胃と腸 43巻10号 (2008年9月)

今月の主題 早期食道癌の診断─最近の進歩

序説

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 最近,食道領域での早期癌の診断能の向上には目を見張るものがあり,既に,胃癌のそれを上回っていると言っても過言ではない.内視鏡検査を行うことにより,多数の早期食道癌が発見されてEMR(endoscopic mucosal resection)やESD(endoscopic submucosal dissection)で治療されている.

 早期食道癌の発見は1966年に山形ら1),中山ら2)によってなされているが,これらはいわゆる早期癌,すなわち,リンパ節転移を伴わない粘膜下層癌であった.1966年に木暮ら3),1967年,大原,遠藤,熊谷らにより,国産の食道ファイバースコープが開発され3),1976年多賀須ら4)により細径パンエンドスコープが開発された.ヨード染色は1973年に佐野5)が食道癌の診断に応用し,赤坂ら6)が詳細な基礎研究を行った.

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要旨 最新の診断機器が開発された近年においても,通常スクリーニングの際に早期癌を発見するためには,通常白色光内視鏡所見をいかに捉えるかが大切である.早期食道扁平上皮癌を拾い上げるにあたり重要な粘膜面の所見は,かすかな発赤,細血管の乱れ,消失,わずかな凹凸,光沢の消失,白濁などであり,特に重要なのは発赤所見である.通常観察にて所見を捉えた場合やハイリスクグループに対しては,高画質内視鏡を用いた場合でも,やはりヨード染色を行うことが望ましい.ヨード不染帯がhigh grade intraepithelial squamous neoplasia以上かどうかの鑑別には,pink color signが有用であり,特にヨード不染帯の多発を伴うまだら食道症例に対しては極めて有用である.

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要旨 ヨード染色を中心とした色素内視鏡に加えて,現在では特殊内視鏡,さらに拡大観察が開発され,診断技術が著しく進歩している.しかし,現時点においても高画質通常内視鏡観察による病巣診断が最重要視されるべきであると考えている.食道癌の深達度診断は通常内視鏡検査を基本とした病変の深さ,高さ,広さ,色調,辺縁の立ち上がり,上皮下発育の有無など総合的に判定されるべきであると考えている.本稿では,高画質内視鏡の開発とHi-Vision電子内視鏡システムの特徴,次に早期食道癌に対する高画質内視鏡を用いた通常内視鏡観察による存在診断と質的診断について,その有用性を述べた.

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要旨 経鼻内視鏡検査は経口内視鏡検査に比べて苦痛が少ないという理由で,最近急速に普及しつつある.しかし,経口内視鏡に比べて画質や明るさ,吸引能力などの点で明らかに劣る経鼻内視鏡の診断能に疑問の声も多い.そのような不利な条件で早期食道癌を発見するためには,食道観察を妨げる粘液と麻酔用ゼリーを極力排除する前処置や咽頭反射を誘発しない挿入法の工夫が必要であった.その結果,当院で施行した経鼻内視鏡4,001例中6例(0.15%)に食道癌が発見され,そのうち早期癌は4例で,すべて内視鏡的に切除された.また早期胃癌も26例発見され,そのうち15例(58%)は10mm以下の小胃癌であった.いまだ画質などに問題はあるものの,経鼻内視鏡の性能は著しく向上してきており,今後スクリーニング内視鏡のニュースタンダードとなりうると思われた.

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要旨 白色光(WL)およびNBIによる食道扁平上皮癌(SCC)診断率の差を検討するために以下の研究を行った.早期SCC 53病変のWL, NBI画像と非腫瘍部の画像27枚をランダムに配列したWL 80枚,NBI 80枚の画像集を制作し,無情報で8名の内視鏡医に読影を依頼した.熟練者群のsensitivity平均値(範囲)はWL 88.7%(84.9~92.5),NBI 92.5%(88.7~96.2),初心者群ではWL 68.2%(50.9~79.2),NBI 64.8%(37.7~79.2)であった.熟練者群では腫瘍径10mm以下でWL 64.3%, NBI 85.7%とNBIが高値であったが,11mm以上ではWL 92.4%,NBI 93.5%と差はなかった.一方,初心者群では,腫瘍径にかかわらずWLとNBIのsensitivityに差はなかった.NBIは熟練者が小SCCを発見する際に有用であったが,初心者群での有用性は証明されず,初心者がNBIを使いこなすには十分な教育が必要と思われた.

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要旨 早期食道癌の拾い上げ診断は,特殊内視鏡の発展によりヨード染色にとって代わりつつある.新しい分光内視鏡システムFICEでは,術者が自由にRGB波長の組み合わせを選択し,病変・非病変の色調コントラストを強調した画像を作ることができるのが最大の特徴である.そのために,必ずしも高倍率でなくてもその色調コントラストから血管パターンを観察することができ,質的診断・深達度診断が可能である.今後,さらなるRGB波長の組み合わせを検討することで,より簡便で正確な内視鏡診断が可能になることが期待される.

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要旨 消化管粘膜に励起光を照射した際に生じる微弱な自家蛍光を内視鏡下に捉え,その蛍光特性の違いを画像処理してモニタ上の色調差として疑似カラー表示するのが自家蛍光電子内視鏡装置である.AFI(autofluorescence imaging)は通常の電子内視鏡と同様の外観・操作性で高解像度の白色光観察から,ボタンひとつで切り換えて蛍光観察を行うことができる.頭頸部腫瘍47例に対して,AFIによる食道癌のスクリーニング検査を行ったところ,食道癌5病変中,白色光観察の3病変(60%)に対して,蛍光観察では5病変(100%)を発見することができた.しかし,偽陽性所見が多く,その中にはglycogenic acanthosis,逆流性食道炎,静脈瘤などが含まれていた.今後はNBI(narrow band imaging)など,他の画像強調観察法との比較の成績が待たれる.

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要旨 近年,高解像度の“NBI拡大"内視鏡の登場により,特に扁平上皮領域では微小な腫瘍性病変の診断も容易になってきた.NBIの特徴は上皮レベルに存在する毛細血管(IPCL : 上皮乳頭内血管ループ)を褐色に強調できるところにある.NBI通常観察(非拡大)でbrown spot(あるいはbrownish area)を同定して,その後に同部のNBI拡大内視鏡を行うことで,病変の性状診断ができる.NBI拡大内視鏡で観察するIPCLの変化は,本文中のIPCLパターン分類の赤枠に示した平坦病変の内視鏡的異型度診断から,青枠で示した深達度診断まで広く適用される.IPCLの変化は,組織の構造異型を反映していると考えられる.さらに将来展望として,通常観察から拡大内視鏡観察,そして超・拡大内視鏡(endocytoscopy)(450倍)までを1本で行える一体型スコープ(非売品)が開発されており,endocytoscopyとして使用した場合は細胞や核を生体内で直接観察することができる.これにより細胞の核異型をも捉えることができるようになってきた.ECA分類として,Papanicolaou分類に従い5段階評価を行っている.このような診断機器の進歩により,組織の内視鏡的異型度診断(構造異型,細胞異型を含む)が現実のものとなりつつある.ここではIPCLパターン分類,ECA分類から深達度診断までを中心に概説したい.

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要旨 拡大内視鏡を用いた微細血管像による,食道表在癌の深達度診断の成績と問題点について検討した.使用機種は主にFTS社製EG-590ZWを用い,血管強調モードのFICEを併用した.微細血管パターンのtype 3とtype 4は癌に特徴的な血管像で,ストレッチされたtype 4血管で囲まれたAVA/SSIVは,その大きさから4S,4M,4Lの3つのカテゴリーに亜分類される.type 3とtype 4Sをm1・m2癌,type 4Mをm3・sm1癌,type 4Lをsm2・sm3癌の診断規準とすると,m1・m2癌の診断率は99.6%,m3・sm1癌は68.8%,sm2・sm3癌は85.3%,全体の正診率は377病巣中351病巣(93.1%)であった.AVAを形成しないreticularな血管から成るtype 4Rは,低分化型や特殊な組織型の癌,INFcの浸潤様式を示す病変でみられた.深達度診断で前進した点は,m1・m2癌の診断レベルが向上したこと,細かな浸潤部を読影できるようになったこと,癌の進展形態や浸潤様式が鑑別できるようになったことである.誤診の原因は微小浸潤,角化の強い病変や表層が浅い癌で覆われながら,深部で細かい癌蜂巣がバラバラに浸潤していたことによる浅読みであった.病変の厚みと血管像の間に乖離がある場合には,高周波数細径超音波プローブを併用した深達度評価が必要である.

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要旨 新しく開発されたデジタルX線装置である平面検出器(FPD)は通常のフィルム-増感紙による撮影系(CSFF)に匹敵する良好な画像が得られ,従来のDRの欠点であったノイズの目立つ画質が改善した.また,FPDはDRと同様に連続撮影の利点を有しタイミングよく撮影ができ,様々な伸展性や造影剤の付着による写真が得られ,より容易に微細病変の診断が可能となった.粘膜癌の拾い上げや微小浸潤sm癌の診断にはまだ課題が残るが,FPDで得られる良好で繊細な画像は食道表在癌の深達度を含めた性状診断に極めて有用と考えられた.

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 門馬(司会) 本日の座談会のテーマは,「早期食道癌の診断における最近の進歩と問題点」です.早期の食道癌ですから,発見できれば内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)や内視鏡的粘膜下層はく離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)の内視鏡治療が可能ですので,早期の病変を拾い上げるために,多くの症例に対してヨード染色がかなり長い間行われてきたと思います.また,そうして拾い上げられた病変を,色素内視鏡,超音波内視鏡,X線で深達度診断を行い,どういう治療方針を取るかを決めてきたと思います.けれども,最近の内視鏡,X線などの検査機器の進歩には非常に目を見張るものがあると思います.病変によっては,ヨードを撒かなくても発見でき,拡大内視鏡を用いて,より詳細な深達度診断を行うなど,いろいろな手段が出てきています.本日は,そういう検査機器の発達によって変化してきたことについて,いろいろな分野の先生方から,どういう検査が有用で,どうしたらもっと利点があるのか,そして現在挙げられる問題点は何か,お話し合いいただきたいと思います.本日は,食道表在癌の拾い上げ診断,すなわち存在診断と,もう1つは深達度診断を中心に話をしていただこうと思います.最初は拾い上げ診断についてです.皆さんが現在お使いの内視鏡は,高解像度のものだと思いますが,高解像度内視鏡における拾い上げ診断の現況について,有馬先生に口火を切っていただけたらと思います.通常観察で,どのように見えているかということですが.

 小山(司会) ごく最近のみではなくて,ここ5年くらいの範囲を含めてお願いします.

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はじめに

 大腸内視鏡検査の目的は,盲腸へ挿入することではなく,病変の発見,診断,治療を行うことである.病変の発見は,最初に行われる過程であり,病変の発見なしには診断・治療に行きつかない.腸管内は,ひだが多く,屈曲部があり,すみずみまで観察するのは簡単ではない.また,隆起性の病変は発見が比較的容易であるが,小病変や平坦・陥凹型の病変は,わずかな発赤や粘膜の変化などの微細所見を見逃さないよう神経を集中させる必要がある.病変を少しでも疑う場合には,0.2%のインジゴカルミンを撒布し,病変の有無を判断する.

 本稿は,通常観察において病変(特に平坦・陥凹型病変)を発見する際に注目すべき所見,大腸の構造自体から来る観察の死角やスコープの視野角よりなる盲点,通常観察における病変の観察方法について述べる.

「胃と腸」と私

「胃と腸」と私 西澤 護
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 1963年ごろ,後に大家と言われるようになった40代半ばの胃の研究者10人ほどが,エーザイ本社の一室で活発な勉強会をやっていた.私は同伴でただ聞きに行ったことがあるだけだが,それが後の早期胃癌研究会のはしりである.

 その勉強会で,自分たちの研究成果を発表する雑誌が欲しいということから「胃と腸」の発刊につながったと聞いている.それ以前にも消化器病の雑誌はあったが,どういう訳か長続きせず中途で廃刊になってしまった.そんなこともあってか,はじめは胃と腸だけを扱かう雑誌で売れるかどうか危惧されていたようだ.そのようなことから早期胃癌研究会と結びつけて発足したらしい.

早期胃癌研究会

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 2008年2月の早期胃癌研究会は2月20日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は小山恒男(佐久総合病院胃腸科)と山野泰穂(秋田赤十字病院消化器病センター),味岡洋一(新潟大学大学院分子・診断病理学)が担当した.画像診断レクチャーは門馬久美子(都立駒込病院内視鏡科)が「食道癌の深達度診断─私の眼のつけどころ」と題して行った.

2008年3月の例会から 鶴田 修 , 長南 明道
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 2008年3月の早期胃癌研究会は3月19日(水)に東商ホールで開催された.司会は鶴田修(久留米大学医学部消化器病センター内視鏡診療部門),長南明道(仙台厚生病院消化器内視鏡センター),岩下明徳(福岡大学筑紫病院病理部)が担当した.また,2例目終了後,2007年早期胃癌研究会最優秀症例として,秋田赤十字病院消化器病センター・山野泰穂先生,吉川健二郎先生による「過形成性様病変が3年6か月の経過中に早期大腸癌を合併した1例」に対する表彰式と,症例の解説が行われた.

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要旨 患者は62歳,男性.便秘を主訴に受診.注腸造影検査では直腸S状結腸部に全周性の高度狭窄があり,内視鏡検査では狭窄部に敷石状変化を認めた.びまん浸潤型癌を疑い低位前方切除術を施行した.病理組織学的所見では,固有筋層の一部に浸潤しているが大部分は粘膜下層にとどまる高分化型腺癌を認めた.粘膜表層に腫瘍の一部が露出していたがほとんどは正常粘膜で覆われ,腫瘍の先進部や近傍にはCrohn病に類似した著明な炎症細胞浸潤や線維化,類上皮性細胞肉芽腫を認め,それによりびまん浸潤型の肉眼形態を呈していた.

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欧文目次

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 日本でコミュニケーションスキル・トレーニングを医学教育に取り入れるようになったのは1990年以降である.それ以前に大学を卒業した医師の大部分は,コミュニケーションにかかわる教育を受ける機会がなかった.本書はこうしたベテラン医師を対象に,患者とのコミュニーションスキルの習得と実践について体系的な学習を可能とする,従来なかった手引書である.前半にコミュニケーションや患者満足度に関する解説があり,後半にスキルアップのための手法やトレーニングの内容,効果が説明されている.ベテラン医師が自身で学べると同時に,トレーニングコースの実践テキストとしても活用することができる.編著者らは,コミュニケーションスキル・トレーニングコース(CSTコース)の開発・運営に実際に携わる専門家で,編者のお一人の松村真司先生は,研究もこなしながら臨床の場で活躍されている先生である.

 病気になれば誰しも不安で心細くなる.医療者と心の通う対話ができれば,患者は緊張や不安が和らぎ,診療を前向きに受けることができ,ひいては病気と積極的に向き合うことができる.一方,よいコミュニケーションは医師自身の達成感も向上させる.

編集後記 小山 恒男
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 ヨード染色を併用することで食道扁平上皮癌のスクリーニングは飛躍的に進歩した.

 しかし,ヨード染色を行うと,検査時間が延長するだけでなく,胸焼け,吐き気など患者の負担が増加した.何とか,ほかの方法で食道表在癌を発見できないか? 幸い,近年の内視鏡画像向上は著しく,また,非侵襲的なenhancementが開発された.

基本情報

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胃と腸
43巻10号 (2008年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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