようになった.インフリキシマブの効果減弱症例は,様々な投与法の工夫により臨床的寛解,またはそれに準じた状態に持ち込めるが,小腸に病変を有する症例の多くは臨床的に寛解状態であっても,内視鏡画像で小腸の粘膜治癒が得られていない.

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要旨 小腸病変を有するCrohn病60例の術後臨床経過を遡及的に検討し,インフリキシマブ(IFX)の術後再発抑制効果を評価した.非IFX群では平均24.2か月の観察期間において,34例中21例で臨床的再発が確認された.一方,IFX群では平均20.8か月の観察期間中の臨床的再発は26例中2例のみであり,再発率はIFX群で有意に低かった(p<0.005).また,術後画像評価を行ったIFX群13例のうち,臨床的再発を来した1例では大腸に活動性病変を認めた.臨床的非再発と判断された12例中1例は,術後29か月目に吻合部口側小腸に浮腫性変化と不整形バリウム斑が出現し吻合部再発と判断したが,11例では活動性病変は指摘しえなかった.以上より,IFXは小腸病変を有するCrohn病の有効な術後維持治療になりうる可能性が示唆された.

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要旨 Crohn病(CD)の小腸狭窄に対する内視鏡的拡張療法(EBD)の方法,当科での治療成績と安全性について概説した.当科ではダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)を用いてEBDを行っているが,CDの小腸狭窄へのEBDの適応は (1) 閉塞症状を伴う小腸狭窄で,(2) 狭窄長が3cm以下,(3) 狭窄部に瘻孔や膿瘍のないもの,(4) 狭窄部に深い潰瘍のないもの,(5) 病変による強い屈曲がないものとしている.初回EBDから6か月以上経過した25例の解析では,短期成功率は72%,12か月後の累積手術回避率は72%であった.合併症は2例(8%)で認めたが,いずれも保存的治療にて改善し,外科的手術を要する穿孔などの重篤な合併症はなかった.当科では小腸狭窄を有するCD患者の臨床経過とQOLを改善しうるという観点から,DBEを用いたEBDを積極的に行っている.今後,多数例での長期成績の検討やさらなる安全性の向上が望まれる.

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要旨 外科的治療が対象となる小腸狭窄病変長が12cm以下であれば,Heineke-Mikulicz法やFinney法など,古典的な狭窄形成術は腸管切除より優先される外科的治療であり,古典的な狭窄形成術の短期,長期成績は良好である.しかし,大腸の狭窄形成術の有効性は明らかでない.適応外は狭窄病変部に膿瘍・瘻孔形成,内科的治療抵抗性の出血,瘻孔合併がある場合である.古典的な狭窄形成術が困難な症例にも,新たな狭窄形成術が開発されている.狭窄形成術では病変が残存するため,発癌の報告もあり,サーベイランスが重要となる.

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要旨 MPRを用いたMSCT,CT enterography,CT enteroclysisは,アフタ性潰瘍の初期病変などは評価できないものの,Crohn病小腸病変における腸間膜側の炎症,腹腔内膿瘍,狭窄,大量出血,リンパ節腫大,腸管腸管瘻を含む瘻孔病変の評価を非侵襲的に簡便に評価することにおいて優れている.(1) 腸管合併症を有するCrohn病患者として,回腸末端部から出血を繰り返す小腸大腸型Crohn病の32歳女性,(2) 再燃時に広範な縦走潰瘍に伴う小腸狭窄と腹腔内膿瘍を認めた34歳男性,(3) 小腸部分切除後に小腸多発狭窄を認めた39歳男性の症例を提示した.MPRを用いたMSCT,CT enterography,CT enteroclysisは,非侵襲的に大量の容量データを獲得し,Crohn病の腸管合併症においても非侵襲的かつ簡便に病変を評価可能である.

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要旨 Crohn病(CD)にカプセル内視鏡(CE)を施行した37例について検討を行った.小腸X線造影との比較では検討所見すべてにおいてCEが有意に多くの病変を描出していた.また,Lewis score(LS)とCDAI,LSとCRPに有意な正の相関が認められた.一方,CDAI 150未満の症例の47.4%に,LS上軽度の内視鏡的活動性が認められた.検討結果より,CDの治療目標である粘膜治癒の確認には内視鏡観察が必要であり,将来的にCEはCDの活動性の評価に広く用いられると考えられた.また,現状での活動性の評価には,それぞれの検査機器の利点,欠点を理解し,相補的に用いることが重要である.

早期胃癌研究会

2010年1月の例会から 赤松 泰次
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 2010年1月の早期胃癌研究会は1月20日(水)に東商ホールにて開催された.司会は赤松泰次(信州大学内視鏡診療部,現 長野県立病院機構須坂病院内視鏡センター),病理は石黒信吾(PCL大阪病理・細胞診センター)が担当した.

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要旨 患者は63歳,女性.大腸がん検診で便潜血検査陽性を指摘され,東京都がん検診センターを受診.注腸X線検査では,肛門管から下部直腸に拡がる大きさ15mmの境界明瞭な顆粒状の隆起性病変として描出され,大腸内視鏡検査では,透明感のある白色調の顆粒状隆起が正常粘膜を介して観察された.NBI拡大観察では,分葉した微細な半球状突起の中央に細い血管が観察され,食道乳頭腫に類似した所見を呈していた.生検組織検査で尖圭コンジローマと診断されたため内視鏡治療を施行した.切除標本の病理診断は,一部に中等度異型上皮を合併したコンジローマであった.本症例は,直腸肛門管尖圭コンジローマの注腸X線および拡大・特殊光内視鏡の特徴的な所見が得られ,病理組織学的所見と対比したので報告する.

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要旨 患者は60歳代,男性.主訴は便潜血陽性.大腸内視鏡検査で直腸Raに大きさ約10mm大の表面凹凸不整なIs病変を認めた.NBI拡大観察では不整な網目模様と間接的に不整なpitを認め,広島大学分類のC2,クリスタルバイオレット染色による拡大観察では,隆起の立ち上がりから頂部にかけてVI型pit pattern(高度不整)であった.以上より深達度SM深部浸潤が疑われたが,直腸病変のため,total biopsy目的でESDを施行した.病理組織結果は,中分化管状腺癌,SM実測値4,900μm(表層より測定),脈管侵襲ly2,v3で,隆起部とその周囲の粘膜下層に脈管侵襲を伴って広範囲に浸潤し,一部,粘膜固有層内に逆行性に浸潤する像を認め,水平断端,垂直断端,いずれも陽性であった.

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欧文目次

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 胃のESDの手技は既に一般化したと言っても過言ではない.ESDは保険収載もされ分化型粘膜癌の標準治療となった.残された問題は,主に潰瘍瘢痕例への対応と側方進展範囲診断であろう.側方進展については内視鏡診断を誤ると,断端陽性となり,再ESDあるいは手術が必要となり,患者さんへ多大な負担を強いることとなる.この側方進展範囲診断も,現在普及しているNBI拡大内視鏡を用いることにより精密に行えるようになった.NBI拡大内視鏡所見の解釈をめぐっては数々の分類が提言されているが,使われる用語も含めてなかなかわかりやすいものがない.そもそも胃癌は,組織型の多様性にその特徴がある.混沌の中に規則性を見い出していく作業が重要である.

編集後記 松本 主之
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 本邦のCrohn病は増加の一途を示し,難治性の経過を示すことから消化管専門医にとって重要な疾患となっている.「胃と腸」誌の主題として特集されるのは2007年12月号以来であり,これまで,他疾患との異同・鑑別,初期病変,診断基準,腸病変に対する治療効果などが解析されてきた.一方,小腸内視鏡検査の普及に伴い,本誌では小腸疾患の特集号も組まれており,それらでもCrohn病の形態学的特徴や治療に関する新知見が示されている.そのような状況において,本号ではCrohn病の小腸病変に特化して診断法と治療反応性を考える企画が組まれた.炎症性腸疾患の診療において粘膜病変の治癒が議論されるようになった昨今,序説(松井論文)にまとめられた種々の検査法をほぼ網羅し,治療経過まで述べられている本号はCrohn病を取り扱う臨床医にとって必読の特集号と言えよう.

基本情報

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胃と腸
45巻10号 (2010年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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