胃と腸 45巻9号 (2010年8月)

今月の主題 食道表在癌の深達度診断

序説

食道表在癌の深達度診断 門馬 久美子
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 食道癌の診療は,この40年間に大きな変革を遂げた.食道X線造影検査にて食道癌の拾い上げ診断を行っていた時代は,病変のほとんどが,凹凸の明瞭な粘膜下層癌であった.このなかで,1966年に早期食道癌の第1例目が報告され1),新しい時代が始まったと言える.1970年代に色素内視鏡検査法2)が確立されて以後,早期発見の目標は粘膜下層癌から,粘膜癌へと変わった.当初は発見された粘膜癌に対し外科切除治療が行われていたが,治療例が蓄積されるにしたがって,上皮内癌や粘膜固有層癌では,リンパ節転移がまれなことが判明した.

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要旨 食道表在癌183例201病変(粘膜内癌159病変,粘膜下層浸潤癌42病変)のホルマリン固定検体を用いて,その肉眼的特徴を検討した.その結果,高い確率で癌が粘膜下層に大量に浸潤していると推定される肉眼所見は,以下の2点に要約された.1つは,“立ち上がりがなだらかなドーム状の隆起"で,組織学的には,大量の癌組織が直上の上皮層を押し上げて隆起を形成したものである.もう1つは,“明瞭なびらん・潰瘍を伴う陥凹"で,組織学的には,大量の癌組織が,粘膜深部や粘膜下層に浸潤することにより,直上の粘膜組織(多くは粘膜内癌巣)が自壊・脱落し,同部に癌性びらん・潰瘍を伴ったと推定されたものである.以上の特徴の指摘とともに肉眼観察による食道表在癌の深達度診断の有用性と陥穽について付言した.

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要旨 食道表在癌134例を対象に,X線像側面変形による深達度診断の有用性について検討を行った.これまでの検討では,M3・SM1の鑑別診断にまだ問題を残しており,これをより精度の高いものにするために,今回は新たに病変および変形の大きさ(長さ)の要素を加えて,B2型,C型変形を呈した35症例に対して検討した.その結果,B2型変形は病変の大きさが30mm未満であればM3~SM1と言える.ただし30mm以上ではM2~SM2まで幅広く分布しており,鑑別は難しくなる.一方C型変形は,病変の大きさが20mm未満であればSM1かSM2で,10mm未満ならばSM2であった.また病変の大きさに関係なくC型変形の長さに着目してみると,変形の長さが20mm未満ならM3~SM2であるが,10mm未満ならSM1かSM2という結果であった.以上のように側面変形だけでもかなり精度の高い深達度診断が可能になったと考える.

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要旨 食道表在癌の通常内視鏡観察による深達度診断について,内視鏡的切除術(ER)例の150例と外科切除例の86例を対象に検討した.また,浅読み,深読み例を深達度亜分類別に内視鏡診断と病理組織診断について対比した.ER例,150例全体の正診例は126例で正診率は84%で,深達度亜分類別の正診率は,T1a-EP,LPM : 91.0%,T1a-MM,SM1 : 73.8%,SM2 : 75.0%であった.外科切除例ではT1a-MM,SM1 : 86.9%,SM2,SM3 : 89%であった.診断を誤る主な要因としては (1) 微小浸潤,(2) 表層拡大病変,(3) 病巣の再生上皮,(4) 導管内浸潤,(5) 上方発育病変,などが挙げられた.通常観察による深達度診断は簡便で有用な手段である.しかし,腫瘍表面性状の内視鏡所見のみで行う深達度診断は言うに及ばず,深達度診断そのものに限界があると思われた.

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要旨 2006~2009年までに内視鏡治療を行った食道表在癌247例296病変を対象に深達度診断の診断精度について検討した.正診率はT1a-EP・LPM癌では95%,T1a-MM・SM1癌は66%,SM2・SM3癌は61%であり,全体で90%(296病変中265病変)であった.病型は,T1a-EP・LPM癌はIIc 61%,IIb 31%,T1a-MM・SM1癌はIIc 89%,SM2以深癌はIIc 67%,0-I 28%であり,IIcが全体の65%を占めていた.食道表在癌の深達度診断においてIIcが最も重要な病型であった.0-IIc(EP・LPM)癌の正診率は97%と良好であった.0-IIc(MM・SM1)癌の正診率は68%で,浅読み例の71%が微小浸潤例であった.また,0-IIc(SM2以深)癌の正診率は50%で,誤診例の半数が微小浸潤例であり,SM1との鑑別が困難であった.現在の深達度診断は,通常観察で予測をし,拡大観察で確診を得るという過程で行われていた.通常観察の診断の限界は浸潤幅1.8mm程度の微小浸潤であり,それらは拡大観察を行っても血管変化がみられない病変では診断が困難であった.

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要旨 内視鏡技術の発展によって,リンパ節転移の可能性が極めて低い,ごく初期の食道表在癌が発見されるようになった.そのため,内視鏡治療可能な段階で病変を拾い上げ,低侵襲かつ確実な治療を適切に行うことが求められている.食道病変の拾い上げにおいては,病変の範囲診断,深達度診断の2つの要素があり,筆者らはNBI拡大によるIPCLパターン分類を用いて深達度診断を行っている.原則的にIPCL type V-1をT1a-EP,V-2をT1a-LPM,V-3をT1a-MM/T1b-SM1に対応すると考えているが,IPCL type V-3と判断しM3/SM1相当と診断した病変の中に,深達度M2の病変が含まれていることがある.IPCL type V-3の中で,水平方向のみへ延長したIPCLパターンの場合,予想深達度より浅い病変の可能性がある.本稿では,内視鏡治療対象病変かの診断において,keyとなるM3/SM1の診断に焦点を当て検討する.

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要旨 NBI拡大内視鏡にて観察される微細血管の口径不同,血管径,延長所見に注目し,異常血管の延長所見が軽微で,血管径が細い場合に深達度T1a(EP-LPM),異常血管の延長を認めたが血管径が細い場合はT1a-MMからT1b-SM1,高度延長に加え血管径の増大を認めた場合をT1b-SM2と診断した.また有馬らが報告したAVA(avascular area)≦0.5mmをT1a-LPM,AVA>3mmをT1b-SM2,この間をT1a-MMからT1b-SM1と診断してきた.これらの血管所見は深達度診断に有用であったが,浸潤部の表層がT1a-EP,LPMの癌で覆われた病変やT1a-MM浸潤幅が1~2mm以下であった病変では血管の異型が観察されず,NBI拡大内視鏡による診断の限界であった.通常観察にて厚みを認めたにもかかわらず,血管異型が軽度な病変に従来法であるEUSを併用した総合的な診断が望まれる.

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要旨 FICEを併用した拡大内視鏡微による,食道表在癌の深達度診断の成績と問題点について,表在食道癌510病巣を対象として検討した.微細血管分類のtype 3を示す病巣の97.3%はhigh grade intraepithelial neoplasiaおよびpT1a-EP/LPM癌であったが,type 4を示す病巣にはpT1a-LPM癌~pT1b-SM癌まで含まれていた.type 3とtype 4SをpT1a-EP/LPM癌,type 4Mとard3をpT1a-MM/pT1b-SM1癌,type 4Lとard4をpT1b-SM2/SM3癌の診断規準とすると,pT1a-EP/LPM癌の診断率は96.0%,pT1a-MM/pT1b-SM1癌は81%,pT1b-SM2/SM3癌は97%,全体の正診率は490病巣中465病巣(94.9%)であった.AVAを形成しないtype 4Rは,20病巣中18病巣(90%)が低分化型扁平上皮癌や特殊な組織型,INFcの浸潤様式を示す病変に認められた.拡大観察による誤診の原因は,微小浸潤と表層が浅い癌で覆われながら,その深部に浸潤巣が認められる病変であった.

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要旨 食道表在癌の治療は多様化し,患者背景や希望をより重視して治療法を選択するようになってきた.そのため,治療方針決定のうえからT1a-LPM,T1a-MM,SM1,SM2などの見極めが特に重要となっている.細径プローブを用いた超音波内視鏡は,腫瘍の壁内進展状況を詳細な断層画像として表すことができる唯一の実用段階の検査法である.通常内視鏡による表面形態や色調,拡大内視鏡による微細血管の変化などの所見と照らし合わせ,総合的に診断するが,良好な超音波像を得,それから固有筋層,粘膜下層を同定すれば,深達度診断は比較的容易である.しかし,超音波像にはリンパ組織の増生や拡張した固有食道腺など腫瘍以外の様々な変化が表現されるため,それらを常に考慮することも重要である.

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要旨 endocytoscopy(340~1,100倍)は,上皮最表層の細胞を描出し,観察することができる.一方,これまでのNBI拡大内視鏡(70~80倍)は,IPCLの変化を指標として上皮深部の構造異型の情報を提供する.この両者を組み合わせることにより,食道扁平上皮の深部の構造異型と最表層の細胞異型を合わせて評価できることになる.例えば,IPCL type IVで高度上皮内腫瘍(HGIN)を疑う病巣があった場合,ECA-3であれば,病巣内での上皮の層状分化が比較的良好であるということになり,LGINの診断となる.また同じIPCL type IVでもECA-5であれば,上皮の表層まで異型があることになり,HGIN以上の異型度ということになる.このようにendocytoscoopyは上皮の性状診断に極めて有用な情報を提供する.しかしながら,endocytoscopyでは確かに細胞および細胞核を観察することができるが,その情報は,扁平上皮の最表層の所見にとどまる.したがって上皮の深部の情報が得られるNBI拡大内視鏡によるIPCLの評価と総合して,実際の組織像を推定してゆくのがよい.一眼タイプの超・拡大内視鏡では,2つの情報が1回の検査中に容易に得られる.

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はじめに

 門馬(司会) お忙しいところお集まりいただき,ありがとうございます.本日のテーマは,「食道表在癌の深達度診断は進歩したか─各モダリティの使い分け」です.食道表在癌も,発見の方法がX線から内視鏡に変わったことで,その診断もかなり変わってきました.深達度診断を行ううえでは,通常,NBI(narrow band imaging)拡大,EUS(endoscopic ultrasonography),食道造影など,いろいろなモダリティがでてきていますが,すべての症例に対してこれらのすべてのモダリティを行っているかは,かなり差異があると思います.各々の症例に対し,どのようなモダリティを使って深達度診断を行うことが望ましいのか.深達度診断が異なった場合,いずれの結果を最も信頼するのか,その根拠は何か.症例の特徴を踏まえ,どのような症例にはどのモダリティが1番向いているかを明らかにしたいと思います.

早期胃癌研究会

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 2009年12月の早期胃癌研究会は12月16日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は大川清孝(大阪市立総合医療センター消化器内科,現 大阪市立住吉市民病院)と小野裕之(静岡県立静岡がんセンター内視鏡科),病理は岩下明徳(福岡大学筑紫病院病理部)が担当した.画像診断教育レクチャーは味岡洋一(新潟大学大学院分子・診断病理学)が「混乱する用語の整理(低異型度,高異型度,超高分化,ディスプラジア等)」と題して行った.

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2010年4月の早期胃癌研究会は4月14日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は松田圭二(帝京大学外科)と長南明道(仙台厚生病院消化器内視鏡センター),病理は九嶋亮治(国立がん研究センター臨床検査部病理)が担当した.

学会印象記

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 第79回日本消化器内視鏡学会総会は,田尻久雄会長(東京慈恵会医科大学 消化器・肝臓内科/内視鏡科)主催のもと,「内視鏡医療のさらなる発展─グローバル時代の日本の課題─」をメインテーマに,2010年5月13~15日の3日間,グランドプリンスホテル新高輪において開催された.今回,「胃と腸」編集室より学会印象記執筆を依頼されたこともあり,筆者は初めてと言ってよいほど学会プログラムを入念にチェックしたうえで学会に臨んだ.

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欧文目次

編集後記 小山 恒男
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 胃と腸第45巻第9号「食道表在癌の深達度診断」の企画を門馬久美子,九嶋亮治とともに担当した.近年,診断用機器の改良はめざましく,内視鏡領域では通常内視鏡の解像度が向上したのみならず,NBI(narrow band imaging),FICE(flexible spectral-imaging color enhancement)に代表されるimage-enhanced endoscopyの開発や拡大内視鏡の普及により,さらに詳細な観察が可能となった.さらには,超・拡大内視鏡が開発され,内視鏡診断は細胞レベルに迫りつつある.一方,食道X線造影領域でもフラットパネルやDR(digital radiography)の登場によって精度も向上した.従来の食道癌深達度診断は通常内視鏡,超音波内視鏡,食道X線造影にて施行されてきたが,これらの画像診断技術の向上にて,食道癌の深達度診断能は向上したのであろうか.特に,臨床的に重要な意味をもつ深達度T1a-EP/LPMとT1a-MM/T1b-SM1を鑑別することができるのか.これを明らかにすることが本号の目的であった.

基本情報

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胃と腸
45巻9号 (2010年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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