胃と腸 43巻11号 (2008年10月)

今月の主題 感染性腸炎─最近の動向と知見

序説

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 感染性腸炎とは,各種微生物によって腸管の炎症性変化が惹起される場合を指し,腸管感染症とほぼ同義に用いられる.ただし,発症機序の異なるチフス性疾患は,本来感染性腸炎から除外されるべきとも考えられるが,細網内皮系での増殖に伴う菌血症とともに,腸管に潰瘍性病変を形成する腸チフス・パラチフスについては便宜上感染性腸炎に含めて取り扱われることが多い.感染性腸炎は,原因別に細菌性,真菌性,ウイルス性,寄生虫・原虫性に大別されるが,日常臨床では細菌性腸炎の頻度が最も高い.

 一方,食中毒は食品などに含まれた微生物,化学物質,自然毒などを摂取することによって発症するが,その70%以上は細菌に起因するとされている.細菌性食中毒は発症形成から感染型と毒素型に分けられるが,感染型は感染性腸炎と同一の病態を示すのに対し,毒素型は産生された毒素による中毒であり,感染性腸炎の病態とは異なる.

主題

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要旨 今日の感染症動向のキーワードはグローバル化と易感染性宿主の増加であり,腸管感染症の分野でもその傾向は顕著である.注目すべき病原体はCampylobacter,Salmonella,腸管出血性大腸菌,腸炎ビブリオ,Norovirus,Rotavirusである.院内発生の場合にはClostridium difficileも要注意である.Campylobacter,Salmonellaの耐性菌は世界的に共通する問題である.小児や高齢者をはじめとする易感染性宿主では重症化しやすく,時に致命的となることがある.病院や施設での集団発生ではそのようなリスクが高い.旅行者下痢症,性感染症では国内発生の場合とは異なる病原体が検出される可能性があるので,患者背景の把握が重要である.

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要旨 感染性腸炎の診断を進める場合,最も重要なのは臨床所見である.詳細な病歴から感染性腸炎との診断のみならず,疾患の絞り込みも可能である.これに糞便や血液を用いた細菌学・生化学的検査所見を加えることで,ほとんど感染性腸炎の確定診断が可能となる.USやCT,X線・内視鏡などの画像所見は,病変の部位,形状,配列などを分析することで潰瘍性大腸炎やCrohn病などの狭義のIBDとの鑑別に有用である.治療としては補液による脱水の補正と適切な抗菌薬の使用が重要であり,起因菌が不明の場合はニューキノロン系薬,またはfosfomycinの投与が推奨される.

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要旨 炎症性腸疾患(IBD)と鑑別を要する感染性腸炎は,直腸からびまん性病変を認め潰瘍性大腸炎(UC)と鑑別を要する疾患と,回盲部病変を認めCrohn病(CD),Behçet病と鑑別を要する疾患に大別される.前者はアメーバ性大腸炎や細菌性腸炎,後者は腸結核,エルシニア腸炎などである.鑑別診断に最も有用なのは,疾患に特徴的な内視鏡所見である.生検組織所見では,感染症でも陰窩膿瘍や肉芽腫を認める場合があるが,適確な組織採取や培養検査,特殊染色,便汁培養などの検査を組み合わせることにより診断精度の向上に繋がる.また,画像所見に合わない薬物治療抵抗性の臨床経過をみた場合,感染の可能性を念頭に置き注意深く病歴の再聴取を行うことも,確診に繋がり重要である.

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要旨 感染性腸炎の動向を知るために,下部消化管内視鏡生検材料を用いて,広義の炎症性(虚血性病変を含む)腸疾患の組織診断が得られた症例の解析を行った.さらに組織像でわかる代表的感染性腸疾患について解説した.組織像で確定診断が可能な疾患は,腸結核,非定型好酸菌症,Whipple病,腸管スピロヘータ症,梅毒,巨細胞性封入体症,カンジダ症,アスペルギルス症,ムコール症,放線菌症,アメーバ赤痢,ランブル鞭毛虫症,クリプトスポリジウム症,イソスポーラ症,アニサキス症,糞線虫症,日本住血吸虫症,ビルハルツ住血吸虫症などである.組織像から疑診可能な疾患は,腸チフス,腸管出血性大腸菌O157 : H7大腸炎,Clostridium difficile腸炎,エルシニア腸炎などが挙げられる.起因病原体を証明できない多くの感染性腸疾患は,組織学的に非特異性炎症像を呈するため診断が困難となりやすい.正確な診断のためには組織所見に加えて,臨床情報を十分加味することが特に重要である.

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要旨 過去11年間に大腸内視鏡検査を施行した全35,349例中,細菌培養検査以外の虚血性大腸炎の診断基準を満たした325例を対象として,培養陽性群と培養陰性群に大別し,臨床像,大腸内視鏡所見,および腸病変の経過を比較検討した.培養陽性群は56例(17.2%)で,腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli ; EPEC)が検出菌の87.5% を占めた.培養陽性群と培養陰性群で臨床症状,罹患部位,内視鏡所見,および臨床経過に差異は認めなかった.両者の鑑別は細菌学的検査を除けば困難であったことから,虚血性大腸炎様病変の病態に腸管感染症の関与が示唆された.

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要旨 腸管出血性大腸菌O157感染症の臨床像について,その内視鏡所見を中心に概説した.O157 出血性大腸炎の典型例では,特徴的な内視鏡所見である炎症勾配と縦走潰瘍を呈した.すなわち,病変部位は盲腸から直腸まで広範囲に連続性にみられたが,炎症所見は右側結腸で最も強く,左側結腸に移行するにつれて漸減した.また約半数の例で横行結腸や下行結腸に縦走潰瘍がみられた.血便患者の内視鏡検査においてこれらの所見が得られれば,内視鏡所見からO157 が起炎菌であると推定可能であり,内視鏡室や病室での汚染防止,二次感染の予防,さらには溶血性尿毒症症候群や脳症の発生にあらかじめ注意を払える点で臨床上有用である.

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要旨 エルシニア腸炎はYersinia enterocolitica, Yersinia pseudotuberculosisの経口感染により生ずる.本菌により汚染された豚肉,自然水や井戸水の摂取,ペットとしてのイヌやネコの糞便を介する感染が多い.胃腸炎のみならず腸間膜リンパ節腫大,関節炎,結節性紅斑など多彩な所見を呈するが,下痢の頻度は高くはない.本症の内視鏡的所見は,回腸末端部における全周性の粘膜浮腫,白苔を伴う小潰瘍やびらんが特徴であり,盲腸・上行結腸にはアフタびらんや斑状発赤が散在する.本症の確定診断においては,内視鏡所見のみならず,血清学的診断,生検組織診断,便や粘膜組織の低温培養から総合的に判断することが必要である.

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要旨 Clostridium difficile感染症の現状について最近の文献を中心に概説した.従来は偽膜性大腸炎の起炎菌として注目されてきたが,近年では無症候性保菌者を含めた院内感染の原因菌であること,集団発生が起こりうることなどから医療施設における感染制御の対象となっている.その病態は,① 単純性抗菌薬関連下痢症,② 非偽膜形成性下痢症,③ 偽膜性大腸炎,および ④ 劇症偽膜性大腸炎に至るまで多彩である.さらに,近年では炎症性腸疾患の増悪因子としても着目されている.偽膜性大腸炎は病歴と大腸内視鏡検査下の偽膜の確認で確定診断できるが,その他,病型の診断には組織培養ないし免疫法による便中毒素の証明が必要である.metronidazoleないしvancomycinの経口投与が第1選択の治療であり,難治例や再発例ではvancomycinの長期投与とプロバイオティクスや毒素吸着療法などを併用し,確実な治療を目指す必要がある.

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要旨 腸結核には消化管以外の結核症から続発した続発性腸結核と,他臓器に結核症が認められない原発性腸結核に分類され,わが国では原発性腸結核の頻度が高いとされている.腸結核の特徴的な画像所見は,短軸方向に広がり規則性に欠ける輪状潰瘍,多発瘢痕と炎症性ポリープが混在してみられる腸管変形(両側性変形,長軸方向の短縮,偽憩室形成),萎縮瘢痕帯などが挙げられる.結核症の診断には病変部から結核菌,あるいは結核性肉芽腫を検出することが必要であるが,必ずしも証明されるわけではない.そのため抗結核薬による治療的診断がなされることもある.近年になりダブルバルーン小腸内視鏡,カプセル内視鏡の検査機器の発達や遺伝子診断,QuantiFERON(R)-TBなどの新たな結核症診断法が登場し,腸結核の診療は変化してきている.

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要旨 アメーバ性大腸炎は,STDの代表的な疾患の1つで最近,増加傾向を示している.その原因は,以前から指摘されている男性同性愛者間の感染者のほか,性風俗を介する異性間感染者の増加が大きな要因と推測される.当院で経験した19例での分析では,異性間感染が11/19(58%),同性愛者間感染3/19(16%),海外での感染6/19(32%)などであった.19例中2例(11%)に肝膿瘍を認めた.病変の分布は盲腸19/19(100%),直腸12/19(63%)に多く,診断は内視鏡所見から疑われ,粘液の鏡検,生検組織診断,血清抗体価で確定診断され,その診断率はそれぞれ88%,79%,71%であった.3者を組み合わせることで診断率の向上が期待される.

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要旨 サイトメガロウイルス(CMV)腸炎の臨床像について述べた.CMV腸炎は増加しており,多くは免疫不全の患者に生じる.症状は下血・血便と下痢が多く,小腸病変を主とする場合は穿孔や下血が多い.診断にはCMV antigenemiaの測定や組織核封入体の検出,免疫組織化学による組織CMV抗原の検出が有用である.しかし,これらが陰性でもCMV腸炎が疑わしい場合は,血中と組織中のPCRによるDNAの測定を行う必要がある.内視鏡所見は打ち抜き様潰瘍が最も多いが,浅い不整形潰瘍,輪状傾向潰瘍,帯状潰瘍,縦走潰瘍,アフタ様潰瘍などもみられる.治療はganciclovirを用いるが,その効果は宿主の免疫能に依存する.

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要旨 クラミジア直腸炎は,最も頻度の高い性行為感染症の病原体であるChlamydia trachomatisの直腸感染により形成される感染性腸炎である.その内視鏡像はいわゆる“イクラ状粘膜"と称される,下部直腸優位の半球状小隆起性病変の集簇を特徴とする.診断には病変部擦過検体を用いた酵素免疫法(EIA法)や遺伝子検査法(PCR法)などが有効である.本疾患におけるクラミジア抗体検査は感度や特異度が低く,補助的診断として位置づけられる.抗菌薬の選択や投与期間については,症例ごと治療反応性を評価し検討する必要がある.性感染症という側面を考慮し,パートナーの診断,治療も同時に行うことが望ましい.

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要旨 腸管スピロヘータ症(intestinal spirochetosis)は,グラム陰性桿菌であるBrachyspira属を原因菌とする人畜共通感染症で,病理組織学的に大腸上皮表面に好塩基性で毛羽立ち状に付着した特徴ある菌塊が観察される.自験34例の検討から,その頻度は0.19%で,比較的若年の男性に多く,自覚症状を欠く場合や基礎疾患に合併し偶然見つかる症例が多かった.またアメーバ性腸炎に合併する症例が多く,注目すべき事項であった.スピロヘータは全大腸に分布してみられ,明らかな好発部位や,下痢症状との相関は指摘できなかった.特徴的な内視鏡像はなく,病理組織学的に粘膜内の強い炎症像はほとんどみられなかった.スピロヘータはBrachyspira aalborgi と推測される5μm前後の短い菌と,Brachyspira pilosicoli と推測される10μm前後の長い菌の2種類あり,多くが前者であった.腸管スピロヘータ症を臨床的,内視鏡的に診断することはほとんど不可能で,病理組織学的にも見落とされる場合が多くあるため注意深い丹念な観察が必要である.またスピロヘータの感染のみで強い炎症像を呈することはほとんどないため,その場合は他疾患の合併,特にアメーバ性腸炎などの合併を考慮し再評価する必要があると考える.

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要旨 症例は20歳代前半,男性.ミャンマー渡航中に発熱と下痢が出現し,発症後14日目に血便と発熱を主訴に当科を受診.血液検査では中等度の炎症反応を認めた.大腸内視鏡検査では,回腸終末部の腸間膜付着対側に卵円形の浅い潰瘍性病変を数か所認めた.また,大腸全域にアフタ様病変がみられ,下行結腸ではこれに加え類円形潰瘍と粘膜浮腫を認めた.生検・便汁培養にてSalmonella paratyiphi Aが検出されパラチフスAと診断し,ニューキノロン製薬投与により改善した.3か月後の大腸内視鏡検査では異常は認めず,生検・糞便培養検査も陰性であった.

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要旨 症例は25歳,女性.習慣性扁桃炎にて入院し,両側口蓋扁桃摘出術を受けた.術後4日目から発熱,腹痛,頻回の下痢が出現したため当科を受診した.血液検査で炎症反応の上昇,内視鏡検査で回盲弁に不整形の潰瘍,上行結腸からS状結腸に縦走配列する不整形小潰瘍と縦走潰瘍を認めた.Crohn病を疑ったが,便培養でCampylobacter jejuniが検出されたため,カンピロバクター腸炎と診断し,マクロライド系抗生剤の投与にて軽快した.縦走潰瘍を伴ったカンピロバクター腸炎は,文献的には報告がなく非常にまれであるため報告した.

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はじめに

 近年,大腸内視鏡検査の軸保持短縮法による挿入技術向上に伴う普及1)と,色素法の一般化,電子内視鏡の高画質化,拡大機能搭載機種の充実により,通常観察にて発見が容易な隆起型腫瘍以外に,発見困難な表面型腫瘍の発見率も高くなり,より精密な内視鏡診断が求められている.特に色素法は,大腸粘膜は消化性変化による修復を受けないことと,無名溝と呼ばれる規則性のある微細模様があるため,上皮性腫瘍は無名溝とは違う模様を呈するため有用である.

 色素法ならびに拡大観察を併用することで,瞬時に上皮性・非上皮性の鑑別,腫瘍・非腫瘍の鑑別,腫瘍の深達度診断,内視鏡治療後の遺残・再発の有無など質的・量的診断が簡易・簡便かつ正確に行うことが可能となった2)3).色素法は大腸内視鏡診断ならびに治療には不可欠なものと考えられる.

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はじめに

 当センターでは下部消化管内視鏡検査および処置に関して,病変が発見された場合,① 通常観察,② 色素撒布およびピオクタニンによる染色による拡大観察,③ 内視鏡切除,④ 切除標本の実体顕微鏡観察,⑤ 病理組織像の確認,⑥ 内視鏡像の見直し,の工程をルーチンに行っている.この工程の反復により,内視鏡像-実体顕微鏡像-病理組織像の相関性が構築され,新たな知見を生み出すことにより,さらなる内視鏡診断能の向上と正確な治療が可能となる.それゆえ,病理組織診断に大きな影響を与える内視鏡切除標本の取り扱いは,極めて重要である1)~3).本稿では切除,回収から始まる内視鏡切除標本および外科的切除標本の実体顕微鏡下観察に至る過程の注意点について述べる.

「胃と腸」と私

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 早期胃癌研究会の始まりと雑誌「胃と腸」の始まりは深い繋がりがあった.このころの記憶は私にとって大変懐かしくまた忘れ難い青春の思い出となっている.大変古い話であるので記憶違いまたは欠落した部分があるかと思うがお許しいただきたい.昭和18年(1943年)9月東大分院外科(東大第三外科)に入局した私は当時の主任福田保助教授に直接ご指導を仰いでいた.そのお陰で故村上忠重教授とも親しくしていただいた.

早期胃癌研究会

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 2008年4月の早期胃癌研究会は4月16日(水)に笹川記念会館国際会議場で開催された.司会は小野裕之(静岡県立静岡がんセンター内視鏡科)と小林広幸(松山赤十字病院消化器科・胃腸センター),鬼島宏(弘前大学大学院医学研究科病理生命科学講座)が担当した.画像診断レクチャーは長南明道(仙台厚生病院消化器内視鏡センター)が「胃癌と胃潰瘍の鑑別の基本」と題して行った.

追悼

長與健夫先生を偲ぶ 中村 恭一
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 故・長與健夫先生は2007年(平成19年)10月12日に逝去されました(享年86歳).ご冥福をお祈りいたします.

 長與先生は早期胃癌病理学の基礎を築き上げた数少ない1人であり,われわれ消化管疾患の臨床・病理を学ぶ者にとって忘れてはならない病理学者です.すなわち,世界において胃の粘膜内癌あるいは早期癌についての症例報告は1935年ごろから文献上に散見されますが,1950年から多数症例に基づく早期胃癌の病理組織学的研究がなされるようになったのは日本においてであり,長與先生は数少ないその先駆者の一人で,胃粘膜内癌あるいは早期癌の多数症例を用いて病理組織学的に解析を行い報告しています.その時代においては早期胃癌症例はまれであり,手術胃の粘液細胞性粘膜内癌をxanthomaと診断されていたことからもわかるように,それを知っている病理学者は指折り数えるくらいしかいなかった時代です.その後,長與先生は数多くの胃癌に関する先進的な病理組織学的研究を発表していて,1976年には日本病理学会で先生の研究の集大成である宿題報告「胃癌発生に関する組織学的,実験的研究」を報告しています.

長與健夫先生を偲ぶ 渡辺 英伸
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 “エイシン(英伸)君よ.この症例,この問題どう思うかね”.一泊二日で行われた文部省がん特別研究「消化管癌の発癌形態の研究」班での班会議,その夜の懇親会の席でも膝を乗り出され,当時の私たち若者に対しても目線を同じくされて,一緒に討論してくださった先生のお姿を今も思い出します.福岡県の二日市温泉(大丸別荘),群馬の伊香保温泉,新潟県六日町温泉(龍言)などいろいろな場所で,いろいろな表情の先生を拝見しましたが,根底に“学問を愛するお気持ち”が常に維持されていました.

 先生に対する私の印象は“品格のある先生.学問に飽くことなき,童心のような好奇心を持ち続けられた先生”です.おいくつになられても,童心のような学問に対する情熱は衰えることなく,消化管腫瘍の問題点を鋭く指摘し,それを掘り下げるお姿勢に感服していました.“教えてやる.教える”といった姿勢ではなく,目線を同じくして私たちと討論をしてくださいました.

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欧文目次

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 数ある検査に関する類書をイメージして本書を手に取った読者は,ちょっとした肩すかしを食らうことになる.

 それは,ページを開き,目次を見たときに既に明らかである.そこには,従来の書籍にありがちな「血算,生化学検査,凝固検査,内分泌代謝検査…」といったありきたりな項目ではなく,患者の訴える主観的データ“以外の”すべての情報に挑むために必要な項目が並んでいる.本書のようなハンディな書籍で,なおかつ「検査」と銘打っていながら,バイタルサインや身体所見に関する記載にこんなにもページを割いたものがかつてあっただろうか?

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 『感染性腸炎A to Z』は,大川清孝先生,清水誠治先生の編集による感染性腸炎のすべてを取り上げた著作である.両先生は,数多くの腸疾患を長年にわたり診療し,その中の問題症例を大阪の研究会で取り上げ,取りまとめてきた.関西の議論好きの風土は研究会にも持ち込まれ,ときに議論があまりに長く,紛糾することがある.しかし,饒舌に知識を競い疑問をぶつけ合うも,意外と討論者同士は仲が良い.そうした風土を受け継いで,本書は長年の構想と多数例の症例検討の重厚な積み重ねの結果,生まれたものである.多くの著者が苦労して得た珠玉の症例を,新たに設けた定期的な検討会に持ち寄り編集したものである.

 本書は,感染性腸炎のすべてを,内視鏡所見を中心に据えてまとめたものである.考えてみると,感染性腸炎に関する多くの記載はすでに論文報告として成立しているはずである.しかし,それらの報告を参照しても感染性腸炎の内視鏡診断はvariationが多いためか,どうも記載が不十分との印象があった.例えば,疾患範疇は異なるが,潰瘍性大腸炎の内視鏡分類に関する記載は直達鏡の時代に作成されたもので,今見ても記載が曖昧かつ不正確である.現代の高画素内視鏡には即さないものが多いのであるが,これを修正することは大変難しい.同様に,感染性腸炎に関する内視鏡診断も内視鏡機器あるいは挿入法の進歩に伴い改善されることが望ましい.そうした必要性に応じて生まれたのが本書であろう

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 内視鏡室は,医師,看護師,内視鏡技師,臨床工学技士,医療事務など,さまざまな職種のスタッフの協力によって運営されている.本書は主に内視鏡室に勤務するコメディカルスタッフを対象に発刊され,執筆者も医師だけでなく内視鏡の現場を熟知したベテランのコメディカルの方々が随所に担当しており,従来の医師主導のマニュアル本とは一線を画する秀書である.内容はきわめて実践的かつ具体的にわかりやすく解説されている.内視鏡室で勤務を始めて日が浅いコメディカルスタッフが消化器内視鏡全般にわたる知識を身に付けるためだけでなく,ある程度内視鏡室での勤務経験があるコメディカルスタッフにとっても,より専門的な知識の習得とスキルアップのために役立つと思われる.

 I章は「安全で快適な内視鏡を提供するために」と題して,内視鏡機器の管理や内視鏡室で取り扱う備品や薬品の説明の他,医療スタッフの連携やリスクマネージメントについて解説され,II章は「受診者が満足する内視鏡検査を提供するために」と題して,内視鏡検査の概要や介助のコツ,患者への配慮や観察のポイントなどが記載されている.III章は「確実な内視鏡治療を援助するために」,IV章は「救命救急のために」と題して,さまざまな内視鏡治療の概要と使用する処置具の解説および介助のコツが述べられている.さらにV章は「保険について」と題して,内視鏡スタッフが知っておくべき保険点数が一覧表にしてまとめられている.

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 「臨床疫学」という言葉の響きから,いまだに何やら伝染病などを扱う学問と思い込んでいる読者はおられないだろうか.もしそうであれば,すべての臨床医がいつでも,どこでも,誰にでも必要な知識であることに早く気付いていただきたい.

 このたび医学書院より上梓された『誰も教えてくれなかった診断学─患者の言葉から診断仮説をどう作るか』に目を通し,この認識が誤りでないことを再確認した.共著者の野口・福原両氏は評者の最も信頼する内科医である.二人とも北米での内科研修で得た優れた臨床技能を,さらに臨床疫学を学ぶことにより科学的に磨きをかけ,現在わが国の臨床・教育・研究の各分野で活躍中である.過剰検査が当たり前のわが国で,これまでほとんど学ぶ機会のなかった正統派診断学を,今ここで二人が教えてくれている.

編集後記 赤松 泰次
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 感染性腸炎は古くから取り上げられてきたテーマであるが,今回の特集の内容を拝見すると最近の動向や新しい知見が詳細に記載されており,読者にとっては大いに参考になると思われる.感染性腸炎は臨床症状や病歴を詳細に聴取すれば,比較的容易に感染性腸炎であることを疑うことが可能で,さらに臨床検査(培養検査,血清診断など)やX線および内視鏡所見を加味すれば,通常診断に迷うことは少ない.しかし,本号の中に示されているように,Crohn病,潰瘍性大腸炎,虚血性大腸炎などと臨床像が一見類似した感染性腸炎が存在することをよく認識しておかなければならない.特に感染性腸炎がCrohn病や潰瘍性大腸炎と誤診した場合,steroid,免疫調整剤,infliximabなどを投与して病状を悪化させるおそれがある.したがって日常臨床で炎症性腸疾患と考えられる患者に遭遇した場合は,常に感染性腸炎を念頭に置きながら鑑別診断を行う必要がある.

 蛇足ではあるが,本文中に明らかに血便と表現すべきところを下血と記載した論文が散見された.血便(hematochezia)と下血(melena)という用語は正確に使い分ける必要がある.

基本情報

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胃と腸
43巻11号 (2008年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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